介護関連分野における雇用・能力開発指針の策定に係わる研究

文献情報

文献番号
200200070A
報告書区分
総括
研究課題名
介護関連分野における雇用・能力開発指針の策定に係わる研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
小笠原 浩一(埼玉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤博樹(東京大学)
  • 林大樹(一橋大学)
  • 大木栄一(日本労働研究機構研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究は、介護関連職種の職務分析・職務評価を実施し、これまでやや曖昧な形になっていた介護職務の中身を、「職務」構造および職務遂行の難易度の段階区分を通じて整理するとともに、職務の難易度と職務遂行能力の段階との関連を明らかにすることを目的として実施された。これに基づいて、望ましい能力・キャリア開発システムや人事・賃金処遇制度のあり方を検討し、これを行政指針の形で推進することの可能性につき調査・検討し、もって実務課題に応えることを目的としている。
平成14年度においては、次の調査研究を実施した。
1.ケアマネージャーについて、①課業難易度のランク付け、および、②課業遂行に必要な職務遂行能力の段階区分、を大量観察調査の方法で実施した。あわせて、①②で得られたデータの解釈指標を構築する目的で、ケアマネージャーの課業と能力に関する事例調査、事業者・職能団体を対象とした雇用・処遇制度および教育訓練に関する事例調査を実施した。
2.ホームヘルパー、介護関連施設直接処遇職員、ケアマネージャーを雇用する介護事業者が、雇用人事管理の安定性確保、事業の効果性・効率性の確保の観点から、計画的・自主的に推進することが望ましいと思われる雇用・能力開発のあり方について、指針となるガイドラインを作成した。
3.事業者の計画的・自主的取り組みに対し、介護保険制度が有効な支援機能を発揮しうるようにするために、とくに介護報酬制度のあり方を能力開発・キャリア形成促進型にする上で必要な報酬算定基準の考え方についてまとめた。
4.昨年度実施したホームヘルパーおよび介護施設直接処遇職員を対象とした調査を補足する目的で、改善された調査票を用いた大量観察調査を実施した。
研究方法
課業難易度の把握については、ケアマネージャーが実際に行っていると考えられる仕事のうち、共通性・一般性が高いと判断される11の課業を割り出した。そして、これを、ケース処遇の基本となるケアプランの作成および実施に直接かかわるケアマネージメントの「直接業務」7課業と、周辺業務である「間接業務」4課業に区分した。その上で、課業のそれぞれについて、その基本的な目標を確認した上で、目的達成を困難にすると思われる障壁の性質や難しさの度合いを3段階に区分した。同時に、3段階に区分された状態・状況に照らして課業遂行にあたって求められる要素作業を整理統合し、かかる要素作業の難易度によって課業そのものの難易度を3段階に区分する方法を採用した。
課業遂行能力を測定する方法は、3段階区分された課業の難易度レベルを、被調査者本人(活動地域、所属事業者の経営形態・業態が異なるケアマネージャーたち)がどの程度できると自己認識しているかを問う形をとった。程度は5階梯とした。
結果と考察
第1に、介護保険制度の報酬算定対象となるケアマネージャーのサービス行為は、課業という単位で分析してみると、その難易度は単一・一定ではなく、明確な難易度の差異が存在している。たとえば、同じく「ケアプランの調整・実施」といっても、利用者本人や家族の条件との調整・妥協や介護保険外資源との連携調整など必要とされる要素作業の内容やレベル、あるいは調整範囲の広さや深さなどが大きく異なり、これによって難易度が発生する。
従来の研究では、この課業難易度の存在が十分に意識されてこなかった。制度においても、加算等の措置は存在するにしても、報酬算定の基本基準はケアプラン1本が単位であり、難易度は考慮されていない。
第2に、ケアマネージャーの側にも、課業遂行能力に大きな差が存在することが確認される。本年度の調査は、大量観察方式を用いて、しかも本人記入の方式で回答を得ていることから、サービス提供者自身が、自らの能力をどの程度に評価しているかという「自信」の程度を把握しているという側面もある。
現行介護保険制度では、ケアプランは誰が行っても均質なサービスが提供されるという理念のもとに設計されているが、実態はこれとは異なり、担当するマネージャーによるバラツキが大きい。
第3に、上記の2点から、ケース処遇の難易度に相応しい能力を保有するケアマネージャーが担当するという仕事と能力とのマッチングの考え方が、制度においても、また実務においても求められることになる。能力と仕事とのミスマッチは、仕事にムリやムダを生じさせることになるばかりか、系統的な育成や仕事へのモティベーションの確保にとってもマイナスの要因となる。最も重要なことは、ケースの難易度、課業の難易度に応じて、利用者に必要なケアマネージメントの質の安定性を確保することである。権利性、契約性などを内容とする利用者本位という介護保険の基本原則からすれば、難しいケースは高い能力を有するケアマネージャーが担当するということでなければならない。
第4に、ケアマネージャーの仕事の範囲や深さを見ると、ケアプランの作成・調整・実施やモニタリング、あるいは認定調査の実施や給付請求事務といった制度上の仕事の他にも、報酬請求の対象外の仕事や請求に至らない段階での仕事が広範に存在している。仕事の深さという点でも、ケアマネージャーとして遂行すべき実務の他に、指導、育成、管理、あるいは現場介護業務など、複合的な仕事を担っているものの割合が高い。このことは、ケアマネージャーという資格に伴う制度上想定されている仕事と、事業者の労務管理上の必要性からケアマネージャー有資格者に期待される役割との間に相当の乖離が存在するという実態があることを示している。
ケアマネージャーとして制度が期待する役割に専念することを促進するような制度のあり方が検討されるべきではないかと思われる。
第5に、ケアマネージャーの能力は、直接業務を遂行する能力と間接業務を遂行する能力がほぼ双方一体で伸びることが確認された。現行介護保険制度では、ケアプランの作成・調整・実施・モニタリングに関るコア業務に対する報酬の支払いと、要介護認定調査などに関る算定とが個別に区分されているが、能力形成の実態からすれば、ケアマネージャーとしての力量は総合的、一体的なものであって、一部分の能力のみが突出して伸びるということはないことが確認される。
結論
本年度実施した調査研究から総括的な結論を導くとすれば、次の3点に集約される。
第1に、同じ名称で呼ばれる介護課業であっても、利用者の状態、環境、ニーズ等によって易しい仕事から難しい仕事まで難易度があり、また、易しい仕事ならできる段階から難しい仕事でも確実にこなし、かつ後輩や新人を指導することのできる高度な段階まで、保有能力に階梯がある。利用者ニーズをサービス提供に確実につなげることが介護保険制度で言う利用者本位の理念であるとすれば、こうした仕事の難易度と能力の階梯という実態を踏まえた能力準拠型の報酬基準、能力開発支援型の報酬体系が望ましい。
第2に、働く職員の立場からも、能力開発、キャリア形成が展望できる雇用・人事管理のあり方やその原資を生み出す介護報酬算定のあり方が整備されていることが望ましい。また、事業者の視点からも、人材育成に積極的に取り組み、適正な仕事への配置体制の構築に努める努力を行えば、そのことが社会的に適正に評価され、事業の効率や安定につながっていくような制度のあり方が求められるところである。能力開発に取り組む事業者や個人に対し制度の中立性を確保する必要がある。
第3に、利用者にとって選択できる介護サービスであるためには、自分のケースの必要性に対応するサービスの内容や質を選ぶことができなければならず、利用者にとってのサービスの納得性という観点からも、選択と負担との関係が介護サービス能力ということを指標として適正化されていることが望まれる。

公開日・更新日

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