健康づくりセンターを活用した生活習慣病予防の地域連携ネットワークの形成(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101040A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりセンターを活用した生活習慣病予防の地域連携ネットワークの形成(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 尚平(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤井昌史(岡山県南部健康づくりセンター)
  • 吉田健男(岡山市保健所)
  • 高橋香代(岡山大学教育学部)
  • 田中茂人(岡山市医師会)
  • 菊永茂司(ノートルダム清心女子大学人間生活学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
10,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康日本21が掲げる目標を地域で実現するための、生活習慣全般の改善を目指す地域連携ネットワークづくりを目的とし、13年度は目的達成のための基礎調査とする。
研究方法
その1.ヘルスチェックシステムのあり方に関する基礎調査
1)岡山県南部健康づくりセンターに蓄積されている資料を解析して、肥満度(body mass index)と生活習慣病、糖尿病、高血圧症および高脂血症の有病率との関連を検討し、対象地域における重点課題の抽出を試みる。
2)研究対象地区に予定している、①岡山市と②矢掛町での保健に関する既存の資料をもとに、保健状況の現状把握と地域分析を行う。
3)健診事後指導に関する基礎調査として、岡山市医師会かかりつけ医の生活習慣指導の状況と関連施設との連携について調べ、事後指導の在り方についての基礎資料とする。
その2.岡山健康づくりアンケートの作成
本研究事業への参加が見込まれる人達を対象に、生活習慣に関する現状の把握、認識、行動に関する質問紙を作成して、運動、栄養・食生活、休養等の指導と普及にあたる上での重点課題の抽出を試みる。
その3.既存施設とマンパワーの現状に関する基礎調査
岡山県下の健康増進関連施設を対象に、平成10年度に作成した健康マップの改訂を目指した現状調査を行う。
その4.生活習慣改善プログラムの開発と適用
1)先行研究の結果を基に、運動、栄養、休養などの項目を盛り込んだ健康づくりガイドブックを作成する。
2)糖尿病患者の栄養指導を目的として最近開発されたウエルナビ(松下電工製)は、デジタルカメラ付きの携帯情報端末である。これを一般生活者の食事調査と食生活習慣改善の支援ツールとして応用できるかどうかの基礎的検討を行う。
3)Transtheoretical modelに基づいて身体活動・運動習慣改善のための心理的要因を分析し、本人の自発的な運動習慣獲得に関与する方策の在り方を検討する。
その5.生活習慣改善効果の評価方法の検討
生活習慣改善による健康感の変化を評価することを目的として、生理生化学検査値と体力測定値に加えて、健康関連QOLから見た評価方法を検討する。
結果と考察
その1.ヘルスチェックシステムのあり方に関する基礎調査
1)肥満度(BMI、body mass index)と生活習慣病、糖尿病、高血圧症および高脂血症の有病率との関連の検討
岡山県南部健康づくりセンター受診者8029人のデータを解析した結果、男性では「よくかんで食べるか」、「食事の時間」、「1回の食事量」、「間食・夜食の頻度」などが、女性では「外食の味の濃さ」、「外食の頻度」などの食習慣が肥満に関連する項目として抽出された。また、肥満度(BMI)の大きい群では、糖尿病、高血圧症および高脂血症の有病率のすべてに有意の増加が示された。この結果は、若い世代において生活習慣改善と肥満の是正を行うことで、これらの疾患の発症予防と改善に効果が期待できることを示している。
2)研究事業対象地区の現状把握
①岡山市に設置された保健センターごとに基本健康診査の結果を解析すると、血圧高値を示す割合と、糖尿病と肥満傾向のある人の割合に地域差が認められた。このことは地域特性に応じた生活習慣改善対策の必要性を示している。
②矢掛町においては、近隣の市町村、岡山県全体と比較して突出して問題となる疾病や異常は認められず、今後同町内で実施予定の試行結果を他の町村に対しても一般化しうるものと考えられた。
3)かかりつけ医の生活習慣指導の状況と関連施設との連携について
かかりつけ医の指導は、現状では運動指導より栄養指導の方に力点が置かれていることと、生活習慣が改善される人の割合は、栄養指導に比べて運動指導の方が同じか低いと判断していることが明らかとなった。他施設との連携では、病診連携は進んでいるが運動施設や保健所との連携は一般的ではないことが明らかとなった。以上の結果は、かかりつけ医に生活習慣改善指導を効果的に行ってもらうためには、健康づくりセンターなどの関連施設や保健所との連携を今まで以上に進めていくことが必要であることを示している。
その2.岡山健康づくりアンケートの作成
質問項目を、健康管理、身長・体重、食生活習慣、運動習慣、ストレス、たばこ、お酒、歯の健康、日常生活の大項目に分類した。それぞれの大項目について、さらに健康づくりの現状、認識、今後の健康づくり行動、に関する項目になるようにした質問紙を作成した。13年度はこの質問紙を岡山県南部健康づくりセンターと矢掛町民を対象に配布し回収した。詳細な分析は14年度に行う予定である。
その3.既存施設とマンパワーの現状に関する基礎調査
岡山県内に設置されている健康増進関連施設を対象に、設備と指導者の現状に関する質問紙を作成し調査を行った。この事業は岡山県健康対策課との共同で行い、13年度内に配布と回収は終了したが解析と結果の報告は14年度に予定している。
その4.生活習慣改善プログラムの開発と適用
1)健康づくりガイドブック作成
肥満解消運動マニュアル「かんたんスリム術」と名付けた冊子を作成した。マニュアルは「運動のすすめ」「運動の方法」「運動の継続」から成っている。今後は地域でこのマニュアルを活用し、生活習慣改善効果を検証して行く予定である。配布先は岡山市医師会会員、矢掛町民で健康管理センターにおける健康教室(やかげXプロジェクト)や町内の公民館での出前講座参加者を予定している。
2)食生活習慣改善ツールとしてウエルナビ基礎的検討
①妥当性と信頼性については、同一被験食に対する栄養素等摂取量の分析結果を秤量法と比較した。その結果、K、MgなどのミネラルとビタミンE、K、C、食物繊維の総量で差が認められた。またレチノールを除く全ての成分では秤量法との間に良い相関が認められた。すなわち野菜類と油脂類の判定については精度の向上が望まれるが、食事調査法としての妥当性と信頼性は高いことが示唆された。
②岡山県南部健康づくりセンターの運動実践教室参加者等40名を対象に、ウエルナビを用いて1日3食、週3回の食事調査を行い、実際の使用感を調査した。その結果、一部の対象者は画像の撮影、転送、受信という作業の特性になじめず、使用の継続に困難を感じたが、一度に多人数を対象とした食生活習慣の新しいアドバイス法として、有効な方法の1つである可能性が示唆された。
③矢掛町において肥満者10名と非肥満者9名を対象に、ウエルナビによる食事調査と運動志向についての予備調査を行った。その結果、肥満者と非肥満者の食事内容や栄養素摂取量には顕著な差はなかったが、運動志向の程度に差が認められた。このことは運動への指向性と肥満の関連を示唆するものであり、14年度も継続調査の予定である。
3)Transtheoretical modelに基づく身体活動・運動習慣改善のための方策
身体活動・運動習慣を、無関心期、関心期、準備期、行動期、維持期の5つのステージに分け、心理的尺度は自己効力感、知覚された利益、バリア、体力感として、これらのステージに対する影響をTranstheoretical modelに基づいて検討した。事業場定期検診受診者719名を対象とした調査結果から、男性では自己効力感、体力感、精神的利益のスコアがステージの上昇とともに高い得点を示した。女性では自己効力感のスコアが、ステージの上昇とともに高い得点を示した。また女性ではダイエット利益と時間的バリアの関与が示唆された。従って身体活動・運動習慣ステージごとの指導法の構築が必要と思われた。
その5.生活習慣改善効果の評価方法の検討
健康関連QOL:SF-36を用いて512名の生活習慣(8項目での得点)とQOLとの関連を調べた。健康習慣の平均得点は男女差があり、朝食の摂取の有無、喫煙習慣、飲酒など5項目で女性の平均値が高かった。睡眠等8つの生活習慣項目全体での得点(HPI得点)で3グループに分け、SF-36サブスケール8項目の平均得点の差を比較した。その結果、平均得点に有意差があり、かつ不良群<中庸<良好の順になったのは、男性では、身体機能、活力、心の健康であり、女性では、活力、日常役割機能(精神)、心の健康、であった。この結果は、生活習慣改善により精神的健康度が向上する可能性があることを示唆している。
結論
1.岡山地区においても肥満と生活習慣病の関連は明確であり、生活習慣改善を通じた肥満対策が発症予防に効果的と思われるので、運動と食生活習慣の改善が重点課題となる。
2.研究事業対象地区である矢掛町は近隣の市町村あるいは岡山県全体の保健水準と大きな差がないので、ここでの結果は他の市町村に対しての一般化が可能である。
3.食生活習慣改善ツールとしてのウエルナビは、使いにくさなど改良すべき点もあるが、有効な手法となる可能性がある。
4.生活習慣改善を支援する人材が不足している既存の施設では、健康づくりセンター等と連携して担当者の養成をはかる必要がある

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