介護サービス供給システムの再編成の成果に関する評価研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200069A
報告書区分
総括
研究課題名
介護サービス供給システムの再編成の成果に関する評価研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
平岡 公一(お茶の水女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 武川正吾(東京大学)
  • 中谷陽明(日本女子大学)
  • 菊地和則(東京都老人総合研究所)
  • 藤村正之(上智大学)
  • 鎮目真人(北星学園大学)
  • 塚原康博(明治大学短期大学)
  • 駒村康平(東洋大学)
  • 和気康太(明治学院大学)
  • 高橋万由美(宇都宮大学)
  • 山井理恵(明星大学)
  • 中根真(関西福祉大学)
  • 鍋山祥子(山口大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、介護保険制度の実施に伴う介護サービス供給システムの再編成がもたらす成果と問題点を、英米で実施されているプログラム評価(program evaluation)の手法の適用を含む学際的・多面的な研究方法を用いて実証的に解明することを目的として実施するものである。本研究では、この目的を達成するために、三カ年の間に、次の三つの個別研究を実施することとしている。まず第一に、自治体における介護保険の実施体制や介護サービスの利用状況等に関するデータを収集するために、市区町村全数を対象に質問紙調査を実施し、そのデータをマクロ統計データとリンクさせて分析する。第二に、自治体における介護保険の実施体制、介護サービス市場の状況、ケアマネジメントやサービスの調整・連携の実施状況等について、自治体の個別の状況に即した分析・評価を行うために、十団体程度の基礎自治体の事例分析を行い、そのうち四ないし五団体については、公私の機関・団体の訪問調査、専門職・サービス利用者への質的方法による調査、サービス利用データの分析などを併用して、より集中的な分析を行う。第三に、介護サービスの利用による効果を、費用との関連で分析するために、介護保険の要介護・要支援認定者を対象として、パネル調査法により二回にわたる質問紙調査を実施し、そのデータを多変量解析の手法を用いて分析する。本研究はまた、このような一連の調査研究の実施を通して、介護サービスに関わる政策評価の手法の開発と改善を図ることも目指している。
研究方法
第三年度目である平成14年度は、主任研究者・分担研究者に加えて研究協力者8名の協力を得て、以下の通り研究を実施した。第一に、平成12年度に実施した自治体質問紙調査データと既存のマクロ統計データをリンクさせてさらに分析を進めるとともに、全国の市区(261団体)から収集した平成12年・平成13年8月分の介護保険事業状況報告のデータをそれに合体させ、多変量解析の手法を適用して、データ分析を行った。第二に、要介護・要支援認定者を対象とするパネル調査の第2回調査を、東京都墨田区において平成14年11月に実施した。調査は、第1回調査の有効ケースのうち、死亡・転出・入院・施設入所等により調査対象外となったケースを除くケースに対して実施し、719ケースの有効回答が得られた。有効回収率(死亡ケースを除く調査客体に対して)は、83.7%であった。この2回の調査で得られたデータを合体して、一つのデータセットを作成し、サービスの利用決定要因と利用効果の分析を中心に、多面的な分析を行った。第三に、介護サービス供給体制の特徴が異なる都市部の自治体五団体について集中的な事例調査を実施した。調査の方法は、主として、介護保険担当課・サービス事業者等のヒアリング調査と各種資料の収集・分析であるが、一部の自治体については、ケース検討会、デイサービス・センターでの参与観察、あるいは給付管理票データの分析も併用した。
結果と考察
平成14年度の三つの研究課題のうちの第一の地方自治体単位の統計データの分析に関しては、介護サービスの分配の公正に関する評価、介護保険事業計画における医療系サ-ビスと介護系サービスの関連、自治体の介護保険実施体制の類型化という3つのテーマに即して分析を行った。得られた知見は、多岐にわたっているが、特に注目すべきものとしては、各種サー
ビスの水準の地域差のうち、介護老人医療施設によるサービス提供の地域差のみが、主として供給者側の要因によって生じているものであり、その他のサービスの地域差は、利用者の介護に対する必要性をある程度反映した結果生じているものと考えられ、サービスの分配の公正という観点から見た場合、その歪みは比較的小さいと考えられるということがあげられる。第二の研究課題の要介護・要支援認定者を対象とするパネル調査に関しては、サービスの利用状況とその規定要因、ケアマネジメントの実施状況、ADL・痴呆症状等の変化とサービスの利用の変化の関連、家族介護者の負担感の変化、介護サービスの利用と家族介護者の就労との関連など多様な観点からの分析を行い、併せて費用-効果分析を行うための分析作業も進めた。サービスの利用効果については、在宅サービスの利用が必ずしも家族の介護負担の軽減につながっていないこと、訪問介護の利用時間数は家族介護者の就労時間を増加させる効果を持っていないこと、などの知見が得られたが、確定的な知見とはいえずさらに継続的な分析が必要である。このほかの注目すべき知見としては、第一に、サービスに「満足」と回答したケースでも介護ニーズが十分に充足されていないと評価しているケースがかなり多いこと、第二に、サービスの提供過程でのケアマネジャーによる問題解決の程度が、ケアマネジャー及びケアマネジメントに対する満足度に影響していること、第三に、在宅サービス利用の有無・程度には、心身機能、世帯構成、所得水準などの要因が影響を及ぼしていること、第四に、負担能力の乏しさのためにサービス利用を抑制しているケースが一定数存在すること、第五に、特別養護老人ホームへの入所希望に影響を及ぼす要因が、老人性痴呆の症状の程度と、精神・心理的負担の程度、及び住居形態であること、第六に、在宅で入所待機中のケースの中では、在宅サービスを限度額近くまで利用しているケースは半数以下であること、などをあげることができる。第三の研究課題の自治体の事例調査については、各自治体の介護保険実施状況と問題点に加えて、サービスの利用・供給パタンの自治体間の違いや時系列的な変化が、必ずしもニーズ要因や経済的要因の違いや変化によって説明できるものではなく、むしろ供給サイド側の要因や、自治体の政策的な要因がかなりの程度まで作用していることなどが明らかになっている。
結論
平成14年度は、三カ年の研究期間の最終年度にあたり、ほぼ当初の予定通りに調査を実施し、分析を進めることができた。介護保険制度の実施に伴うサービス供給体制の再編は、さまざまな要素を含む複雑な変革の過程であり、その成果について現段階では確定的な評価を行うのは困難であるが、本研究における多面的な分析を通して、個別の実績、問題点とともに、政策的な観点からの評価を行う際に必要な分析の視点と枠組みが明らかになったといってよい。また、今後の研究課題として、アウトカム指標を用いた自治体の介護保険実施状況の評価、調査データと自治体の業務データを結合したデータベースの活用、よりインテンシブな事例調査の実施などを検討する必要があることも明らかになった。

公開日・更新日

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