政策策定拠点としての健康科学センターの機能に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101023A
報告書区分
総括
研究課題名
政策策定拠点としての健康科学センターの機能に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
河原 和夫(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 井形昭弘(あいち健康の森・健康科学総合センター)
  • 高野健人(東京医科歯科大学)
  • 大井田隆(国立公衆衛生院)
  • 石川宏靖(あいち健康の森・健康科学総合センター)
  • 松本一年(愛知県)
  • 久我正(あいち健康の森・健康科学総合センター)
  • 斎藤正晴(あいち健康の森・健康科学総合センター)
  • 大橋陽子(あいち健康の森・健康科学総合センター)
  • 津下一代(あいち健康の森・健康科学総合センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康科学センターは都道府県や政令指定都市に設置された施設であり、地域保健の基本構造からすれば市町村保健センターや保健所の上に位置する機能を有する地域保健の中核施設とされている。
本研究課題は、この健康科学センターを「政策策定拠点としての健康科学センター」と表現している。もちろん、政策は国や都道府県庁によって策定され、実施されるのが普通である。しかし、健康科学センターが本来付与されるべき理念的機能が与えられ、それを完全に遂行すればそれぞれの自治体における健康増進に関わる政策案を科学的根拠をもって都道府県庁に提示できるのである。
しかし実際は個々の住民が健康科学センターを利用し、来所者の健康状態を簡単な医学検査や日常生活についてさまざまな健康チェックを行うことにより健康状態を調べ、これらの結果は個人の健康増進に寄与できる形で本人に還元するのみで、これらの手法は規模の大小はあれ保健所、保健センター、民間の健康増進セクターが行ってきたことと何ら変わるところがない。技術的専門家を擁しているにもかかわらず、健康科学センターが健康政策の策定には関与していないのが実情である。また本来の設置主旨から逸脱し、財政赤字の中、経済性優先の利用者確保のみが目的とされ、多くの施設が利用促進を主軸に事業を展開してきている。その意義は否定しないが、経済性を一例に挙げても住民の健康上の問題点を特定し、効果的にその改善方策を講じていく方が効果は遥かに大きいものである。
単に公共事業のひとつとして施設が完成すると以後はその機能の充実について議論されることが全くないのがわが国の風土であり問題点でもある。健康科学センターも同様である。少子高齢社会に入り社会資本の効率的な利用を図ることや政策評価の材料を住民に周知するためにも、これら公共事業の成果や業務の方向性に関する説明責任があるにもかかわらず、十分に健康科学センターの政策策定機能に関する研究が行われてこなかった。
こうした問題を解明することが本研究の目的であるとともに、これにより地域の公衆衛生上の課題に対する医学的分析のみならず健康政策策定能力の向上が期待でき、行政サービスの質の向上や効率性アップが図られ、その成果は住民の福祉の向上という効果となって現れると考えられる。
地域保健の推進に当たっての都道府県、市町村の基本的な役割分担が明確にされるとともに、健康づくり関連施策を円滑に推進するための専門的かつ技術的中核施設としての機能を持つ「健康科学センター」の整備が平成7年より進められている。健康科学センターでは概ね、①先進的、独創的な健康づくりプログラム開発、②モデル的体験事業の実施、③各種研修の実施、④関係機関への技術的支援、⑤各種情報の収集及び提供、⑥調査・研究、⑦広報普及、⑧その他関係業務等を行うこととされている。
今年度実施した「全国健康科学センター運営実態調査」では、先ず健康科学センターの設置主体である自治体担当者の住民の健康や健康問題に対する認識、その解決方策として現在実施している健康づくり施策体系とその評価、さらに健康づくり推進の一翼を担う健康科学センターの運営、管理及び事業実績等についての調査を行い、今日の健康科学センターの実態を主として下記項目について評価分析し、課題や問題点を整理した。そして自治体におけるこれからの健康づくりを進める上での健康科学センターの本来的な役割・位置付け、特に、政策策定拠点としての役割の必要性等を明らかにした。
1.健康問題の認識とその同定プロセスの現状と対応について
2.健康づくり事業の評価の在り方と仕組み、予算
3.健康づくりの関係諸施設の機能評価と連携
4.健康科学センターの運営について
5.「健康日本21」の推進
また、愛知県が設置している健康科学センターである、「あいち健康プラザ」をフィールドにして、職員や来所者を対象にした意識調査や来所者の特性、あいち健康プラザが提供する健康増進メニューが利用者のライフスタイル改善にどのような影響を及ぼしているか、利用者の健康増進習慣の形成に、あいち健康プラザという施設がいかにして利用者支援することができたかといった、利用者に対する直接的なサービスの提供状況を把握するとともに、利用者の健康関連データが事業を通じてどのように収集され、解析されているかについて調査した。
一方、利用者の健康増進習慣を形成・向上させるために、あいち健康プラザと他の関係機関との機能連携・支援状況、同施設が立地している愛知県における健康増進政策の問題点や県民の健康度に影響を及ぼす社会経済因子を検証した。
次に、わが国全体での健康増進政策の推進の参考にもなる健康関連因子のひとつである「睡眠と健康習慣」の分析を行なった。
さらに、住民が健康に暮らすための基盤となる健康コミュニティを形成するために健康科学センターは使命を果たしていく必要があるが、これら健康政策形成に寄与するシステムを構築することを目的に、都市単位でコンパイルした健康指標、社会経済、都市インフラ、環境等に関する指標をデータベース化し、指標間の相互関連性を明らかにした。
上記の作業を通じて得た結果を分析し、現時点での健康科学センターの問題点を明らかにするとともに、自治体レベル及び国レベルでの健康増進政策の実態を把握することにより、政策策定拠点としての健康科学センターの機能充実の方策及び方向性を関係者に提示することが、本研究の目的である。
研究方法
1.全国14か所の健康科学センターに対する調査
健康科学センターを設置している自治体の担当者(健康科学センターに関する業務や健康増進業務等)に対して調査票(全国健康科学センター運営実態調査)を送付し、記入していただき回収して分析するとともに、各センターが公表している事業報告書を入手し、併せてそれらを分析した。また、これらの調査や収集資料の中で不明な回答や記述については、直接担当者に対する聞き取り調査を補足的に行った。
これらの作業を通じて、調査時点(平成14年3月1日現在)に全国14か所(栃木県、茨城県、埼玉県、東京都、富山県、静岡県、愛知県、大阪府、神戸市、岡山県、山口県、北九州市、福岡市、鹿児島県)に設置されていた健康科学センターに対する運営、管理及び事業実績等の結果を分析し、あいち健康プラザを含めて全国の同様施設の活動内容等の位置づけを行った。
(1)情報収集の方法
平成13年11月現在で健康科学センターは全国に14か所あり、設置主体別には都道府県によるものが11施設、政令指定都市が3施設の計14施設である。この14施設の設置主体の自治体を対象に後述の要領でアンケート調査(参考資料)を行うとともに事業報告書等の資料を入手し、分析を行った。なお、調査期間は平成13年11月15日~平成14年2月28日であった。
参考資料のように調査票はA、Bから構成されている。調査票Aは主として健康科学センターの運営のあり方や果たすべき機能等に関して自治体担当部局がどのように考えているかについて質問し、調査票Bは健康科学センターに関する人件費、建設費、運営費、敷地面積、職種別スタッフ数、利用者数等の実績となる数字を中心とした内容となっている。
(2)分析対象及び方法
調査票A及びBの各質問項目のうち、有効な回答が得られた質問項目のみを分析の対象とした。また、統計分析については、SPSS11.0 for Windows を用いて統計処理し、一元配置の分散分析及び多重比較、t検定、Kendallの順位相関係数及び一致係数に関する検定、χ2検定、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定等で解析した。なお、p <0.01 p <0.05 のときに有意差ありとした。
(3)質問票の回答者
健康科学センターの現状や果たすべき機能に関する「質問票A」は、各自治体本庁の健康科学センター及び健康づくり施策の担当者(担当課)が回答した。また、健康科学センターの運営経費や人員、利用者数などに関する「質問票B」は、各健康科学センターの担当者が回答した。さらに、補足するための訪問や電話による聞き取りも一部センターに対して行なった。
2.あいち健康プラザにおける調査(井形、石川、斎藤、大橋、津下班員)
あいち健康プラザにおける調査は、利用者の地域特性、施設の利用内容、利用者に対する施設運営や生活習慣ならびにセンター利用前後の健康度評価、あいち健康プラザにおける健康関連情報の収集・分析状況に関するものである。業務の遂行状況については職員に対する聞き取り調査を行い、日常業務についての職員の意識を明らかにした。加えて、利用者の健康増進習慣の形成・向上に関して関係機関との連携状況や施設支援の実態についても調査した。
3.地域における健康増進政策に関する調査(松本班員)
これまでの健康づくり事業のレビューとして、「あいち健康づくりプラン」、「健康日本21あいち計画」、その他各種資料の内容を分析し、都道府県での健康増進政策の問題点を明らかにした。
4.わが国の健康増進政策に関する調査(大井田班員)
平成8年に厚生省大臣官房統計情報部が実施した全国レベルの調査をもとに、全国300地域における15歳以上の住民38,710名に対して、睡眠を主とする健康関連因子の分析を行なった。
5.健康コミュニティ形成に影響を与える健康関連因子の調査 (高野班員)
健康コミュニティ形成における健康科学センターの機能と役割はどのようなものであるべきか、健康科学センターが所在する都市自治体における、人口動態統計に基づいた狭義の健康指標、都市のインフラストラクチャ、都市構造、都市居住環境条件、医療保健サービス、保健行動、生活習慣、所得、教育、職業に関わる健康諸指標と社会経済所指標を都市単位でコンパイルしてデータベース化し、経年的に健康水準と社会経済的環境諸条件との相互関連性を検討した。
6.住民の健康度と社会経済因子との関連についての調査(久我班員)
あいち健康の森健康科学総合センターを活用している市町村(延べ127市町村)、企業・団体(404団体)を対象として、活用したことによる団体及び個人の社会経済的側面からメリットを何処に感じているかについてアンケート調査を行い、健康度に影響する社会経済要因の分析をした。
(倫理面への配慮)
住民の健康指標や志向行動などについては、データは完全に匿名化され個人識別できないようになっているとともに、各班員が所属している倫理委員会の承認を得た上で実施しているので倫理面での配慮は十分に行われているものと考える。
結果と考察
研究結果=Ⅰ.調査票A関係
1.健康問題とその同定方法と対応
(1)健康課題について(問1)
各自治体の健康課題は、表1及び図1に示すように、「広義の生活習慣の改善に関するもの23件(37.7%)」と最も多く、続いて「生活習慣病に関するもの21件(34.4%)」となっていた。
(2)健康問題特定のための活用資料(問2、3)
健康課題の同定方法については、統計資料が最も活用されており、国から提供される資料、独自調査、市町村等からの資料の順になっている。中でも統計資料は、人口動態統計、国民栄養の現状、老人保健事業報告等の順に活用されていた(表2、3、図2、3)。
(3)各自治体が考える健康課題への対処状況(問4)
健康課題の解決に向けての自治体独自の事業の実施状況は、同定された61課題に対して既に対処している、或いは対処する予定との回答がされたのは53課題(86.9%)であった。
この53課題に対してどの機関が具体的に対処しているか、あるいは予定しているかについては、保健所26課題(49%)、自治体本庁24課題(45%)、健康科学センター11課題(20%)の順であった。
2.健康づくり事業の評価の在り方と仕組み、ならびに予算
(1)健康関連事業評価(問5、6)
健康づくり関連事業の評価は、執行に重点が置かれた評価が14自治体中7と半数を占め、評価主体は大半がセンターの設置主体である自治体であった(表4、5、図4、5)。
(2)事業評価の方法(問7)
健康づくり事業の評価に関する8項目(各々10点満点)に対する質問をおこなった結果については、(表6-1、6-2、図6)に示している。
各自治体が考えている健康づくり事業の評価指標各項目の点数について、一元配置分散分析及び多重比較をおこなった結果、「健康づくりは労働生産性で評価できる(問7-5)」という項目は、「健康づくり事業は医療費で評価する(問7-1)」と「健康づくりは事業ではなく教育的な運動に近い(問7-7)」と回答した施設との間には有意差(p>0.05)はなく、それ以外の「健康づくり事業は健康寿命の延長で評価できる(問7-2)」、「生活習慣の改善で評価できる(問7-3)」、「生活習慣病の罹患率や死亡率で評価できる(問7-4)」、「評価については、成果が出るまでの期間が長すぎる(問7-6)」、「健康づくりのための住民組織の自主的活動状況により評価できる(問7-8)」と有意差(p<0.05 p<0.01)が認められた。また、事業評価の考え方の類似性を検定するため、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、事業評価の考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)として「大阪府、富山県、栃木県」と「神戸市、鹿児島県、福岡県」の2グループを推定した。この2グループごとにKendallの一致係数を求め、類似性を検定した結果、「大阪府、富山県、栃木県」(p=0.01351<0.05)、「神戸市、鹿児島県、福岡県」(p=0.00692<0.01)でそれぞれ有意差が認められた。
このことは、これら2つのグループ内では事業評価に関して考え方に類似性があることを示している。
(3)健康科学センター運営費の対健康対策関連予算に占める割合(問8)
健康科学センターの運営に伴う予算額が、健康対策関連予算全体の中で占める割合を表7に示している。但し、各自治体とも健康対策関連予算額は平成13年度以前を含む直近の値を用いている。
3.健康づくりの関係諸施設の機能評価と連携
(1)関連諸施設の機能評価(問9)
住民の健康づくりや自治体の健康政策を実施するうえで、以下の施設が期待通りの機能を果たしているか否かについての質問である。
「ある程度以上の機能を果たしている」と回答したのは、健康科学センターに関しては14自治体のうち9(64%)、保健所は10(71%)、衛生研究所は6(42%)であった。なお、自治体担当者が抱いている、これら3施設の機能の充実の度合いの差をKruskal-Wallis及びMann-Whitneyで検定した結果、有意差(p>0.05)は認められなかった(表8、9、10、図7、8、9)。
(2)市町村が有する固有データの分析及び市町村への還元状況(問10)
また、市町村等の健康問題に関するデータを分析し当該市町村等へ還元している、あるいは還元する予定と答えた12自治体のうち、半数以上の7自治体が施設としては保健所が分析・情報提供機関と位置づけられており、続いて自治体本庁及び健康科学センターとなっていた(表11、12、13、図10、11、12)。
(3)市町村保健センターの機能及び位置付け(問11)
市町村保健センターの機能及びその位置づけ、ならびに健康科学センター、保健所、衛生研究所との連携について、一元配置の分散分析及び多重比較を行った。
一元配置の分散分析及び多重比較の結果では、「市町村保健センターが機能するのは、ある程度の人口を有する市のみである(問11-1)」は、「人口の少ない市町村は広域連合的な仕組みが必要(問11-2)」に対して(p<0.001)、「健康科学センターと市町村保健センターとは十分に連携している(問11-3)」に対して(p<0.05)、「保健所と市町村保健センターとは十分に連携している(問11-4)」に対して(p<0.001)有意差が認められた。また、「市町村保健センターと健康科学センターとの連携(問11-3)」、「市町村保健センターと保健所との連携(問11-4)」、「市町村保健センターと県衛生研究所との連携(問11-5)」の3者間で、「保健所との連携」が「健康科学センターとの連携」に対して(p<0.05)、「県衛生研究所との連携」に対して有意差が認められた(p<0.01)。
特に市町村保健センターに対する考え方の類似性を検定する為、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、市町村保健センターに対する考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)を「埼玉県、山口県、鹿児島県」と推定した。このグループのKendall一致係数を求め、類似性を検定した結果、「埼玉県、山口県、鹿児島県」(p=0.01961<0.05)で有意差が認められ、これら自治体の間では関係機関との連携の取り方に関して考え方が類似していることがわかった(以上、表14-1、14-2、図13)。
(4)関連諸施設間、大学、民間セクターとの連携(問12、13、14)
地域の健康問題の同定や市町村保健センターを支援するために、健康科学センター、保健所、衛生研究所の3機関の機能連携が行われているか否かについては、「十分に連携が行われている」との回答はなく、「ある程度行われている」というのが半数の7(50.0%)であった(表15、図14)。
さらに、公的機関以外の民間セクターとの連携に関しては、保健センターの場合と同様に「十分に連携が行われている」は皆無で、「ある程度行われている」が5(36.7%)であった(表16、図15)。
大学等の研究機関との連携状況は「ある程度行われている」が11(78.6%)であった(表17、図16)。
これら連携の度合いの差をKruskal-Wallis及びMann-Whitneyで検定した結果、関係機関等との連携の状況について自治体間の有意差(p>0.05)は認められなかった。
4.健康科学センターの運営について
(1)運営形態(問15)
健康科学センターの運営については、直営が2施設(埼玉県、北九州市)、外郭団体等への委託が12施設(栃木県、茨城県、東京都、富山県、静岡県、愛知県、大阪府、神戸市、岡山県、山口県、福岡市、鹿児島県)であった(表18、図17)。
(2)委託及び受託の問題(問16)
「委託金額は、まず県が実施したい事業を受託者側に伝え、見積もり金額の提示を受け、交渉決定し、予算化している(問16-1)」と「現在の事業内容だと将来は民間への委託も在り得ると思う(問16-5)」との回答の間には、有意差が認められた(p<0.05)。また、全体としては前述の問16-1の内容について、意見の集中が見られた。
受・委託の考え方の類似性を検定する為、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)の推定を試みたが、3施設以上では相互に似通ったグループはなく、「大阪府と福岡市」との2施設間に有意差(p=0.04550<0.05)が認められ、この2つの自治体担当者の間で受・委託についての考え方が似通っていることが判明した(表19-1、19-2、図18)。
(3)事業・サービスの重み付け(問17、18)
現時点では、「保健婦や健康づくり指導員等の地域保健従事者に対する指導者養成事業(問17-3)」、「先進的・独創的な健康的指導プログラムの開発(問17-8)」、「住民や会社員等に対する直接的な実践指導事業(問17-2)」に重点を置いているとの回答が多かった。また、「保健婦や健康づくり指導員等の地域保健従事者に対する指導者養成事業(問17-3)」と「地域や職域等に対してセンターの健康指導担当者を派遣する(問17-5)」という回答の間には、一元配置分散分析及び多重比較から有意差が認められた(p<0.05)。このことは、「間接的な効果がある担当者の資質の向上などの人づくりを重要とみなしているのか」、あるいは「センター自らが地域でも住民に対して直接サービスを提供していくのか」という姿勢の違いとなって現れている(表20-1、20-2、図19)。
今後、優先的に実施すべき事業やサービスについては、「健康政策策定に寄与するための健康関連データの収集、解析、還元サービス(問18-1)」、「保健婦や健康づくり指導員等の地域保健従事者に対する指導者養成事業(問18-3)」、「先進的・独創的な健康的指導プログラムの開発(問18-8)」という回答が多かった。「健康政策策定のための健康関連データの収集、解析、還元サービス(問18-1)」という回答と「地域や職域等に対してセンターの健康指導担当者を派遣する(問18-5)」及び「健康科学に関する展示、図書館等の充実による健康思想の啓蒙普及事業(問18-7)」との間に一元配置分散分析及び多重比較から有意差が認められた(p<0.05)。さらに、「保健婦や健康づくり指導員等の地域保健従事者に対する指導者養成事業(問18-3)」と「地域や職域等に対してセンターの健康指導員を派遣する(問18-5)」及び「健康科学に関する展示、図書館等の充実による健康思想の啓蒙普及事業(問18-7)」との間にも同様に有意差(p<0.05)が認められた(表21-1、21-2、図20)。つまり、戦略的業務を希求する回答と直接サービスを提供して行こうという回答との間に意見の相違が認められた。
これら事業の重点分野の差を、現状と担当者が考える今後の健康科学センターの事業の重点分野の違いに関して対応あるt検定を行なうと、「健康政策策定に寄与するための健康関連データの収集、解析、還元サービス(問17-1及び18-1)」に有意差(p<0.001)が認められた。
また、現在の事業・サービスの重点領域に関する考え方の類似性を検定するため、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)の推定を試みたが、3施設以上では相互に似通ったグループはなく、「北九州市と埼玉県」(p=0.00933<0.01)と「北九州市と愛知県」(p=0.03690<0.05)の2施設間で有意差が認められ、現在の事業・サービスの重点領域に対する考え方が似通っていることが判明した。
さらに、今後の事業・サービスについても同様に各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求めた結果、考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)を「栃木県、東京都、茨城県」と推定した。このグループのKendall一致係数を求め、類似性を検定した結果、「栃木県、東京都、茨城県」(p=0.00627<0.01)で有意差が認められ、このグループ内の今後の事業・サービスの重点領域に対する考え方が類似していることがわかった。
(4)顧客の優先順位(問19)
健康科学センターは誰を顧客として意識し、あるいは誰の意向を尊重してサービスや事業を提供していくかに関しては、「市町村(問19-4)」、「住民(19-8)」の重要度が高く、一元配置分散分析及び多重比較の結果は、「市町村(問19-4)」と「国(健康づくり等の所管課)(問19-1)」(p<0.01)との間、及び「住民(19-8)」と「国(健康づくり等の所管課)(問19-1)」との間で有意差(p<0.01)が認められた(表22-1、22-2、図21)。
いわば、これら顧客に対する重要度の考え方の類似性を検定するために、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)の推定を試みた結果、3施設以上では相互に似通ったグループを推定できなかった。なお、2施設間では「大阪府と東京都」(p=0.03196<0.05)、「静岡県と茨城県」(p=0.02873<0.05)、「埼玉県と鹿児島県」(p=0.03169<0.05)、「山口県と栃木県」(p=0.01152<0.05)、「山口県と北九州市」(p=0.02378<0.01)、「鹿児島県と福岡市」(p=0.029891<0.05)、「富山県と愛知県」(p=0.04014<0.01)、「岡山県と栃木県」(p=0.04550<0.05)、において有意差が認められ、上記2施設間において相互に考え方が似通っていることが判明した。
(5)健康科学センターの運営に関する考え方(問20)
「センター周辺を中心にサービスの提供は出来るが、遠方は行き届かない(問20-1)」ことや、「運営委託しているが、設置主体と一体化しているので事業、組織に柔軟性がない(問20-9)」について半数以上の施設で同様の回答状況であった。一元配置分散分析及び多重比較では、特に有意差(p>0.05)は認められなかった(表23-1、23-2、図22)。
運営の考え方の類似性を検定する為、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、運営の考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)を「大阪府、静岡県、埼玉県」と推定した。このグループのKendall一致係数を求め、類似性を検定した結果、「大阪府、静岡県、埼玉県」(p=0.08420>0.05)で有意差は認められず、このグループ内において運営についての考え方には類似性がないことが判明した。
5.「健康日本21」の推進
(1)健康問題の特定のための活用資料(問21、22)
計画策定のために活用する資料については、独自調査、国からの資料、統計資料、市町村及び保健センター等からの資料、住民からの声の順になっていた(表24、図23)。
統計資料は、人口動態統計、国民栄養の現状、老人保健事業報告、国民生活基礎調査等の順に活用されていた(表25、図24)。
(2)市町村計画策定について(問23)
市町村のデータの分析は「健康科学センターで実施(問20-3)」や「衛生研究所で実施(問20-5)」に比較して、「保健所で実施(問23-4)」とする回答が多かった。
一元配置の分散分析及び多重比較の結果では、これら3者間では「保健所で実施(問23-4)」と「衛生研究所で実施(問20-5)」との間で有意差(p<0.01)が認められた。
また、多くの自治体は「健康日本21」の市町村計画の策定に向けて、「技術的な支援を予定(問23-8)」、「施策体系の必要性(問23-11)」、「国の充分な責任体制が必要(問23-12)」とする回答が多かった。
一元配置の分散分析及び多重比較の結果では、「技術的な支援予定(問23-8)」は、「健康日本21を策定できる市町村は限られている(問23-1)」に対して(p<0.01)、「政令指定都市以外は広域で策定すべき(問23-2)」に対して(p<0.01)、「健康科学センターが市町村にデータを還元(問23-3)」に対して(p<0.01)、「衛生研究所が市町村にデータを還元(問23-5)」に対して(p<0.001)、「国や県が予算的に支援する必要がある(問23-7)」に対して(p<0.001)、「国や県が財政的に支援する必要がある(問23-9)」に対して(p<0.01)それぞれ有意差が認められた。
「施策体系の必要性(問23-11)」は、「健康日本21を策定できる市町村は限られている(問23-1)」に対して(p<0.05)、「政令指定都市以外は広域市町村等で策定すべき(問23-2)」に対して(p<0.05)、「健康科学センターが市町村にデータを還元(問23-3)」に対して(p<0.05)、「衛生研究所が市町村にデータを還元(問23-5)」に対して(p<0.001)、「国や県が予算的に支援する必要がある(問23-7)」に対して(p<0.001)、「国や県が財政的に支援する必要がある(問23-9)」に対して(p<0.05)有意差が認められた。
「国の充分な責任体制が必要(問23-12)」は、「健康日本21を策定できる市町村は限られている(問23-1)」に対して(p<0.05)、「政令指定都市以外は広域で策定すべき(問23-2)」に対して(p<0.05)、「衛生研究所が市町村にデータを還元(問23-5)」に対して(p<0.001)、「国や県が予算的に支援する必要がある(問23-7)」に対して(p<0.05)、「国や県が財政的に支援する必要がある(問23-9)」に対して(p<0.05)有意差が認められた。(以上、表26-1、26-2、図25-1、25-2、25-3)
「健康日本21」の市町村計画策定に関連する考え方の類似性を検定する為、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)を「大阪府、鹿児島県、栃木県」、「鹿児島県、富山県、岡山県」、「鹿児島県、岡山県、愛知県、東京都」、「鹿児島県、岡山県、栃木県」、「鹿児島県、栃木県、東京都」、「岡山県、愛知県、東京都、茨城県」、「岡山県、栃木県、福岡市」の7グループと推定した。これらグループのKendall一致係数を求め、類似性を検定した結果、「大阪府、鹿児島県、栃木県」(p=0.00658<0.01)、「鹿児島県、岡山県、愛知県、東京都」(p=0.00499<0.01)、「鹿児島県、栃木県、東京都」(p=0.00643<0.01)、「岡山県、愛知県、東京都、茨城県」(p=0.00658<0.01)で有意差が認められ、これら4つのグループ内において考え方が似通っていることが判明した。一方、「岡山県、栃木県、東京都」(p=0.07537>0.05)、「鹿児島県、富山県、岡山県」(p=0.09946>0.05)、「鹿児島県、岡山県、栃木県」(p=0.05429>0.05)において有意差は認められず、これら3つのグループ内では考え方に違いがあることが判明した。
(3)地方計画の推進のための連携(問24)
「健康日本21」の地方計画の遂行に当たり地域、学校、職域等の連携の在り方については、「従来の連絡会議に加えて特に新たな推進会議等を設置し連携を強める(問24-2)」という項目が高得点であった。また、健康日本21の策定上の連携形態については、「健康科学センターで既存の委員会等を活用して連携を進めるように指導する予定(問24-6)」よりも「保健所単位で新たな健康日本21に関する委員会を設置して連携を進めるよう指導する予定(問24-5)」という形態を考えている回答が高得点であった。
但し、一元配置の分散分析及び多重比較の結果では、「健康科学センターで既存の委員会等を活用して連携を進めるように指導する予定(問24-6)」と「保健所単位で新たな健康日本21に関する委員会を設置して連携を進めるよう指導する予定(問24-5)」との間で有意差は認められなかった(p>0.05)(表27-1、27-2、図26)。
「健康日本21」の地方計画遂行に当たっての地域、学校、職域等との連携の考え方の類似性を検定する為、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)を「静岡県、富山県、岡山県」、「神戸市、埼玉県、北九州市」の2グループと推定した。これらのグループのKendall一致係数を求め、類似性を検定した結果、「神戸市、埼玉県、北九州市」(p=0.04709<0.05)で有意差が認められ、このグループ内で考え方が似通っていることが判明した。一方、「静岡県、富山県、岡山県」(p=0.08658>0.05)では有意差は認められず、このグループ内においては考え方に違いがあることがわかった。
(4)地方計画の推進リーダー(問25)
「健康日本21」の地方計画を遂行するにあたり、その目標達成のために誰がリーダーとなるべきかという質問については、「住民(問25-1)」、「市町村(問25-2)」を考えているという意見が最も多かった。続いて、「関係者で構成される推進協議会等(問25-7)」、「健康科学センター(問25-4)」という順であった。
一元配置の分散分析及び多重比較の結果では、「住民(問25-1)」は、「都道府県(問25-3)」に対して(p<0.05)、「衛生研究所(問25-6)」に対して(p<0.001)、「大学等の研究機関(問25-8)」に対して(p<0.001)有意差が認められた。また同様に「市町村(問25-2)」は、「都道府県(問25-3)」に対して(p<0.01)、「衛生研究所(問25-6)」に対して(p<0.001)、「大学等の研究機関(問25-8)」に対して(p<0.001)有意差が認められた。(表28-1、28-2、図27-1、27-2)
「健康日本21」策定のリーダーに関する考え方の類似性を検定するため、各施設間の総当りでKendallの順位相関係数を求め、考え方が相互に似通ったグループ(3施設以上)を「大阪府、静岡県、茨城県」、「大阪府、北九州市、福岡市」、「静岡県、鹿児島県、富山県、茨城県」、「神戸市、北九州市、福岡市」の4グループと推定した。これらのグループのKendall一致係数を求め、類似性を検定した結果、「大阪府、静岡県、茨城県」(p=0.01261<0.05)、「大阪府、北九州市、福岡市」(p=0.00776<0.01)、「静岡県、鹿児島県、富山県、茨城県」(p=0.00549<0.01)、「神戸市、北九州市、福岡市」(p=0.554<0.01)のすべてのグループで有意差が認められ、これらグループ内において「健康日本21」策定のリーダーに関する考え方が類似していることが判明した。
(5)国に対する期待(問26)
「健康日本21」の地方計画の遂行に当たり、国等に期待するについては、大半が財政的な支援11(78.6%)であった(表29、図28)。
Ⅱ.調査票B関係
調査票Bは、各健康科学センターの設立に当たっての費用、現在の運営費などの予算的な側面と各種ごとの人員配置、さらに利用状況について調査したものである。
1. 運営に関する一般的事項
全国14か所の健康科学センターの運営状況等の詳細は、表30-1、30-2、30-3、30-4、30-5、30-6に一覧表としてまとめている。その中で、以下の主要項目について概説する。
(1)総建設費
平均120.5億円(最大486億円;東京都、最小12億円;茨城県)となっていた(表31、図29)。
(2)敷地面積
平均51,599.6㎡(最大218,000㎡;埼玉県、最小1,098㎡;大阪府)であった(表32、図30)。
(3)建築面積
平均5,017.6㎡(最大16,309㎡;愛知県、最小779㎡;大阪府)であった(表33、図31)。
(4)延べ床面積
平均10,304.6㎡(最大40,300㎡;愛知県、最小1,255㎡;北九州市)であった(表34、図32)。
(5)運営費
平成12年度は全国で12センターのみであった。これら平均は5.5億円(最大16.6億円;愛知県、最小1.2億円;北九州市)であった(表35、図33)。以下12センターとは大阪府と鹿児島県を除いた施設である。なお、過去3年間の運営費の年次推移を図34にしている。
(6)人件費
これも平成12年度時点では、12センターの稼動していた。これら平均は、2.0億円(最大5.4億円;愛知県、最小0.6億円;北九州市)であった(表36、図35)。
(7)施設管理費
同様に12センターの平均は、2.7億円(最大10.0億円;愛知県、最小0.3億円;北九州市)であった(表37、図36)。
(8)事業費
12センター平均は、0.8億円(最大1.7億円;東京都、最小0.3億円;北九州市)であった(表38、図37)。
(9)総利用者数
平成12年度の12センターの総利用者数平均は、91,410.8人(最大260,067人;愛知県、最小6,610人;北九州市)であった(表39、図38)。
(10)メディカルチェック等による健康度の評価及び測定サービスの利用者
健診や簡易人間ドックなどの自己の健康度評価及び測定サービスの利用者は、平成12年度12センターの平均は、4,414.8人(最大17,022人;愛知県、最小171人;山口県)となっていた(表40、図39)。
(11)指導者養成プログラム参加者数
地域で健康増進などを指導している保健婦、栄養士などの専門職種に対する高度な研修プログラムを提供している施設は、平成12年度10施設であった。10施設の内訳は、栃木県、茨城県、埼玉県、東京都、富山県、静岡県、愛知県、岡山県、山口県、福岡市である。これらの平均参加人数は、900.0人(最大3,148人;山口県、最小108人;岡山県)であった(表41、図40)。
(12)常設展示イベント参加者数
平成12年度、健康科学に関する常設の展示コーナーや健康科学に関連するイベントを開催した施設は7施設であった。これら7施設は、栃木県、茨城県、富山県、静岡県、愛知県、山口県、福岡市である。平均参加者数は、33,064.7人(最大62,775人;愛知県、最小3,604人;静岡県)であった(表42、図41)。
(13)教育普及活動参加者
住民等の一般の利用者に対する健康教育等の教育普及活動は、平成12年度、大阪府、北九州市、鹿児島県を除く11施設で行われていた。これらの平均参加者数は、15,432.3人(最大54,382人;愛知県、最小1,027人;神戸市)であった(表43、図42)。
(14)健康増進活動等を目的とした施設利用者数
上記(10)~(13)以外の健康増進活動等を目的とした平成12年度の施設利用者数は、8施設(栃木県、埼玉県、東京都、富山県、愛知県、神戸市、岡山県、北九州市)で、平均79,769.8人(最大165,866人;埼玉県、最小6,087人;北九州市)であった(表44、図43)。
(15)職員数
平成12年度の14施設の職員数は、平均30.4人(最大91.0人;愛知県、最小9.0人;北九州市)であった(表45、図44)。
(16)営業日数
平成12年度の大阪府及び鹿児島県を除く12施設の年間営業日数は、平均で310.3日(最大345日;山口県、最小286日;栃木県)であった(表46、図45)。
2. 各種経費比率及び利用者1人あたりの状況
運営費の内訳(施設管理費、人件費、事業費)は図46に示している。以下、それぞれの経費率等を施設別に述べる。
(1)運営費に対する人件費の割合
大阪府及び鹿児島県を除いた平成12年度の12施設の平均は、36.4%(最大64.0%;静岡県、最小18.3%;東京都)であった(表47、図47)。
(2)運営費に対する施設管理費の割合
大阪府及び鹿児島県を除いた平成12年度の12施設の平均は、34.6%(最大72.5%;東京都、最小20.9%;神戸市)であった(表48、図48)。
(3)運営費に対する事業費の割合
大阪府及び鹿児島県を除いた平成12年度の12施設の平均は、14.7%(最大34.9%;神戸市、最小7.2%;愛知県)であった(表49、図49)。
(4)運営費から見た利用者1人あたりのコスト(=運営費/年間利用者数)
大阪府及び鹿児島県を除いた平成12年度の12施設の利用者1人あたりに要したコストは、平均が10,854.1円(最大30,099円;静岡県、最小1,791円;埼玉県)であった(表50、図50)。
(5)利用者1人あたりの占有面積(=延べ床面積/(年間利用者数/営業日数))
大阪府及び鹿児島県を除いた平成12年度の12施設の利用者1人あたりの占有面積は、平均が57.1㎡(最大176.8㎡;静岡県、最小5.6㎡;埼玉県)であった(表51、図51)。
(6)職員1人あたりの利用者数(=(年間利用者数/営業日数)/職員数)
大阪府及び鹿児島県を除いた平成12年度の12施設の職員1人あたりの利用者数(1日あたり)は、平均が8.9人(最大24.4人;埼玉県、最小0.9人;静岡県)であった(表52、図52)。
Ⅲ.あいち健康プラザにおける調査
(1)利用者と職員自身の施設運営に対する意見(井形班員)
利用者の意見だが、平成13年度に来館者が自由に意見開陳の出来る投書箱から寄せられた意見を集約すると129件の殆どがサービスや施設に対する不満であり、それらはそれなりに改善されて来た。その中で健康づくりの推進そのものに向けられた意見ないし提言は約20件で極めて少なかったことは、利用者の関心が未だ健康づくりそのものに向けられる提案の段階になく、先ずは具体的なサービスの向上が当センターの利用促進や県民運動としての健康づくりの推進に最も大きな因子である現状にあることを示している。
あいち健康プラザの職員が会しての討議も行なった。愛知県の外郭団体であるために約40%近くを占める県からの出向者の多くは2ないし3年の期限を意識しており、仕事は完璧に遂行するが、将来へ向けての健康づくりの指導者育成には限度があることが明らかになった。
また、当センターの事業は全て県条例に制約を受けて居るために思い切った改革には限度があり、リスクを伴う改革や条例の改善までを要する斬新なアイディアについては必ずしも期待出来ない環境にあった。
一方、事業団職員特に技術系の職員はオープン後日時があまり経過していないこともあって、かなり意欲的であり、特に体育系の職員は他の一般職場では体育や健康づくりが傍系の仕事であるのに対し、職場の主流をなしており、当センターは理想の職場とのイメージとプライドを持っていることが明らかにされた。その意味で体育や健康づくりの専門家の間では羨望の的の職場になっている。しかし、今後定年まで同じ職場で同じ業務をこなす内にはやがて日常の業務に馴れ、日常の業務に埋没し向上への意欲が薄れる可能性があることも少なからざる職員自身が懸念し、将来に不安をもっているものも少なくなかった。このプライド、情熱を如何にして続け、発展させるかが当センターの大きな課題といえる。
(2)利用者支援と関係機関に対する支援(石川班員)
①保健所・市町村とのネットワークに関するアンケート調査の概要
名古屋市を除く県下の23の保健所と、87の市町村に対して、平成13年2月にプラザの利用に関するアンケートを行った。保健所の大部分(76.2%)は、プラザの健康づくり教室を活用していたが、施設外指導事業においては、講師派遣と体力測定をあわせて52.4%、健康づくりリーダーの活用は47.6%といずれもほぼ半数にとどまっており、特に尾張東部地区の活用率が低かった。
県下の市町村の約7割(68.8%)がプラザを利用しており、そのうちの6割が簡易健康度の評価を受けていたが、見学のみの市町村もあった。
指導者派遣に関しては、約7割以上(7.4%)の市町村が利用しておらず、そのうち約半数の市町村は、派遣していることも知らなかった。
プラザの健康づくり教室を活用した市町村は、23.4%にとどまっていたが、健康づくりリーダーの活用は、約8割(79.7%)と高率であった。
②医療機関とのネットワークに関するアンケート(調査の概要)
プラザ近隣の医師会(半田市、東海市及び知多郡医師会員)407名、歯科医師会(半田市、刈谷市、東海市、知多郡、豊明市の歯科医師会員)369名、計776名にアンケートを実施した。
調査は平成13年3月に実施され、回収率は医師会34.6%、歯科医師会43.4%でいずれもやや低率であったが、ネットワークの問題点に関する質問では、「プラザでの指導内容や対象がわからない」との回答が、医師62.4%、歯科医師63.3%で両者とも最も多かった。
次いで「プラザの機能がわからない」が、医師56.7%、歯科医師51.9%であった。「プラザと連携をとるとすれば、どのような連携を望みますか」の問いには、「患者さんに対する生活習慣などの指導教室への紹介」という答えが、医師63.4%、歯科医師62.0%でいずれも最も多かった。「連携をとるための方法としてどのような手段が可能と考えられますか」では、「文書(紹介状、意見書、回答書)」の答えが、医師68.3%、歯科医師73.3%といずれも最も多く、次いで「インターネット」が医師26.7%、歯科医師が40.8%で、前者と比べ後者の「インターネット」と答えた人が予想以上に多かった。
③健康増進施設とのネットワークに関するアンケート調査の概要
県下の主な健康増進施設264か所、及び県内の健康運動指導士432人にアンケートを行った。調査期間は平成13年1月から2月であり、回収率は前者で43.6%、後者で24.5%といずれもかなり低率であった。
「他の健康増進施設や医療関係とのネットワークの必要性は?」との質問に対し、運動指導士の答えが、「医療機関とのネットワーク」をあげ、66.7%とほぼ2/3を占めたのに対し、この質問に対する健康増進施設からの回答では、35.7%とほぼ1/3でその差は大きかった。これは増進施設の回答者の半数以上(56.5%)が、事務あるいは管理運営に携わる人であり、運動の実務に携わる人との差が現れたものと思われる。「具体的にどのような連携が必要?」に関しては、運動指導士が「指導者の交流や派遣」が72.5%と最も多く、次に「利用者のメディカルチェックや運動処方ができる施設との連携」が64.7%であった。
これに対し増進施設からの回答では、「インターネットによる情報交換」が52.2%と最多で、続いて「施設の代表者による情報交換会の開催」が45.7%と上位を占め、上記の質問と同様に大きく異なった回答が得られた。
(3)あいち健康プラザ利用者の施設利用内容と地域特性(大橋班員)
実利用者数及び人口1万に当たりの利用者数のいずれも、プラザから距離が離れるほど利用者数が少なくなる傾向があった。地域別にみるとプラザからの距離が10km以内の近距離地域では利用者数が多い傾向がみられるが、15、6kmを越えるとかなり利用者が少なくなるようであった。年次推移については、施設開所後3年間は利用者数が増加する傾向であったが、開所3年目をピークにやや減少する傾向がみられた。
利用サービス別、男女別の利用者数を示す。全利用サービスの男女別利用状況については、男性に比べ女性の利用が高い傾向がみられたが、年次推移については男女計の傾向と余り大きな違いはみられなかった。また、利用サービス別では、各サービス利用とも年次推移の傾向については全利用サービスの傾向とさほど大きな違いはみられなかった。
総利用者数及び人口1万人当たりの利用者数については、利用者の多い順に、開所当初は、施設利用>プール利用>健康度評価の利用の順であったが、最近はプール利用>施設利用>健康度評価の利用の順である。この傾向は男性と女性で異なり、男性は開所より現在に至るまで、施設利用>プール利用>健康度評価の利用の順であり、女性は、男女計利用者の傾向とほぼ同様であった。また、サービスごとの人口1万人当たりの利用者を男女比でみてみると、健康度評価の利用は概ね1:2、施設利用は概ね1:1、プール利用は概ね2:3であり、利用サービスによって男女間で違いがみられた。
利用サービス別、男女別の未利用市町村数を示す。未利用数の多い利用サービス順に、プール利用>施設利用>健康度評価の利用であった。各利用サービスとも未利用市町村数については開所2年目よりほとんど変化がなかったが、ここ1~2年やや増える気配もみられ、この傾向は男女ともほぼ同様であった。最も未利用市町村数が多いプール利用では、県内88市町村の約1/3が未利用であり、施設利用ではその数が半分となり、最も利用が多い健康度評価の利用では、概ね県内の90%以上の市町村から利用があることがわかった。
健康プラザからの距離が近いほど利用者数が多い傾向は他の利用サービスと同じであるが、その傾向は他の利用サービスに比べると顕著ではなかった。性別では、女性の利用が男性に比べ約2倍弱であり、年齢別では60歳未満が60歳以上に比べ実利用者数で5~6倍、人口1万人当たり利用者数で約3倍であった。これらより、評価利用者を人口1万人当たり利用者数で多い順にみてみると、60歳未満の女性>60歳以上の女性>60歳未満の男性>60歳以上の男性の順であった。
未利用市町村数については、男女間でほとんど差がなかったが、年齢別では60歳以上が未満に比べ3~4倍多い傾向であった。
教室利用者の体格分布と受診理由を示す。受診者の内、肥満もしくは高度肥満の割合は全体の約20%であり、男女別では、男性が女性に比べ約10%程高かった。また年齢別では、60歳未満においては男女差がみられたものの、60歳以上においては両者に差がみられなかった。
教室利用の理由については、男性の半数近くが運動施設を利用することが目的であったが、女性では団体での利用がトップであり、男女で明らかに違いがみられた。また、自分の体力を知ることを目的とした利用は、男女とも同様で約20%であった。
教室利用者の健康に関する意識を示す。約80%を越える利用者が健康だと自分自身感じているが、男性と女性ではその意識割合に違いがみられた。ただし、60歳以上ではその意識割合に男女差はみられなかった。
教室利用者の身体活動にかかわる日常生活習慣を示す。日常生活の中で身体を動かすように心がけている利用者は約62%であったが、普段さっさと歩くようにしている利用者は約42%であり、約20ポイントの差がみられた。また、定期的に運動を全くしていない利用者が約40%みられた。
これら日常生活上の身体活動に関しては、男女で比較すると明らかに男性の方が身体を動かすことを意識していることが伺われた。ただし、60歳以上でみてみると、男女差の意識の違いはあまり明確ではなかった。
(4)あいち健康プラザにおける健康関連情報の収集及び分析状況(斎藤班員)
①あいち健康プラザに収集されている健康関連情報は、県から入手した「愛知県衛生年報」、「健康日本21あいち計画」等のほか、送付されてくる「愛知医報」、「愛知の国保」などであった。
②収集された「愛知県衛生年報」は所内に回覧された後は情報担当で保管されており、「健康日本21あいち計画」は回覧後、各課ごとに配布された(一部個人にも配布)にとどまり、組織的に内容を検討したり、活用されることは少なく、資料として個々に活用しているのが現状であった。「愛知医報」、「愛知の国保」についても回覧の後、関係部署に保管されているにとどまっていた。
③メディカルチェック、体力チェック、生活習慣チェックからなる健康度評価の健康関連データは結果指導の際に説明を加えながら本人へ直接提供することが原則とされているが、情報提供を希望する依頼主に対しては、個人情報の保護に配慮し、郵送又は手渡ししていた。
健康度評価と健康づくりの実践方法を一日で体験する《一日実践型健康づくり教室》の場合、平成12年度と13年度で市町村から計23市町村、企業からは計24団体の利用があった。このうち、個人情報の提供依頼があり、依頼主あてにも情報を提供した団体は市町村で9、企業で8にとどまり、それぞれ全体の39%、33%であった。
別な言い方をすれば、60%以上の市町村、企業は結果指導の内容はおろか、個々の健康度評価の結果すら入手していないのが現状であった。また、健康度評価の結果を統計的に処理したデータについては、年報や各種研究報告として県内の関連機関へ提供しているが、その活用状況は不明である。
④個人情報の保護に関しては、愛知県健康づくり振興事業団個人情報保護規定に基づき、覚書を交わし、個人情報が不当に利用されることがないよう充分配慮して依頼主へ郵送又は手交されていた。
⑤愛知県における健康関連情報の収集と解析に関する位置付けについては、愛知県から管理運営の委託を受けている財団法人愛知県健康づくり振興事業団委託事務実施要綱の中には明確な位置付けはされていないのが現状で、平成13年3月発行の「健康日本21あいち計画」の中に保健所の役割として「健康情報の収集・分析及び提供ならびに市町村に対する技術支援・助言等を行います」と明記されていた。この中であいち健康プラザは「健康づくりの拠点施設」として位置付けられているが、「健康づくりの情報収集・提供」と記載され、「健康づくりの情報」に限定する記載となっていた。
(5)あいち健康プラザ利用者の生活習慣ならびに健康度の変化(津下班員)
約3か月間の通所型教室参加により、どのような健康増進習慣を獲得しうるか、またその習慣が肥満を改善(BMIを減少)するのに有効であったかを検討したところ、初回調査時に肥満者と非肥満者の間で差がみられた。運動、食事、休養、ストレス解消、噛む回数、歯磨き習慣の6項目の生活習慣について、肥満女性100人(平均年齢50.4±12.4)を対象に、行動変容のしやすさ、BMI減少との関連について検討した結果、生活習慣の改善項目数が多いほどBMIの大きな減少が観察された。
結論
まとめ=健康科学センターは平成7年以降各地で設置され、現在は14か所を数えている。
健康科学センターは本来、それぞれの自治体において健康関連事業を行う官民の施設の中でCenter of the centersとしての位置づけがされている。
本年度の研究においては、全国の健康科学センターの予算額、人員・構成職種、主たる業務内容、さらに健康科学センターを管轄している自治体担当者の業務展開戦略などに関する総括的な調査及び資料収集を行い、全国14か所の健康科学センターの位置づけを行った。この作業は主任研究者河原を中心に実施され、現在の健康科学センターが本来期待されている設置当初の主旨とは異なる事業展開が随所でみられることが明らかとなった。
個々具体的に都道府県や健康科学センターが抱えている問題点についてあいち健康プラザをフィールドとした調査が、井形班員をはじめとしてあいち健康プラザの分担研究者を中心に実施された。
全国展開する健康増進政策については、具体的健康関連因子を用いて大井田班員により分析が行なわれた。健康増進を図る基盤となる地域コミュニィティーに関しては高野班員が分析を担当した。
井形班員によって健康科学センターの人事の固定性及び非流動的な側面が職員のモラールの形成に悪影響を及ぼしかねないことが指摘されるとともに、松本班員により、職員が日々抱えている業務上の問題点が明らかになり、こうした組織においては定期的な業務等に関する意見交換の場の確保が極めて重要であることが明らかとなった。
また、石川班員によりあいち健康プラザの業務全体の総括が行われ、他の施設との競合が生じる直接的なサービス提供が人材育成や技術移転的なサービスより優って提供されている現状が明らかにされた。
大橋班員は、あいち健康プラザの利用者が、センターからの距離に反比例する形で減少し、競合的なサービスを提供しているプラザの問題点をさらに具体的に示した。
津下班員は、現在プラザで行っている糖尿病教室を例に過去のデータを分析し、その問題点を整理することで、糖尿病に関する健康指導についての新技術(手法)開発の可能性及び方向性を示した。これは、調査・研究機能と新技術の関係者への移転、さらに一般化という体系を明確にするものである。なお、こうしたことは民間企業が研究費を投資し、新技術を生み出し、その応用型を新商品として世に出し、さらに新たな研究投資を行っていくというサイクルとして定着しているが、公共セクターではこのサイクルが分断され形成されてない場合が多いのが実情である。
斉藤班員は、健康プラザを中心とした健康関連データの入出力について調べたが、流入データの数も種類も非常に乏しく、出力も住民の公衆衛生の向上や行政機関の政策策定や事業実施に資するものとは言い難い状況であり、戦略的なデータの入出力がなされていないことや地域健康関連データの積極的な入手などが行われていないことが明らかになった。
久我班員により住民の健康度が影響を及ぼす社会経済因子として医療費を想定し、現在その分析作業を継続しているところである。
大井田班員により、住民の健康関連因子として、「睡眠」、「栄養」及び「運動」についての分析が行われた。その結果、特に睡眠の質が適切な生活習慣の形成とかかわっていることが判明した。
高野班員は、多岐にわたる健康関連因子相互間の関連性分析を行い、健康増進が単に生活習慣の改善のみで図れるものではなく、錯綜しているコミュニティに起因するものや都市基盤に基づく諸要因を包括的に対策面で取り込んでいくことにより、初めて効果的な健康増進施策が展開できることを明らかにした。
このように、政策策定拠点として、あいち健康プラザが機能変貌を遂げる上での問題点が種々あることが明確となったが、現在、久我、津下班員によりあいち健康プラザの業務改善が試行的に試みられている。
健康科学センターが果たすべき総論的な機能は、国によって平成7年に示されているものの、真にその機能を果たしている施設は、未だないと言えよう。
本研究によって、健康科学センターが有すべき機能と現実の事業展開との乖離が明らかになったが、本研究班のテーマのように、健康科学センターを政策策定拠点としての機能を充実するには、同センターの機能を本来あるべきものに回帰させる必要がある。それには、健康科学センターの運営に大きな影響を及ぼす自治体担当課の指導理念の方向性を明確にすべきである。
次年度は、14施設の協力を得て健康科学センターの「ベストプラクティス・モデル」を設定するとともに、それを基にした施策・事業体系を構築していくことにしている。

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