要支援・要介護高齢者の在宅生活の限界点と家族の役割(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200015A
報告書区分
総括
研究課題名
要支援・要介護高齢者の在宅生活の限界点と家族の役割(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
須田 木綿子(東洋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 園田恭一(東洋大学)
  • 高橋龍太郎(東京都老人総合研究所)
  • 西村昌記(ダイヤ高齢者社会研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
虚弱高齢者の在宅生活を終末まで維持するには介護保険サービスのみでは不充分であり、介護保険サービス以外の支援態勢を如何に整えるかは急務の課題である。しかし、インフォーマルケアにおいて多くを期待されて来た家族は、都市化や核家族化の影響で今後の果たし得る役割について予測し得ない要素を増大させている。同時に、伝統的家族の崩壊や介護負担などの否定的側面が強調され、生み出されつつあるはずの新しい介護関係や、一部に根強く存在する伝統的な日本的家族介護の実態が十分に把握されて来なかった。そこで本研究は、日米の研究者間の共同プロジェクトとして、介護保険の要介護認定を受けた在宅高齢者とその家族を対象に縦断研究を行い、高齢者の在宅生活の実態とその限界点、及びそれらの規定要因を明らかにする。本研究は、独自の項目によって新たな統計的知見を得るのみでなく、統計調査と質的調査を有機的に組み合わせることで、在宅高齢者とその家族の実態を立体的に把握する。さらに、調査方法上の問題から知見に混乱が生じている基本的項目(介護年数や公的サービス利用が介護負担に与える影響等)についても、同一の対象を縦断的に追跡することで検討可能な設計になっており、そのための第一回目の調査として、本研究は重要な位置付けにある。なお、共同研究者の高橋を通じて別途研究費が得られたので秋田県でも同様の調査を行って比較することにより、本研究対象者である都市部の在宅高齢者の特徴はさらに明確化される。なお、今回の助成対象はその第1回目調査についてで、調査期間は2年であり、本報告書はその初年度に関するものである。
研究方法
東京都葛飾区で要介護認定を受けた在宅高齢者からランダムに抽出された750名(申請時よりも250名増加)とその家族を対象に、訪問面接法によるアンケート調査を実施した。統計調査の内容は、高齢者や介護者の身体的精神的健康状態、公的サービスの利用状況と満足度、介護負担、経済状態などの先行研究が把握してきた基礎的項目の他に、栄養不良リスク、介護体験の肯定的側面を把握するための項目、およびアメリカ側メンバーの異文化的視点に基づく研究蓄積をふまえ、日本的介護関係を把握するための独自の項目を開発して使用した。質的調査については、アメリカ側メンバーが3月上旬に来日したおりにサンサンプリング方法と調査内容、分析を共同で進めるための最低限の枠組みの設定を行った。質的調査は平成15年度に実施される。
結果と考察
統計調査の集計と分析は平成15年度に持ち越され、現段階は単純集計を基本とする暫定的な結果報告にとどまる。質的調査は実施されていないため、報告し得る結果は得られていない。 介護者を対象とする調査では、主介護者の属性は配偶者がもっとも多く(29.1%)、つづいて同居の娘(18.2%)、別居の娘(11.8%)、同居の息子(10.0%)であった。三世代同居において嫁が高齢者を介護するという伝統的パターンは以上のデータからははうかがわれない。しかし意識については、「高齢者に経済的な援助をするのは、家族として当然だ」という回答が75.0%、「家族は高齢者とともに過ごす時間をもつべきだ」が78.7%、「高齢者のお世話を家族がすることで、若い世代へのお手本を示すことができる」が86.3%、「高齢者のお世話をすることは恩返しにつながる」が64.8%を占めていた。同時に、「身内ではどうしても手がまわらない場合に限って公的サービスを利用する」と「身内でできることあっても公的サービスを積極的に利用する」のどちらの意見に近いかを訪ねたところ、前者が58.9%、後者がは42.1%であり、家
族というつながりを基盤に高齢者の介護をひきうけようとする意識が比較的強く保たれていると思われた。介護者の精神的健康については、「憂鬱だった」ことが「時々」もしくは「よくあった」という回答が58.2%、「普段なら何でもないことをするのがおっくうだった」が64.9%、「よく眠れなかった」が51.4%を占め、精神的ストレスの存在がうかがわれた。しかし同時に、介護を通じて「病気や障害のある人に対して、理解や思いやりをもてるようになったと思う」が71.5%、「介護を始めてから、要介護者と気持ちがより通じ会うようになったと思う」が57.9%、介護をすることによって「自分もなくてはならない存在だと思うようになった」が64.3%を占めた。以上から、介護体験においては、ストレスの増大等の否定的側面と同時に、介護者の成長や人間関係の深まり等の肯定的側面も存在することがうかがわれる。次年度は、Lawtonによる二因子構造モデルを用いて、この点についてさらに検討をすすめる。高齢者を対象とする調査では、ADL10項目中、「もっと手助けがほしい」という回答が30%以上を占めたものが5項目、IADLでは「外出」「買い物」「部屋の掃除」について「もっと手助けがほしい」という回答が比較的多く得られた。本研究で新たに開発した栄養状態評価スケールでは、「最近、病気のために食べる物の種類や量が変わった」という回答が60%、「日に3種類以上の薬を飲んでいる」が67.3%、「体の具合が悪いために、食事のしたくや食事そのものができないことがある」が44.0%を占め、栄養不良リスクをもった高齢者が比較的多く存在することがうかがわれたが、その詳細については次年度におけるデータ分析に譲られる。
結論
東京都における統計的研究に関する限り、三世代同居において嫁が介護するという伝統的パターンはマイノリテイであり、配偶者と娘が介護者として重要な役割を果たしている様子がうかがわれた。主介護者が高齢者と同居していない場合も比較的多く見受けられたが、しかし意識においては、家族というつながりを基盤に高齢者の介護をひきうけようとする姿勢が保たれている様子が推察された。高齢者については、ADLやIADL等の基本的な日常生活動作について「もっと手助けがほしい」と回答するものが比較的多く、このような回答が得られた背景要因を詳細に分析することが次年度の課題のひとつとして指摘される。同様に、栄養不良リスクを持つ高齢者の存在が示唆され、次年度における詳細な分析結果が待たれるところである。

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