沖縄における長寿とサクセスフル・エイジングに関する研究

文献情報

文献番号
200200223A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄における長寿とサクセスフル・エイジングに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
崎原 盛造(琉球大学医学部保健学科保健社会学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀 博(東北文化学園大学医療福祉学部)
  • 安村誠司(福島県立医科大学医学部)
  • 鈴木征男(第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部)
  • 新城澄枝(琉球大学教育学部)
  • 尾尻義彦(琉球大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
沖縄県農村における在宅高齢者を対象に、平成10年度を初回調査とする追跡調査により、サクセスフル・エイジングの構成要素と指標を明確にすることを主眼とする。
研究方法
沖縄県今帰仁村に居住する65歳以上の在宅高齢者1,064人(男性417人、女性647人)を対象にした平成10年の面接調査に参加し有効回答が得られた823人の追跡調査を質問紙面接法により行う。調査項目は、基本属性(婚姻状況、配偶者の有無、同居家族数、居住形態)、ADL、移動能力、社会活動能力、健康度自己評価、入院歴、通院状況、痛みの有無、睡眠状況、食欲の有無、社会的交流、ソーシャルサポート、外出頻度、GDS、生きがい、暮らし向き、就学年数等であった。本調査は、文書による同意を得て実施した。
結果と考察
追跡調査により長寿に関する心理社会的仮説の検証およびサクセスフル・エイジング(SA)の指標を明らかにすることを目的とするが、本年度はいくつかのSA指標について社会学的側面、医学的側面および心理学的側面から検討した。
1)社会学的側面では、健康度自己評価、ADL, IADLを指標として、健康度自己評価「良好」とADL「自立」をタイプIのSA、健康度自己評価「良好」とIADL「自立」をタイプIIのSAとして検討した。その結果、初回調査時にSAと判定された者は、タイプⅠでは63.7、タイプⅡでは50.6%であった。これらのSAと判定された者のうち、追跡調査時にSAを4年後も維持している割合は、タイプⅠでは63.7%、タイプⅡでは55.9%であった。タイプⅠでは4年後の転帰に性差は見られなかったが、年齢別では前期高齢者でサクセスフルを維持する者の割合は71.0%であったが、後期高齢者では59.3%、85歳以上では35.9%と有意に低下した。タイプⅡでは、追跡時にSAを維持する者の割合は女性(62.0%)より男性(46.4%)において、また年齢別には高齢になるほど有意に低いことが示された。本研究で検討したADLまたはIADLが「自立」しており、かつ健康度自己評価が「良好」であることは、SAの具体的指標になり得る。
2)医学的側面では「閉じこもり」を指標として検討した。「閉じこもり」は、男性では20.5%、女性では19.2%であり、男女差はなかった。一方、「閉じこもり」は70歳~74歳で15.2%であったが、85歳以上では27.0%であった。非「閉じこもり」をSAとすると、男性の79.5%、女性の80.8%がSAと判断され、男女差はなかった。年齢階級別には前期高齢者で83.9%、75歳以上で76.1%であった。「閉じこもり」と有意に関連する要因は身体機能、老研式活動能力指標、GDS、「生きがい」等であり、非「閉じこもり」が男女とも80%前後であることを考慮すれば、SAの包括的な指標として活用できる可能性がある。
3)心理学的側面では、抑うつ症状のない状態とSAと定義して、その指標としてGDSを用いた。このGDS得点と「生きがい」の関連について検討した。その結果、年齢、性、健康度自己評価を制御すると抑うつ症状(GDS)に有意に関連する「生きがい」の内容は、「趣味や運動・スポーツ」、「地域や社会に役立つ活動」がGDSを低下させ、「特にない」が増加させる方向で関連することが明らかになった。4年間の追跡ではGDSの変化に有意に関連する項目は生きがいが「特にない」であった。GDSと生きがいの関連では、趣味や運動・スポーツと地域や社会に役立つ活動等は、具体的な活動を伴うものでありRoweとKahnの「社会への積極的関与」の指標と一致している。4年間のGDSの変化について生きがいがどう関わっているかを、4年間のGDS変化量を従属変数として回帰分析したが、性、年齢、健康度の変数を統制した結果、生きがいが特にない群でのみGDSの増加に影響を及ぼしていた。すなわち、サクセスフル・エイジングを維持するためには、何らかの生きがいを持つことが必要であることを示している。
4)SAに大きな影響をあたえるADLについて追跡調査でその加齢変化をみたところ、追跡時のADLは初回調査時のADLにくらべ男女及び各年齢層において有意な低下がみられ、とくに加齢に伴う低下が著明であった。ADL各項目の加齢変化は、60歳代では明らかな変化を認めないが、70歳代では「歩行」、80歳以上の年齢層では「歩行」と「入浴」が有意な低下を示した。ADLの変化とその関連要因について検討した結果、年齢、教育年数、初回時のADLをコントロールして扁相関を求めたところ、追跡時のADLは健康度自己評価、生活満足度、GDS、活動能力と有意な関連を示した。ADLの加齢変化を歩行、食事、排泄、入浴、着替えの5項目について年齢階層別にみると、60歳代では各項目とも有意な低下は見られないが、70歳代では歩行のみ有意に低下し、80歳以上では、歩行、入浴の2項目に有意な低下がみられた。ADL障害の頻度は3年後の追跡でも排泄、歩行が上位を占めていた。さらに、歩行の低下は他の項目に比べてより著明であり、高齢者におけるADLの低下は歩行の低下が引金になりうることが示唆された。
5)高齢者の運動習慣と血圧・脈波伝播速度との関係について調査した結果、散歩や体操の習慣を持つ者の割合は、男が60.7%、女が66.7%であった。運動やスポーツを行っている者の割合は、男が42.9%、女が46.2%であった。散歩や体操の習慣と血圧、脈波伝播速度の関係は、男において、散歩や体操の習慣のある群は有意に低い収縮期と拡張期血圧を示した。足関節上腕血圧比、上腕脈波速度及び足脈波速度について、男女ともに散歩や体操の習慣の有無との間には関係を認めなかった。運動やスポーツの習慣の有無と血圧、脈波との関係は、男女ともいずれの項目についても両群間に有意な差を示さなかった。 運動習慣と血圧および脈波伝播速度との関連について検討した結果、散歩や体操の習慣のある群とない群で血圧を比較すると、男女ともに散歩や体操の習慣のある群が、ない群よりも低い血圧値を示す傾向がみられた。このことは、高齢者にとっては軽い運動(散歩や体操)でも日常的に実施することで加齢による血圧の上昇を抑えることが可能であることを示唆している。
6)咀嚼能力は、男女とも9割が「普通に噛める」状態であり、良好な咀嚼能力を維持していた。咀嚼能力と健康指標(ADL,IADL、抑うつ症状、健康度自己評価)の相関は、IADLを除く3項目と有意な相関がみられた。咀嚼能力は高齢期における健康の維持に重要であることが示された。食欲は、年齢階層別にみると男女とも「旺盛である」が55.8~61.3%の範囲であり、「ある方」が31.5~38.6%の範囲、「ない」が3.6~8.8%の範囲であった。食欲と健康指標との相関は検討した4項目すべてと有意な相関がみられた。咀嚼能力よりも食欲の方が健康指標との関連があり、高齢期における健康の維持と生活の質を維持する上で重要な要因である可能性が示唆された。
結論
1)社会学的側面では、健康度自己評価「良好」とADL「自立」をタイプⅠのSA、健康度自己評価「良好」とIADL「自立」をタイプⅡのSAと操作的に定義し、在宅高齢者のSAについて4年間の縦断研究から検討した。その結果、SAを維持している割合は、タイプⅠのサクセスフルで63.7%、タイプⅡのサクセスフルで55.9%であった。SAの維持に影響する要因としては、タイプⅠにおいては、「年齢が低い」、「過去一年間に入院経験がない」、「高学歴」、「抑うつ傾向が低い」、「生活満足度が高い」、「社会的ライフスタイルが高い」、一方でタイプⅡでは、「女性」、「年齢が低い」、「高学歴」、「友達との交流頻度が多い」という条件がSAを維持する上で有意な変数として抽出された。
2)医学的側面では非「閉じこもり」をSAと考えると、SAと判断されたのは、男性の79.5%、女性では80.8%であり、男女差はなかった。「閉じこもり」には、身体的、心理精神的要因が関連していることが明らかになった。
3)心理学的側面では、生きがいを特に持っていないことがGDS得点を有意に高くしており、また、趣味やスポーツ、地域社会に役立つ活動に生きがいを感じていることがSAに寄与していた。また、4年間のGDSの増減との関連では、生きがいが特にない場合にGDSを有意に増加させる事が示された。以上の点から、生きがいを持つことがSAに大きく関与することが示唆された。
4)追跡調査の結果、ADLの加齢変化は80歳以上の高齢者でより著明であり、その低下は歩行で顕著となることが示された。また、ADL低下への影響は年齢、教育年数、初回調査時のADLをコントロールしてもGDS、生活満足度、活動能力が有意な関連性が認められた。
5)高齢者を対象に運動習慣と血圧、脈波の関係について調べた結果、軽い散歩や体操の習慣は高齢者の血圧をコントロールすることに有効ではあるが、動脈硬化の予防には十分とはいえない可能性が示唆された。
6)咀嚼能力と食欲は、心身の健康指標との間に有意な相関があり、健康の維持および生活の質を維持する上で重要な要因である可能性が示唆された。

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