医療保険給付における公平性と削減可能性に関する実証的研究

文献情報

文献番号
200200059A
報告書区分
総括
研究課題名
医療保険給付における公平性と削減可能性に関する実証的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
八代 尚宏(日本経済研究センター理事長)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木玲子(日本経済研究センター)
  • 鈴木亘(日本経済研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究要旨:今年度は、昨年度に作成した独自のアンケート調査や医療保険財政予測モデルを元に、論文を書き出版することに重点が置かれた。まず、医療の公平性が分析され、諸外国に比較してわが国は極度に平等性の高く、特に老人医療費に関してはまったく不平等が存在していないことがわかった。しかしながら、増大する医療費の削減可能性という面では、特に供給サイドに大きな問題があることが再確認され、需要面のみの改革を目指した2003年度の医療制度改革の問題点が浮き彫りとなった。このほか、介護保険は医療制度改革の試金石としての性質を持つことから、介護保険の分析を進めた。さらに、諸外国の事例に学ぶ意味で中国やOECD諸国の医療制度改革の分析を行い、わが国への教訓・知見を得た。A.研究目的 今年度は、昨年度に作成した独自のアンケート調査や医療保険財政予測モデルを元に、論文を書きあげ、出版することに重点が置かれた。まず、第一のテーマとして、昨年度に収集された「高齢者の医療行動調査」を元に、本プロジェクトのメインテーマである医療の公平性の分析(本報告書1章「日本の医療は平等か-持病を持つ高齢者アンケートを用いた外来医療給付の実証分析」2章「Inequity in the Health Care System of Japan」)や、削減可能性の分析(本報告書7章「終末期医療の自己決定権に関する経済学的考察」)が分析された。ところで、平成14年度は、平成15年度から実施される医療制度改革をめぐって激しい政策論争が繰り広げられたまさに「医療制度改革に明け暮れた年」であった。我々の研究プロジェクトも、こうした現実の動きとは無縁ではいられない。このため、昨年作成した医療制度財政予測モデルを用いて、平成15年の医療改革に関するさまざまな予測検証を行い、政策提言を行った(本報告3章「Evaluating Japan's Health Care Reform in the 1990s and Major Issues Coping with the Aging of the Population」、4章「日本の医療制度をどう改革するか」)。さて、今回の医療制度改革に一番欠けているのは、供給者サイドの効率化・改革である。「医療保険の削減可能性」を探るためには、自己負担増といった需要サイドの改革だけでは片手落ちであることはいうまでもないであろう。このため、病院産業の特徴と効率化を議論し(本報告書5章「医療サービス産業と効率性:医療への資源投入は経済全体のパフォーマンスを低下させるか?」)、来るべき医療特区のあり方についても考察を行った(本報告書6章「医療特区が目指すもの」)。また、特区で議論されている病院に対する株式会社参入が医療資源を効率化するかどうかを探るためには、株式会社参入が認められた訪問介護市場の現状を評価することで、知見が得られると考えた。このため、介護保険市場の効率性評価についても実施した(本報告書9章「公的介護保険で訪問介護市場はどう変わったか」、10章「訪問介護市場におけるサービスの質と効率性の政策評価研究」)。さて、平成14年度は介護保険にとっても、15年度の見直しに向けて激しい動きのある年であった。こうしたなか、医療だけではなく、介護も視野にいれた給付費予測・公平性分析の必要性が高まり、考察を行うこととした(本報告書8章「介護サービス需要増加の要因分析-介護サービス需要と介護マンパワーの長期推計に向けて-」、既出9章、10章)。最後に、本テーマを分析するにあたっては、諸外国の改革の動きにも着目すべきである。わが国の改革アジェンダのほとんどは、諸外国で既に実施された改革である。特に、中国は現在、大規模な改革を進めており、わが国への教訓が大きい。したが
って、中国の医療保険改革から得られる知見を別途探り(本報告書11章「医療制度と医療費~都市職員・都市労働者の医療保険~」)、その他の諸外国の動向もまとめた(既出1章)。
研究方法
B.研究方法  1、2章、7章の分析には、昨年度に独自に実施したアンケート調査高齢者の医療行動調査」を利用している。また、医療制度改革を分析した3、4章は、医療保険財政の将来推計を行う為のシミュレーションモデル「日経センター医療財政予測モデル」を用いている。その他の章は、日銀や内閣府、OECD等によって作成された既存のデータを解析している。
結果と考察
C.研究結果 1、2章の主な結果は、①スイスとアメリカを除く大半の国は平等主義色の色彩が濃く、わが国も平等主義寄りでフランスやドイツとともに公的医療保険中心の国に分類される、②負担面が不公平な国は予想外に多く、日本も例外ではない、③給付の分布は、外来医療が累進的、入院医療が逆進的な国が多い、④わが国の高齢者の外来医療の給付において所得に関する不平等は発生していない、などである。3、4章の主な結果は、2005年には保険財政全体で3.22兆円の収支改善効果が見込まれ、0.69兆円の黒字となるというものである。ただし、この財政収支の黒字化は一時的なものにとどまり、その後赤字幅は再び拡大して、2025年の赤字幅は6.54兆円に達すると見込まれる。7章の主な結果は、リビングウィルの作成確率は、①リビングウィルの実行性が確保される場合には6.0%ポイント、②緩和ケア病棟やホスピスが確保される環境では11.2%ポイント、③終末期認定の厳密化が行われる環境では3.2%ポイント、④告知と病状説明が十分行われる環境では9.1%ポイント、それぞれ高まるというものである。8章の主な結果は、介護保険の介護費は2010年で8.7兆円程度に達するというものである。9、10章の主な結果は、①営利・非営利業者間における明確なサービス水準差はみられない、②新旧業者間のサービス水準の差もみられない、③サービスの質を考慮した上での効率性は、新規業者が旧業者に比べて明確に高いというものである。11章の主な結果は、中国の医療制度改革によって保険給付費は激減しているが、家計へのしわ寄せは限定的であるということである。D.考察 わが国の医療制度は、公平性という観点からは問題が非常に少ないものの、供給サイドには不高率な点が多々見られることから、供給サイドの効率化が今後の医療制度改革の課題である。改革の方針を得るためには、改革が一歩進んでいる介護保険の評価や諸外国の改革の評価が不可欠の作業となろう。
結論
E.結論 研究結果に同じ。第3年度の調査にあたっては、医療資源の効率性確保や供給サイドの改革により重点を置いた研究を行う予定である。また、それらの改革、特区による改革の効果の計量化・評価が重要であることも再認識された。
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