在宅医療における家族関係性の解析と介護者支援プログラムの開発

文献情報

文献番号
200200279A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療における家族関係性の解析と介護者支援プログラムの開発
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
保坂 隆(東海大学医学部精神科)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺俊之(東海大学医学部精神科学教室)
  • 眞野喜洋(東京医科歯科大学医学部保健衛生学科保健計画・管理学教室)
  • 水野恵理子(聖路加看護大学精神看護学教室)
  • 佐藤 武(佐賀大学健康管理センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では2000年からの介護保険制度の導入が始まり高齢者のQOLの向上を目的とした支援体制つくりが進行しているが,その一方で介護者の負担感や心身の疲労が問題となっている。本研究では,まず介護保険導入が介護家族にもたらす影響を明らかにしようとした。次に,要介護度分類によって介護者の負担について解析した。この負担を直接的に解決する方法のひとつが老健施設への入所であるが,その際の介護者の心理的な背景を明らかにしようとした。最後に,本研究で開発された介護者への支援システムのひとつである「構造化された介入」プログラムの効果を調査した。
研究方法
研究1:介護者をめぐる家族機能の分析:対象は,神奈川県伊勢原市の二つの介護支援事業所(A施設とB施設)と契約している要介護者とその家族である。A施設と契約している要介護者にはFES(家族環境評価尺度)の記入を依頼した。B施設と契約している介護家族について,介護者にFRI(家族関係インデックス)への記入を依頼した。評価は,介護保険施行前と6ヶ月たった時点の2回行った。記入は,介護者に依頼し,それぞれの尺度によって介護保険導入前後で比較した。FESは家族環境の評価尺度であり,本尺度は,関係性,人間的成長,システム維持という3つの次元から構成されている。FRIはFESの短縮版であり,凝集性,表出性,葛藤性を下位尺度とし12の質問から構成されている。
研究2:要介護度分類よる介護負担の特徴および社会的支援の方法の分析:神奈川県Z市在住者のうち,平成12年度公的介護保険申請者931名の家族に調査票を発送し記入を依頼した。この調査票から得られる健康度を,要介護度間で比較検討した。
研究3:施設入所者家族へのアンケート調査:研究対象は,長崎県にある老人保健施設に痴呆の高齢者を入所させている家族である。この家族に対して,独自に作成したアンケート調査をした。
研究4:在宅介護者への構造化された介入の長期効果:平成13年度に対象となった家族介護者35 名に対し,フォローアップを目的としたプログラムを行う旨を伝えたところ30名から同意が得られた。プログラムの内容は,1グループ約90分の茶話会形式で,研究者がファシリテーターとなり,プログラム終了時に,POMS(気分感情調査票),GHQ-30(一般健康調査票30項目版)に回答してもらった。また,6ヵ月後も,2ヵ月後と同様の形式で,3グループに対してプログラムを実施した。
結果と考察
研究1:介護者をめぐる家族機能の分析:A施設の要介護者の平均年齢は80歳,B施設では78歳であり,両施設での有意差はなかった。介護保険導入前後の家族環境の比較をしたところ,FES・FRIはともに介護保険導入前後で有意な変化は示さなかった。この結果には二つの仮説が立つ。一つは,「家族環境というものは外的支援などで簡単には影響を受けない」という仮説。もう一つは,「介護保険が導入されたが故に,家族環境は導入前の環境を保持できたのではないか」という仮説である。この点については,今後詳細な検討が必要と考えている。
研究2:要介護度分類よる介護負担の特徴および社会的支援の方法の分析:公的介護保険申請者のいる931家族より549名より回答が得られたが,このうち,介護認定を受けているもの415名を対象とした。415名の要介護度を整理すると,「要支援」4名,「要介護度I」100名,「要介護度Ⅱ」117名,「要介護度Ⅲ」68名,「要介護度Ⅳ」54名,「要介護度Ⅴ」3名であった。被介護者の要介護度により,介護者の主観的健康状態の評価に差異はなく,要介護度がいずれであれ,総じて「やや不調」という評価が多いことがわかった。今後の利用したいサービスについて要介護度ごとに分析した結果,介護者が利用したいと考えるのは「介護をするもの同士の集まり」であり,要介護度Ⅱ・Ⅲの介護者を抱える被介護者において要望が強い傾向(p<0.025)があった。
被介護者は,その主観においては,被介護者の状態が悪いのではないかと想定したが,この仮設は否定された。しかし,介護者は対照群と比較して,主観的健康感や有病率が明らかに違うといった昨年度の研究結果を踏まえると,被介護者は介護による自身の健康について自覚しにくい状態であると考えることもできる。こういった状態では,自覚がないゆえに,疾患について早期発見への要である早期の受療をのがす危険性を含んでいる。今後このことについては検討される必要がある。
研究3:施設入所者家族へのアンケート調査:98名にアンケート調査を依頼したが,55名から回答を得ることができた。まず入所の理由として,その半数が自宅での介護困難をあげている。「自宅復帰をお考えでしょうか」という問いに,「はい」と答えた家族は,51%,「いいえ」は49%であった。一度老人保健施設に入所させた家族の半数は自宅復帰を考えていないことになる。約3分の1の家族が,自宅での介護が困難と述べており,一度老人保健施設に預けると,家族は退所を望んでいないことが明らかとなった。在宅介護か施設入所かの問題に関しては,総論ではなくて,個々のケースで検討されねばならないが,支援システムが何らかの基準を設定しなければならないだろう。
研究4:在宅介護者への構造化された介入の長期効果:2ヵ月後のプログラム参加後と(以下,2ヵ月後とする),前年度プログラム参加前(以下,参加前とする)のPOMS得点を比較したところ,抑うつ怒り・敵意,緊張・不安,混乱の得点は有意に減少していた。同様にして,6ヵ月後の抑うつ,緊張・不安の項目で有意差が認められた。また,活気のなさと疲労では,再び参加前に近づいた数値を示していた。一方,GHQ-30では,参加前に比べて,2ヵ月後の一般的疾患傾向,社会的活動障害,不安と気分変調,希死念慮とうつ傾向の得点が有意に減少していた。6ヵ月後では,社会的活動障害,希死念慮とうつ傾向が有意に減少していた。つまり,POMSとGHQ-30の下位項目において有意な改善が持続している項目も認められたが,必ずしも効果は一様ではなかった。したがって,フォローアップの意味をもったプログラムへの参加がどのような側面に影響を与えているのかを検討するために,介護者の主観的な反応を質的に分析することがさらに必要であると考えられた。
結論
介護者は自らを不健康と思う傾向が強く,特に女性の介護者は,「患者予備軍」というよりも,もうすでにさまざまな精神・身体疾患を有していることがわかった。そしてそれが潜在化する可能性も示唆された。介護家族への関わりは,介護保険の導入や老健への入所といった物理的・環境的なサービスだけでは十分ではない。介護家族は心理的な支援を求めている。訪問看護師,ケアマネージャー,往診医,ホームヘルパー,相談するクリニックなどが心理的,家族療法的,集団療法視点を持って家族に関われば,きっと多くの副次的な効果が生まれるはずである。

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