医療機関の機能分化政策の形成的評価-政策評価手法の1モデルとして(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200052A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関の機能分化政策の形成的評価-政策評価手法の1モデルとして(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
田村 誠(国際医療福祉大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田敬(東京大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では現在、医療保障(診療報酬)および医療制度(医療法)の両側面から、医療システムの機能分化政策が強力に推し進められようとしている。本研究の目的は二つある。一つは、この医療機関の機能分化政策の評価を行おうというものである。もう一つは、中央省庁等改革において導入された政策評価制度手法の1モデルとして形成的評価を試みるものである。
研究方法
2002年度は4つの調査・研究を行った。1つは、2001年度に続き、外来患者を抑制し積極的な地域連携を進める地域医療支援病院(浦添総合病院)における調査である。紹介外来制に移行し、外来患者を強力に抑制したことがどのような影響を及ぼし、どのような課題があるのかを、勤務医に対する面接調査により明らかにした。面接内容は、対象者の属性として勤務年数、専門分野、以前の勤務場所について尋ねた後、外来の機能分化に関して、患者の流れ、紹介外来制導入のインパクト、医療連携への取り組み、外来機能分化についての大きく4点とした。 2つめは、2002年4月の診療報酬改定に導入された「200床以上の大病院の再診料(特定療養費)」に対する患者の支払意向や医療機関の選択基準、医療機能分化に対する賛否等を尋ねる調査である。地域中核病院(済生会宇都宮病院)の外来患者に対して自記式質問紙により調査を行った。20歳以上の計317名から回答を得た。3つめは、退院計画において、退院に関するニーズを早期にアセスメントするための「初期アセスメント票」を開発し、それを病棟看護師(69名)に対して試行し、同票使用前後で、退院計画実践状況に対する自己評価の変化の分析により、妥当性を検証した。「初期アセスメント票」は、①全身状態、②基本動作、③ADL(Barthel Index)、④IADL、⑤意識レベル(JCS)、⑥痴呆(柄澤式)、⑦コミュニケーション、⑧認知、⑨気分と行動、⑩食事・栄養、⑪排泄、⑫転倒の危険性、⑬褥創(NPUAPの分類)、⑭皮膚の状態、⑮特別な治療・ケア、⑯退院先、⑰家族状況・介護力、⑱住居環境、⑲社会資源、⑳その他の20項目から構成した。4つめは、政策評価の方法論に関する研究である。厚生労働省が2002年4月に発表した「厚生労働省における政策評価に関する基本計画」、および、2001年度から試行的に行われてきた評価結果、さらに2002年9月に発表された第1回目の本格的な評価結果を検討した。
結果と考察
まずは、地域医療支援病院の勤務医調査である。紹介外来制に関して面接調査を行ったところ、全体としては地域医療支援病院への移行や紹介外来については賛同が多く、診療時間の余裕などのメリットが指摘された。一方で患者に対しての説明や逆紹介時の対応、新人医師の教育などの面からの課題も指摘され、病院での活動をサポートするようなしくみが望まれた。次に、地域中核病院(済生会宇都宮病院)の来院患者に対し、再診料(特定療養費)に対する支払意向、病院選択の基準等について調査を行ったところ、以下のような結果を得た。1)同院を選択した基準としては、「機器・設備の充実」、「医師の診断技術がよいから」、「他の医療機関からの紹介」という順に多かった。2)大病院と中小病院・診療所の機能分化・役割分担については、「賛成」が136人(47.7%)、「反対」が71人(24.9%)、「わからない」が78人(27.4%)であった。昨年度の浦添総合病院の逆紹介患者調査とほぼ同様の結果となった。3)再診料(特定療養費)が500円になったとして、同院に「通院を続ける」と答えたのは195人(67.9%)、「小さな医療機関に変える」のは47人(16.4%)、「わからない」は45人(15.7%)であった。さらに、再診料(特定療養費)が500円になった場合に、同院に「通院を続ける」と答えた人の特
性を分析したところ、高齢、大病院志向の人、同院を選んだ理由として「医師の診断技術がよいから」をあげた人に、また「機器・設備の充実」をあげなかった人であるという興味深い結果がみられた。「医師の診断技術がよいから」と「機器・設備の充実」はいずれも同院の選択基準で上位を占めるものであったが、特別の料金を払ってまでも欲しいものは、医師の診断技術であり、機器・設備はプラスアルファであるとみられた。次に、退院計画に用いる「初期アセスメント票」を開発・試行し、その妥当性を検証した。その結果、対象者全体では試行前後の2回の調査で退院計画実践状況の自己評価に統計的な差は認められなかったが、経験年数5年未満の対象者で、試行後に得点が高くなる傾向が認められ、適切な教育による退院計画の質向上の可能性が示唆された。次に政策評価の方法論の研究である。厚生労働省の政策評価は「業績評価」「総合評価」「事業評価」の3つの方式で行われているが、その中心的なものは「業績評価」であった。しかしながら「業績評価」は、政策との因果関係の乏しさや、評価指標の乏しさ、さまざまなレベルの評価指標の混在、行政の裁量権の少なさ等の問題がある。「総合評価」は政策評価の中では重要な役割を占めるべきものと考えられるが、これも評価の方法論が不明確であることや、あるべき評価の担い手が定まっていないことなど、課題は多い。スタートしたばかりの政策評価であるが、「業績評価」の評価指標の見直しや、本格的な総合評価の実施など、今後の積極的な改善が望まれた。
結論
特定の地域医療支援病院(浦添総合病院)の調査は、昨年度のものとあわせると、逆紹介患者調査、登録開業医調査、そして勤務医調査と3つ行った。その結果、さまざまな問題はあるものの、全体として地域医療連携は円滑に機能しているものとみられた。ただし、一般住民に対して機能分化の考え方を訴えていくなどの取り組みが求められていくものと思われた。地域中核病院の患者調査からは、再診料(特定療養費)が500円上昇しても通院継続したい人は約2/3であり、通院継続したい人には「医師の診断技術」を同院の選択基準にしている人が多かった。政策評価のあり方を探ったところ、厚生労働省が現在重点を置く「業績評価」には、評価指標の選択等のさまざまな問題がみられた。「総合評価」には方法論が不明確な点があり、本研究で行ったような多面的評価が一つの参考になると考えられた。

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