海外において製造・使用されているワクチンの品質評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100988A
報告書区分
総括
研究課題名
海外において製造・使用されているワクチンの品質評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小室勝利(国立感染症研究所)
  • 宮村達男(国立感染症研究所)
  • 田代眞人(国立感染症研究所)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所)
  • 佐多徹太郎(国立感染症研究所)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 倉根一郎(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在日本国内において使用されているワクチンは例外的なものを除き国内で製造され国家検定により品質管理が行われている。海外への長期旅行者や海外居住者の増加により日本人が海外において、外国において製造されているワクチンの接種を受ける機会も増加すると考えられる。また現在国内製造のないワクチンや抗血清についても危機管理上あるいは海外旅行者用等厚生労働行政上、輸入し備蓄する必要性は増加している。さらに国内製造されていないワクチンについては将来の自由化にともなう輸入の可能性を考慮しておく必要がある。本研究においては海外において製造、使用されているウイルスワクチン及び細菌ワクチンの主なものに関しその力価と安全性の検討を行うことを目的とする。1)日本国内でも製造されているワクチンについては海外のワクチンを現在の国内検定基準に準じた方法により力価と安全性を検討し日本で製造されているワクチンとの対比を行う。2)国内では製造されていない海外製造ワクチンについては現在考え得る検査法により品質の評価を行う。本研究により海外において製造使用されているワクチンの品質を日本における品質管理基準に基づき明らかにすることができる。得られる成果は安全で高力価のワクチンを国民に供給するという観点から日本国民の保健・医療に大きく貢献し危機管理の点からも厚生労働行政上大きな意義を有する。
研究方法
日本国内でも製造されているワクチンについては海外のワクチンを現在の国内検定基準により力価と安定性を検討し日本で製造されているワクチンとの対比を行う。国内では製造されていないワクチンについては現在考え得る品質管理法により品質の評価を行う。研究対象はインフルエンザワクチン、麻疹ワクチン、おたふくかぜワクチン、狂犬病ワクチン、黄熱ワクチン、ダニ媒介性脳炎ワクチン、肺炎球菌ワクチン、インフルエンザ菌ワクチン、腸チフスワクチン、コレラワクチン等及び狂犬病免疫グロブリンである。
初年度:1)各々のワクチンについて入手先、入手方法を調査し輸入手続きを開始する。2)製造国における品質管理に関する情報を収集する。3)海外製造ワクチンの品質を調査するに当たっての試験項目の基礎的検討を行う。同類のワクチンが国内においても製造され国家検定が行われている場合には同様の方法により力価、安全性、物理化学等品質の評価を行う。国内では製造されていないワクチンについては各々のワクチンの評価に最も適切であると考えられる試験法を検討し基礎的実験を行う。試験項目の基礎的検討は各々のワクチンについて担当となる国立感染症研究所ウイルス第1部、ウイルス第2部、ウイルス製剤部、細菌部、細菌・血液製剤部、安全性研究部、感染病理部において行う。2年度:1)初年度の基礎的検討に基づき海外製造ワクチンの品質の検討を行う。2)検討結果については製造国の品質管理結果と対比する。3年度:1)2年度に検討した海外製造ワクチンに関し異なるロットを用いて品質を再度確認する。2)2年度、3年度の検討結果に基づき国内には存在しないワクチンの輸入及び備蓄に関するプログラムを作成する。
倫理面への配慮:本研究はヒト検体を使用しない。現在実施されている検定と同様に動物、特にマウスあるいは必要に応じてサル類を用いて力価、安全正当を評価する場合があるが実験動物の愛護に充分考慮し苦痛を与えない配慮をしながら検査を実施する。
結果と考察
1)海外において製造・使用されているワクチンの品質評価に関する研究:インフルエンザの予防に最も効果的なのはワクチン接種である。有効性の高いワクチン製剤を供給するためには海外で市販されているワクチンと国産ワクチンとの性状の違いを明確にし国産ワクチンについて改善すべき点を検討する必要がある。そこで本研究では海外で市販されているワクチン製剤を輸入し現行の製剤基準にそって国産ワクチンとの間で性状比較を行う。今年度は輸入に先立ち海外のワクチンの性状に関する情報を収集し製造元との輸入交渉、性状解析項目の立案、次年度に輸入されるクチンの解析に備えた基礎研究を行った。ワクチンの性状ではHA蛋白は30μg/ml以上の基準は同じであるが総蛋白量が我が国の240μg/mlが上限であるのに対し、海外のそれは150-400μg/mlと幅が広い。また検定項目は大きな差は認められなかった(倉根)。2)B型肝炎ワクチンの試験管内力価試験法の検討:我が国ではB型肝炎ワクチンの力価測定としてin vivo試験を行うが海外ではin vitro試験も実施している。in vitro法はワクチン中のHBs抗原量をELISA法等で測定する。in vivo、vitro法ともレファレンスワクチンに対する相対力価で評価する。ELISAのCD値から相対抗原力価を算出する際ナショナルレファレンスを使用すると各メーカー間の相対抗原力価の差が大きかった。要因として各社のサブタイプの違い、アジュバントの種類などがあげられる。メーカー間の差はワーキングレファレンスを使用することで補正できた(宮村)。3)海外において製造・使用されている麻疹、風疹、ムンプスワクチンの品質評価に関する研究:海外で製造・使用されている麻疹、風疹およびムンプス生ワクチンワクチンの品質に関する情報を収集するとともに国内の製品との比較検討を行った。本年度は海外製品の輸入・入手手続きが遅れたために実際に品質に関する検査を実施することは出来なかったが、海外メーカー及びその日本代理店から入手した資料を検討した結果麻疹ワクチンの力価に関する我が国の生物学的製剤基準がWHOおよび欧米の基準よりも厳しいこと、我が国の風疹ワクチンの基準にあるマーカー試験は欧米の製剤には適応出来ないこと、また一部の欧米の製剤については我が国のものと一致しないことが明らかにされた(田代)。4)経口生ポリオワクチンの品質評価における日本と海外の相違点:経口生ポリオワクチンの神経毒力試験についてWHO基準と日本の生物製剤基準を比較した。最も異なる点は比較に用いられる参照ワクチン株の相違であった。ポリオウイルスレセプター導入トランスジェニックマウスTgPVR21を用いた神経毒力試験により二つの参照ワクチン株の毒力に相違があることが明らかとなった。これは製造されるワクチンの毒力と力価に影響する可能性がある。(佐多)。5)現在我が国で使用されていないワクチンの調査─腸チフスワクチンについて:発展途上国において腸チフスは大きな問題であり多数の死亡者を出している。また近年海外渡航者の増加と共に多くの旅行者が発展途上国に行き腸チフスに罹患する機会が増えている。事実我が国の腸チフス患者の7~8割がインド、インドネシア、タイ等の帰国者で占められている。近年の腸チフス菌は薬剤耐性化傾向が高くなってきており治療に抵抗を示す臨床例が増えている。このような状況において海外渡航者の中にはワクチンを希望する例がみられているが我が国では認可されているワクチンがないので個人輸入をして対応をするしかない。本研究においては世界で使用されている腸チフスワクチンの現状を調査し今後の要求に対応できるようにした(渡辺)。6)細菌ワクチンについて・ジフテリア・破傷風・百日咳:基本的に混合ワクチンとして使われている。無細胞性ワクチンの抗原組成は各メーカー独自であり含有防御抗原の量と比は異なる。無毒化PTは共通に含まれていた。品質管理については欧米では一応WHOガイドラインとWHO基準に従っているが製造メーカー独自の品質管理法を用いており、わが国の生物学的製剤基準並びに国家検定基準のような統一された高度の品質管理法を用いていない。特に有効性と安全性の品質管理試験で大きな相違が見られた。・インフルエンザ菌b型ワクチン:国内では未認可品。欧米では組成の異なる3種のワクチンが使用されている。国際標準品はない。・BCG:国内品と欧米品とは類似しているが使用菌株は異なる。各菌株の性状にはいくつかの点で差異がある。品質管理では我が国の生物学的製剤基準に、WHO基準があり、おおよそ類似しているが、シート、バルク、小分け製品の各試験項目の試験法に差異がある(荒川)。7)各種ワクチンの抗原特異的IgE産生と安全性に関する研究近々輸入導入が想定されるワクチン、問題点のある程度予想されるワクチン、日本において問題が多いと考えられるワクチン、副反応、副作用頻度の高いワクチン等を対象に抗原特異的IgE産生を検討した。DPTワクチンで抗原特異的IgE抗体産生が顕著に誘導されその量はワクチンのロット間で有意に異なることが確認された(小室)。国立感染症研究所には我が国のワクチンの品質管理の責任がある。我が国で製造されていない品、あるいは製造されているが海外でも同様に製造されている製品につき、それらの品質の差異を明らかにしておく必要がある。また我が国のワクチンの質のレベルを世界で最も優れたものとしていく必要があり、危機管理上からも必要なワクチンは最低自国で生産できる体制をとることが求められる。そのためにあらゆるワクチンの品質を確認し今後の我が国の品質管理等に役立てることが必要であり、そのための諸外国の実情調査とワクチン性状調査を行った。
結論
欧米のワクチンが我が国のそれより品質上優れているかどうかは品質管理上種々の点から比較検討してみなければ判らないことが多い。その意味で今回の研究は今後の我が国のワクチン政策に重要な示唆を与える結果を提供しうると考えられる。

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