諸外国における保健所等保健衛生組織の実態調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200120A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国における保健所等保健衛生組織の実態調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
林 謙治(国立保健医療科学院)
研究分担者(所属機関)
  • 兵井伸行(国立保健医療科学院人材育成部)
  • 武村真治(国立保健医療科学院公衆衛生政策部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
行財政改革、地方分権、規制緩和などの社会状況の変化、少子高齢化、ニーズの多様化といった社会環境の変化に対応した、効果的かつ効率的な保健衛生組織のあり方が模索されている。本研究は、諸外国における保健衛生組織の組織体系、設置法令、機能などの実態と今後の動向を把握し、それらをわが国の保健衛生組織と比較することによって、わが国の保健衛生組織、特に地域の公衆衛生の第一線機関である保健所の役割や進むべき方向性を検討することを目的とした。
研究方法
①調査対象国を、北米地区(アメリカ、カナダ)、欧州地区(イギリス、フランス、スウェーデン)、アジア地区(韓国、シンガポール)、豪州地区(オーストラリア、ニュージーランド)の9ヶ国とした。諸外国とわが国の保健衛生組織を直接比較することは困難であるため、保健衛生の機能(健康危機管理、食品衛生、精神疾患患者への対応、地域保健医療計画の策定・管理・評価、保健医療サービスの質の保証、ヘルスプロモーション活動の実践など)を比較の基準として、それらの機能を担当する保健衛生組織の実態を把握した。各機能を担当する組織(第一線機関及びその上部組織)を同定し、機能を担当する組織の名称、組織数、組織の管轄人口、組織の設立目的(所掌事務)・設立主体・設立根拠となる法律、組織体系、各部門の所掌事務、組織及び部門の責任者の資格要件(医師、保健師などの免許、学位、経験年数など)の有無とその根拠(法律、内規、慣例など)、その他の必置職の官職・所掌事務・資格要件の有無とその根拠などを調査した。調査方法として、文献やインターネットを用いた資料収集、現地の関係機関や関係者への訪問調査(アメリカ、イギリス)などを行った。②全国の保健所を設置する123自治体(都道府県、指定都市、中核市、その他の政令で定める市、特別区)を対象に、平成15年2月に調査を実施し、保健所数、保健所の統合の形態(福祉事務所などの他の組織との統合状況など)、統合組織の長の職種などを設問した。また自記式調査票とともに、衛生主管部局と保健所または保健所を統合する組織の組織図を送付してもらい、統合の状況に関する詳細なデータを収集した。③諸外国とわが国の実態調査の結果から、諸国の保健衛生組織の現状分析と比較分析を行い、保健衛生組織と保健衛生従事者のあり方を考察した。
結果と考察
①わが国の保健所に相当する、諸外国の第一線の保健衛生組織は全ての国で設置されているが、その位置づけは、地方自治体の一部門である分権型(アメリカ、韓国、オーストラリアなど)、中央政府の出先機関である集権型(イギリス、フランスなど)に分類できる。保健衛生組織の職員に対する資格要件が法律上明記されている国は少ないが、組織の責任者や組織内の部門の責任者に医師を配置していることが多く、また責任者が医師でない場合は、公衆衛生学の修士・博士などの学位、定められた教育研修の受講、公衆衛生領域での実務経験などが求められていた。②わが国では、全ての保健所が福祉事務所と統合している都道府県は40%、総合出先機関と統合している都道府県は23%、何らかの組織と統合している都道府県は53%で、保健所と他の組織との統合が進行していた。また57%の政令市は保健福祉関連部内のいくつかの課を保健所とみなしており、保健所の位置づけが不明確になっていた。③第一線の保健衛生組織の組織構造や位置づけは、国によって大きく異なっていた。また組織の機能に関しても、健康危機管理機能が別の組織の所管となっているイギリスや診療機能が強化されている韓国など、国によってばらつきがみられた。一方、わが国の保
健所の組織構造は、地域保健法などによって規定されているものの、福祉部門や総合出先機関との統合など、自治体によって多様化しているのが現状である。今後は、諸外国の保健衛生組織とわが国の保健所の間、そしてわが国の多様化した保健所組織の間で、活動実績や活動効果の比較研究を実施し、効果的かつ効率的な保健所組織の構造と機能を検討する必要がある。保健衛生組織のスタッフの適性に関する考え方は、わが国と諸外国で大きく異なっていた。わが国では、保健所職員、特に保健所長の資格要件を地域保健法によって規定している。それに対して諸外国では、スタッフの資格要件が法律上明記されている国は少ないが、保健衛生組織の責任者や公衆衛生部門の責任者に医師を配置していることが多かった。これは、諸外国の保健衛生組織においても、医師の専門的知識や技術が実質的に必要とされていること、管理者レベルに医師を配置することによって彼らの知識・技術を効果的に活用していることを示している。しかしその一方で、ほとんどの国では、保健衛生組織の責任者や公衆衛生部門の責任者として、医師や看護師といった「資格」ではなく、公衆衛生専門家としての「技術・能力」が求められていた。例えば、責任者が医師でない場合、公衆衛生学の修士・博士などの学位、定められた教育研修の受講、公衆衛生領域での実務経験などが求められていた(アメリカ、イギリス、フランスなど)。また責任者が医師である場合でも、公衆衛生の専門資格や実務経験を求められていた(イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなど)。さらに、資格を問わず、公衆衛生専門家を一貫した研修システムによって養成する国(フランス)もみられた。わが国でも、諸外国のように、保健衛生組織のスタッフの適性を「資格」だけでなく「技術・能力」から検討することは有効であると考えられる。したがって今後は、保健所長をはじめ、保健所において中心的な役割を果たす職員に関して、公衆衛生専門家として必要な技術・能力を明確に定義すること、そして公衆衛生専門家の資質を向上させるための教育研修システムを確立することが必要である。
結論
諸外国では、法律上は規定されていないが、保健衛生組織のスタッフとして医師が必要とされていること、管理者レベルに医師を配置することによって彼らの知識・技術を効果的に活用していること、その一方で、組織の責任者として、医師や看護師といった資格だけでなく、公衆衛生専門家としての技術や能力(公衆衛生の学位や専門資格、教育研修の受講、公衆衛生領域での実務経験など)が求められていることが示された。

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