女性の生涯を通じた健康啓発・支援システムづくりに関する研究

文献情報

文献番号
200200364A
報告書区分
総括
研究課題名
女性の生涯を通じた健康啓発・支援システムづくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
麻生 武志(東京医科歯科大学 生殖機能協関学教授)
研究分担者(所属機関)
  • 太田 博明(東京女子医科大学 産婦人科教授)
  • 天野 恵子(千葉県衛生研究所所長(前 東京水産大学保健管理センター教授))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人女性の平均寿命は世界で最高となり益々高齢化する中、女性の生涯を通じての健康維持・増進(健康寿命の維持・延長)の体制整備はいまだ不十分でありその必要性は一段と強まっている。本研究はこれら現状の認識の上に立って、正しい情報の提供による啓発と、健康支援の具体的な対応策を提示し、個人個人の健康行動を変容することにより諸問題の解決に寄与することを目的にするものである。
研究方法
<研究方法と内容概要>
<要旨>
女性の生涯を通じた健康啓発・支援システムを整備し確立することは、わが国女性の健康寿命の維持。増進に極めて重要な課題である。本研究では、日本人女性に特有な健康に対する考え方、生活習慣、疾病構造と将来予測、現状の医療中心の健康支援体制に関する総合的分析に基づいて構築されることが必要とされている。さらに女性の生涯における断面的な取り組みだけでなく、思春期から老年期に至る全ライフステージをカバーし、かつ臓器別医療に依存しない全人的な支援が必須である。本研究では、これらの因子に関する調査・分析を行い抽出された課題に基づき、女性医療システムモデルを構築した。
女性を診る診療体制・保健体制を構築するためのシステムモデルと医療者支援システムとツールを開発した。研究方法については、上記各項目における現状の把握・課題の抽出・解決のためのツール作成およびシステムモデルの提言のプロセスで行った。本年度は、昨年の健康ニーズ調査・女性医療に関する諸外国との比較調査の結果に基づき、日本の女性医療のあり方の検討および、女性医療を担う医療者への情報・教育ツールを開発した。
結果と考察
・Gender-specific Medicineを支える医師の教育について
女性の一生を通じて生じる精神・身体の変化には、生物学的に、さらに社会文化的な面でも男性とは大きく異なる特有なものがあることは明らかであり、医療および健康支援も本来は、この点を基盤として展開されるべきであるが、ごく限られた領域のみにおいてしか、この点が省みられていないのが現状である。この矛盾を払拭し、男性と女性の正常な機能と、疾患に至る過程における相違に関する医学がGender-specific Medicineであり、我が国の医療現場においても最近、女性に対する医療において幾つかの試みが開始され、「女性専用外来」の開設はその具体的な一例と言える。また「Gender-specific Medicine(性差を考慮した医療)」をテーマとした鹿児島大学医学部での講義を受けた学生の声として、「産婦人科の授業以外で性差を意識することはあまり無かったため、新鮮だった。」、「女性のための医療には、女性医師が携わるだけでなく、男性医師の理解と協力も必要だと思った」との感想も記されている。ここに我が国でGender-specific Medicineを支える医師の教育についてのキーワーズを読み取ることが出来ると思われる。
今日の女性を対象とする医療に対する問題点が提起された結果、Gender-specific Medicineが導入されるに至った経緯とについては、本特集の他の項で議論されていると思われるが、基本的には①女性に特有な精神・身体機能の障害・異常に対する総合的な医療を、②女性の生涯にわたる健康支援を目的とし、③女性医師がこれを担当するためには、どのようなシステムを構築しなければならないかが、検討されなければならないと考える。
① 女性に特有な精神・身体機能に関する総合的な理解に基付く医療
女性が男性と異なる精神・身体機能を備えるようになるのは胎生初期の性の分化に遡るが、最も決定的な性差が生じるのが生殖線である。女性において卵巣を中心とした生殖機能系が成熟する過程である思春期を経て、規則的な排卵周期が持続するようになった時点で女性としての生殖機能が確立される。性成熟期には[卵胞の成熟→排卵→黄体形成→]を約4週間の周期で規則的に繰り返す卵巣(月経)周期が、視床下部・下垂体・卵巣・子宮内膜で構成される機能系の下で営まれる。この期間は妊娠が可能であり、その基礎となる卵巣でのエストロゲンとプロゲステロン産生分泌が定められたパターンで行われる。即ち性成熟期の卵巣は、排卵によって子孫を残すための機能と、ホルモン産生による精神・身体機能のバランスのとれた調整機能において重要な役割を有していることを理解しなければならない。
加齢に伴う卵巣機能の低下が30歳代の後半に入ると始まり、次第に中枢の刺激に対する卵巣の反応が鈍くなり、さらに閉経後は全く反応しない状態へと進行する。この状態に至ると中枢が卵巣に向かって大量の刺激を出すにもかかわらず卵巣がもはや刺激に反応しなくなり、両者のバランスが大きく乱れるのが更年期である。さらに中枢である視床下部は、卵巣だけでなく自律神経系・免疫系・体性神経系の機能もコントロールしているので、卵巣を含む内分泌系の乱れが他の機能にも波及すると、栄養・代謝・水電解質・成長・生殖・体温・循環といった身体の基本的な機能の恒常性維持機構の乱れにつながる。また卵巣で産生・分泌されるエストロゲンは種族の維持に必要な機能として、卵の成熟、排卵、受精、着床、妊娠の維持に直結する作用の他に、個体の生命を維持する作用として大脳、自律神経系、血管系、血管凝固系、水電解質バランス、代謝、骨・結合織などへの、男性には見られない作用も有しており、女性では加齢に伴う一般的な変化に加えて卵巣の加齢に伴う影響が加わり、特有な身体と心の変化が生じることとなる。
臨床的な症状が現れるには更年期に入ってからであるが、生殖機能の低下はそれより早く起こっており、さらに疾患として顕性化するのは老年期に入ってからであっても、それらの潜在的な変化はすでに更年期に生じていることに注目しなければならない。
以上のように、女性の生涯を通じての精神・身体機能の変化には、男性と異なる点が多く、それらの大部分に卵巣機能が密接に関わっていることを理解してGender-specific Medicineを展開することが重要である。
② 女性の生涯にわたる健康支援
男女を問わず加齢に伴う身体機能の変化が現われ、これに遺伝因子、環境因子(病原菌・有害物質・事故・ストレスなど)因子と生活習慣因子(食習慣、運動、喫煙、飲酒、休養などが加わると疾患の発症へと進行する。女性の生涯にわたる健康支援の目的は、高い生活の質:QOLを保って生活する期間をいかにして延ばすことであり、そのためには障害・疾患の予防が基本であり、また一旦罹患した疾患を早期に治療することである。このために必要なことは、一般女性を対象とした健康に関する適切な情報を広く提供する啓蒙活動と、女性のニーズに応えるための医療関係者による質の高い受け入れ体制の整備確立であり、後者の一つとして女性専用外来の導入が考えられる。
先ず、啓蒙活動において新聞・テレビ番組・雑誌などのマスコミによってもたらされる情報は量的に最も多く、かつ一般女性にとって入手しやすいこともあって、その影響力は極めて大きい。しかし、話題性の高い内容の記事や番組が無秩序・散発的に発信され、一面的な見方が強調されることもあり、時として混乱と不安を世間に広げてしまう結果となることもある。科学的に吟味された情報を判りやすく提供するために、マスコミと医療関係者の連携を密にし、互いに協力することで情報の質を高める努力が求められる。各学会、研究会などが新しい医学・医療進展や問題点への考え方を適宜効率よく公表するプレスリリースなどの機会を設定し、これに対するマスコミ側の積極的な対応により、より望ましい啓蒙活動が促進されよう。また近年普及の目覚しいインターネットによる医療情報も多く提供されるようになっている。一般向けのホームページを開設している学会、医療施設、各種団体の数は増加しており、今後有力な情報源となると思われるので、その中にGender-specific Medicineをも視野に入れたページが作成されるよう働きかけることも必要であろう。
・ 女性の生涯にわたる健康因子をライフステージ毎に抽出された各項目について看護師・保健師・薬剤師・栄養士等のコメディカルも含めた医療者が理解できかつ一般女性市民に講義ができる内容のスライドテキストを作成。各専門医のコメントとともにファイル化したセミナーに使用されたスライドの標準化およびビデオ作成などを行い、指導者用資材としてまとめた。
結論
本研究の結果により、女性の生涯を通じた健康啓発・支援システムのモデル案が提示され、21世紀の母子保健ビジョンの達成(課題解決)を含む、よりよい女性の保健医療システムの実現に向けての医療者・保健指導者への支援策モデルが構築できた。

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