社会福祉サービス利用契約の法的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200023A
報告書区分
総括
研究課題名
社会福祉サービス利用契約の法的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
岩村 正彦(東京大学大学院法学政治学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 倉田聡(北海道大学大学院法学研究科)
  • 丸山絵美子(専修大学法学部)
  • 嵩さやか(東北大学大学院法学研究科)
  • 中野妙子(東京大学大学院法学政治学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
4,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、社会福祉サービス利用のために、利用者と当該サービス提供事業者との間で締結されることになる社会福祉サービス利用契約をめぐる法的諸問題を、比較法的観点も取り入れ、法政策的観点および法解釈論的観点の両面から検討し、今後の法解釈、制度運営および法制度設計の指針を得ることを目的とする。介護保険の実施までは契約による福祉サービスの提供は法的分析の視野の外にあった。しかし、介護保険法により高齢者介護サービスは契約方式化し、また障害者福祉サービスも支援費制度の導入により契約方式に移行する。介護保険法制や新しい社会福祉法制によって、契約によるサービスの利用については一定の法的枠組みが整備されたが、その理論的支柱となる基礎的な法理論の蓄積は必ずしも十分ではない。契約方式の下における利用者保護のあり方、既に発生し、また今後生じうる法的紛争の類型、紛争が生じた場合の紛争処理のあり方等については、検討すべき論点が多く、その解明を試みる。また、これらの問題の考察に有益と思われるものの、これまで必ずしも詳細が明らかではない主要国の法制度を調査・研究し、わが国の法制度との比較法的な考察を行うことによって、契約方式への移行によって発生する様々な法的問題に対処するための法制度設計・法政策の構築を試みる。
研究方法
主任研究者および分担研究者が、研究協力者の協力も得つつ、担当する領域について、本研究全体を通しての基礎作業として、関連する文献・資料の収集を実施した。ただ、福祉サービス利用に関する法制度やそれに関する法制度、およびその基礎となる各種の法制度(行為無能力者の保護の制度等)については、国内で入手できる文献・資料に限りがあり、海外調査の際に現地で入手・購入するといったことに努めた。実務の状況や行政の施策の動向の把握については、聞き取り調査の方法によることとし、これについては社会福祉法人の実務家、および社会福祉行政の担当者から聞き取り調査を行った。主要国の福祉サービス利用の法制度に関する研究については、上記の文献・資料の収集と検討のほか、海外での現地調査の方法によった。今年度は、スウェーデンおよびドイツについて、現地での聞き取り調査および文献・資料の収集作業を実施した。以上の聞き取り調査当の結果については、主任研究者・分担研究者・研究協力者の参加した研究会において、調査に赴いた分担研究者が報告をし、それぞれの法制度の特徴、わが国の法制度との比較等について討論を行った。  
結果と考察
今年度行った比較法的な検討からは、社会福祉サービス利用契約の法的検討にあたっては、大きくいって、2つの視角からの考察が求められているとさしあたりいえそうである。すなわち、第1は、福祉サービス利用契約の法理の階層的な構造である。福祉サービス利用契約の法理論を考える上では、まず、基礎として、民法の契約法、そして、とくにその中でも約款理論に着目した検討が必要である。ついで、その上位の階層として、消費者保護法制があり、消費者保護法制・政策の中で、福祉サービス利用契約をどのように位置づけるかを考えなければならない。さらに、最上位階層に、福祉サービス利用契約独自の法的枠組み(とくに、利用者の保護の見地からの法の枠組み)があるのか、あるとすればどのような内容のものかを検討することが必要といえそうである。こうした3層の相互関係を念頭に置きながら、福祉サービス利用契約の法理論の考察を行うことが求められよう。第2は、こうした契約法理・
契約の法的枠組みと、無能力者保護制度、とりわけ成年後見制度との交錯を考える必要があるという点である。福祉サービス利用契約においては、一方当事者である利用者が、高齢者であったり、障害者であったりするため、契約締結、およびその履行過程の両面にわたって、親権制度や成年後見制度といった行為無能力者の保護の制度との連携を視野に入れた検討をすることが求められる。つぎに、わが国の介護保険および支援費制度についての検討から、契約による福祉サービス提供については、いくつかの論点が浮上してきた。たとえば、これまで行政主導の措置制度のもとで慣れ親しんできた福祉関係者(行政、社会福祉協議会、社会福祉法人等)の契約についての理解が必ずしも十分ではなく、一方では契約方式への不信、他方では契約への過度の依拠、といった状況が見られるという点である。また、介護保険や支援費制度のもとで福祉サービス利用契約にもとづくサービス提供が行われる法制度の枠組みになった状況で、市町村等の行政がいかなる役割を担うべきかについても、なお十分な検討とコンセンサスが得られていないということも指摘できる。これ以外にも、契約方式への移行に伴って浮き彫りになる論点としては、上述のもののほかに、福祉サービス利用契約の当事者となるのが、高齢者、しかも、しばしば痴呆等によって行為能力が低下・喪失している高齢者や、行為能力のない知的障害者であるということに由来するものもある。2003年4月からの支援費制度の施行によって、この側面での問題が緊要の課題となると思われる。
結論
比較法的な見地から指摘できるのは、とくにドイツの場合には、老人ホーム法・世話法と社会法典との関係が緊密に設計され、私法的規制と行政規制とがうまく連携した法制度の仕組みになっているという点である。スウェーデンの場合には、行政主導型のサービス提供ではあるが、行為無能力者の保護の制度との連携にみられるように、やはり私法上のルールと行政規制とがうまく提携関係にある法制度設計になっている。これらとの対比でいえば、わが国の場合には、私法上の規制と厚生労働省による行政規制・監督との連携が十分な形で法制度設計上組み入れられているか、がこれから検討すべき重要な論点である。

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