各種動脈における泡沫細胞の遺伝的発現解析

文献情報

文献番号
200200243A
報告書区分
総括
研究課題名
各種動脈における泡沫細胞の遺伝的発現解析
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 龍彦(東京大学先端科学技術研究センター分子生物医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 内藤眞(新潟大学大学院)
  • 土井健史(大阪大学大学院)
  • 田中良哉(産業医科大学)
  • 野口範子(東京大学先端科学技術研究センター)
  • 竹内公一(自治医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.野口は動脈硬化発症の重要な因子とされる低比重リポタンパク(low density lipoprotein; LDL)の主要な酸化生成物である、 7-ketocholesterol (7-keto), 22-hydroxycholesterol(22OHch), 25-hydroxycholesterol (25-OHch), lysophosphatidylcholine (lysoPC), 4-hydroxynonenal (4-HNE)それぞれに対する内皮細胞の応答を遺伝子発現レベルで解析した。2.田中はケモカインMCP-1や細胞外基質ヒアルロン酸の受容体CD44を介する刺激が、単球に対して、スカベンジャー受容体の発現、酸化LDLの取り込みを増強し、泡沫化マクロファージへの細胞分化を誘導することを報告したので,ヒアルロン酸などの細胞外基質に対する受容体である単球表面のCD44を介する刺激が単球の遊走、SCRの発現、酸化LDLの取り込みをに及ぼす役割を検討した.無刺激のヒト単球を用いてAGEのSCRの発現と酸化LDL取り込みに及ぼす影響を検討した。さらに、脂肪組織由来の抗糖尿病、抗動脈硬化因子であるアディポネクチンが及ぼす影響を併せて検討した。3.内藤は、児玉による核内受容体すべてに対する抗体作製プロジェクトを基盤に、動脈硬化病変を含めた組織内での発現を免疫組織学的に検討し、マクロファージの泡沫細胞化機序を解析した。4.土井は転写因子として作用する核内受容体PPARs(peroxisome proliferator-activated receptors)の発現による細胞内での遺伝子変動、標的遺伝子の探索を通じて、泡沫細胞形成、動脈硬化病変の伸展における新たな分子機構を明らかにし、新規な抑止策を見い出すことを目的とした。5.竹内は老化や高血圧にみられる脳実質内の細動脈の血管壁の構築の変化を連続的に明らかにするため、SHR-SPラットにおける血管破綻を示す前後の間藤細胞を中心に観察した。
研究方法
野口はヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)に5?50μMの7-keto, 22OHch, 25-OHch, lysoPC, 4HNEそれぞれを添加して酸化生成物の内皮細胞に対する毒性を検討した.また,HUVEC に7-keto, 22OHch, 25-OHchはそれぞれ10 μM, lysoPC は30 μMは4-HNE5 μMを添加し、1,4,24時間後に細胞を回収、RNAを抽出した。Gene Chip (Affymetrix)を用いて遺伝子発現を解析した。 Bioplex (Biolad)を用いてInterleukine 6 (IL6), Interleukine 8 (IL8), MCP-1 を含む14種類のサイトカインを同時定量した。田中は,無刺激単球は、健常人末梢血より比重遠心法で単核球を得、その後エルトリエータを用いて分離した。CD36やCD68等のSCRなどの細胞表面抗原は、抗体で染色し、フローサイトメータで検出し、QIFKIT (DAKO社)を用いて細胞表面抗原量を算出した。酸化LDLの取り込みは、125I標識酸化LDLの取り込み、および、Oil red-Oの取り込みにて検討した。内藤は,抗体はRXR (Retinoid X Receptor) α、ROR (RAR-related Orphan Receptor) α、PXR(Pregnane X receptor)2、PXR1、PPAR (Peroxisome Proliferator-Activated Receptor)γ、ER(estrogen receptor)、PR (progesteron receptor)、VDR (Vitamin D receptor) およびMR (mineralocorticoid receptor)に対する抗体を使用し,ホルマリン固定、パラフィン切片を作製した土井は,PPARs(α、δ、γ)をそれぞれ発現誘導できる細胞株をTet-Offの系を用いて作成し、その発現誘導、及びリガンド添加により、どのような遺伝子変動が生じるかを、DNAチップを用いて解析した。さらに、これらPPARsがどのような応答配列に結合するかをランダムDNA配列ライブラリーをスクリーニングすることにより調べた。竹内は,様々な週齢のSHR-SPラット
を用い、主として透過電子顕微鏡で観察した。児玉は6-well chemotaxis chamberにウサギ大動脈から初代培養した平滑筋細胞、コラーゲンマトリックス、および内皮細胞を層状に培養して種々の実験を行っていたが、このシステムにおいて、内皮細胞には層流および乱流刺激を加え、平滑筋細胞には低酸素刺激を加える環境下で、内皮細胞側から高濃度LDLおよび単球細胞を添加する培養系を考案した。
結果と考察
野口はヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)に5?50μMの7-keto, 22OHch, 25-OHch, lysoPC, 4HNEそれぞれを添加して酸化生成物の内皮細胞に対する毒性を検討した.また,HUVEC に7-keto, 22OHch, 25-OHchはそれぞれ10 μM, lysoPC は30 μMは4-HNE5 μMを添加し、1,4,24時間後に細胞を回収、RNAを抽出した。Gene Chip (Affymetrix)を用いて遺伝子発現を解析した。 Bioplex (Biolad)を用いてInterleukine 6 (IL6), Interleukine 8 (IL8), MCP-1 を含む14種類のサイトカインを同時定量した。田中は,無刺激単球は、健常人末梢血より比重遠心法で単核球を得、その後エルトリエータを用いて分離した。CD36やCD68等のSCRなどの細胞表面抗原は、抗体で染色し、フローサイトメータで検出し、QIFKIT (DAKO社)を用いて細胞表面抗原量を算出した。酸化LDLの取り込みは、125I標識酸化LDLの取り込み、および、Oil red-Oの取り込みにて検討した。内藤は,抗体はRXR (Retinoid X Receptor) α、ROR (RAR-related Orphan Receptor) α、PXR(Pregnane X receptor)2、PXR1、PPAR (Peroxisome Proliferator-Activated Receptor)γ、ER(estrogen receptor)、PR (progesteron receptor)、VDR (Vitamin D receptor) およびMR (mineralocorticoid receptor)に対する抗体を使用し,ホルマリン固定、パラフィン切片を作製した土井は,PPARs(α、δ、γ)をそれぞれ発現誘導できる細胞株をTet-Offの系を用いて作成し、その発現誘導、及びリガンド添加により、どのような遺伝子変動が生じるかを、DNAチップを用いて解析した。さらに、これらPPARsがどのような応答配列に結合するかをランダムDNA配列ライブラリーをスクリーニングすることにより調べた。竹内は,様々な週齢のSHR-SPラットを用い、主として透過電子顕微鏡で観察した。児玉は6-well chemotaxis chamberにウサギ大動脈から初代培養した平滑筋細胞,コラーゲンマトリックス,および内皮細胞を層状に培養して種々の実験を行っていたが,このシステムにおいて,内皮細胞には層流および乱流刺激を加え,平滑筋細胞には低酸素刺激を加える環境下で,内皮細胞側から高濃度LDLおよび単球細胞を添加する培養系を考案した.野口は、細胞に添加する酸化生成物の濃度条件を検討した後、酸化生成物それぞれによって、ストレス応答性の遺伝子、血管形成に関連する転写因子、血液凝固系の遺伝子などが特異的に誘導されることを明らかにした。数多くかつ強く遺伝子発現を誘導したのはlysoPCと4-HNEであった。4-HNEで誘導される遺伝子の特徴はheat shock protein 70を代表とするストレス応答蛋白が中心であったのに対して、lysoPCは血管形成に関連する転写因子など興味深い遺伝子の発現誘導が見られた。LDLの酸化生成物による内皮細胞の網羅的遺伝子解析により動脈硬化発症のあらなた促進機序が明らかになった。この遺伝子の発現メカニズムや発現亢進と動脈硬化発症の関連については今後の検討課題である。田中は、ヒアルロン酸などの細胞外基質に対する受容体である単球表面のCD44を介する刺激が単球の遊走、SCRの発現、酸化LDLの取り込みをに及ぼす役割を検討したところ、いずれも増強して泡沫化マクロファージへの細胞分化を誘導することを明らかにした。AGE刺激によりヒト無刺激単球上のSCRの発現、酸化LDLや oil-red-Oの取込みが24時間以内に増強し、PKCを介する刺激伝達系の関与が示唆された。また、AGE刺激によるSCR発現と酸化LDL取込みは、CD44刺激により更に増強し、脂肪細胞由来のアディポネクチン処理により、阻害された。糖尿病に併発する動脈硬化症は予後規定の最重要因子であるが、その形成過程には、MCP-1、AGE、細胞外基質による刺激により誘導された
内膜下集積泡沫化マクロファージを中心とする炎症病態が関与する事が示された。内藤は、動脈硬化病変における核内受容体の発現を検討したところ、マクロファージや平滑筋にはRXRa(Retinoid X Receptor)、RORα(RAR-related Orphan Receptor)、PXR(Pregnane X receptor)、PPARγ (Peroxisome Proliferator-Activated Receptor)、ER(estrogen receptor)、PR(progesteron receptor)、VDR(ビタミンD受容体)、MR(mineralocorticoid receptor)などの核内受容体が発現ていることを明らかにし、脂質蓄積と泡沫細胞化に関与することを実証した。核内受容体の多くはリガンドが不明であり、その機能も不明な点が多い。RXR、 ROR、PXR等レチノイン酸関連の受容体の動脈硬化における発現はまだ報告がなく、泡沫細胞に見いだされたことはマクロファージの脂質代謝とこれら受容体の関連を示唆するものであるPPARγは脂肪細胞分化やグルコース代謝に関連するが、PPARγが泡沫細胞と平滑筋の両者に発現していたことは、この受容体が両細胞の脂質代謝に重要な機能を発揮することの反映と思われる。ビタミンD受容体はマクロファージの殺菌機能を亢進することが知られており、泡沫細胞にも発現していることから、マクロファージの分化と機能に深く関与していることが伺われる。MRはaldosteron受容体であるが、本研究では血管平滑筋に発現することが確認された。また、ERと PRはそれぞれエストロジェン、プロジェステロンの受容体であるが、両者は生殖器組織の他に、種々平滑筋での発現が知られており、動脈硬化の平滑筋でも発現が認められ、動脈硬化とホルモンの密接な関係がこの事実からも示唆される。
核内受容体の中で、動脈硬化病変のマクロファージ、泡沫細胞、血管平滑筋に脂質代謝に関連が深いと思われているPPAR,のみならず、レチノイン酸関連受容体や vitamin D receptorなど多くの核内受容体の発現が見いだされたのは動脈硬化病巣の形成機序に新たな視点を与えるものと考えられる。竹内はSHR-SPラットにおける高血圧症に伴う脳細動脈の構築変化と間藤細胞を検討したところ、SHR-SPラットは、通常のラットと異なり、未だ高血圧を発症しない出生後10Wに於いて、既に膜抗原変化、異物摂取能の低下、脂質の蓄積、及びライソソーム活性の低下が認められた(Stroke 投稿中)。即ち、SHR-SPラットでは血管壁細胞に何等の異常を認めない時期、既に間藤細胞には形態学的に、その機能の低下のサインが現れていた。また、血管破綻前後の細動脈分岐部を中心に、主として形態学的に調べた結果、同分岐部には、通常の血管壁には見られない多数の巨大な間藤細胞が集積していることが明らかとなった。児玉は、より生理的な環境で泡沫細胞を生体外で再現するために、新規開発した培養装置を用いて、72時間下室培養液に3 mg/mlの終濃度でLDLを添加し、酸素分圧を2%として前処理してから単球を添加し7日間培養を行った。終了後検体を固定し、HE染色とCD68染色を行った。この結果LDL負荷または低酸素培地を下室に使用した検体では内皮下にCD68陽性細胞の蓄積が認められたが、LDL負荷のみ、または低酸素培地のみを使用した検体ではこのような所見が認められなかった。また、同一検体をα-naphtyl butylate esteraseによって染色したところ。CD68陽性細胞が内皮下に蓄積していた検体では、陽性所見が認められ、マトリックス内でのMφ細胞の存在が確認された。酸素分圧、力学刺激ともに生体内での状況を反映するために、多くの条件の検討がさらに必要である。とりわけ、shear stressと病変形成の因果関係は重要な課題でありシミュレーション情報と病理標本を比較することによって力学的刺激の寄与を検討することができると考えている。
結論
動脈硬化発症との関係が強く疑われているLDLの酸化生成物の内皮細胞にたいする役割を明らかにするため、野口は内皮細胞の遺伝子発現について網羅的解析をおこなった結果、生成物の多くに共通してアミノ酸の取り込みを亢進してサイトカイン産生を上昇させることが明らかになり、動脈硬化促進における具体的な現象を確認することに成功した。動脈硬化の病態形成過程に於いては、脂質酸化生成物の白血球に対する現象も同時に進行すると考えられるので、田中は無刺激のヒト単球を用いてAGEのSCRの発現と酸化LDL取り込みに及ぼす影響を検討したところ、AGE刺激によりヒト無刺激単球上のSCRの発現、酸化LDLや oil-red-Oの取込みが24時間以内に増強し、AGE刺激によるSCR発現と酸化LDL取込みは、CD44刺激により更に増強することを明らかにし、その分子機序を解明した。糖尿病に併発する動脈硬化症は予後規定の最重要因子であるが、その形成過程には、MCP-1、AGE、細胞外基質による刺激により誘導された内膜下集積泡沫化マクロファージを中心とする炎症病態が関与する事が示された。さらに、脂肪細胞由来のアディポネクチンの動脈硬化進展における役割も示唆された。血管壁内における泡沫細胞は脂質代謝に特徴があることはかねてより推測されていたが、内藤は動脈硬化病変のマクロファージや平滑筋には種々の核内受容体が発現していることを明らかにした。これは脂質蓄積と泡沫細胞化の関係を解明する上で今後重要な意義をもつと考えられる。脳血管においては、通常の大動脈、冠動脈と異なり、間藤細胞の泡沫化を最大の特徴とする。竹内はSHR-SPラットを用いて、高血圧発症や平滑筋細胞をはじめとする血管壁細胞の構築変化に先立って、間藤細胞は変性が始まることを明らかにした。血管壁の構築変化に進むと、間藤細胞は移動能持つ他、血管分岐部に集積する。間藤細胞の変性による機能低下が、破綻や狭小化という脳細動脈の病変の病変の出現に関与していると考えられ、間藤細胞を健全に維持することが、脳細動脈を正常に保つうえで重要でることを示した。さらに凍結障害による血管性脳浮腫モデルでは、間藤細胞のエンドサイトーシス亢進と細胞腫大という変化にともなって、障害後早期に細胞内顆粒のライソソーム酵素が増加し、その後減少するが、減少に連動して免疫調節に関連する抗原が増加したので、間藤細胞は、脳血管性浮腫において、清掃細胞としての機能が早期に亢進することに加え、免疫調節細胞へと機能を変化させて、病変に関与していることが明らかになった。
本研究において各種動脈における動脈硬化形成過程を、脂質変性、内皮細胞の挙動変化、単球の動員から分化、泡沫化まで経時的に検討してきたが、さらにこれらの現象を血管壁システムにおいて再現し詳細に解明するために、児玉は低酸素下における平滑筋の動脈硬化誘発性遺伝子発現を導入した内皮細胞と単球マクロファージの混合培養装置を開発した。本培養装置は市販化を目指し現在特許申請中であるが、本研究によって明らかになった個々のプロセスを確認し、さらに介入的な実験を可能にすることによって今後新規治療薬の開発に寄与することができると考えている。

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