栄養所要量策定のための基礎代謝量基準値作成に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101019A
報告書区分
総括
研究課題名
栄養所要量策定のための基礎代謝量基準値作成に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
柏崎 浩(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口満(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 岡純(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 田中茂穂(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 高田和子(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 笠岡宜代(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 二見 順(独立行政法人国立健康・栄養研究所、東日本国際大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エネルギー消費量をエネルギー所要量とする基本的な考え方が昭和50年所要量改定で明示されて以来、エネルギー消費量の推計は主として要因加算法によっていた。ヒューマン・カロリメーターあるいは二重標識水法によって、1日のエネルギー消費量(TEE)の正確な実測が可能となった現在、エネルギー所要量の策定において、日常生活の身体活動量を実測のTEE/BMRで適切に示すことが、わが国でも、また国際的にも重要となっている。すなわち、正確なエネルギー消費量の連続的測定が可能となるにしたがい、適切な基礎代謝基準値を設定することの重要性が増している。
生活習慣病の中でも糖尿病や肥満は、その他の生活習慣病の危険因子にもなることから、その発生予防対策が急がれている。わが国においては、栄養調査(国民栄養調査)が実施されており、それを基に栄養所要量が策定されている。 本研究で得られた、基礎代謝量をはじめとするエネルギー代謝にかかわる基礎データは、健康科学センター、保健センター等における生活習慣病予防・改善指導に必要な情報提供に資するのみならず、次回の栄養所要量策定に必要な基礎的資料とすることを目的としている。
研究方法
本研究では、年齢、性別の適切な基礎代謝基準値を設定するための基礎的な検討を行うため、以下の方法による分析を実施した。1) 今年度は、現行基礎代謝基準値の原データを構成しているオリジナル・データ、すなわち公表された過去の個人別基礎代謝実測値について再検討を行い、約40年前の基礎代謝測定データが、生活様式、体構成などの変化が生じた現在でも適用可能であるかどうかについて再評価・検討を行った。2) これと平行して、基礎代謝量及び安静時代謝量を測定し、栄養所要量策定のための基礎データ蓄積のさらなる充実を図ることとした。これらの測定には、オーソドックスな測定法であるが、信頼性の高いダグラスバッグを用いた方法によって測定した。3) エネルギー代謝量を亢進する摂取食物と食事構成との相互影響を評価するため、肥満を予防する作用が知られている共役リノール酸について、マウスを用いた実験的評価を昨年度に続き実施した。
4) 平成11年度本研究所に設置されたヒューマン・カロリメーター(世界的に最も精度・信頼性の高い測定装置であり、しかも日本では本研究所だけに設置されている。)によって得られた実測エネルギー消費量(1日あたりの総エネルギー消費量など)を利用し、基礎代謝基準値およびエネルギー代謝率(R.M.R)を用いた要因加算法によるエネルギー消費量推計値の妥当性を検討し、基礎代謝基準値と実測値の誤差がエネルギー消費量推計値に及ぼす影響を評価することとした。
5) さらに、二重標識水法による測定は日常生活のエネルギー消費量測定方法として信頼性・精度ともに最も優れた方法であり、様々な生活様式で暮らす日本人の日常的エネルギー消費量のデータ蓄積が可能である。将来的には、エネルギー所要量策定の根幹データをなすことが期待でき、また日常生活における身体活動量(TEE/BMR)を客観的に評価する、いわば、ゴールド・スタンダードとして活用し得る。ここでも、基礎代謝の適切な測定・推定が重要となる。しかしながら、エネルギー代謝領域での安定同位体の測定は、わが国でははじめてであり、克服すべき種々の問題を解決する必要がある。たとえば、測定条件、測定データの標準化、精度管理および最適データ解析方法など未知の部分が多々ある。そこで、今年度は、DLW法で得られる尿サンプルに含まれる水素および酸素の安定同位体を実測するために必要な最適測定条件の基礎的検討をはじめた。また、ヒューマン・カロリメーターの被験者にDLWを飲んでもらい、測定条件の検討および精度管理システムに見とおしを立てることが可能となった段階で、直ちに尿サンプルの測定に取り掛かれるよう準備を進めることとした。
結果と考察
1) 平成12年度に引き続き、基礎代謝量測定値の再検討および測定条件の検討を実施した。今年度は、現行基礎代謝基準値の原データを構成している1960年代に公表された過去の個人別基礎代謝実測値について、国内外で広く用いられている基礎代謝(BMR)の推定式から算出した推定値との一致度について検討した。原データについて重回帰分析を行ったところ、体重のみでBMRの変動の40%以上を説明すること、さらに他の独立変数(性別、年齢、身長、BMI、室温、外気温)を加えると、BMRの変動の78%が説明できることを示した。また、推計式(日本の第6次改定に記載された推計式、および国際的に利用されている推計式:Schofield式およびFAO/WHO/UNU式)から得られた推定値を実測値と比較した平均偏差はいずれも100kcal未満であった。日本の推計式は実測値よりやや低めに、国際的に利用されている推計式はやや高めであるものの、良好な推計式であると同時に、今回用いた過去の実測データは今後のBMRデータベースとして有用な測定値であることを確認した。実測値と推定値間における一致度は、BMIに基づく被験者グループによって異なっており、より適切なBMRデータベースを作成するために、従来までのBMR測定で考慮されなかった体構成を、今後の研究において検討すべきことを示した。2) これらの点を踏まえ、新規被験者を含む基礎代謝の測定を継続的に実施している。とくに、BOD PODによる体密度法、皮脂厚法、体水分法による体構成の推計データが徐々に集積されており、これらの情報を取り込むことによって基礎代謝基準値による推計精度改善など具体的な検討を次年度に実施する予定である。3) 本研究所に設置されたヒューマン・カロリメーターは種々の調整・準備を重ね、目標とする±2%未満の測定精度を確認した上で、平成13年8月より、被験者を対象とする本格的な測定を開始した。エネルギー消費量をエネルギー所要量とする基本的な考え方が昭和50年所要量改定に明示されて以来、エネルギー消費量の推計は主として要因加算法によっていたが、1日のエネルギー消費量(TEE)の正確な実測が可能となった現在、エネルギー所要量の策定において、日常生活の身体活動量を実測のTEE/BMRで適切に示すことが、わが国でも、また国際的にも重要となっている。そこで、ヒューマン・カロリメーターによるエネルギー消費量の実測値と、基礎代謝基準値を用い要因加算法によるエネルギー消費量の推計値との比較検討を開始した。途中経過であるが、TEEの実測値と推計値の平均値はBMRの実測値または推計値のいずれを用いてもほぼ一致したが、BMRの実測値を用いた場合、TEEの実測値と推計値との一致度は、より高いものとなった。4) 被験者を対象とするヒューマン・カロリメーターでのエネルギー消費量の測定と同時進行的に、二重標識水による日常生活のエネルギー消費量を測定するため、ヒューマン・カロリメーター入室予定の約
2週間前にDLW投与と尿サンプルの収集を開始した。わが国のエネルギー代謝領域で、平衡法による重水素の測定は未経験であり、精度管理に必要な種々の測定条件など検討・克服すべき問題は多々残っている。収集した尿サンプルの暫定的測定値は良好なデータが得られていることを示唆しており、安定した測定精度が得られる測定条件設定を確認した段階で本格的な分析に進む予定である。
結論
これらの検討と今後得られる情報によって、わが国における、基礎代謝基準値の見直し、エネルギー所要量策定の基盤となる測定条件、データの信頼性、精度の向上につながることが期待できる。

公開日・更新日

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