高齢者保健・医療・福祉サービス提供機関におけるマネジメントに関する実態分析並びに理論構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200234A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者保健・医療・福祉サービス提供機関におけるマネジメントに関する実態分析並びに理論構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小山 秀夫(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
欧米諸国並びにわが国の保健・医療・福祉の近年の動向から、わが国において医療政策の転換が与える変化が今後どのような方向に進むのか、米国のマネジドケア、DRGおよび在宅ケア機関への定額払い制度、イギリスの市場メカニズム導入等の諸外国の動向に対して、わが国の医療政策は今後どのような方向に進むべきかの検討は重要な課題であり、そのために保健・医療・福祉関係機関におけるマネジメント理論を構築することがわが国のみならず諸外国においても求められている。本研究の目的は、今後大きな変革を求められる介護保険制度に関わる高齢者保健・医療・福祉サービス提供機関において必要なマネジメント理論を構築することである。本研究は、高齢社会の様々なニーズに対応し、制度的にも適切な保健・医療・福祉サービス提供機関のマネジメントの方策について実証的に検証する研究を実施し、併せて国際比較による科学的なマネジメント理論の構築を目的として実施する。
研究方法
第二年度である今年度は、①アメリカ合衆国におけるロングタームケアの現状を整理し、分析した。②わが国の高齢者介護施設におけるマネジメントの実態分析調査を埼玉県下における介護保険施設に対して実施した。③平成15年4月からの介護報酬改定について、平成15年1月現在の要介護度別利用者別平均請求額と平成15年4月からの見込平均請求額とを比較し、変更率等をとった。埼玉県下の介護老人福祉施設99施設と介護療養型医療施設連絡協議会役員の施設(介護療養型医療施設、介護老人福祉施設、介護老人保健施設)40施設、全国老人保健施設協会開催の研修会参加老人保健施設10施設を対象とし、介護報酬改正前後の介護報酬の比較調査を実施した。
結果と考察
アメリカ合衆国におけるロングタームケア(以下LTCと略)に関する文献研究分析の結果から、①アメリカ合衆国におけるLTCの政策研究は、わが国の高齢者ケアに関する政策研究を常に数歩先んじており、アメリカにおけるそれらの動向を参照することにより、わが国の介護保険制度下における今後の高齢者ケア政策に大きく寄与するものと考える。②WHOの研究グループによるLTCホームケア実態調査結果から、各国のⅰ)政治・経済活動の実状と文化も水準、ⅱ)人口統計と人種・民族構成、ⅲ)伝染病・感染症の流行パターン、ⅳ)都市と農村の生活水準格差、ⅴ)家族構成の変化とスピード、ⅵ)女性の地位と役割の程度、ⅶ)インフラ設備の拡充水準、などによって差が生じているとしている。しかし、各国のLTC政策が、施設サービスから在宅、コミュニティ・サービスへと転換する方向にあって、政策がⅰ)費用の効率化と低減化の持続、ⅱ)利用アクセスの拡大/全国民への保障、ⅲ)質の高いサービスの確保、ⅳ)質の高い医師、看護師、SW及びその他の専門スタッフの確保、ⅴ)介護を支える家族と地域インフォーマル・ネットワークへの支援を目的としている場合には活発な政策研究の動向がみられるとしている。ゆえに、高齢者の経済力や介護家族の直面する問題への助言サポート体制、健康意識水準などを適正に分析評価しないと、適切なLTCホームケアプログラムを開発することはできないことが明らかになった。③老人保健制度の医療給付対象年齢引き上げ、公費負担増というわが国の高齢者医療保険制度の改革の動向への対応策としては、今回の質的分析研究の対象である「壁のないナーシングホーム・プラン」等のケースの動向を参考にすることができると考える。④わが国では、介護保険制度におけるホームヘルプサービスの質の向上が問題となっているが、アメリカのパーソナルケア・ワーカーの状況がわが
国の混乱した3級・2級・1級ホームヘルパーの位置づけ等を整理する上で重要な観点となると考える。介護報酬改訂後の埼玉県下における介護保険施設の経営実態並びに経営意識調査については、①介護報酬の改定に対して、経営的に非常に危機的状況になるという見方が多く、ケアの質の向上にとっては悪い改定であるという意見が多かった。②しかし、そのような危機感を持ちながらも、具体的な方策や経営意識は決して高いとはいえず、減収を何で補うのかという具体的展望をまだ考えられていない施設が多いようであった。③今回の居宅介護支援についての改正は、居宅介護支援の要介護度に関係なく一律給付することについては、回答者が施設長であり実際にケアマネジメントに従事していないこともあるが、賛否がわかれる部分があった。④経営変革等の経営意識については、全体的に「はい」「計画中」が多かった。各施設が独自に考える経営変革等を行っているという回答ではあるが、例えば経営変革の内容そのものは施設による差が大きいものと考える。しかし、実際に行っているという意識は重要であり、介護保険施設における経営意識は高い水準にあるとはいえないまでも決して低いものではなく、今後より具体的なサジェッション等を必要としているものと考える。介護報酬改定については、変更率は今回の改正とほぼ同じような結果となった。しかし、中には旧措置利用者の人数が多い等改正後もプラスとなる施設もいくつかあった。
結論
第一に、アメリカ合衆国のLTCについては、医療政策ほどわが国にあまり紹介されているとはいえないため、今回の研究結果を広めつつも、より詳細な研究が必要であると考える。第二に、昨年度のドイツ、ルクセンブルク、イスラエルのような介護保険制度を行っている国々と比較して、公的保険制度ではない制度による質の高いケアの提供という点では大いに参考になると考える。ドイツ、ルクセンブルク、イスラエルと今年度の米国の動向を比較し、各国における介護保険制度やロングタームケアの問題点を共有し、解決に向けて模索するという課題が確認できた。第三に、諸外国との制度比較ということから、わが国の施策に具体的にどのように活かしていくかという点であるが、諸外国の資料を収集するだけではなく、わが国への適応の可能性を如何に模索するかは以前からの課題であった。諸外国の動向は、確実にわが国のロングタームケアや介護保険制度の動向に影響を与えており、その比較検討の科学的方法を構築することが必要であると考える。研究成果の今後の活用・提供方法としては、昨年度同様にドイツの介護保険制度だけではなく、アメリカ合衆国におけるLTCについても、多くの人が興味を持っていることが確認でき、その内容を紹介する意義は大きいものと考える。第四に、埼玉県下の介護保険施設におけるマネジメント状況調査は、今回の調査結果の詳細分析を行い、その結果を各施設に報告するとともに、埼玉県下の特性を導きだし、埼玉県下の介護保険施設に合致したマネジメント手法を構築する必要があると考える。少なくとも、介護保険施設における経営意識を強化しなければならないという啓蒙的な要素も必要であり、全国の有料介護保険施設における経営状況をベンチマーキングとして、埼玉県下の介護保険施設の意識向上に活用していくことが必要である。昨年度に引き続き、数少ない保健医療福祉施設におけるマネジメントに関する実証研究を行い、本研究によりデータが増えることはわが国の保健医療福祉施設のマネジメントにとっては大きな貢献であると考える。今後もこれらのデータを精査していくことによりわが国のみならず欧米諸国にも影響を与える調査が実施可能であると考える。

公開日・更新日

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