小中学校における喫煙防止教育の標準化とその評価 (総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101048A
報告書区分
総括
研究課題名
小中学校における喫煙防止教育の標準化とその評価 (総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
簑輪 眞澄(国立公衆衛生院疫学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木明(聖学院大学人文学部児童学科健康管理学)
  • 薗はじめ(神戸アドベンティスト病院・一般内科・禁煙外来・内科医師)
  • 仲野暢子(禁煙教育をすすめる会・喫煙予防教育代表)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
未成年者喫煙禁止法施行から100年余を経たが、青少年を取り巻く環境は、宣伝広告、自動販売機などによる喫煙奨励の度合いを強めている。一方青少年のロールモデルとしての日本の成人社会は、たばこに関する健康情報が行政、業界、メディアの力学関係によって、一般の人々に届きにくく、また依存性の所為で喫煙者に受け入れにくい状況が続いている。したがって日本社会の喫煙に対する許容度は、諸外国に比して大きいといえよう。未成年者の喫煙に対する親を含めた社会全般の態度も、無関心、無力感により消極的に流れ、未成年者の喫煙開始年齢は低下し、また未成年者の喫煙が日常化・公然化が広がっている。
文部省は1986年以降、小・中・高等学校と順次「喫煙・飲酒・薬物乱用防止に関する指導の手引き」を作成し1)、1993年の学習指導要領改訂において、健康教育の一環として「喫煙・飲酒・薬物」をとり入れた。しかしカリキュラムの中に時間的な余裕がなく、また保健担当の教師ですら、これらの専門教育を受けてきていないため、指導者の育成が不十分であり、適切な教材も情報の普及も不足している。
喫煙予防教育はいうまでもなく健康教育の一環であるが、健康教育はその児童・生徒の生きる意欲と気力に大きく関係している。学校の現状は年に一度外部の講師を招いて講演を聴き、その後のフォローが難しい学校も多い一方、喫煙と同時に荒れた学校生活を、教職員と保護者・生徒が協力して立て直す学校も少なくない。健康教育は日常生活に直結した部分が大きく、また精神的な支柱をも必要としている。その意味では、学校の教室で教師と生徒、生徒同士の相互作用を生かし、日常的に喫煙予防教育に利用できるものを求める需要は大きい。
教員が現在行われている公的な現職教育に参加できる機会はごく限られており、民間団体による自主的な研修会の中には、20年来続いているものもあるが2)、やはり参加できる人数は全体から見ると僅かである。平成11・12年頃から「健康日本21」地方計画の実施が始まり、衛生局・保健所などが教育委員会・学校と連携して防煙教育のサポートに入っている例も所々に見られる3)。この方面に専門知識を持っている医師・薬剤師が活躍している例も、徐々に生まれている。しかし標準化された教材がほとんどなく、あっても、内容と要求される時間数の多さに、活用できないでいる現状である。
わわわれはここに最低1時限の授業の中に、ミニマムな知識と考え方を入れ込み、事前、事後の課題または延長授業によって、さらに展開がのぞめる教材を試作することとした。実地に使用し、調査することによって評価と改良を重ねる形の教材作成を中心にした研究である。教師と自発的に興味を持って調べたいという生徒のための資料を添付し、今後もインターネットを使って補給できる形をとりたい。教材の形態はCD-ROMに決定した。理由は方法の項で述べる。
研究方法
日本における喫煙防止教育の流れを概観し、喫煙対策や健康教育に関して系統的な研究が行なわれている、オーストラリア、米国およびカナダを訪問し、研究者に面接するとともに関連資料の収集を行ない、日本における喫煙防止教材作成方針決定の参考にした。
また、1994年米国公衆衛生総監報告「若者におけるたばこ使用の予防」4)の翻訳を行ない、教材作成の参考とした。
その結果、CD-ROMを使うことによって得られる、双方向の授業の可能性を追求することとした。この分野でのCD教材は、未開発であり、実験的な意味を持つと思われる。その理由は次の通りである。
*画面の流れを手元で操作するので、授業の計画に従って時間配分の管理が容易にでき、生徒が画面を音読するなど、自己の課題と受け止めて考え、教師や他の生徒と交流する時間を確保できる。
* 静止画と時差で現れる画面、動画などを組み合わせることで、意識の流れに添って画面を動かし、理解を深めることができる。 
* 必要な事柄をプリントアウトして配布することができる。
* 教師の当該授業の狙いによって、自主的な編集、改訂の可能性が生まれる(Power pointを使うことによって、デジタルカメラによる画像や、公共放送の録画などの取り入れも可能)。
* 生徒が後に自分で復習することもできる。
結果と考察
日本の喫煙防止教育の現状においては、各種の通知、通達、刊行物等を収集し、日本における喫煙防止教育の流れを概観した。これまでの防煙教育をみると、実施としては中学校より高等学校・大学で実施されていることが多くみられた。内容も中学校では、たばこの害や他人に対して迷惑をかけるという認識、高等学校ではすでに喫煙者が多いので、早い時期からの防煙教育の必要性、大学では喫煙の害に対する知識の再確認を実施していることが多かった。それに対して、最近のNICEⅡはただ単にたばこの有害性など、知識の獲得だけではなく、ロールプレイや地域・社会との連携などもふまえ、喫煙行動に至る社会的、個人的要因に気づかせるとともに、意思の決定や自己主張などのライフスキルを形成することにより、学習で得た喫煙に対する知識から「喫煙しない」という行動に結びつけるようにプログラム化してある。さらに川畑、西岡らはNICEⅡより、青少年の危険行動を防止する観点からライフスキル教育の必要性を唱え、ライフスキルの育成により能力を高め、より高いセルフエスティームの育成を目標としている。
喫煙問題に対して積極的かつ系統的な取り組みが行なわれているオーストラリアでは、喫煙問題や健康教育の専門家に面接すると同時に、各種の資料や教材を入手した。オーストラリアのように国としてタバコをなくしてゆくという態度を明らかにし、大人の喫煙対策に取り組みながら、同時に子供たちにアプローチできるように働きかけることの重要性を再認識した。しかし、一方で、日本のような喫煙対策の遅れた国では、子供たちの教育を徹底して、子供たちに、無邪気で愛情にあふれた禁煙導入のメッセンジャーとして、まわりの大人に働きかけてももらう効果を期待することもひとつの方法かもしれない。そのために海外の教材研究、および、英語の使えない日本独自の教材つくりと標準化、およびその評価の研究は、今後もたいへん重要であると考える。
USAでは若者の危険行為調査システム(YRBSS)による調査結果が利用されて、国・州・自治体の健康危険行為対策方針やプログラムの改善を行っている。カナダでも詳しい調査と分析結果を利用して若い女性の好みや関心にマッチした禁煙プログラムが提示されている。また、カナダはメディアリテラシー教育の盛んな国であるが、アメリカやオーストラリアにおいても、メディアや宣伝を批判的に見る目を養い、またタバコ会社の販売政策の欺瞞性を強く訴えている。
喫煙防止教育用CD-ROM教材「タバコとあなた」(中学生用)(計76図)が作成された。動画も取りこまれており、説明は「先生メモ」をクリックすると現れるようになっている。
たばこ対策に限らず、健康教育においては、子どもたちの心身の育成が肝要である。
たばこに縋って自分の立場を変えようとした子どもの心の中には、認められたい気持ちや自分を大切にできない気持ちなど、さまざまなものが含まれており、多方面の専門家の関わりが必要になる。日本では、限られた枠の中で別々の動きをしていることを強く感じる。 
内外のプログラムをレビューしていてわかったことは、私たちが長年試行錯誤して作ったプログラムにも共通する、いくつかのタイプに分かれることだった。これらは,①恐怖型,②理性型説明型,③情緒型,④自愛型および⑤曝露型に分けられる。
この他にピアグループによるNo Smokingのすすめも、各国で大活躍をしているが、日本の場合どんな形が風土になじむか、研究の余地があろう。われわれが作成しつつある「タバコとあなた」は、これらさまざまなタイプの特徴を取り入れたが、情緒型と自愛型に重点が置かれている。
結論
日本における喫煙防止教育の流れを概観し、喫煙対策や健康教育に関して系統的な研究が行なわれているオーストラリア、米国およびカナダを訪問し、研究者に面接するとともに関連資料の収集を行ない、日本における喫煙防止教材作成方針決定の参考にした。その結果、CD-ROMを使うことによって得られる、双方向の授業の可能性を追求することとした。この分野でのCD教材は、未開発であり、実験的な意味を持つと思われる。それらの検討に基き、喫煙防止教育用CD-ROM教材「タバコとあなた」(中学生用)(計76図)が作成された。動画も取りこまれており、説明は「先生メモ」をクリックすると現れるようになっている。今後はこの教材の有効性を評価すると同時に、小学生用の開発も必要である。

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