こどものいる世帯に対する所得保障、税制、保育サービス等の効果に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200048A
報告書区分
総括
研究課題名
こどものいる世帯に対する所得保障、税制、保育サービス等の効果に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
勝又 幸子(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 阿部彩(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 大石亜希子(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 金子能宏(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 周燕飛(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 千年よしみ(国立社会保障・人口問題研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、戦後最低の合計特殊出生率が更新され、「1.57ショック」とよばれた1989年頃よりも「こども」の問題が注目されるようになれ、こどものいる世帯にとって暮らしやすい社会づくりが重要な「少子化対策」として広く認識されるようになった。本研究事業は、こどものいる世帯に対する諸制度の効果を検証し、今後の社会が、社会全体の責務としてこどものいる世帯に対し、どのような方面で、どの程度の支援を行うべきかを明らかにすることを目的とする。本研究では、大きく以下の4点について分析する。第一に、日本のこどもに関連した社会保障給付費の規模について、先進諸国との比較からその水準を把握する。第二に、日本におけるこどものいる世帯の経済状況について実証分析を行い、こどものいる世帯の貧困状況・不平等率等をミクロデータから明らかにする。また、子どものいる世帯に対する児童手当等の諸手当や税制における控除が、所得格差是正に対してどの程度影響しているか等を分析する。さらに、こどもの教育費と家計・消費の関係についても実証分析をおこなう。第三に、こどものいる世帯に対する政策の国際比較を行う。第四に、保育サービスを需要と供給の側面から捉え、保育料と保育需要の関係、保育サービスによる再分配効果、保育士市場の経済的分析、育児休業制度や企業内育児支援制度などの女性の労働への影響などについて検証する。
研究方法
本年度は、新たにアンケート調査を実施し、こどものいる世帯の経済状態、こどもに関わる世帯の経済的負担の大きさ、児童手当の効果を明らかにした。アンケート調査では18歳以下の子供を持つ30,045世帯から無作為に5,500サンプルを抽出し、協力参加を呼びかけ、1,608件の有効回答が得られた。また、前年度の研究事業の一環として本研究独自に計画し実施したフォーカス・グループ・ディスカッションの結果を用い、母親達の保育の質に対する評価を定性的・定量的に把握した。さらに、前年度本研究事業が独自に行ったインターネット調査の結果に基づいて、首都圏の保育サービスの潜在需要量と保育料の適切な水準などの試算を行った。アンケート調査の実施、分析を進める一方、既存のデータを入手し、本研究事業の主旨に沿ってさまざまな研究を行った。データと研究テーマは主に以下のとおりである:『米国Current Population Survey 1996-2001年』(米国における児童の貧困推移の規定要因について)、『平成8年所得再分配調査』(児童手当と所得税制上の扶養控除が有子世帯内および有子・無子世帯間の所得格差に及ぼす影響について)、『平成8年社会生活基本調査』(有配偶女性の労働供給に及ぼす施設保育と親族などによるインフォーマルな保育の影響について)、『平成10年国民生活基礎調査』(認可保育所の利用実態や保育料が労働供給に及ぼす影響について)、『消費生活に関するパネル調査』(保育サービスや育児休業制度の利用可能性が子供数に及ぼす影響について)、『女性の就労と子育てに関する調査―平成14年』(育児期女性におけるキャリア形成・中断の実態について)。また、海外から保育サービスやこどものいる世帯の経済状態について注目すべき研究業績をあげている研究者2名を招聘し、3回のワークショップ(「社人研ワークショップ」(平成14年11月18日)、「少子化と家族・労働政策に関する国際ワークショップ」(平成14年11月20-22日)、「京都大学芝蘭会館ワークショ
ップ」(平成14年11月27日)など)を開催した。ワークショップにおいては、本研究の分担研究者及び国内より招聘した研究者も論文を発表して、招聘外国人研究者との研究交流をおこない、研究成果の普及に努めた。なお、指定統計などの既存データを使用の際には、データや個人情報の流出のないように細心の配慮をした。本研究事業で独自に行った調査についても、研究目的以外に使用せず、個人が特定できないように工夫した。
結果と考察
平成14年度は最終年度でもあり、平成13年度の結果と統合した総合報告がなされた。それぞれの分担研究の結果は以下の通りである。①「こどもに関する社会保障給付費の国際比較」:平成14年度は、OECD社会支出データベースを元データとして使用し、加盟国の内、日本を含む14カ国について、家族支援給付の規模の違いによりグループ分けして、それぞれの国の社会支出規模と家族支援支出規模の関係を1980年より1998年まで約5年間隔で時系列比較した。その結果、日本、イタリア、スペインなど家族支援支出の規模の変化が過去小さかった国のグループには、現在超低出生率の国が多く、一方で、比較的安定した出生率を維持している国(フランスとデンマーク)では、家族支援給付が現金給付から現物給付へシフトする傾向が見られた。②「こどものいる世帯に対する政策の国際比較」:Luxembourg Income Study (LIS)、米国センサス局のCurrent Population Survey(CPS)個票などを用いて、先進諸国における所得移転や家族構成が児童の貧困に与える影響の国際比較、及び米国における児童の貧困状況の規定要因について実証的に分析した。その結果、先進諸国における児童の貧困には、家族構成の与える影響が大きいことが明らかになった。米国では1996年の福祉改革の影響は、一見明るい兆候を見せているものの、米国の経済成長が鈍るにつれ、特に米国市民権を保持しない移民の児童が貧困に陥る可能性が高まる可能性があることが示唆された。③「こどものいる世帯の経済状況把握」:厚生労働省『平成8年所得再分配調査』などを用いて、我が国のこどものおかれる経済状況、および、児童手当、所得税制上の子に対する扶養控除などこどものいる世帯に対する所得再分配制度と、教育ローンなどこどもに付随する特定目的を持つ制度の効果を推計した。また、インターネットを用いて「児童手当と子育てにかかる経済的負担の調査」を行い、児童手当の受給・使途・受け止め方、こどもにかかる諸費用などを調査した。その結果、我が国のこどもの相対的貧困率は、他の先進諸国と比べても決して低いレベルにあるわけではなく、現行の児童手当制度の貧困縮小、格差是正効果は非常に小さいことが明らかになった。一方、扶養控除は、児童手当よりも所得格差是正にある程度の役割を果たしているが、両者とも非常に小さいレベルであった。こどものいる世帯の経済状況を改善するには、教育ローンなど年齢が高い子に対する特定目的を持つ制度も考慮すべきであろう。④「保育サービスの需要と供給の分析」:保育に関する既存統計の収集、および『国民生活基礎調査』、『社会生活基本調査』、『消費生活に関するパネル調査』などの調査の個票と、平成13年度に行った母親達へのフォーカス・グループ・ディスカッションを利用し、保育サービスの需要側であるこどもをもつ女性がどのような保育ニーズに直面しており、それに対してどのような保育サービスが供給されているのかを実証分析した。その結果、高学歴で人的資本が高い母親達は、保育の質に敏感であり、高い保育料を負担する用意があることが明らかになった。また、保育料に上限がある現在の認可保育所制度のもとでは、高所得世帯の母親にも多大な便益が与えられており、保育政策を通じた再分配政策には限界があった。⑤「保育需要と保育料の関係の分析」:アンケート調査の結果から、保育サービス需要と保育料との関係を分析し、さらに、平成14年度に実施したアンケート調査の結果から、待機児童を解消するような「均衡保育料」を計算し、保育需要が生まれる背景として、育児期の女性の就業行動を分析した。その結果、首都
圏の0才児については、現状の入所定員の10倍におよぶ潜在的待機児童が存在することが示唆された。また、育児支援策のなかで女性の継続就業に有効な影響を与えているのは育児休業制度だけであることがわかった。
結論
本年度の研究事業は非常に広範なテーマを含んでいたにも関わらず、各研究課題間に相互補完的な関係があった。「子どものいる世帯」という研究対象について、経済学だけではなく、社会学、人口学あるいは行政学の視点からも分析することができた。そこから、日本社会が今後、「こどものいる世帯」に対し、どのような方面で、どの程度の援助を行うべきかについて有益な示唆を得ることができた。この研究は平成14年度で終わるが、本研究事業の分担研究者および研究協力者は、現在進行中の関連研究や今後新たに収集されたマイクロデータを用いた関連研究などへの発展を常に模索している。

公開日・更新日

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