介護サービスにおける権利擁護の行政的評価に関する研究

文献情報

文献番号
200200285A
報告書区分
総括
研究課題名
介護サービスにおける権利擁護の行政的評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大井田 隆(国立公衆衛生院公衆衛生行政学部)
研究分担者(所属機関)
  • 筒井 孝子(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護サービスにおける権利擁護の行政的評価に行なうにあたって、介護保険制度施行にあわせて発足した地域福祉権利擁護事業の評価は重要である。この事業の担当者は、専門員および生活支援員と呼ばれている人々であるが、彼等が地域で地域福祉権利擁護事業をすすめていくためには、地域のほかの専門職や諸機関との連携を図る必要がある。しかし、現状では、この連携実態を評価する尺度やその方法は確立していない。そこで、本研究では、基幹的社会福祉協議会を対象とし、関係諸機関ならびに介護保険担当課との連携の状況についての全国調査を実施し、第1に、介護保険担当課との連携状況について、事例などを基にさらに詳細に検討すること。第2に、この業務に携わっている専門員を対象とした地域における他の機関や専門職との「連携」の実態を評価するための評価尺度を開発し、第3に、これら担当者自身の連携活動能力を評価するための尺度を開発することを目的とした。
研究方法
調査の対象は、地域福祉権利擁護事業の実施主体である全国のすべての権利擁護センター、基幹的社会福祉協議会460機関に所属する専門員および生活支援員である。調査は、質問紙による郵送調査法により行い、調査期間は平成13年11月1日から12月30日までの1ヶ月間とした。調査内容は、専門員、支援専門員の活動実態を明らかにするために、彼等の属性として、保有資格や学歴、現在の相談援助についての自己評価、あるいは直近1ヶ月間の全般的な健康状態を調査した。
さらに、これら担当者の連携活動の実態について、地域の他の機関との連携状況、専門職種との連携状況の調査を行った。これらの項目についての専門員の回答傾向から、「連携活動における機関の有用性の認知」、「専門職との連携活動の有用性の認知」、「連携活動」評価尺度の開発を行った。開発に際しては、確証的因子分析により、これらの尺度の内的構造を明らかにすることとした。使用した統計ソフトは、AMOS ver4.0で推定方法には、最尤法を用いた。
また、介護保険担当課との連携実態については、具体的な事例を収集するために、基幹的社会福祉協議会の担当者から、当該地域の介護保険担当課と実際に連携をとった事例の属性や連携に際して自由記述式記入する調査を行った。
倫理面での配慮として、研究対象事例となる地域複製権利擁護事業に携わる社会福祉協議会の職員には、人権擁護上の配慮を行い、氏名や個別データ等プライバシーについては厳重に注意した。調査票の収集にあたっては、個別の職員ごとの封筒を用意し、これに封入してから、返信することを依頼した。
また、調査集計については、個別名については一切関係なく行い、個人名が明らかにならないように調査票の作成は、複数の人間がチェックをすることとした。調査票並びにその結果は、秘密保持のための厳重な管理運営を行った。調査の実施にあたっては、調査対象社会福祉協議会に十分な説明と同意を得ただけでなく、調査前には、厚生労働省地域福祉課及び全国社会福祉協議会に調査票および説明書を送付し、調査の協力依頼を行った。
結果と考察
介護保険担当課との連携状況について、基幹的社会福祉協議会と介護保険担当課とが連携した事例について回答した社協は118社協である。これは、全国の基幹的社協の25.7%にあたる。このうち、2件以上の事例を回答した社協は25あり、総事例数は165であった。事例となったのは、要介護1が最も多く53件、次いで要介護2が27件、要支援24件の順になっている。これは、地域福祉権利擁護事業の対象が「判断能力が弱い人」を対象としているためと考えられる。要介護3以降となると判断能力はかなり低くなる要介護高齢者が増加するため、対象から除外されたと推察された。これらの事例に対する支援を分析した結果、基幹的社会福祉協議会と介護保険担当課との連携は、かなり密接に行われているところもあれば、役割分担も明確でない例もあり、方法やその支援形態は、多様であった。
調査対象461社協のうち、回答がされたのは、249社協(回収率54.1%)であり、回収率は半数を超えていた。調査の結果、基幹的社会福祉協議会には、地域福祉権利擁護事業に直接、携わる職員である専門員は、1名から9名までいることがわかったが、最も多かったのは1名であり、215社協(86.3%)がこれに該当した。また、この1名については、専任の専門員が配置されている社協が135社協(54.2%) 、兼務の場合が80社協(32.1%)であり、専任の職員を置いているところは、回収された基幹的社会福祉協議会でも半分程度であることがわかった。さらに、具体的に地域福祉権利擁護事業で高齢者の相談にあたる生活支援員の人数については、最も多いのが「配属なし」で89社協(35.7%)となっていた。これらの社協のうち、担当職員が専門員1名のみの社協は67社協(26.9%)であり、残りの22社協(8.8%)では、専門員とその他の職員が1名以上、配属されていると回答された。また、専門員の資格は、社会福祉主事が最も多く、社会福祉士や訪問看護師、理学療法士などの保健医療専門職は少なく、事務系の職員が多いことが推測された。
基幹的社協内における当事業担当課職員と他部署職員との連携については、「連携している」と回答した社協が232社協(93.2%)であった。このうち、230社協(92.3%)の社協においては、連携が役に立っていることがわかった。
評価尺度の開発に関して、連携機関としては、5因子「高齢者施設」、「市区町村福祉担当課」、「保健機関」、「社会福祉協議会」、「金融機関」15項目からなる「連携活動における機関の有用性の認知」評価尺度を開発した。次に、専門職との連携に関しては、1領域9項目(医師、保健師、看護師、社会福祉士、介護福祉士、ヘルパー、民生委員、弁護士、公証人)という「連携活動における専門職の有用性の認知」評価尺度を開発した。最後に、連携活動尺度を構成する構成概念としては、「情報共有」、「業務協力」、「関係職種との交流」、「連携業務の処理と管理」が示された。適合度は、GFIが9.915、AGFIは0.882、CFIが0.902、RMSEAが0.056であり、このモデルの適合度は、概ね良好であると考えられた。また尺度全体のクロンバックのα信頼性係数も0.813であったことから、下位尺度の信頼性にやや検討の余地が残されているものの、おおむね4因子(「情報共有」、「業務協力」、「関係職種との交流」、「連携業務の処理と管理」)15項目からなる連携活動尺度の信頼性と妥当性を支持するものであり、他の地域福祉あるいは、地域保健に携わる職種への適用も小能と考えられた。
結論
虐待をはじめとし、高齢者の権利侵害を防止し、あるいは、その状況からの救出を目的として、地域福祉権利擁護事業は、機能することが期待されているが、現状では、いまだ十分な状況とはいえない。権利擁護とは、権利行使(自己決定)の支援であり、権利擁護システムは、そのための制度体系である。後者のシステム(広義)には、総合的・専門的な相談窓口と情報提供というしくみや直接、特定の擁護者が特定の被擁護者のためにマンツーマン方式で権利擁護にあたる成年後見制度や地域福祉権利擁護事業が必要である。この事業が成功するためには、地域において行政機関である介護保険担当課と実施主体である基幹的社会福祉協議会との連携が重要である。本研究で収集された事例からは、介護保険課と連携した際の地域福祉権利擁護事業による支援の方法には、多様な形態があり、体系的な方法論が確立しているとはいえない状況であった。この原因は、地域福祉権利擁護事業が新しい制度であり、行政に十分に周知されていないことや、地域の諸機関との連携が重要であるにも関わらず、連携活動能力がかなり低い人々が担当者となっていることなどがあげられる。今後は、本研究で開発された評価尺度などを用いて、地域福祉権利擁護事業に適した人材の採用や育成に努めることや有能な連携機関に対して積極的に働きかけをすることなどを取り組んでいく必要がある。

公開日・更新日

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