健康度の測定法及び計算式の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101042A
報告書区分
総括
研究課題名
健康度の測定法及び計算式の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
川村 則行(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤一郎(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
主任研究者は、The rise in medical care expenditures in Japan:1977-8l.Am J Public Health・1985 において、国民の2/3が罹患する、がんおよび循環器病の死に至る病が、日本の医療費の多くを消費することを示した。昨今では、これらを含む生活習慣病の予防法の開発が急務となった。本研究の最終的目的は、21世紀に望まれる Order-made preventive medicineの構築である。その第一段階として、いかなる個人からも、簡便に得ることの出来る必要最小限の情報によって、疾患の発症をどこまで予測できるか、何を変えれば、発症しないかという帰納的知見を、日本人集団で構築する必要がある。本研究では、健康度を、幾つかのサブカテリ一にわけ、サブカテゴリー毎の健康度を、理想的には、ある一時点の個人の情報から、一定の計算式およびアルゴリズムで数値化し、それらサブカテゴリー毎の数値に基づき、個別の個人用のOrder-made preventive  strategyを作成し、個人においては、QOLが高く、activeでvigorousな長寿命の達成を目指す。地域や国家のレベルにおいては、新しい予防医学ビジネスや雇用の創出、医療費の削減を目指す。
研究方法
本研究は、健康度数式アルゴリズムの作成、検証と改良および統合の4つの側面からなる。
作成は、付属資料の、研究の説明文書に解説したように、いくつかの集団に、アンケート調査と、個人の健康情報、免疫測定、遺伝子測定などを、横断的かつ前向きに試行する。
検証は以下のふたつの方法によって行う。①これまでに数式を開発するためにデータを収集したのと同じ集団の内の一部と、それとは地域も職種も異なる別の集団にて、cross validationをおこなう。②介入可能な独立要因に何らかの介入を行い、2時点目の予測値に変化を起こす。改良は以下の3つの方法により行う。①線形式か非線形式かどちらが適合するかのモデル計算を行う。②項目、未測定概念の追加変更。③遺伝子多型の情報を取り入れる。統合は以下のように行う。0utcomeとして疾患の発症とSurrogateの免疫系の関係をあらわす数式が、コホートの年数を追うごとに作成される。Exposure-Surrogate-Outcomeの流れやExposure-Outcomeの流れなどの幾つかのモデルを比較し最も個人の値を示す式を作成し、最終的には、それを、高免疫、中免疫、低免疫のように単純化して表現する。数学の専門家との勉強会や討議を重ねる。個別の研究方法および結果は、後述する。倫理面への配慮 インフォームドコンセントおよび倫理関係書類は、資料の項目参照のこと。 平成12年度に文部科学省・厚生労働省・経済産業省からヒトゲノム・遺伝子研究に関する倫理指針が作成され、それに準拠し、倫理委員会を経て、充分なインフォームドコンセントのもとに研究を遂行する。 本研究課題に関する倫理委員会書類は、平成13年10月25日に国立精神・神経センター国府台地区倫理委員会に提出し、平成14年1月7日に条件付き承認を得た。1月8日に訂正書類を再提出した。その後、協力企業からの研究協力の合意を得た。 最終的に、承認を受ける。
結果と考察
平成13年度は、新たな企業で研究協力の合意を得た。検証については、免疫の数式については、Cross Validationにて再現性を検討中である。介入研究は、リサーチレジデントによって、2時点調査を開始し、1時点の研究は終了した。改良については、これまで協力を受けてきた企業において、項目の文言の変更や未測定の概念の追加による独立変数の変更と、従属変数の増加を行った成果を得た。遺伝子多撃の情報を取り入れるべく、研究を準備している。これまでの線形式に、非線形要素を取り入れるべきかいなか検討すべく、鳥取環境大学の数学者らと検討を開始した。情報の精度を高めるために、健康度数式中重要な概念である攻撃性に関して、日本人の性向に合致させたovert aggression(攻撃性が外部に向かい顕在的であること)covet aggression(攻撃性が内部に向かい潜在的であること)を評価するOCAI(Overt-Covert Aggression Scale)を作成した。これは後述の研究協力者報告書1に詳細を掲載した。不眠がTh1/Th2バランスに影響を与えること。これは後述の研究協力者報告書2に詳細を掲載した。トラウマ経験の有無がExposureとして有効であること。これは後述の研究協力者報告書3に詳細を掲載した。海外派遣なども項目もExposureとして有効であること。これは後述の研究協力者報告書4に詳細を掲載した。ソーシャルサポートをサブカテゴリーに分け、ネットワークサポートが自覚的身体症状に、知覚されたサポートが不安や抑うつなどの心理的変数とNK細胞数に影響を与えていることに着目し、数式を改変した。これは後述の研究協力者報告書5および6に詳細を掲載した。ストレッサーと年齢がアポトーシスに影響を与えることから新たな数式を作成した。これは研究協力者報告書7に詳細を示した。Exposureに遺伝子多型の情報を含めることを目的に、倫理委員会にて承認を得て、ゲノム研究に協力する企業との合意の上に、連結可能匿名化し、個人情報識別管理者の業務について説明を行った。これは後述の資料に詳細を掲載した。Exposureの主要なものに介入を加え、数式を検討するために、ソーシャルサポートの介入研究を開始し、サポート環境と主観的に知覚されたサポートの間に相関がないため、介入ターゲットを知覚されたサポートに照準を絞った。これについては未だ進行中のため掲載しなかった。非線形モデルを数式・アルゴリズムに活用すべきか否かの検討を行うことを目的に、複数の数学者らと対話を開始した。これについては未だ進行中につき、掲載しなか
った。なお、数式の大半については、平成14年度の報告書にて開示する方針で、実用化に向けての社会的手続きを考案中である。
結論
健康度という概念は、公衆衛生学分野では、20年以上の長きにわたり・議論が続いている。また、医療心理学、心身医学の分野でも、Social readjustment Scale(Life Event)・Salutegeneis(健康増進)その他の幾多の概念を生んできた。近年、国内においても国外においモも、この概念をより一層具体化し、有用化する研究が進められているが、未だ、具体化した包括的なものは作成されていない。国内において、この課題の達成を困難にしている問題は、例えば、タイプA行動(欧米における攻撃性行動)と冠状動脈疾患の発症との関連や、autonomy(自律性)と疾患との関連が、欧米と日本では異なるなど、欧米と我々日本人との遺伝的・文化的な違いが存在していること、また、このようなinterdisciplinaryな課題は十分に意識されてこなかったからだろう。本研究では限れられた期間内に、より多くの改良を重ね、ゲノム情報も取り入れた形で、数式を作成するべきであろう。 本年度は、倫理委員会の返事が送れたこともあり、ゲノム研究は報告できない。実際には、190名の被験者で、3種類のゲノム解析を実施することを皮切りに、さらに10種類程度のゲノム解析を行う予定である。平成15度はこれらのパイロット解析の結果に基づき、nested-cohort、DNAアレイの手法などを用い、疾患発症などのOutcomeとの関連もみることができるように計画する。最終的にはゲノム研究の協力者は3000人を越えると考えているので、数式作成上有用な遺伝子についてはできるだけ大きな規模での解析を行う。

公開日・更新日

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