健康日本21計画の普及と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101018A
報告書区分
総括
研究課題名
健康日本21計画の普及と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 平尾 智広(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部協力研究員)
  • 松本 邦愛(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部協力研究員)
  • 藤田 尚(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部協力研究員)
  • 長谷川友紀(東邦大学医学部公衆衛生学教室助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
12,975,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は健康日本21の計画、特に地方計画に資することを目的とした。研究の内容としては、地方計画策定の諸段階、すなわち戦略計画策定における問題の設定、ステーキホルダーの分析、優先順位付け等の指標の開発、さらに健康関連グループや個人一人一人の健康実現のための計画策定の手法の開発である。次いで計画の執行を評価するための事前・中間・事後の評価方法について評価項目、情報収集システム、それを支えるネットフレーム概念について分析を行う。これらの研究を通して、健康日本21のすべての参加者が自ら計画を策定し、かつ自ら評価する方法を確立することが可能となる。
研究方法
1.計画の策定1)戦略計画概念の確立-軍や企業で使われた戦略計画や概念を政府に応用する場合の基本的パターンについて、合理的策定プロサイクルを踏まえて、比較研究により新しい基本フォーマットを完成する。2)問題設定-健康に関する状態やリスクや資源につき、全国的レベルのデータベース(人口動態統計、国民生活基礎調よ査、国民栄養調査、患者調査等)に基づいて標準的ベンチマーキングを設定する。分析に際しては年齢階級別の問題抽出以外にコホート別、あるいは所属場所、職場学校等の分析を加味する。コホートの問題分析については、コホート生命表を用い、1歳階級コホート法などの新しい手法により、世代別のリスクの特徴や行動パターン、さらには過去のメディアや教育の影響を分析する。方法としてはライフイベント法を用い、過去の時代における様々な意見や変化を世代ごと、年齢ごとに抽出し、分析を試みた。全国レベルの栄養指標との関係を分析した。3)商品開発手法-計画策定過程を企業における新商品の開発過程との類似性があると考えられる。消費者(住民)のニーズの把握方法や、商品(計画)の発想法などは計画の策定過程に応用できると考えられる。ここでは、計画策定に資する知見の獲得を商品開発の観点から検討した。4)参加型計画策定手法-現在、政策過程、計画策定への参加の在り方が問われている。しかし理念面では、政策過程で参加をどのように位置付けるかに関する考察、実践面としては、具体的な参加を実現するための手法の開発が遅れている。ここでは、それらの課題について検討した。また、実際にそれらの参加型計画のための手法を用いての計画づくりも試み、問題点などの発見に努めた。2.健康関連支援グループと個人個人の戦略並びに執行計画策定法の開発-地方行政主体による地方計画のみならず健康日本21に参加するすべての社会グループがそれぞれ政策計画と執行計画を持つことが望ましい。そこで保険者や専門家、或いはNPOやメディア、企業に関しても上記の研究プロセスを元に策定のプロセスや雛形について試考する。この場合、評価のプロセスはこの計画策定の中に組み込まれてデザインされる。さらにそれらを個人個人の健康実現のための計画、すなわち生涯をいかに設計していくかという戦略計画と、日々具体的に健康改善を行うための執行計画づくりを、統合させる方法論を開発する。具体的に健康実現を目指すグループを選定し、それらに自らの問題のアセスメントツールを開発して提供し、結果をモニターすることにより、より有効な戦略策定、政策計画並びに執行計画を確立する。ここでは、産業、個人の二つの視点から検討した。3.事前中間事後評価に関する研究-評価を計画前の事前、計画途中の中間、
計画終了後の事後に分けて、評価の特徴を確定する。事前は計画そのものの策定のために行うことが多く、いわば戦略計画並びに執行計画策定の過程をなす。中間評価は計画を進行させ、改善するために行われ、通常執行者と共同で評価することが望ましい。事後評価は次の計画に反映させるために行うものとされている。従ってそれらの目的に応じて、評価項目を選定し、当初目的そのものをベンチマーキング法による評価や、執行過程における様々なプロセスの達成度を定量的に分析する手法を確立すると同時に、定性的な評価の手法を開発する。事後評価は健康日本21の最終評価であると同時に、次期の計画への分析として大項目や中項目の総合的な評価が必要であり、その構造について統計的かつ理論的手法を用いて分析する。4.ネットフレーム概念の確立-健康の決定要因については生物化学レベル、社会レベル、さらには政策レベルの因果関係が複雑に交錯している。そこで主任研究者らが前研究班で提唱したネットフレーム(網の目枠組みモデル)を用いて、上記の評価や戦略的運営情報システムのための中核となる概念を整理し、ハイパーテキスト等によるコンピュータモデルを構築する。
結果と考察
1.計画の策定1)戦略計画概念の確立-計画策定には大きく分けて5つの観点からのアプローチが可能であり、それぞれに基づいた手法を用いて計画を策定することが望ましい。その5つとは、政策科学手法、計画科学手法、経営科学手法、商品開発手法、参加型計画手法である。これら5つの技法を総合的に用いることで、従来の計画を越えた合理性、参加性をもつ戦略的な新しい計画を策定することができると考えられる。2)問題設定-戦後の簡易生命表および、南らによるコホート生命表を用い、誕生年コホートごとに1歳階級別の死亡率の変化を男女別に分析した。その結果昭和一桁(1928~1933)と戦中派(1943~1946)生まれのグループが、前後のコホートに比べて死亡率が約5パーセント高く、しかも逆転はニクソンショックやオイルショックなど経済不況期に限って存在していることが確認された。女性ではこれらの変化は明確には現れなかった。全国レベルでの栄養摂取量の変化との相関をみると、昭和一桁は15-17歳の第二成長期、戦中派は0-3歳の誕生直後成長期に戦争中の低栄養を経験しており、これらの影響が社会的要因の経済状況とあいまって、死亡率の影響を及ぼすという近年、ヨーロッパで発展しつつある生涯疫学の結果と同様の結果を得た。きわめて、驚くべき現象は若年の女性の死亡率が90年代の終わりに増加していることであり、20代、30台の女性では前後の世代よりも8-9パーセントの死亡率の増加をみている。さらに、1964-66年生まれに限って1986年の円高不況時に死亡率の高いピークをみている。若年層の死因の分析は未完であるが自殺や低栄養等の影響が想定される。これらの分析結果は健康日本21の遺作を世代別に策定するにあたってきわめて有用であると考える。3)商品開発手法-企業における商品開発では調査、発想、最適化、リンクというプロセスを辿る。さらにこの過程は7つの過程から成立している。またそれぞれの過程で情報を集める手法が異なっている。例えばニーズの把握と商品の発想では情報を集める手法が異なっている。市場の有無や公共性の確保の必要など商品開発と計画策定は異なる点もあるが、計画過程でも応用できる点は多い。4)参加型計画策定-まず、参加というのはどのような様式がありうるのかについて検討した。ラディカルな参加ではなく、政府、利害関係者、住民相互の対話による協働が望ましいと考えられる。参加の手法としては開発計画などで用いられる手法を中心にいくつか検討した。また、実際の参加型計画づくりの事例検証として足立区での健康日本21の策定過程を採り上げた。PLAの概念に基づき、住民とともに考えともに計画をつくることを目指した。手法として、ウォンツ/エイブル分析により住民のニーズと環境をあぶり出し、目的系図などのツールを併用して議論を進めた。また、テンシーズなどの手法は意思決定の際に有効であった。一人一人が健康について考える
ことが健康日本21の成否を左右している。その意味で今回の取り組みは、住民の健康観を表出することからスタートしており、他の自治体での計画策定の先行事例として大きな意味を持つことであろう。手法自体がまだ未完成であるものも多く、またどの過程でどの手法が用いられるかについても完全に整理されていない。この点に関しては、前項の商品開発手法の成果が利用できるであろう。また、住民の参加者の選定の正統性の問題なども残っている。2.健康関連支援グループと個人個人の戦略並びに執行計画策定法の開発-①職域保健編-ブレーンストーミングやマーケッティング文献を基に、職域における健康日本21の展開マニュアルを策定した。職域の場合は労働安全衛生法と健康保険組合の二つのシステムが関連し、これらをうまく統合することが、きわめて有用であることまた元来集団を捉えやすく、疾病管理的アプローチが有用であることを強調した。さらに世代的には、現在背戦中世代や団塊の世代が当面のターゲットであり、地域での負担を軽減するためにも職域での取り組みの必要性を強調した。リストラや転職、さらには社内の合理化などストレスに対する精神面での必要性を浮き彫りにした。②産業編-健康日本21の意図に沿った健康ビジネスを企業に展開してもらえることを目的に検討をした。健康ビジネスの現場である様々な企業の経営者、製品サービスなどの企画・研究担当者、社会貢献担当者などに調査・ヒアリングなどを行った。また、一般の人々に対する調査・ヒアリングは“消費者"や“顧客"としての発言を重視した。さらに、参考文献等についても、保健医療専門関係から経営・マーケティングなど市場のトレンドに視点を変えて資料収集した。③個人-個人編は、普通の人が、より健康的な生活と健康寿命の獲得に近づけることを目的に検討を続けた。一般の人々に対する調査・ヒアリングは「健康を学ぶ」、生涯学習としての“健康学"をテーマに行った。また、“健康学"を学ぶための最適なスタイル発見のため、流通している教育メディア、教育手法、教育ツール、教科書、参考書などの効果性を検討した。3.事前中間事後評価に関する研究-①目標-「健康日本21」の考え方に基づいた健康について、日本の現状について、生活習慣、健康行動、危険要因、予防介入、疾病罹患、障害者率、死亡状況、主観受留(自分で健康と感じているか)という八つの側面に注目して、各都道府県の状況を評価する資料を作成した。指標統合は、各都道府県・主要都市の健康日本21担当者と識者にアンケートを実施して各指標の重みづけを行い、算出した。健康を表す8側面とそれぞれの側面を示す6項目に関して、各県、主要都市の健康日本21担当者、有識者にアンケートを取ってそれぞれに加重をつけてもらった。アンケートはデルファイ法で行われ、61サンプルを得た。持ち点を100とし、まずそれぞれの側面を示す6項目に点数を割り振ってもらった。各指標の加重が平均で①6.2、②3.8、③5.2…のように算出された場合、全体の健康指標は以下の数式で計算される(6.2×①のポイント+3.8×②のポイント+5.2×③のポイント…/6.2+3.8+5.2…)。この方法で求められた健康指標は、各都道府県が全国的にどの位置にいるのかを表すものだが、各自治体の相対的な位置を評価する基準にも応用できよう。順位は男性上位が長野県、群馬県、神奈川県、下位が長崎県、青森県、徳島県であり女性の上位は静岡県、長野県、奈良県であり下位が青森県、徳島県、高知県の順となった。②調査方法-ベンチマーク評価のためには、集団の健康指標を分類・整理し、自治体間の比較が可能となるような、ある程度統一された基本指標の設定が必要である。国家戦略として挙げられた項目群を参考に、投入→プロセス→結果の連鎖に従い、ⅰ実際に計画として介入できる入力指標(環境、資源、制度、施策、事業)、ⅱそれに至る途中のプロセス指標(要因、行動、知識、態度、社会ネットワーク)、ⅲ計画の結果、有効性(QOL、死亡と障害、傷病)に整理することによって、活動の各相におけるモニタリング、ベンチマークが容易になることが確認
された。③県別ベンチマーク-八つの側面の評価を、官庁統計より集計可能な六つの指標を軸に設定した各県別性別のレーダー・チャートに示した。これにより、各県ごとの健康の姿が明らかになり、どこに介入をしていけばよいかが明らかになった。例えば、北海道においては、生活習慣の朝食を食べているかで男性45位、女性46位、運動不足が男性44位、女性43位であったが、気分転換の時間があるかについては男性8位、女性10位と健康行動については比較的順位が高かったため、ゆがんだ形のレーダー・チャートを形成している。④職域別-官庁統計を用いて職域、もしくは医療保険の種別ごとに性年齢階級別の評価を行った。評価は八側面に沿って行われた。結果は、年齢別に見ても職業別にはかなりの格差がみられることが判明した。例えば、喫煙行動では日雇労働者等が他の職業と比べて各年齢階級でリスクが高いことなどが判明した。4.ネットフレーム概念の確立-現状把握を科学的根拠に基づいて行うために、中核部分にシステムダイナミクスをベースにした定量的な変化をシュミレーションするモデルを構築する。最終的な意思決定にはステークホルダーの分析と価値の重み付けを可能にする、ソフトシステムの工学手法を判断分析学等の手法を併せたソフトを使って、プライオリティーセッティッング、ステークホルダーの調整等に適するモデルに訂正されうる。これらは長期的には、政策決定の方法論も単にテクノロジーアセスメント、あるいはヘルスサービスマネジメントから政策工学(Policy Engineering)に展開する可能性を持っている。
結論
今年度の研究によって、健康日本21の特色である、一人一人の健康への意識を高める健康実現を達成するための課題がいくつか浮かび上がった。住民の参加については、計画づくりに参加型の手法を用いたけ威嚇づくりを実際に試みた。また、企業をはじめ、個人を支える社会環境づくりについても本年度の研究では言及した。さらに、健康に関する現状把握としては、県別、世代別、職域別について分析、概観した。県別についてはベンチマークによる比較を試み、各都道府県の現状を明らかにした。今後は、これらの成果をふまえつつ、世代や職域における状況を考慮した上で、計画を策定していく姿勢が必要となろう。そのためにも、現在研究中である政策工学の発想の展開が貢献できる点は多いと考えられる。

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