福祉契約関係の意義と課題に関する法社会学的研究

文献情報

文献番号
200200006A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉契約関係の意義と課題に関する法社会学的研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
秋元 美世(東洋大学社会学部)
研究分担者(所属機関)
  • 須田木綿子(東洋大学社会学部)
  • 尾里育士(浜松短期大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
2,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
財やサービスの取得に関する当事者関係を規律する手法として、「契約」は、説明するまでもなくきわめて大きな意味を有している。このことは福祉サービスの利用に関しても、措置制度との関係で自己決定や選択権の問題がクローズアップされてきた経緯を見れば明らかなように、基本的には妥当することである。しかし本来的に自己責任と自己利益の追求を基軸とする契約関係を、社会福祉の分野にそのままストレートに適用することが適切ではないということも忘れられるべきではない。実際、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度のように、福祉の特性を踏まえた仕組みが、今回の改革(介護保険制度や支援費支給制度の導入)の過程の中で用意された。この研究は、こうした福祉サービスの利用にかかわる契約(福祉契約)の意義と課題を明らかにすることを目的とするものである。
研究方法
本研究では、福祉の特性を踏まえた契約のあり方を理論的に整理するとともに調査のための仮説を設定し、さらに調査結果を理論的検討にフィードバックさせることを考えている。理論的検討としては、福祉契約の特色を析出することを目的に、法的ツールとしての契約が福祉の援助関係においてどのような意味を持ちうるかについて、国内外の関連文献のレビューを行う作業を中心に進めてきた。具体的には、アメリカ法の「信認(fiduciary)関係」に関する議論と、日本の地域福祉権利擁護事業における福祉契約の問題を理論的な検討課題として設定した。
調査としては、福祉領域における契約概念の導入が、現場の援助関係にどのような影響を与えているかを実証的に検討することを目的に、初年度は、研究枠組みの設定に必要な聞き取りやプリテストを実施した。具体的には、おおきく2つに分けて作業を進めた。1つは、社会福祉協議会における地域福祉権利擁護事業の聞き取り調査を中心とした作業であり、いま1つの作業は、措置から契約関係への移行に伴う援助関係の変化について、在宅介護支援センターやボランティア組織などに対して行った聞き取り調査などである。
結果と考察
調査に関しては、初年度の作業であるということから本年度については予備的な作業が中心となり、具体的な結論を提示しうる段階にはいたっていない。理論的な検討については、文献レビューなどを通して、調査を中心とした今後の作業の一応の分析枠組みになるような知見を見いだすことができた。すなわち、法的概念としての契約というものを社会福祉の分野においてどのような文脈で考えたらよいのかというのが、本研究における主要な理論的検討課題の1つであるが、この点については、アメリカ法の「信認(fiduciary)関係」の議論が参考になるであろうということで、信認関係の問題を中心に検討を加えてきた。契約関係では自己責任と自己利益の追求が核心とされるのに対し、信認関係では自己責任原則とは切り離され、むしろ信頼し依存する関係を積極的に評価する。そしてこのような人間関係が、分業と専門化を特色とする現代社会では不可欠であるという認識から出発する。こうした信認関係のコンテクストは、人と人との情緒的な関係を大切にしながら相手の気持ちやニーズをどのようにくみ取り、それにどのように応えていくかということが重要な要素となる福祉関係に適合的な視点を提供するものであった。
結論
福祉と契約に関するこれまでの議論では、契約が前提とする「対等な当事者関係」をいかに福祉サービスの利用関係という場面で確保するかということとの関係で、基本的には論じられてきたように思われる。こうしたいわば消費者保護的な観点をベースとした問題設定が、福祉サービスの利用に関しても有効であることは確かである。しかし、問題はこのような枠組みからははずれる部分が社会福祉には存在するという点である。つまり福祉の分野では、いかに消費者保護的な手だてを講じても、結局、対等当事者性の獲得ということがフィクションでしかないような場合もあるからである。契約という仕組みが前提としている利用者像と、現実の福祉サービスの利用者との間に存在するこうしたある種のギャップを意識しておくことは、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度を具体的に運営するうえでも重要である。ただし、契約化したことの意義(法律関係・権利関係の明確化など)を活かすようにしながら、なおかつ福祉的な援助によってこうしたギャップを埋めるのは決してたやすいことではない。この点は、本研究での理論的検討によってあらためて確認できた点である。

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