医療費の自己負担増による高血圧症患者と糖尿病患者の受診行動の変化 に関する研究

文献情報

文献番号
200200065A
報告書区分
総括
研究課題名
医療費の自己負担増による高血圧症患者と糖尿病患者の受診行動の変化 に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
畝 博(福岡大学)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場園 明(九州大学健康科学センター)
  • 津田 敏秀(岡山大学大学院)
  • 田中 喜代史(みずほ銀行)
  • 宮崎 元伸(福岡大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はA健康保険組合の被保険者約1万人を対象として、医療費の自己負担増が不必要な受診や過剰診療に留まらず、必要な受診さえも抑制している恐れがないか否かを医療経済学的に検討したものである。平成14年度には、2001年1月に導入された老人に対する一部定率1割負担の影響と2003年4月に導入予定の健康保険被保険者本人に対する定率3割負担の影響の予測を行った。
研究方法
1.老人に対する一部定率1割負担導入の影響 A健康保険組合に所属し老人保健制度の対象者を研究対象者とした。一部定率1割負担導入直前の2000年7月から2000年12月まで連続して受診した高血圧症患者253名と糖尿病患者34名をIntervention cohortとして定義し、その後1年間、受診行動を観察した。1割負担の影響のない期間を対照期間とし、1999年7月から1999年12月まで連続して受診した高血圧症患者238名と糖尿病患者33名をControl cohortと定義した。Control cohortについても、その後1年間、受診行動を観察し、Intervention cohortとControl cohortの間で受診率の変化などについて比較検討した。2.被保険者本人に対する定率3割負担導入の影響の予測 A健康保険組合の被保険者本人2,024名、男性1,418名、女性606名を研究対象とした。2002年7月に行われた定期健康診断に参加し、研究への同意の得られた1,674名(82.7%)、男性1,165名(82.2%)、女性509名(84.0%)を分析対象とした。調査では質問票を作成し、被保険者本人に対する定率3割負担が導入された場合の受診行動について訊ねた。
結果と考察
研究結果1.老人に対する一部定率1割負担導入の影響 一部定率1割負担導入後、高血圧症ではIntervention cohortのコンプライアンス率はControl cohortと比べ、有意な低下がみられなかったが、糖尿病では有意な低下がみられた。外来受診日数は、高血圧症のIntervention cohortではControl cohortと比べ、1割負担導入直後の6ヶ月間、有意に少なくなったが、その後の6ヶ月間では有意差はなくなった。糖尿病ではIntervention cohortとControl cohortの間に差がみられなかった。外来医療費は、高血圧症、糖尿病ともにIntervention cohortとControl cohortの間に差がみられなかった。2.被保険者本人に対する定率3割負担導入の影響の予測 高血圧症・糖尿病で外来受診をする場合、自己負担の許容限度額は、月5千円以下とする者が約2/3を占めていた。もし定率3割負担導入された場合、高血圧症・糖尿病では19.2%の者が受診を控えると回答した。受診抑制のリスク要因について多変量解析を行った結果、「配偶者の雇用の状態」が「無職」の場合や扶養する子供の数が多い場合に受診が抑制される傾向にあり、経済的な背景が自己負担増による受診抑制と関係していることが示唆された。考察 1.老人に対する一部定率1割負担導入の影響今回の一部定率1割負担導入は、糖尿病患者の受診を有意に抑制した。高血圧症でも若干の受診抑制はみられたが、有意ではなかった。この理由として、糖尿病の1件当たり医療費が高血圧症に比べ1万円以上高いことが挙げられる。定率1割負担では糖尿病で月2,500円負担しなければならない。また、高血圧症は投薬により血圧は確実に低下するが、一方、糖尿病では食事や運動などのライフスタイルの変容がなければ治療効果は小さく、負担の割にはその効果が実感されにくい。このことが、1割負担導入の影響が糖尿病の方に顕著に現れた、もう一つの理由と考えられた。2.被保険者本人に対する定率3割負担導入の影響の予測 月当たり自己負担許容額は、高血圧症においても、糖尿病においても被保険者の約2/3が5,000円以下であり、多くの被保険者にとって5,000円が許容限度額になっていることが明らかとなった。糖尿病の受
診では、定率3割負担になれば自己負担額が5,000円を超えるようになる。定率2割負担でもコンプライアンスの高い患者の受診中断が明らかになっており、定率3割負担ではさらに受診が低下することが憂慮される。とりわけ、糖尿病の受診中断については、注意深い観察が必要であろう。受診抑制のリスク要因について多変量解析を行った結果、「配偶者の雇用の状態」が「無職」の場合や扶養する子供の数が多い場合に受診が抑制される傾向にあった。本研究の対象となった被保険者は同一の企業に勤務しており、年功序列の賃金体系である。「配偶者の雇用の状態」は世帯収入に強く反映し、「扶養する子供の数」も家計出費に大きな影響を与えると考えられる。したがって、「配偶者の雇用」や「扶養する子供の数」による受診への影響は、所得効果によるものであると考えてさしつかえない。被保険者本人に対する定率3割負担が導入された場合、高血圧症・糖尿病では19.2%の者が受診を控えると回答しており、この受診抑制は所得の低い層により顕著に現れることが予想された。
結論
2001年1月に導入された老人に対する一部定率1割負担の影響と2003年4月に導入予定の健康保険被保険者本人に対する定率3割負担の影響の予測を行った。その結果、糖尿病では老人に対する一部定率1割負担導入後、有意な受診抑制がみられた。被保険者本人に対する定率3割負担が導入された場合、高血圧症・糖尿病では19.2%の者が受診を控えると回答した。また、受診抑制は所得の低い層により顕著に現れることが予想された。
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