サービス利用モデルを用いた給付実績分析による介護保険政策評価研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200031A
報告書区分
総括
研究課題名
サービス利用モデルを用いた給付実績分析による介護保険政策評価研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(帝京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 荒井由美子
  • 矢野栄二
  • 濱田千鶴
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険開始後2年余を経過した平成14年は第2期計画期間に向けての評価・政策立案の時期であった。そこで、本研究では、同一県内6町との連携のもと、管内の介護保険認定者全員に関する行政データおよび独自のアンケート調査をもとに学術的視点で実証研究分析行ない、その研究結果を町側と共有し、分析結果を根拠とする政策立案を試みることを目的とした。具体的な目的としては、これまでの諸外国での先行研究での重要性および介護保険運営上の要請も加味し、要介護度の推移、サービス利用に関連する要因、施設入所に関連する要因、介護負担に関連する要因とした。加えて、介護保険関連の行政データを学術的な分析が可能なデータとするまでのプロセスを開発し、今後の同様な研究の発展のために報告することも目的とした。
研究方法
介護保険開始からの継続した毎月の要介護度認定情報、介護保険レセプトをデータ化し、加えてサービス利用モデルに基づく訪問アンケート調査を実施した。アンケートの内容は、サービス利用モデルとして代表的であるAndersen's behavioral model of service use(Andersen and Newman 1972)に基づき、Predisposing factor(基本属性、世帯状況), Needs factor(要介護状態、疾病状況、介護負担、), Enabling factor(介護者の介護程度、所得レベル、自己負担額、等)の3側面を含んだものとした。次に、行政側の介護保険データの構造を明らかにし、アンケートデータとリンクし、分析用データセットを作成した。目的にあげた各分析項目別の分析方法としては、要介護度の推移では、介護保険開始時と1年後の要介護度の双方のデータがリンクできた者を分析対象とし、変遷を記述的に示した。初年度の要介護度、疾病、性・年齢別に分析し、介護度の変遷の違いを比較した。サービス利用に関連する要因では、全在宅サービス利用額を従属変数として、独立変数に要介護度、性年齢などの基本的属性、世帯構造などこれまでの文献からサービス利用の関連要因といわれているもの、および現在の介護保険独特の制度である自己負担額軽減の経過措置の有無を独立変数とし、経済学で用いられるTobit分析を用いて独立な関連要因を明らかにした。施設入所要因では、施設入所者および在宅サービス利用者について、施設入所の有無を従属変数とし、欧米の文献などで施設入所リスクといわれている性、年齢、世帯構成(独居かどうか)、要介護度、およびこれまでわが国では入手困難であった所得情報(介護保険における所得5段階)を独立変数として多重ロジステイック分析を行った。 介護負担については、今後の長期追跡調査を必要とすることから、これまでやや項目が多く、記入に困難があったZaritの介護負担尺度の簡易版の妥当性を検討することを初年度の目的とし、因子分析によって内的妥当性の検証を行った。
結果と考察
要介護度の変遷においては、年齢・性別・脳血管障害/痴呆の存在は、介護保険対象者の予後推定を区分する要素となりうることが示された。今後の介護保険の運営上、要介護度の変遷は基本的に重要なデータであり、こうした要因によりパターン化し、地域内の変遷を予測することで、ニーズに対応したサービス供給が可能になると考えられる。加えて、介護予防対策としても、どの段階でどのような介入をすることがのぞましいかを明らかにすることができる。さらに継続してこの変遷を分析していく必要があると考えられた。全体のサービス利用には、経過措置および独居が促進要因として他の要因を調整した上でも、最も大きいことが明らかになった。今後の経過措置がなくなった場合に、過剰利用が軽減されるのか、必要であったサービ
スが自己負担額の増加によって受けられなくなるのかを見極めていくことが大変重要である。来年度以降の課題である。施設入所では、先行研究で明らかな高齢、高介護度に加え、低所得者、独居がリスク要因であることがわかった。低所得者が施設入所しやすいということは、欧米の文献では明らかであったが、日本ではまだ実証研究はほとんどない。今後の介護保険運営上、施設入所の予防は重要課題であるが、在宅ケアに比して施設サービスの価格が相対的に安価であることも考えられ、施設入所の増加も懸念される。これも次年度からの継続データによる分析が必要である。行政側の介護保険データの構造は複雑で、分析データとして扱うには一定の作業プロセスを要することが明らかになったが、全国統一フォームであることから、今後各地域でこのデータを活用していくことは可能であり、意義深いことであると考えられる。
結論
今後の適切な介護保険サービスには、要介護度の変遷をパターン化して予測し、さらに、独居者および低所得者のニーズが充足できるよう現状分析および計画立案が重要であること、現状のサービス利用には経過措置による自己負担軽減策の影響が強く、今後この措置がなくなった場合の動向を見極める必要があることが明らかになった。また、施設入所が低所得層に多いことから、在宅維持にかかるコストが相対的に高いことも考えら得た。今後、よりニーズに即した介護保険制度であるために、本研究のような、行政の介護保険データを学術的に分析し、その結果をもとに政策立案をしていくことの重要性が示された。

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