小児薬物療法におけるデータネットワークのモデル研究について

文献情報

文献番号
200100970A
報告書区分
総括
研究課題名
小児薬物療法におけるデータネットワークのモデル研究について
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
櫛田 賢次(国立小児病院)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎利信(日本製薬工業協会:塩野義製薬株式会社)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年2月厚生省から「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて」(研第4号、医薬審104号)が通知され、十分な科学的根拠がある医薬品については承認・審査が柔軟に行われるようになっている。また、平成12年12月「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンス」(医薬審第1334号)が通知され、臨床上小児に使用される可能性がある医薬品については、成人における開発過程において可能な限り早く小児の治験を開始しなければならないこととなり、今後承認・審査される医薬品については小児適応の拡大が期待される。本研究は小児領域における医薬品の適応外使用を改善するため処方実績に基づく詳細な実態調査を行うこと、また各種疾患領域の処方実績データに基づく小児治験・多施設臨床試験のネットワーク構築のための実態調査を目的とする。
研究方法
データ入力方法は、各施設からインターネットを用いてホームページ「小児薬物療法研究」にアクセスし、所定の入力画面の項目に従い行った。また、対象医薬品については、小児科学会及び大西班(厚生科学研究医薬安全総合研究事業)の報告によるプライオリティリストに基づき10品目を選択し、平成13年8月1ヶ月又はデータが少ない場合は4月から9月までの6ヶ月間の処方実績データを収集した。対象施設は、国立小児病院を中心として、国立病院成育医療ネットワーク基幹施設・協力施設(10施設)及び公立こども病院(日本小児総合医療施設協議会施設会員施設のうち11施設)及び在京の大学病院(6施設)、合計27施設を対象とした。。
分担研究として、製薬企業82社を対象に「小児治験を取り巻く問題点と解決策に関するアンケート調査」を実施した。
倫理面への配慮としては、個人情報の保護、暗号化、回線の仕様セキュリティを踏まえたネットワークの設計を行うと共に、直接患者情報に結び付くような情報の配信は行わないものとした。 
結果と考察
協力施設における処方実績データの保存状況及びデータの電子的加工処理の可否について調査した結果、データ数が多い公立こども病院がオーダリングの導入及び電子的加工処理ができない環境にあることが判明した。小児領域の適応外使用を改善するためには、経営母体を越えた行政側の支援が望まれる。
事前調査として、大西班及び小児科学会から適応外使用に関する改善要望が強いプライオリティリストに基づき、対象医薬品(10品目)を選択し、レトロスペクティブに一定期間の処方実績データを収集した結果、施設間で報告データ数にバラツキが見られた。患者数に違いがあるものの、明らかに総合病院小児科と比較して小児専門病院の方が各医薬品の処方実績があることがわかった。つまり、今回選択した対象医薬品は小児科領域では主に専門病院で使用されることから、次回は一般小児科でも使用される医薬品を念頭において対象品目を選択する必要がある。
事前調査結果を踏まえて、総合病院における小児科以外で16歳以下での対象医薬品の使用診療科及び使用患者数を調査した結果、品目により整形外科、耳鼻咽喉科、麻酔等での使用実態が明かとなった。また、対象医薬品について1成分(医薬品)として限定するのではなく、同効薬の採用状況及び使用状況について調査を行った結果、より詳細な小児領域での医薬品の使用実態が明らかになった。今後、調査を行う場合は同効薬に幅を広げて行うことが必要である。
小児専門病院における診療科別入院及び外来実患者数又は延べ患者数の調査結果から、
今後製薬企業が治験、臨床試験、市販後調査を実施する場合、依頼先が容易に検索できる
データとなる得ることがわかった。
平成13年度(1月末報告)での各協力施設における小児科領域の治験に契約件数及び実施状況を調査した結果、施設によりバラツキがみられた。この結果から、製薬企業は治験等の依頼先を選択する場合の参考になるものと思われる。
製薬企業を対象として「小児治験を取り巻く問題点と解決策に関するアンケート調査」
を行った結果、82社中68社(回答率83%)から回答が得られた。その結果、製薬企業として小児治験の必要性については認識しているものの、同意取得が困難、試験デザイン立案が困難などが問題点として上げられた。同意取得を進める効果的な方策として、治験の整備の観点から治験薬剤師・看護師(CRC)の配置及び土・日曜日の専門外来の実施などが重要であることがわかった。また、製薬企業にとってのインセンティブとしては小児治験を実施予定の医薬品の早期承認、保護期間(再審査期間・特許期間)、薬価の引き上げなどの要望があることが判明した。医療機関、関連学会及び行政側が三位一体となり小児治験の推進及び適応外使用医薬品の改善に向けて協力と歩み寄りが必要である。
結論
1)国立小児病院(平成14年3月より国立生育医療センター)を中心として、国立病院成育医療ネットワーク基幹施設・協力施設(10施設)及び公立こども病院(日本小児総合医療施設協議会施設会員施設のうち11施設)及び在京の大学病院(6施設)、合計27施設を対象としてコンピュータネットワークで結ぶモデルシステムを構築した。2)事前調査として行った、大西班の研究報告(厚生科学研究医薬安全総合研究事業)に基づき、各科からの適応外使用改善要望が強いプライオリティリストから対象医薬品10品目を選択し、レトロスペクティブに一定期間の処方実績調査を行った結果、施設間でデータ報告数にバラツキが見られた。3)対象医薬品を1成分に限定することなく同効薬に拡大した調査を行うことで、各施設の同効薬の採用状況及び使用状況が把握でき、より正確な実態調査を調査できることが判明した。4)協力施設における小児領域の平成13年度(平成14年1月末現在)の治験実施状況調査から、施設毎の治験に対する取り組み方に違いが見られた。5)製薬企業を対象として「小児治験を取り巻く問題点と解決策関するアンケート調査」を実施した結果、製薬企業として小児治験の必要性は認識しているものの、同意取得の困難性、試験デザイン立案の困難性などが問題としてあげられた。同意取得を進める効果的な方策として、治験の環境整備の観点から治験薬剤師・治験看護師(CRC)の配置及び土・日曜日の専門外来の実施などが重要であることがわかった。また、当ネットワーク構想に対して製薬企業側は被験者の確保に利用できるものと期待していることがわかった。

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