社会福祉に係るコスト及びサービスに対する,市町村合併の効果に関する 実証的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200058A
報告書区分
総括
研究課題名
社会福祉に係るコスト及びサービスに対する,市町村合併の効果に関する 実証的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉村 弘(山口大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,医療・介護等社会福祉に係るコスト及びサービスが市町村合併によってどのような影響を受けるかを日本のデータによって数量的に推計することを目的とする。このため,①全国3000余の全市町村のデータにもとづいて,社会福祉関連項目と市町村の人口規模との間の一般的傾向性を導出し,②これにもとづいて,市町村合併の,社会福祉に係るコスト及びサービスへの効果を数量的に推計する。
研究方法
(研究計画:第1年目)まず最初に,福祉関連指標を選択する。おそらく,コストとサービスに関して,10個~20個の指標を選択することになろう。このさい重要なことは,福祉のコストとサービスを表す指標のうち,3000余の全国全市町村の比較可能なデータが入手し得るような指標を見いだすことである。これには,今までの経験では,相当な苦労,日数,経費を伴う。 全国のなかで、大都市と地方では異なる傾向性をもつことが予想されるので、できれば大都市圏と地方圏に分けた分析も加えたい。また、福祉関係では、市町村だけでなく福祉圏域など広域の視点も重要であるので、これも調査研究単位に加えたい。つぎに,選択した福祉指標について,試論的に,市町村の人口規模との関係を図示し,統計的に有意な関係を見いだし得るかどうか検証する。統計的に有意な関係が見いだせないときは,指標を入れ替えて種々試みる。なお,都市規模は,単に人口数だけではなく,人口構成(年齢,性別,要介護者など属性別),面積,所得,産業諸指標なども検討する。(研究計画:第2年目)第1年目で選択された指標について,全市町村について,全データをインプットして,一般的傾向性を求め,その関係式を確定する。それによって,福祉関連指標からみた最適都市規模を求める。もし,1年目において,既存データでは不十分ということが判明したら,上記2年目の計画を縮小して,別に,アンケート調査を行う必要が生じる。(研究計画:第3年目)第2年目で確定した関係式に基づいて,市町村合併の福祉関連諸指標への効果を推計する。市町村合併としては,人口規模に応じて,10種類程度のモデル都市を設定し,合併の効果をシミュレーションする。また,全国の340余の福祉圏域や340余の広域市町村圏について,市町村合併の福祉面からみた効果を推計する。
結果と考察
以下のデータ分析は有意性について統計的検定を経ている。(結果)1.資料1「都市規模と包括的福祉・医療サービス---市町村合併の包括的福祉・医療サービスへの効果----」の主要研究成果:(1)都市の人口規模を説明変数として福祉・医療サービス水準説明するとき、「上に凸の右上がり」の関係を有する。すなわち、人口50万人程度まで、人口規模の増大とともに、福祉・医療サービス水準が著しく向上するが、それを過ぎると、人口規模とともに福祉・医療サービス水準はなお向上するものの、その程度は次第に小さくなる。(2)福祉・医療サービス水準を人口と面積で説明しようとするとき、人口の影響が面積よりも遙かに大きく、面積は単に人口の影響を修正する要因として考慮するべきである。(3)都市の福祉・医療サービス水準は、その現実値だけでなく、「標準値」(都市規模に見合う福祉・医療サービス水準)によって評価することが出来る。2.資料2「市区町村の規模と高齢者保健福祉サービスの一般的関係」の主要研究成果:全国の3257市区町村について、高齢者保健福祉指標として、①ホームヘルパー年間利用延人員、②同高齢者100人当たり、③デイサービス年間利用延人員、④同高齢者100人当たり、⑤ショートステイ年間延利用人員、⑥同高齢者100人当たり、⑦特別養護老人ホーム施設数、⑧特別養護老人ホーム定員数の計8種を採用して、市町村の人口規模・高齢者数・高齢化率との関連を考察したものである。(1)人口規模との関連では、総数①③⑤については、「上に凸の右上がり」の関係がみられ、人口規模50万人程度を
1つの分岐点として、それ以前は人口規模につれて指標値が直線的に増大し、それ以後は緩やかに増大する。(2)同じく人口規模との関連で、高齢者数当たり②④⑥については、「下に凸の右下がり」の回帰式が当てはまり、人口3-5万人程度まで急激に低下して、それ以後は大きな変化はみられない。(3)高齢者数と高齢者保健福祉指標の関係は、人口規模とほぼ同様の傾向性をもっている。(4)高齢化率と高齢者保健福祉指標の関係は「右上がりの直線」である。3.資料3「福祉圏域の規模と高齢者保健福祉サービスの一般的関係」の主要研究成果:本論文は上記2の論文の市区町村の代わりに全国346福祉圏域について考察したものである。(1)人口数を規模の指標とするとき、総数指標(高齢者当たりでない指標)は、概ね「右上がりの1次式」の関係が認められ、他方、高齢者100人当たりの指標は、人口規模とともに初めは指標が急減し、以後緩やかに低下するような「下に凸の右下がり」の関係がみられる。(2)「下に凸」の場合、人口規模の増大につれて、人口30万人程度まで高齢者当たりの指標は急減し、その後50万人程度まで緩やかに減少し、それ以上では僅かに減少する程度で、殆ど変わらない。 (考察)(1)具体例及びモデル都市シミュレーションによれば、市町村合併の福祉・医療サービス水準への効果は十分あると判断するのが妥当である。(2)「平成の大合併」は、高齢者保健福祉への対応を1つの目安として、(よほどの例外を除いて)人口3万人程度を最低ラインとして考えることができるであろう。(3)高齢化率は、人口規模や高齢者数と違った意味で、高齢者数当たりの高齢者保健福祉指標を説明するものとして注目すべき重要性があると考えられる。(4)福祉圏域の規模を人口規模でみるとき、人口30~50万人は1つの目安となる。(5)福祉圏域は高齢者保健福祉にとって有意義であり、市町村合併の単位としても考慮に値すると考えられる。
結論
(1)データに基づいて、都市規模(人口、面積等)と社会福祉(とくに高齢者保健福祉)の諸指標との間には統計的に有意な一般的関係を見出すことができる。(2)また、その関係を通じて、市町村合併の社会福祉に与える効果を数量的に推計することは可能である。(3)しかも、市町村合併の福祉指標に対する効果は十分認められるので、福祉の観点からも市町村合併を推進するべきである。(4)その際、「平成の大合併」は、高齢者保健福祉への対応を1つの目安として、(例外を除いて)人口3万人程度を最低ラインとして考えることができるであろう。(5)福祉圏域は高齢者保健福祉にとって有意義であり、市町村合併の単位としても考慮に値する。(6)福祉圏域に関しては、福祉関連施策の単位(地理的範囲)を設定するときに、単に従来の慣習や地元住民・自治体の要望のみに基づいて単位を設定するべきではなく、圏域の規模など効率性の観点も考慮するべきである。以上より、社会福祉を都市規模の観点から考察することは社会的に有意義であり、今後なお開拓・展開するべき余地が多く残されているといえる。

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