インターネットを活用した医療施設情報の提供と利用の促進及び安全な医療情報流通促進のための個人情報の取扱に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101191A
報告書区分
総括
研究課題名
インターネットを活用した医療施設情報の提供と利用の促進及び安全な医療情報流通促進のための個人情報の取扱に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
辰巳 治之(札幌医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 花井荘太郎(国立循環器病センター)
  • 三谷博明(日本インターネット医療協議会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、インターネット利用における信頼性確保という観点から、実際にインターネット上で医療や健康に関する情報やサービスを利用している患者・家族を対象にアンケート調査を行い、日常の利用状況やその意識を調査分析する研究を行った。
研究方法
日常的にインターネットを使用し、医療や健康に関する情報を利用している患者及びその家族を調査対象に設定した。日本エル・シー・エー社の協力を得て、高血圧、糖尿病、喘息、アトピー性皮膚炎、胃がん・乳がん・大腸がんの疾患を有する患者及びその家族に依頼し、Webサイト上で所定の質問に回答してもらった。対象者はいずれも、同社のWebサイト(「わたしの病院」)の利用者で、この種のオンライン調査に同意があり、かつ今回の調査の条件に該当する人たちの中から任意で選定した。個人情報の扱いに注意し、個人宛のアンケートの依頼は、対象者の名簿を有する同社に委託し、本研究班は、個人情報を除く回答データ並びに集計データのみ扱うようにした。 アンケートの協力を依頼した人数は2,000名であった。内訳は男性1,000名、女性1,000名、また患者と家族の割合も同数とした。疾患別では、高血圧618名、糖尿病407名、喘息595名、アトピー性皮膚炎595名、胃がん・乳がん・大腸がん219名であった。 質問の内容は、インターネット上で提供される病気や薬などの医療(健康)情報の利用状況に関するもの、掲示板・オンライン会議室や医療相談の利用状況に関するもの、それらの信頼性に関するもの、個人情報の保護や、プライバシーポリシー、Webサイトの運用ガイドラインなどに関するものであった。
結果と考察
最初にアンケート回答者のプロフィールについてであるが、今回の調査対象者はすでに何らかの健康上の問題をかかえており、インターネット上で医療(健康)に関する情報やサービスを利用した経験のある、または現在利用最中の人たちであった。 従って、今回の調査で得られた分析データからは、医療(健康)に関する情報を得るために、これからインターネットを利用しようとしている人たち、もしくは今後、病気になった時に利用するかも知れない人たちは調査対象からはずれていることを了解しておく必要がある。 利用情報の信頼性については、「かなり信頼できる」と「まあまあ信頼できる」を合わせて9割を超えていた。いっぽう、「あまり信頼できない」と「ほとんど信頼できない」を合わせた数字は7.5%であった。これらの数字から、全般的に「信頼できる」とする割合が高かったように見えるが、「まあまあ信頼できる」という回答には、信頼性を強く否定する理由がないかわり、積極的に信頼できているわけでもないあいまいな立場も含まれていることが考慮される。「かなり信頼できる」とする回答者が9.5%に過ぎないことに留意しておきたい。 情報内容の信頼性のひとつの基準として、情報提供者の立場による信頼性については、「実在する医療機関が提供する情報である」、「公的な機関が提供する情報である」、「医師または医師団体が提供する情報である」の順で、信頼性が高いことが示されたが、さらに「患者(団体)が提供する情報である」がこの後に続いた。 また、情報の信頼性を損ねる要因については、「誰が情報提供者かよくわからない」「情報が一方的で偏っている」、「情報提供に営利的な要素がからんでいる」、「情報の作成日が古い」、「裏付けとなる文献・資料など、情報の出所が不明である」、「営利企業が提供している」、「情報に科学性、客観性が
ない」、「専門家の監修を経ていない」、「情報の作成日が不明である」などがあげられた。 これらはいずれも、一般的に情報の確実性、信頼性を裏付ける重要な指標であると考えられることから、こうした情報の信頼性を損ねる要因を個別に取り除いていくことにより、インターネット上で医療(健康)情報を提供していく際の信頼性の向上につなげられるものと期待される。 インターネットの普及でプラーバシー性の高い個人の医療情報が、流通・利用されるようになっていくことに関し、個人の医療(健康)情報がどう扱われていくかについて関心の程度を尋ねたところ、「非常に関心がある」35.1%、「まあまあ関心がある」54.5%と、合わせて89.6%と非常に高い数字となっていた。具体的には、「どのような目的に利用されているかについて」、「第三者に利用されていないかについて」、「誰が情報やデータを扱っているかについて」、「何の情報が収集されているかについて」に高い関心が示された。 また、医療機関や企業が、個人の医療(健康)情報を取り扱う場合、その取り扱い方針を策定するいわゆるプライバシーポリシーについて、その必要性を尋ねたところ、「プライバシーポリシーは不可欠である」または「できればあったほうがいい」の両方を合わせて96.8%に達した。うち、「プライバシーポリシーは不可欠である」としたのが8割を超え、利用者のプライバシー保護に対する関心が非常に高いことが示された。 さらに、このプライバシーポリシーの運用法については、「プライバシーポリシーを法的に義務づけるべきである」が40.8%、「法的な規制もしくは強制力のあるガイドラインが必要である」が 26.7%、「プライバシーポリシーの策定だけでなく、これを監査・評価する第三者機関の設置が必要である」が26.2%、これらを合わせて93.7%に達していた。「プライバシーポリシーの自主的な運用で充分である」は6.3%だけであった。 インターネット上で提供される情報やサービスの質を確保するため、個人情報の扱いを含めて、Webサイトの運営主体者が、自律的な行動基準として定めていく倫理規範やガイドラインの必要性を問う質問に対し、「ぜひ必要だと思う」が6割を超え、「やや必要だと思う」を合わせると、97%に達していた。プライバシーポリシーと同様、きわめて高い割合で、質の確保を目的とした倫理規範を導入することを望んでいることがうかがえた。倫理規範やガイドラインは必要としないとする少数の人たちも、その理由は「自主基準の運用のチェックが難しい」、「自主基準では実効性がない」、「法的な規制があれば充分である」などで、「事業者の自主性に任せればよい」とするのは 3 分の1に満たず、自主基準では不充分だと考えていた。
結論
現在、医療機関や企業、患者(団体)などが提供する情報やサービスについては、概して「信頼できる」としながらも、積極的に信頼できるとする人は少なく、一部には「信頼できない」と考える人もいることがわかった。その理由は、「情報の中身の確かさがわからない」「情報量が少ない」、「情報の質が低い」などであった。そして、情報の信頼性を損ねる要因としては、「誰が情報提供者かよくわからない」、「情報が一方的で偏っている」、「情報提供に営利的な要素がからんでいる」、「情報の作成日が古い」、「裏付けとなる文献・資料など、情報の出所が不明である」などがあげられた。 また、インターネットを利用して医療相談サービスを体験した人は3割近くのぼり、手軽に利用できる医療相談が普及していることがわかった。ただ、体験者の多くは「自分の健康データなど個人情報が守られているかわからない」、「得られたアドバイスが正しいものかどうかわからない」、「相手が本当に実在する医師かどうか確認できない」などの不安を抱いていた。 さらに、インターネット上でのプライバシー性の高い個人情報の取り扱いに関し、9割近くの人が関心を抱いていることがわかった。また、8割の人がWebサイトの運営者が個人の医療(健康)情報を取り扱う場合には、その取り扱い方法を定めるプライバシーポリシーが不可欠であると
し、インターネット上で提供される情報やサービスの質を確保するための倫理規範やガイドラインについても、6割以上の人が「ぜひ必要である」と考えていた。 これらの結果から、今後、医療・保健分野において、医療機関、企業などの事業者や個人が、インターネットなどの技術媒体を利用して、患者や家族、一般向けに、医療や健康に関する情報やサービスを提供していく際には、個人情報の保護に留意しつつ、情報やサービスの質を確保していくために、自主的に運用可能なプライバシーポリシーや倫理規範、ガイドラインなどが検討されていく必要があることが示された。

公開日・更新日

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