子どもの発達段階に応じた効果的な栄養・食教育プログラムの開発・評価に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200200361A
報告書区分
総括
研究課題名
子どもの発達段階に応じた効果的な栄養・食教育プログラムの開発・評価に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
山本 茂(徳島大学医学部栄養学科)
研究分担者(所属機関)
  • 西田美佐(国立国際医療センター研究所)
  • 吉池信男(国立健康・栄養研究所)
  • 津波古澄子(筑波大学医療技術短期大学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
目的 本研究では、幼児期から学齢期の子どもが特に家庭において望ましい食事観や食習慣を形成することをねらった栄養・食教育プログラムについて、計画・実施・評価の具体的方法を示したマニュアルを作成することを最終目標とした。
欧米の子どもの栄養教育プログラムは、発達段階や行動科学の理論的裏づけに基づいて開発され、その有効性が介入研究により検証されたものが多いが、わが国の子どもの栄養教育で、教育目標や介入・評価手法について十分に吟味されたものは少ない。本研究では、子どもの食と心身の健康との関連について、十分なレビューを行い、エビデンスレベルを示した上で、介入目標を提示する。介入方法については、欧米や国内で成果が確認されている先行研究を参考に、発達段階や行動科学の理論的根拠に基づくプログラムを作成する。その際、子どもの視点でのニーズアセスメント、すなわち子ども自身の健康・食事観(信念)と食行動との関係についての確認を実際に行い、単に欧米の先行事例を参考にするだけでなく、日本の子どもの発達段階や文化的状況に合った行動変容の促し方を考慮したプログラムを確立する。また子どもの主体性を重視した参加型の栄養・食教育プログラムの開発・評価手法を確立し、子どもを直接の対象とした働きかけの家庭全体への波及効果、すなわち従来の「親から子どもへ」とは逆のベクトルでの健康づくりの方法論を試みる。
研究方法
a.国外でのやせに関する先行研究の系統的レビューと効果的なエビデンステーブルの構築;幼児期(2-5歳)、学齢期(6-12歳)、思春期(13-18歳)に関して、1995年以降に報告された文献を抽出し、該当文献に関してはさらにエビデンステーブルを作成した。文献管理およびエビデンステーブルの作成にはファイルメーカーPro5.5を用いた。
b.子どもの「食」に関わる教育の国内文献の系統的レビュー;1995.1~2002.5の間に出版された主要な和雑誌14件中の文献を対象に系統的レビューを行った。文献検索には、医中誌および愛育会データベースを用い、抽出された国内文献は対象者の年齢や教育内容により分類し、データベース化を図った。文献選択は選択基準の設定条件を基に抽出し、対象者の年齢区分別に分類した。また対照群の有無、対象者、対象施設、家庭介入の有無、指導方法、目的評価方法をそれぞれの年齢区分により、当てはまる文献を比較した。
c.子どもの栄養教育に関する日本語文献データベースの活用 -医学中央雑誌を用いた系統的レビューのための文献検索-;幼児、小児、思春期と発達段階の異なる子どもの、栄養・食と「やせ」との関連を明らかにすることを目的とし、医中誌を用い系統的レビューにおける網羅的な検索のために、先ずハンドサーチなどで得られた文献を読み、最も検索漏れやノイズが少ない検索語を検討した。次に採用した検索語やそれに対応する統制語を一つずつ用いて検索を試み、検出された件数と文献のタイトル、抄録等を検討した。目的に合っている文献を検索できるかを基準とし、検索語の再吟味を行い、より有効な検索語を得た。
d.子どもの肥満に関わる指標と背景要因の検討 -国民栄養調査データの再解析-;子どもの発達段階に応じた栄養・食教育プログラムの適切な評価指標を検討するために、国民栄養調査データを用いて小児の肥満に関する記述疫学的解析を行うとともに、米国において近年小児肥満のリスク要因として注目されているソフトドリンクの摂取に関して検討した。
e.子どもの発達段階に応じた栄養・食教育の手法に関する予備的検討 -「子ども参加」に焦点をあてて-;子どもの発達段階に応じた栄養・食教育プログラムの具体的な介入手法の一つとして、子どもの主体性を重視した参加型の栄養・食教育プログラムの開発・評価手法確立を目指し、Child-to-Child(子どもから他の子どもや兄弟姉妹へ、さらに家族全体への波及効果をねらったアプローチ)及びその他の参加型栄養・食教育プログラムの有効性について、Medline検索により検出した文献その他の資料をもとに、諸外国の状況をまとめた。
結果と考察
研究結果
a.国外でのやせに関する先行研究の系統的レビューと効果的なエビデンステーブルの構築;500件の文献が検出され、重複を除いた結果は全310件中、抄録からの該当は136件であった。研究デザイン別ではその8割以上が横断研究で、比較対照群をおいて検討したRCT(無作為割付比較試験)は1件のみ該当した。年齢区分別では、ほとんどが思春期で、幼児期の「やせ」を検討した研究は3件のみであった。
b.子どもの「食」に関わる教育の国内文献の系統的レビュー;子どもを対象に「食」に関わる教育を実施し、評価を行っている研究報告は非常に少なく、全抽出文献691件中18件(2.6%)であった。その中で対照群をおいているものは9件(1.3%)のみであり、これまでの先行研究のほとんどが実態の把握や方法論の実施前段階に留まっていた。
c.子どもの栄養教育に関する日本語文献データベースの活用 -医学中央雑誌を用いた系統的レビューのための文献検索-;一次スクリーニングは、医中誌の「検索結果とタイトル表示」に示された文献タイトルと抄録から行い、結果はダウンロードしてPC上のスプレッドシート及びデータベースソフトを用いて管理した。一次スクリーニングにより重複を除いて59件の文献を得、二次スクリーニングは文献の本文を読み、最終的に31件(7%)の文献を抽出した。これらについてエビデンステーブルを作成し、二次研究データベースとして利用できるようにした。
d.子どもの肥満に関わる指標と背景要因の検討 -国民栄養調査データの再解析-;学童・児童の肥満者(日比式で肥満度+20%以上)の割合は、最近25年間で男子では6.1%から11.1%に、女子では7.1%から10.2%に増加していた。大都市部と郡部では、この増加傾向に違いが認められ、全般的に郡部では大都市部と比較して肥満者の割合及びBMIの増加傾向が顕著であった。また、女子では大都市部においては、肥満者の増加傾向は認められなかった。ソフトドリンクを多く摂取している者は、年少児では牛乳やカルシウムの摂取量が少なく、年長児では、野菜やお茶の摂取量が少ないことが認められた。また、7歳以上では、男女ともにBMIの高い群(85パーセンタイル以上)で、有意にソフトドリンクの摂取量が多かった。
e.子どもの発達段階に応じた栄養・食教育の手法に関する予備的検討 -「子ども参加」に焦点をあてて-;Child-to-Child(-Family)プログラムの有効性について、Medline検索による文献(9件)及び20年間の諸報告に関するレビュー等の関連資料を基に検討したところ、子どもの知識・態度・行動、健康・栄養状態、母親や両親の知識や行動の改善、学校や地域への波及効果に関するポジティブな結果が示されていたが、RCTや対照群のある比較試験による評価は少なかった。保健行動や健康状態へのインパクトの厳密な測定や、家庭や学校への波及効果など、評価の難しさが課題であり、プロセスやエンパワメントを重視した参加型評価手法開発の必要性が示唆された。その他の参加型栄養・食教育プログラムについてMedlineで検索した1995年以降の文献183件中該当した7件は、いずれも米国の事例で、インターネットやビデオ等を利用して自己学習できるタイプのプログラムが、幼児を対象としたものを含めて4件あった。RCT(4件)、対照群のない介入研究(3件)に基づく評価の結果、行動変容が4件、態度の変容が5件(知識+態度2、態度のみ2、態度+行動1)確認された。
考察 子どもを対象に「食」に関わる教育の実施状況、発達段階に応じた教育上の問題点、および「食」に関する教育の効果的な手法の検討を行うことを目的として、抽出した国内文献を対象者の年齢や教育内容により分類し、データベース化を図った。栄養・食教育を実施し、評価を行っている研究報告は691件中18件(2.6%)と少なく、その中で対照群のあるものは9件(1.3%)のみであった。ほとんどが実態の把握・方法論の実施前段階に留まっており、我々の目的とする「子どもの望ましい食事観や食習慣を形成するための栄養・食教育プログラムに関する計画・実施・評価の具体的方法を示したマニュアルを作成する」ために役立つ情報は極めて限られていた。
結論
近年若年層女子において「やせ」が増加している傾向にあるが、成長過程である子どものダイエット志向や痩身願望は、子どもの身体的・心理的発育に大変危険であり、栄養障害を招く恐れもある。一方、学童・児童の肥満者(日比式で肥満度+20%以上)の割合は、最近25年間で男子では6.1%から11.1%に、女子では7.1%から10.2%に増加していた。また、ソフトドリンクを多く摂取している者は、年少児では牛乳やカルシウムの摂取量が少なく、年長児では、野菜やお茶の摂取量が少ないことが認められた。さらに、7歳以上では、男女ともにBMIの高い群(85パーセンタイル以上)で、有意にソフトドリンクの摂取量が多かった。以上、初年度は、1995年以降の国外における先行研究の系統的なレビューや、国民栄養調査の再解析、国内・外におけるこれまでの栄養・食教育の有効性に関するレビューを行い、エビデンスの整理を試みた。その結果、先行研究のほとんどがある特定の変数について調査した横断研究であり、長期的に追跡したコホート研究や臨床研究などはあまりなかった。また、重度の摂食障害児を対象とした介入研究は行われていたが、健康な子どもに対しての介入試験は少なかった。今後、エビデンスに基づいた教育介入の検討が不可欠であると思われる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-