関節疾患の原因の解明及び発症の予防・治療方法(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200271A
報告書区分
総括
研究課題名
関節疾患の原因の解明及び発症の予防・治療方法(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 森本幾夫(東京大学)
  • 田中廣壽(東京大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦では本格的な長寿・高齢化社会を迎え、高齢者の快適な生活を維持・増進できる施策が望まれている。中でも多発関節痛・関節炎をもたらす関節リウマチ(RA)や変形性関節症(OA)などの関節疾患は高齢者の日常的な活動性を低下させ、進行した場合には介護の必要度を増加させる。高齢者の関節疾患においては現在用いられている治療法では治癒を期待する事ができないのみでなく、疼痛のコントロールすら難しい。即ち、高齢者の関節疾患の原因解明と予防・治療法の開発は難治性疼痛の緩和につながり、高齢者の生活の質の改善と、高齢者社会の活性化に必須である。
本研究では高齢者RAおよびOAを対象に、関節局所での免疫異常の解析および滑膜細胞増殖異常に関わる転写因子の解析を行なう。その知見に基づいてそれらの是正方法を確立し新規治療法の確立を目指して研究を進める。さらに最近の再生医学の進歩を取り入れた関節病変の再生医療による治療の基礎的研究を行う。これらの検討を通じて、関節疾患の原因の解明及び発症の予防・治療方法の確立を行う。
研究方法
1. マウスES細胞をbone morphogenetic protein (BMP)-2、BMP-4とともに培養した。正常マウス膝関節に塩酸を投与し関節滑膜細胞を脱落させOAモデルとした。膝関節内にES細胞から分化誘導させた軟骨細胞を移植しその生着を組織学的に検討した。骨形成能は骨欠損部に軟骨細胞を移植後X線撮影し評価した。
2.野生型Txk発現ベクターを鋳型として突然変異体を作成し、ドミナントネガティブTxk発現ベクターを作成した。DBA1/Jマウスに牛II型コラーゲンを投与し関節炎を誘導した。野生型Txk発現ベクターとドミナントネガティブTxk発現ベクターを投与し関節炎に対する影響を観察した。
3コラーゲン関節炎を誘導した。このマウスにjunD発現ベクターを筋肉内投与した。関節炎は四肢関節の腫脹を肉眼的に評価した。血清IgG型抗II型コラーゲン抗体はELISA法にて測定した。関節での炎症性サイトカインの産生は免疫組織学的に検討した。
4.RO52/SS-AのGFPタグ型を作成した。Large Tを発現するJurkat LT細胞を用いて遺伝子導入を行った。種々の刺激でアポトーシスを誘導しannexiVの結合で評価した。カスパーゼ活性は免疫沈降法を応用して評価した。
5.細胞遊走能はマウス脾細胞を分離し、マウス内皮細胞を単層に撒いたケモタキシスチャンバーに無刺激下で遊走した細胞数を測定した。蛋白質発現及びチロシンリン酸化は細胞のライセートを作製後、免疫沈降に続くウエスタンブロット法により解析した。
倫理面での配慮:血液、関節液、滑膜組織を含む生体サンプルの実験について患者には研究目的や趣旨を十分説明し、インフォームドコンセントを得た上で行った。患者のプライバシーに関する情報の守秘義務を徹底するため個々の研究者は検体とID番号のみを用いて解析し、患者のプライバシーに関する情報が守られるように注意した。動物実験に関しては、実験前の飼育、実験中、実験後にいたるまで科学的かつ倫理的に対処し、動物の苦痛を排除するための麻酔による安楽死等の手法を用いた。
結果と考察
1.マウス胚性幹細胞からの軟骨細胞の分化誘導と軟骨細胞を用いた新規治療法の開発 
マウスES細胞をBMPと共に培養した。培養2週間目では、アルシアンブルー陽性の軟骨細胞が出現した。これらはII型コラーゲン陽性の軟骨細胞であった。塩酸投与により作成したOAモデルマウスに軟骨細胞を移植し病変部関節面への軟骨細胞の生着が認めた。予めFe3+で標識した軟骨細胞を移植したマウスではベルリン青陽性の軟骨細胞が認められES細胞由来であることが証明された。移植した関節内で奇形腫発生を認め無かった。軟骨細胞を骨欠損部に移植すると骨形成を認めた。この成績はES細胞から分化誘導した軟骨細胞が骨・関節疾患の治療に応用可能であることを示している。
2.高齢者関節疾患におけるヒトTh1細胞特異的転写因子Txkの発現の検討とTxkを用いた新規治療法の開発
Txkの遺伝子導入がTh1/Th2バランスを是正できることを報告した。コラーゲン誘発性関節炎マウスに野生型txk発現ベクターを投与した。関節炎はTxk発現ベクター投与マウスで警戒した。今後Th2過剰による関節炎では野生型Txkを用いて関節炎を治療が可能と考えられた。 
3.コラーゲン誘発性関節炎マウスに対するJunD遺伝子療法 
関節滑膜細胞の異常活性化に転写因子AP-1が関わる。AP-1活性をJunD遺伝子は抑制する。JunD発現ベクター投与によりコラーゲン関節炎マウスの関節炎の軽減が認められた。JunD遺伝子投与は血清中のIgG型抗II型コラーゲン抗体価には影響せず滑膜細胞の炎症性サイトカイン産生を直接抑制した。以上から滑膜細胞の機能を制御するJunDは関節炎治療に応用可能と考えられた。 
4.RAやシェーグレン症候群患者のTリンパ球活性化異常にRO52/SS-A抗原が果たす役割の検討
RO52自己抗体はシェーグレン症候群を伴うRAやSLEで認められるがその抗原RO52の生理的な機能は明らかでない。自己抗原Ro52がアポトーシスに関係しているか検討した。Ro52はFas抗体、抗CD3抗体刺激や放射線照射によるT細胞のアポトーシスを増加させた。Ro52はカスペース8の活性化フォームをFas抗体刺激後早期から出現させた。これらの成績はRo52がカスペース8の活性化フォームの産生に関与していることを示唆した。Death Induced Signal Complex中のカスペース8が切断された中間フォームはRo52の存在下ではより早期から検出されRo52はDISCでのカスペース8の活性化に関与していた。以上からRo52/SS-A分子はT細胞のアポトーシス誘導に関与していることが明らかになった。
5.β1インテグリン下流シグナル分子Crk-associated substrate lymphocyte type(Cas-L) の関節リウマチの病態における役割について
TaxトランスジェニックマウスはRAのモデルと考えられている。このマウスの脾細胞遊走能は関節炎発症前の4週齢でも関節炎発症後の14週齢でも亢進が認められた。さらにCas-L蛋白発現とそのチロシンリン酸化も関節炎発症マウスにおいて亢進が認められた。Cas-L陽性リンパ球は関節炎を生じた関節に非常に多く浸潤していた。さらにRA患者においてもCas-L陽性リンパ球は炎症関節にその多くが浸潤していた。
結論
我々の同定したTxkはTh1細胞特異的な転写因子で、txk発現ベクターの遺伝子投与は関節炎マウスのTh1/Th2バランスの是正により関節炎の軽快に働いた。同様にヒト滑膜細胞の活性化の抑制に働くjunD遺伝子の投与は転写因子AP-1の活性を抑制することでモデル動物での関節炎鎮静化に働いた。今後、高齢者関節炎においてjunDやtxk強制発現が実際に治療効果を持つのかを検討する必要がある。
RO52/SS-A抗原はDISCでのカスペース8の活性化に関与し、アポトーシス誘導に重要な役割を果たしていた。この結果は高齢者の自己免疫病の病態解明や新しい治療法開発のために重要である。
関節炎マウスにおいてCas-L蛋白発現とそのチロシンリン酸化がともに亢進していた。Cas-L陽性リンパ球は関節炎を生じたマウスの関節のみならずRA患者においてもCas-L陽性リンパ球は炎症関節に多数が浸潤していた。Cas-LはRAの炎症細胞浸潤に重要な役割を果たしていることが示された。
マウス胚性幹細胞からbone morphogenetic proteinを用いて軟骨細胞を分化誘導することができる。変形性関節症マウス膝関節に軟骨細胞を移植すると、膝関節内に移植軟骨細胞が生着した。大腿骨欠損部にこの軟骨細胞を移植すると骨形成が認められた。今後ES細胞から分化誘導した軟骨細胞を用いて高齢者関節障害に対する再生医療の検討が可能になった。

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