医療機関の機能分化と役割分担の実態を明らかにするための統計調査に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200140A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関の機能分化と役割分担の実態を明らかにするための統計調査に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
伏見 清秀(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 統計情報高度利用総合研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦の医療では、長期入院や大病院への外来患者の集中等が問題となっており、医療機関の役割分担の不明確性がその一因であると考えられている。また、医療技術の急速な進歩により医療の専門分化が進むとともに国民の専門医指向が強まっており、医療の質の確保の視点からの医療政策の立案と施行が求められている。このような現状に対して医療機関の専門分化と役割分担の実態を詳細に明らかにする事が求められている。しかし、厚生労働省統計情報部の医療施設調査、患者調査等は歴史的背景から医療計画との結びつきが強く、医療設備の充足や病床区分毎の地域充足率と在院日数の分析等を視点として解析されることが大部分であり、社会からの要求に応える解析が充分にされてきたとは言い難い。これらのことから、医療関連統計調査においては従来の病床規模、人員配置、在院日数、標榜診療科等に基づく医療機関分類に加えて、さらに詳細に医療機関の機能に基づく統計分析が求められていると考えられる。本研究では、医療機関の専門分化の実態を明らかにするための統計調査のあり方を示すために、現在の統計調査データから、医療機関を機能の視点から詳細に分析するための統計指標と医療機関の相互連携を分析するための統計指標を定め、医療機関の機能分化と役割分担の実態の時系列分析を試みること、およびこれらの分析を通じて医療機関機能分化を評価するために必要な調査項目を明らかにすることを目標とする。
研究方法
医療施設調査、患者調査、国民生活基礎調査、人口動態調査、病院報告、受療行動調査のデータを医療機関および医療圏をキーに相互の関連づけをし、統合データベースとして構築した。時系列データについては一貫性を維持できるようコード変換と調査項目変換等のデータ処理を行った。
データベースは各種分析軸に対して高速に集約、関連、分類等の解析が実施できるよう多次元データウェアハウスの理論に基づいて構築した。OLAP(On Line Analytical Processing)対話型解析ツールを用いて、多角的かつ包括的な分析をリアルタイムで実施した。
構築したデータベースを用いて、各統計調査を医療機関コードおよび医療圏で関連づけながら、従来の急性期と慢性期、入院型と外来型等の医療機関分類に加えて、医療内容の専門性に関する分類を行うための統計的指標を検討した。また、紹介率等の従来の評価指標に加えて、医療連携を評価するための統計的指標を検討した。
専門性を評価する指標として、医療施設調査の病床、施設、標榜診療科別患者数、専門外来、臨床研修、救急医療体制等、病院報告の患者数、従事者数等、患者調査の傷病名、患者の状況、手術の状況等に関する調査項目を検討した。相互連携を評価する指標として、医療施設調査の紹介、地域連携、院外処方等、患者調査の入院経路、退院経路、紹介の状況、救急医療等、人口動態調査の原死因等、国民生活基礎調査の症状、傷病名、通院先数、かかりつけ医の状況、予防医療の状況等、受療行動調査の病院選択理由、かかりつけ医の状況、身体状態、情報提供の状況、医療機関評価等に関する調査項目を検討した。
さらに、医療圏毎の主要疾患別有病率・受療率・死亡率・主要手術実施数等と医療機関毎の主要疾患分布・主要手術実施数、医療連携指標等から、各医療機関の地域における役割を示す種々の指標を導き、医療機関機能分類指標としての妥当性を検証した。主要疾患の区分は本邦で開発された診断群分類(DPC)第3版を使用した。
(倫理面への配慮)
対象統計データに個人情報は含まれないため倫理面の問題はない。医療機関の分析研究においては、個別医療機関を同定しうる分析結果は公表しないよう配慮した。
結果と考察
複数統計調査間および年次間の整合性を保ちながら統合的なデータベースを構築するためのデータ構造分析とデータベース設計を行った上でデータベースシステムを稼働させ、効率的な分析に適するようにデータベースの最適化を実施した。ほぼすべてのデータを分析対象としてもOLAP処理時間は数十秒程度であり、リアルタイムで対話的な分析が可能であることが示された。データウェアハウス技術およびOLAP分析技術の活用により、各種統計調査のデータをリンケージして効率的に分析する手法の実効性が高いことが明らかとされた。
傷病分類、入院期間、年齢構成、医療圏、調査年次等の多くの分析次元を組み合わせることにより、地域における各医療機関における診療機能の特性および診療連携の実態等の分析が可能であることを示した。結果の一部としては、医療機関別の在院日数の評価の新たな視点として、従来の単なる平均在院日数による医療機能評価に加えて在院日数別の患者割合が急性期病院の評価に適切である可能性があることが示された。各医療機関内の在院日数区分毎の患者割合の分析では、平均日数の比較的長い医療機関でも在院日数の短い患者を多く受け入れている医療機関が多数存在することが示された。在院日数14日以内の入院患者の全入院患者に占める割合と平均在院日数の関連性の分析では、ほとんどの入院患者の在院日数が短い純粋な急性期医療機関と在院日数にばらつきの大きい急性期医療機関、慢性期医療機関等が連続的に存在していることが示された。在院日数階級別入院患者割合の多次元分析によるクラスター解析に基づき、純急性期医療機関、軽度急性期医療機関、混合型医療機関等約10種類の類型に区分されることが示された。一部の医療機関では年次変遷が大きいことも示された。
次いで、患者を循環器系、脳神経系統等の臓器系統別疾患群から捉えて、一定の地域内における系統別患者群の受療動向を二次、三次医療圏別、入院期間別、手術別、年次別等で分析することにより、地域における個々の医療機関の役割分担と変遷が明らかとされること等を示した。主要疾患群別に3次医療圏内の患者入院割合と各医療機関でその疾患群の患者が占める割合を分析すると、眼科系のように専門性の高い医療機関が地域の入院患者の多くを受け入れているパターン、造血器系のように単科専門性のあまり高くない医療機関が多く受け入れているパターン、消化器系、筋骨格系のように単科専門性の高い医療機関が多く存在するパターン、これらの混合型等があることが明かとなった。一部、歴史的に専門性が大きく変化している医療機関が認められた。
さらに、ケースミックス補正との組み合わせによる医療機関評価への応用の可能性を検証した。診断群分類を用いた複雑性指標、効率性指標等の検討により医療機関の客観的な評価の実効性が示され、平均在院日数が同等であってもケースミックスの複雑性が高く効率性が低い医療機関から、ケースミックスの複雑性が低く効率性が高い医療機関までの多様性があることが示された。これらの指標と医療機関規模、地域性、年次変化等の間に関連性が認められた。
結論
本研究により、複数の統計調査をリンケージして分析する手法の実現性と有用性が明確に示された。膨大な統計データを、データウェアハウス技術を応用して時系列構造を持つ関係データベースに再構築することにより、非常に多数の統計仮説の検証を高速かつ多次元的に遂行可能であることが示された。また、本研究の実施過程でデータベースを構築するにあたって体系的に整理された医療施設調査、患者調査、病院報告等の調査票項目のデータモデルは、各調査の相互関係、年次推移、データフォーマット等の情報を集約したメタデータとして利用可能であり、複数統計調査の結合または時系列分析を必要とする研究の設計に利用できると考えられる。本研究の結果から、在院日数の分布、臓器系統別疾患群分類別患者数、手術の状況、医療施設内患者割合、地域圏内の患者集中度、等が医療機関の機能分化の指標として有用な指標であると考えられる。
本研究は、統計データの統合的活用方法を示したこと、本邦の医療の実態分析を国際レベルで比較するための基礎的資料を提供すること、医療の効率化に不可欠な医療連携の実態を分析し明らかとしたことから本研究の学術的、国際的、社会的意義は高いと考えられる。さらに、本研究により提案された医療機関機能分類の具体例および専門性と相互連携を評価するための指標は、医療機関の専門分化と役割分担の実態を詳細に明らかにしていく上で、今後の医療統計調査体系の改善と再構築の有益な資料となると考えられる。これらは、医療の質の確保と効率化のための施策の推進に貢献し、医療機関の役割分担の明確化につながることが期待される。今後は、本研究の方法論に基づき、蓄積された医療関連統計データの統合的な活用と詳細な分析を押し進めることで、本邦の医療の実態の詳細がさらに明らかとされることが期待される。医療提供実態と密接に関連する医療費等の医療経済的分析とリンケージした分析も必要と考えられる。

公開日・更新日

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