医療分野における個人情報保護対策に関する研究

文献情報

文献番号
200101225A
報告書区分
総括
研究課題名
医療分野における個人情報保護対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
開原 成允((財)医療情報システム開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大江和彦(東京大学医学部附属病院)
  • 公文敦((財)医療情報システム開発センター)
  • 櫻井正人(国民健康保険中央会)
  • 椎名正樹(健康保険組合連合会)
  • 樋口範雄(東京大学法学部)
  • 峯村芳樹(社会保険診療報酬支払基金)
  • 矢野亮治(保険医療福祉情報システム工業会)
  • 山本隆一(大阪医科大学病院医療情報部)
  • 劉 亜斌((財)医療情報システム開発センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療分野の情報化は、情報・通信技術の進化や用語やコードの標準化等の基盤が整備されるにしたがい、大きく進展している分野である。
これにともない、患者の医療情報は、地域医療における情報の共有化によって医療の質の向上を図ったり、診療報酬の請求のオンライン化や診療録等の外部保存等により医療機関の運営や保険業務の効率化を図ったりする等、多方面に利益がある。
また、医療分野の個人情報は、がん登録等の疾病登録事業や疫学研究等における診療情報の二次利用をはじめとして、医学の進歩に欠かせない。
一方、医療分野における個人情報は、患者の家族歴や既往歴、診療報酬の請求明細等、極めて機密性の高い情報を含むため、適切に保護することが不可欠である。
従来より、医療従事者には刑法にて業務上知りえた人の秘密を正当な理由なしに漏らしてはならないという守秘義務があったが、今後は、これに加え、個人情報の保護に関する法律の制定に伴う国内での個人情報の取扱い、及びEU指令等に基づき、海外とのやり取りにおける個人情報の取扱いに関し、広く情報の保護に対する対応が求められることとなる。
本研究では、医療機関等の臨床現場や診療報酬請求の過程において、発生する個人情報を適切に保護し取り扱うため、同分野における海外の考え方を研究するとともに、我が国における現状を調査し、現場が理解しやすく使いやすい個人情報保護に関するガイドラインを作成することを目的とする。
研究方法
(1)米国HIPAA法等海外の状況を調査、研究
法学者、医学者、業界団体関係者等の視点からHIPAA法本体の検討を行うとともに、HIPAA法草案者ら米国研究者との協議及び情報交換を行い、米国HIPAA法等海外の個人情報保護対策の動向について調査・研究した。
(2)臨床現場における医療関係者の個人情報保護に対する意識や取扱いの実態調査
無作為抽出した全国の約4000の医療機関にアンケート調査を実施し、我が国の臨床現場における個人情報の取扱いの現状について調査・研究した。 アンケートにおいては、医療機関において所有する個人情報の種類や期間、保存の方法、これらにかかる運用規程、情報の入手経路や利用目的、情報の漏洩防止や安全性確保のための対策、職員教育や各種業務の委託先との契約内容、第3者への情報の開示の状況、これら個人情報の取扱いに関する患者や家族への説明と了解、事故の情報の取扱いに関する患者の権利、などについて調査した。これに対して、約500の医療機関から回答を得、結果を集計・分析した。
(3)我が国の医療の現場における個人情報保護の取扱いに関するガイドライン作成
(1)(2)の成果を整理し、臨床現場における個人情報保護ガイドラインを作成した。
作成にあたっては、①個人情報保護法の適用される対象にかかわらず、国立・私立を問わずにすべての医療機関において有用なガイドラインとなること、②保健・福祉・医学研究・教育等のうち、医療の実施される場面におけるガイドラインとなること、③死亡患者の情報に対する考え方の整理も含む等、より実際の医療現場でニーズの高いガイドラインとすること とした。
結果と考察
(1)米国HIPAA法等海外の状況を調査、研究
HIPAA法制定の背景、米国固有の事情、本法において取り扱う個人情報の範囲(生存者や死亡者)、及び個人識別を除いた個人情報の取扱いや考え方、ガイドラインの適用される対象事業者などについて明らかにした。
その結果、米国において、従来州内のみに限られていた医療保険の適用を州を越えて適用するために、診療に関する情報を電子化、標準化し、相互利用できるようにすることが必要であったこと、これに伴い個人情報の保護に関するルール作りが必要という背景のもと、HIPAA法が制定されたことがわかった。
HIPAA法では、生存者のみではなく死者の個人情報の取扱いについても制定している。  
また法の対象は、医療機関、医療保険提供者、保険請求代行業者のみであり、研究機関が研究目的に取り扱う診療情報は対象とはならない。
またHIPAA法においては、診療情報の利用目的を、①患者の診療、料金の支払、医療機関の運営管理に利用されうもの、②研究への利用や公衆衛生上の理由から医療機関外へ情報を提供する場合の2通りに分けている。さらに、これら情報を利用する条件として、①患者の同意が必要なもの、②患者の承認が必要なもの、③患者に、その利用を拒否しうることを事前に知らせておけば、患者の同意や承認なしに利用できるもの、④患者の同意も承認も、また事前に拒否できることを知らせることも必要としないもの の4種類に分け、適用を整理している。
最後に、別に作成されつつあるHIPAAにおけるセキュリティについては、インターネット上での診療情報の交換を可能にするものとして、暗号化を必要としている一方、認証や第3者による監査については特段の取決めをしていない。
(2)臨床現場における医療関係者の個人情報保護に対する意識や取扱いの実態調査
アンケート調査の結果、医療機関において所有する個人情報の種類や保存の期間・方法、これらにかかる運用規程、情報の入手経路や利用目的、情報の漏洩防止や安全性確保のための対策、職員教育や各種業務の委託先との契約内容、第3者への情報の開示の状況、これら個人情報の取扱いに関する患者や家族への説明と了解、自己の情報の取扱いに関する患者の権利などを明らかにした。
この結果、医療機関において保管している個人情報としては、診療録やその写し、検査の記録等があり、全体の6割以上の医療機関において保存している診療録の延べ数が5千を越えていた。また全体の8割が、診療録を何らかの形で、法令で定められた保存期間を越えて保存していた。
これら診療録の利用目的に関する運用規程は、公的医療機関の約半数が設置していたが、非公的医療機関において設置しているのは1割に満たなかった。
患者の医療情報の入手経路として、患者のみではなく、家族や親戚、普段患者の世話をしている人や他の医療機関等からの情報を参考に、診療録に記載する医療機関が8割以上であった。
また、患者の医療情報の利用目的としては、患者の診療や説明、他の医療機関への照会や患者の紹介、診療報酬の請求事務など、患者個人への利益に終結するもの以外に、警察への対応や医療監視や医療指導監査への対応、医療従事者の臨床研修、臨床研究のためのデータ収集に利用するとした医療機関が4-5割あった。
患者の医療情報を学術研究のために利用する際に、患者または家族の同意を書面や口頭で穫っているのは全体の3割弱であり、7割以上が、特段の同意や了解をとっていなかった。
患者や家族への診療録の開示に関して、文書で規定している医療機関は、公的医療機関では7割であったが、非公的医療機関では1割のみであった。
また、これまでに、診療録の記載内容について、患者から訂正・追加・削除の要請があった医療機関は全体の1割に満たず、うち半数は求めに応じたが、半数以下は求めに応じなかった。修正に応じたのは、住所や年齢、問診結果の訂正等がほとんどであり、病名や検査結果など、医療機関において診断した結果にかかる事項を訂正した事例はなかった。
(3)我が国の医療の現場における個人情報保護の取扱いに関するガイドライン作成
(1)(2)の成果を元に、我が国の医療の現場における個人情報保護の取扱いに関する問題点を整理するとともに、個人情報保護の現場における個人情報保護の基準を作成した。
ガイドラインは、①診療情報の利用に関する原則、②第3者への情報提供の考え方、③情報取得の方法、④正確性や安全性の確保、⑤情報の開示と訂正の考え方、⑥その他個人情報の対象や用語の定義、役割分担等について説明する構成とした。
現在国会で継続審議中の個人情報保護法が制定された後、法の施行とともに、主務大臣が各分野ごとにガイドラインを制定する等が求められているが、厚生労働省等関係機関が医療分野におけるガイドラインを制定するにあたって、基礎資料として活用されることを期待するものである。
また、医療の情報化の推進にあたっては、これら個人情報の保護に関する考え方や取扱いが不可欠であることから、かりに個人情報保護法の制定が何らかの事情で遅れた場合にでも、医療現場が自主的に個人情報の保護を行うにあたり活用することを期待するものである。
結論
本研究は、現状の個人情報保護上の問題点について実態把握し、実情に即した標準を提示することにより、我が国の医療分野の適切な個人情報保護を行い、もって医療分野の情報化の推進に貢献することを期待するものである。

公開日・更新日

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