文献情報
文献番号
200100949A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質に関する生体試料(臍帯血等)分析法の開発とその実試料分析結果に基づくヒト健康影響についての研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 恒久(東海大学医学部産婦人科学教室)
研究分担者(所属機関)
- 中澤裕之(星薬科大学)
- 織田肇(大阪府立公衆衛生研究所)
- 塩田邦郎(東京大学農学生命科学大学院)
- 鈴森薫(名古屋市立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
内分泌かく乱化学物質の分析法開発と実試料分析のため、ディスポーザブル腹水採取器具の開発する。分析法としては、ノニルフェノール(NP)及びオクチルフェノール(OP)は高速液体クロマトグラフ/質量分析計(LC-MS)による分析法を、多環芳香族炭化水素類(PAHs)の代謝物の2-ヒドロキシフルオレン(2-OHF)はHPLC-蛍光検出法による分析法を、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)はGC/HRMSを用いた高精度分析法を開発する。さらにクロルデン関連物質及びヘキサクロロベンゼン(HCB)は人体暴露量をその食事嗜好、住環境との関連性で調査し、ビスフェノールA(BPA)は乳試料用高感度定量法を開発し、パラベン類がさい帯血から検出された要因について医療用品を対象に検討し、トリブチルスズ化合物及びその分解代謝物(以下ブチルスズ化合物)は人体暴露量の調査を毛髪、妊婦試料を対象として検討する。ついで、①有機スズ化合物の経口免疫寛容への影響②重金属類の母胎への暴露調査及び細胞損傷、について測定する。③アジピン酸ジエチルヘキシル(DEHA)について精巣と免疫系への影響を、④Di(2-ethylhexyl)phthalate(DEHP)は,成熟期及び妊娠期マウスで生殖系への影響を、⑤有機スズ化合物(メチルスズ化合物、ブチルスズ化合物、オクチルスズ化合物及びフェニルスズ化合物)15種ではステロイドホルモン産生へのリスクを、⑥PCB、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、DDTの代謝産物DDEについては妊娠、特に流産リスクを検討する。さらに胎児・胎盤への影響を代謝酵素から特異的遺伝子発現にいたる観点から検討すると同時に、エストロゲンレセプター(ER)のサブタイプα、βの発現への効果を明らかにする。
研究方法
内分泌かく乱化学物質分析用のディスポーザブル腹水採取器具を従来のガラス製に代わり開発する。NP、OPのLC-MSによる分析法を確立し、さい帯血、母体血、腹水及び尿を分析すると同時にボランティアにて体内動態を追跡する。PAHsの代謝物の2-OHFを、尿、毛髪、母乳で1-OHPも同時に測定する。GC/HRMS検出法で母乳検体のPBDEsを分析し、保存母乳を用いて30年間の推移を追跡する。クロルデン関連物質及びHCBを、成人189人の血清分析後検出された化学物質の年齢、性別及び魚介類摂食との関連を検討する。乳試料中BPAの高感度定量法を開発し、母乳用の前処理法を考案する。医療用品を対象にパラベン類を分析し、ラットの実験で浣腸剤や局部麻酔剤の体内動態を検討する。ブチルスズ化合物の人体暴露量を毛髪と妊婦試料で分析し、胎盤や母乳からの移行の可能性を検討する。ついで生体への影響は:①食品抗原の感作によって誘導される経口免疫寛容における抗体産生能への影響をTBTC(塩化トリブチルスズ)、DBTC(二塩化ジブチルスズ)について検討②絨毛、羊水、さい帯血中の重金属類を測定し、in vivo細胞反応として生体内高分子物質損傷や活性酸素の指標となる各種マーカー(SOD活性等)について測定③DEHAについて、胎児期及び授乳期に暴露された仔マウスの体重、生殖器、脾臓、胸腺重量を測定、脾臓と胸腺のリンパ球サブセットをFACS解析し、さらに足蹠にヒツジ赤血球を皮下注射して遅延型過敏症反応への影響も検討 ④DEHPの生殖系への影響を成熟期及び妊娠期マウスへ尾静脈に投与して精巣の精母細胞、精子形成への影響を解析⑤有機スズ化合物15種の副腎由来H295R細胞のコルチゾール産生及び精巣ライディッヒ細胞のテストステロン産生への影響とステロイド合成酵素活性の変化を解析⑥
習慣流産患者の背景因子と血中のPCB、HCB、DDEの濃度の関連を解析。さらに作用機序について:①ラット胎盤、精巣、および子宮をBPAで灌流しその代謝・動態を解析する化学物質灌流システムを確立し、臓器から調整したミクロゾームで化学物質代謝・解毒酵素の局在を解析②BaPの胎盤形成および胎児発生への影響を妊娠雌マウス(ICR系統)へ腹腔注射し、妊娠8.5日目の脱落膜組織をin situハイブリダイゼーション等で解析、さらに出産後の児の成長を観察③BaPの胎盤細胞分化への作用の解析は、栄養膜幹細胞(TS細胞)を培養し、各種分化栄養膜特異遺伝子をプローブとして検討④ERα、βの発現への効果は、異なる臓器由来細胞を用いた多数のE-screen assay系でエストロゲン依存性細胞増殖効果で比較検討する。
習慣流産患者の背景因子と血中のPCB、HCB、DDEの濃度の関連を解析。さらに作用機序について:①ラット胎盤、精巣、および子宮をBPAで灌流しその代謝・動態を解析する化学物質灌流システムを確立し、臓器から調整したミクロゾームで化学物質代謝・解毒酵素の局在を解析②BaPの胎盤形成および胎児発生への影響を妊娠雌マウス(ICR系統)へ腹腔注射し、妊娠8.5日目の脱落膜組織をin situハイブリダイゼーション等で解析、さらに出産後の児の成長を観察③BaPの胎盤細胞分化への作用の解析は、栄養膜幹細胞(TS細胞)を培養し、各種分化栄養膜特異遺伝子をプローブとして検討④ERα、βの発現への効果は、異なる臓器由来細胞を用いた多数のE-screen assay系でエストロゲン依存性細胞増殖効果で比較検討する。
結果と考察
生体試料分析のため、煩わしい準備の必要もなく破損やコンタミの心配がないDEHP測定に適したプラスチック製ディスポーザブル腹水採取器具を開発した。個々の分析の結果は:①さい帯血、母体血、腹水及び尿の35検体中のNP、OP濃度はいずれも検出限界(0.1-1.0ng/mL) 以下であった。また経口負荷後の4-t-OP、4-NPは速やかに尿中に排泄され、そのほとんどが抱合体であった。②毛髪中PAHsは喫煙との関連は認められなかったが、長期的な曝露指標となりうること、PAHsの摂取により抗エストロゲン、抗アンドロゲン様作用を有するPAHsが毛髪や母乳中に蓄積され、生体内でエストロゲン様活性を有する代謝物が生成され尿に排泄されていることが明らかになった。③分析した母乳13検体から2,2',4,4'-テトラブロモジフェニルエーテル(BDE-47)をはじめとする7種類のPBDEs(BDE-28,47,99,100,153,154,183)が,一部の試料から6種類のPBDEs(BDE-37,66,75,85,77,138)が検出された。母乳12検体については脂肪あたり数ppbレベルのPBDEs濃度であった。保存母乳検体の分析で PBDEs濃度は1973-88年度に上昇(ND-1.6 ppb)後は1-2ppb程度であることが明らかになった。④一般成人189人の血清分析で、93.7%の人からtrans-ノナクロル(0.03-1.65 ppb)が、90.5%からHCB(0.02-02.20 ppb)が、43.4%からはcis-ノナクロル(0.03-0.44 ppb)が検出された。trans-ノナクロル濃度は年齢、性別及び魚介類摂食との、HCB濃度は年齢との、関連が示唆された。⑤乳製品用に開発したBPA高感度定量法では、母乳試料中に阻害成分の存在が示唆され、新たな前処理法を確立し母乳中BPAが測定可能となった。⑥分娩時使用される医薬品にパラベン類が使用されており1回の摂取量は4~20mgであった。実験ではメチルパラベンが6種のパラベン類の中でもっとも分解が遅く、その半減期が8.5分であった。また、ヒト生体内でのパラベン類の消長をヒト尿試料を用いて明らかにした。⑦ブチルスズ化合物の毛髪分析から生体暴露が認められ、妊婦の生体試料分析から胎盤を通過した胎児側への移行と母乳からの暴露の可能性が示唆された。ついで、:①TBTC、DBTCの経口免疫寛容への影響②重金属類の母胎への暴露状況③DEHAの精巣、免疫系への影響④ DEHPのマウスの精巣、さらに妊娠中暴露による次世代の雄性生殖への影響が示された。⑤TBTO、TBT、DBT、TPTは0.3-1.0 (Mの曝露でH295R細胞の産生するコルチゾール産生を抑制し、これはステロイド合成酵素(P450c21やP45011()の阻害が一因。精巣ライディッヒ細胞のテストステロン産生もTBT、DBT及びTPTの0.03 (Mでの曝露により抑制⑥習慣流産患者血中のPCB、HCB、DDEの測定から、これらが流産をひき起こす危険性は低い⑦胎児・胎盤での検討から、子宮組織のバリヤー機能が示唆される一方で、子宮脱落膜への作用が二次的に胎盤形成に影響を及ぼす可能性も示唆⑦異なる臓器由来細胞を用いた多数のE-screen assay系での検討でERα、βの発現への効果が個々の内分泌かく乱化学物質に特異的であることが明らかになった。
結論
内分泌かく乱化学物質に関する分析法開発と実試料分析のためDEHP測定に適したプラスチック製ディスポーザブル腹水採取器具を開発した。NP、OP、2-OHF、PBDEs、クロルデン関連物質及びHCB、ブチルスズ化合物について分析法を開発し、人体暴露量とその食事嗜好、住環
境との関連を一部明らかにした。また、BPAの乳試料用高感度定量法を開発し、さい帯血で検出されパラベン類の医薬品の関与を明らかにした。ついで生体影響については:①有機スズ化合物が免疫に影響し②重金属類の母胎への暴露状況とその細胞障害の機序が一部明らかになった。さらに③DEHPのみでなくDEHAも生殖系にリスクを持つことが、④有機スズ化合物のステロイドホルモン産生への抑制が示唆された。一方⑤PCB、HCB、DDEが流産の危険性が低いこと、⑥内分泌かく乱物質へのバリヤー機能を子宮組織が持つの一方で、子宮脱落膜への作用が二次的に胎盤形成に影響を及ぼす可能性と⑦ERα、βの発現への効果が個々の内分泌かく乱化学物質に特異的であることが明らかになった。
境との関連を一部明らかにした。また、BPAの乳試料用高感度定量法を開発し、さい帯血で検出されパラベン類の医薬品の関与を明らかにした。ついで生体影響については:①有機スズ化合物が免疫に影響し②重金属類の母胎への暴露状況とその細胞障害の機序が一部明らかになった。さらに③DEHPのみでなくDEHAも生殖系にリスクを持つことが、④有機スズ化合物のステロイドホルモン産生への抑制が示唆された。一方⑤PCB、HCB、DDEが流産の危険性が低いこと、⑥内分泌かく乱物質へのバリヤー機能を子宮組織が持つの一方で、子宮脱落膜への作用が二次的に胎盤形成に影響を及ぼす可能性と⑦ERα、βの発現への効果が個々の内分泌かく乱化学物質に特異的であることが明らかになった。
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