医薬品製造工程等の変更が品質に与える影響及び品質確保のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100979A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品製造工程等の変更が品質に与える影響及び品質確保のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
青柳 伸男(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山本恵司(千葉大学薬学部)
  • 園部 尚(静岡県立大学薬学部)
  • 森川 馨(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、医薬品の品質の同等性確保は有効性、安全性を保証する上で重要であり、欧米では製法変更に関する生物学的同等性試験ガイドラインが既に設けられているが、我が国にはない。
本研究の目的は、経口製剤について、国内の製法変更の実態を調査し、どの種の要因の変更が品質に大きな影響を与えるのかを解明し、我が国の製法変更に関する同等性試験法を構築することにある。本年度は速放性(通常)製剤に関し、欧米のガイドラインを比較、検討すると共に、国内での製法変更の実態を調査した。また、製法に関連し、加重攪拌を例にとり、加重等の要因が粒子径分布にどのような影響を与えるか検討した。同等性試験法に関しては、速やかに溶出する医薬品及び難溶性医薬品の同等性試験について検討した。また、製品品質を保証するため、変更管理のあり方について検討した。
研究方法
1) 欧米の製法変更に関するガイドラインの比較、検討 - FDA 及びEUの製法変更に関する生物学的同等性試験ガイドラインを比較検討した。2) 製法変更に関する実態調査 -添加剤、製造条件の変更等に関し、国内製薬会社10社から回答を集めた。3) 加重攪拌と粒子径 - 乳糖、結晶セルロースを試料とし、10及び40 g/cm2の加重下で攪拌混合し、粒径分布を求めた。4)同等性試験 - ロキソプロフェンナトリウムを試料とし、速放性製剤のin vitro同等性の許容域を検討すると共に、ニフェジピン製剤について溶出試験を実施し、難溶性医薬品の溶出試験条件を検討した。5) 変更管理の在り方 -変更管理のための重要点を考察すると同時に、製品品質リスク、さらに変更管理の運営について考察した。
結果と考察
1) 欧米の製法変更に関するガイドラインの比較、検討 - FDA, EUのガイドラインについて調査した結果、FDAのガイドラインは具体性があり、製造上の各要因の変更水準と対応する試験法が明示されているが、製剤機能に影響を与える直接的要因が示されておらず理解し難い点があること、EUのガイドラインは反対に合理性はあるが、具体性に乏しいことが分かった。我が国のガイドラインは両者の利点を取り入れ、国際調和、患者に対するリスク等を考慮し作成すべきであろう。
2) 製法変更に関する実態調査 - 添加剤のメーカー及びグレードの変更は製造現場で広範囲になされており、変更時には、溶出試験、安定性試験などが行われていることが判明した。添加剤のメーカー変更については、品質に影響を与えるケースは限定されているとの回答が多く、主薬の結晶形、粒度などの溶出性や安定性に対する影響は認識されているが、ガイドラインには適さないとする意見が多かった。バッチサイズの変更については10倍の規模を目安とすべきという意見が多かった。また、委受託等の進展により、製造場所の変更については、変更要因として考慮することが望ましく、製造装置については、FDAの分類とは一部異なるコンセプトが必要との指摘があった。
3) 加重攪拌の条件と粒子径 - 乳糖等を用いて加重攪拌の粒子径に及ぼす影響について検討した結果、20μm以下の粒子数の増大がみられ、高加重(40 g/cm2)では攪拌時間の経過にともない、微細粒子の凝集が起こることが示唆された。このことは、製法、製造工程の変更においては、みかけの変更より、その変更が粒子径などの重要な物性の変化と関連性があるかどうかを見極めて、同等性の確認を行うことが重要であることを示している。
4) in vitro同等性試験 - 溶出の速やかな製剤のin vitro許容域について、ロキソプロフェンナトリウムを試料として検討を行った結果、30分で80 %以上、溶出する製剤は、生物学的に同等とみなしても問題は少ないことが分かった。また、in vitroでの評価が難しい難溶性医薬品に関しても、ニフェジピンをモデル製剤として検討した結果、複数の試験液、攪拌速度で溶出試験を行えば、非同等な製剤を検出できること、f2は鋭敏な指標であることが分かった。
5) 変更管理の在り方 ? 規格の項目及び許容範囲は製造プロセス開発とともに設定されるので、変更においては開発段階での規格の設定根拠の立ち返り有効性、安全性、製造性から検討を要する。変更の運用では製造所変更など1次変更点だけではなく具体的な製品品質に直接影響を与える要因まで考慮したうえで変更を遂行すべきである。また変更管理はGMPの品質保証システムの一部と認識されるべきである。変更による品質の経時変化は予測の困難なこともあるので安定性試験が必要である。
結論
FDAのガイドラインは具体的であるが合理性が不足しており、EUのガイドラインはその逆である。我が国のガイドラインは国際調和に配慮し、本体はFDAのガイドラインに倣い具体的なものとし、Q&Aで説明を行うのが望ましい。
国内の製造現場では、製法変更に際し、溶出試験、安定性試験を行っているケースが多かった。FDAガイドラインとの整合性等の要望があったが、それら意見を考慮しガイドラインを作成する必要があろう。
製造工程等の変更に関しては、同一の加重攪拌機でも条件によって粒子径分布が変化することが分かった。したがって、製法等の変更の際、同等性の確認は、粒子径分布など、重要な物性の変化との関連性を理解した上でなされるべきであろう。
添加剤のグレードの変更に関しては、粒子径等の変化を伴う場合、同等性の確認が必要と思われる。
同等性試験に関しては、30分で85 %以上溶出する製剤は生物学的に同等とみなしても問題は少なく、難溶性医薬品でも複数の条件で溶出試験を行えば非同等な製剤は検出できると思われる。文献報告も考え併せると、製法変更の場合、基本的には溶出試験により同等性の確認が可能と思われる。
変更管理は規格試験のみからでなく、既存製品が如何に開発され品質保証をされているかにたち帰り、当該変更を含め全体を再評価して行われるべきである。変更の動機からの1次要因だけでなく品質に直接影響する派生要因をすべて考慮し変更を管理すべきで、製造プロセスの許容範囲を超え変更を行うには、薬剤特有要因を中心に基礎データを取り新プロセスを計画・管理する必要がある。

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