中毒医療における教育のあり方と情報の自動収集・自動提供、公開ネットワークの構築に関する研究

文献情報

文献番号
200101231A
報告書区分
総括
研究課題名
中毒医療における教育のあり方と情報の自動収集・自動提供、公開ネットワークの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 敏治(財団法人日本中毒情報センター常務理事)
研究分担者(所属機関)
  • 遠藤 容子(財団法人日本中毒情報センター施設次長)
  • 真殿かおり(財団法人日本中毒情報センター係長)
  • 波多野弥生(財団法人日本中毒情報センター係長)
  • 池内 尚司(大阪府立病院救急診療科医長)
  • 堀  寧(新潟市民病院薬剤部)
  • 黒木由美子(財団法人日本中毒情報センター施設長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中毒医療における教育の方法には、卒前講義、卒後教育セミナー、講演などがあるが、インターネットを介した広報・啓発も現代社会における大きな手段である。本研究の目的は、中毒医療に関する教育について、実現可能な方法を検討し、その教育マニュアルを策定することである。
研究方法
初年度は米国やヨーロッパ諸国で中毒コントロールセンターを中心に行われているトキシコロジストや情報スペシャリストの教育、薬毒物分析者の教育、中毒予防の市民教育を調査し、以下の6課題の検討を行った。
1.中毒事故の発生状況等の分析と市民教育
2.カテゴリー別クリニカルパスの作成
3.中毒症例のデータベース化
4.吸入毒診断補助システムの開発
5.薬毒物分析の教育と精度管理
6.中毒情報センターのホームページのあり方
結果と考察
1.中毒事故の発生状況等の分析と市民教育:諸外国の一般市民向け啓発情報の共通した内容は、代表的な中毒物質、暴露経路、存在場所、現場対応法、事故防止法である。注目すべきはその教育対象で、内容が理解できるように保育者、小児、10代の若者やベビーシッター等に細分していることである。発生予防ツールとしては、施錠道具、誤飲チェッカー、小児用安全容器等の小児の誤飲事故を対象とした製品と、薬整理箱等の高齢者による医薬品の取り違えや飲み忘れを防止するための製品が一般的であった。具体例を盛り込んだQ&Aの様式、塗り絵やゲーム形式など、対象に応じて絞り込んだ内容のチラシ等が作成されているが、わが国でこれらの活動を行うには、医学会や業界団体等の協力が必須である。
2.カテゴリー別クリニカルパスの作成:作成対象として、医薬品はアセトアミノフェン、抗うつ薬、精神神経用薬、ベンゾジアゼピン系、農薬は有機リン剤、カーバメート系、グリホサート・グルホシネート、パラコート・ジクワット、工業用品はエチレングリコール、シアン化合物、フッ化水素、メチルアルコール、家庭用品は漂白剤、防虫剤、タバコ、自然毒はマムシ、ふぐが選定された。基本フォーマットは病期別に、主な中毒症状(診断)、必要な検査、分析法、治療内容を構成要素とした。この基本フォーマットを検討するために、アセトアミノフェン中毒のクリニカルパスを作成した。中毒情報センターに記録のあるアセトアミノフェン中毒、117症例の経過を検討すると、来院までの時間は8時間以内が88例(75.2%)で、胃洗浄施行例は79例(67.5%)、活性炭投与例は39例(33.3%)で、血中濃度の測定例は52例(44.4%)、解毒剤であるムコフィリンの投与例は52例(44.4%)、血液浄化法施行例は21例(17.9%)であった。なお、致命的な肝壊死が発生するとされるRumack-Matthew のNomogram上、血中濃度の測定値が治療ライン以上であった症例は5例であった。今後、クリニカルパスを発信するようになれば、これらの実施状況がどのように変化するかは極めて興味のあるところである。
3.中毒症例のデータベース化:既存の症例提示に関するデータベースについて、データの収集・評価方法、検索方法、検索項目、表示項目等の調査を行った。データのQuality Controlに注意が払われているのは極く一部であった。また検索方法はフリーキーワード検索と項目別検索の併用、表示方法は検索結果一覧と症例詳細の2ステップ表示方式がよいと考えられた。データソースとして日本中毒情報センターの追跡症例を用い、起因物質別に専門家集団の評価を受ける症例データベースはこれまでにないデータベースとなる。
4.吸入毒診断補助システムの開発:今年度はわが国における吸入による化学災害事例より、主たる起因物質17種類を選定し、物質ごとに臨床症状や異常臨床検査結果に0~9点の重みづけを行った。化学物質が特定されなければ毒性情報を提供することができず、危機管理上問題が生じる。経口毒と化学兵器に関する診断補助システム、さらに事件の発生状況から起因物質を推定する診断補助システムは、われわれのグループによって既に完成している。次年度に開発を予定している経皮毒の診断補助システムが完成すれば、迅速な毒物分析が困難な現況では有力な武器となる。
5.薬毒物分析の教育と精度管理:機器配備後早期から分析業務が稼動している新潟市民病院における分析導入期の業務実態を調査した。実際の分析業務や機器整備、試薬管理以外に、分析方法の検討と専門家からの技術的・学問的指導に多くの時間が費やされており、基本となる15品目の薬毒物分析法と精度管理を確立するのに3年間にわたり月平均300時間が費やされていた。本研究は実際に臨床現場で分析を行えるように精度管理と教育のあり方を提言することを目的としているが、分析が普及するためには健保への収載や、機器更新、標準品の確保など、国レベルでの財源のサポートが必要である。
6.中毒情報センターのホームページのあり方:一般公開している日本中毒情報センターのホームページには年間10万件近いアクセスがあるが、その内容は一般市民向けの情報が中心であり、医療従事者向けの詳細な情報は不足している。市民啓発のツールとしてのみならず、医療従事者用の教育ツールとしてのホームページのあり方を検討するため、新たに開設した賛助会員用ホームページの収載項目別にその有用性や今後の開発項目の要望に関する調査を行った。各項目ともかなりの評価が得られた。しかし、今回のアンケートの回収率は32.9%(581人/1,764人)と低く、6ヶ月間のホームページへのアクセス者は160人(アンケート回収者の27.5%、全対象の9.1%)であった。インターネットは今後急速に普及するものと思われるが、医療従事者の教育ツールとしてはまだ良く認識されているとは言い難い。
結論
1.諸外国の一般市民向けの情報内容を分析し、中毒事故の発生を予防するツールとして何があるかを調査した。共通した内容は、代表的な中毒物質、暴露経路、存在場所、現場対応、事故防止法であるが、注目すべきはその教育対象で、保育者、小児、10代の若者やベビーシッター等に細分され、内容も絞り込まれていることである。
2.中毒情報センターが保有する膨大な中毒情報データベースを中毒医療の教育と標準化に活かせるよう、クリニカルパスを作成することが最終目標である。初年度は中毒起因物質の選定、アセトアミノフェン中毒をサンプルとして基本フォーマットの検討を行った。
3.諸外国の症例提示に関するデータベースについて、データの収集・評価方法、検索方法、検索項目、表示項目等の調査を行った。データのQuality Controlに注意が払われているのは極く一部であった。検索方法はフリーキーワード検索と項目別検索の併用、表示の方法は検索結果一覧と症例詳細の2ステップ表示方式がよいと考えられた。
4.わが国における吸入による化学災害事例より、主たる起因物質17種類を選定し、物質ごとに臨床症状や異常臨床検査結果に0~9点の重みづけを行った。現在、この点数をもとに、臨床症状から起因物質を推定する吸入毒診断補助システムを開発中である。
5.機器配備後早期から分析業務が稼動している新潟市民病院における分析導入期の業務実態を調査した。実際の分析業務や機器整備、試薬管理以外に、分析方法の検討と専門家からの技術的・学問的指導に多くの時間が費やされており、基本となる15品目の薬毒物分析法と精度管理を確立するのに3年間にわたり1ケ月平均300時間が費やされていた。
6.賛助会員を対象に、新たに開設した医療従事者用のホームページについて、収載項目別にその有用性や今後の開発項目の要望に関する調査を行った。利用率はまだそれほど高くはなく、9.1%~27.5%と推測されたが、各項目ともかなりの高評価が得られた。
初年度の研究の多くは調査に終始したが、いずれの研究も医療現場や教育に使用できるマニュアルを作成し、メーリングリストや中毒情報センターのホームページを通じて、公開する事が最終目標である。なお、報告は次年度に行うが、以上の他、医学部、薬学部、獣医学部を擁する全大学、救急救命士養成課程を対象に、臨床中毒学の教育に関するアンケートを準備しており、既に調査内容や対象の選定を終えている。

公開日・更新日

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