文献情報
文献番号
200100931A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質の生殖機能と次世代への影響、特に生殖泌尿器系・先天異常の成因に関する疫学的研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 小柳 知彦
- 藤本征一郎(北海道大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
内分泌かく乱物質の多くは、催奇形性と神経発達の異常等の次世代影響が大きいのが特徴である。今回の研究では、尿道下裂、停留精巣等の先天異常の疫学研究をpopulation-basedで行い、発生率そのものが近年、真に増加しているかどうかを検討する。ついで、症例対照研究で、症例の親が、患児の出生前、特に生殖器が分化形成する時期に、内分泌かく乱物質(有機塩素系殺虫剤、PCB、あるいは、医薬品や植物性エストロゲン等)への曝露の有無、曝露量、種類等を調査する。同時に母体血、臍帯血を保存し、内分泌かく乱の疑いのある環境化学物質の濃度の測定を行う。これらの環境要因の検討と同時に、内分泌かく乱物質の代謝に関係の深い異物代謝・ステロイド代謝酵素等の遺伝子多型について検討する。このような遺伝子多型による個体の感受性の検討は予防上も重要である。以上の研究は、WHO等で研究の必要性が指摘されながら、科学的な根拠がこれまで乏しかった生殖機能や次世代影響について、日本の疫学データの蓄積をもって応えるもので確実な成果が期待される。
尿道下裂の成因に関しては不明な点が多くさまざまな説が提唱されているが、近年では胎児期の内分泌環境の異常がクローズアップされており、内分泌かく乱物質との関連からも深い関心が持たれている。そのためテストステロン生合成に関与するステロイド代謝酵素の異常を検索する必要があり、ステロイド代謝経路において重要な中間代謝産物について測定系を確立し、検証することは、尿道下裂の成因を明らかにするのに有効と考えられる。
難治性不育症(習慣流産)は、近年、免疫学的異常や凝固能異常がその発症機構に関与していることを示唆する研究報告が散見できるが、根本的な原因解明は未だなされていない。難治性不妊症に関して、現在わが国では出生数の低下が進行中であり、出産人口の一層の減少を来し、老齢化社会におこる諸問題をさらに深刻化させるとことが危惧される。生殖年齢にある女性の約1割を占めるといわれる不妊症の予防は、出生数の増加の他、医療経済的にも莫大なメリットがあり、本疾患の解明・予防は社会的に極めて重要と推察される。これら疾病に対して内分泌かく乱物質の関与の有無を調べることは斬新な手法であり、有用な解析結果が得られる可能性が極めて高いと考えられる。
尿道下裂の成因に関しては不明な点が多くさまざまな説が提唱されているが、近年では胎児期の内分泌環境の異常がクローズアップされており、内分泌かく乱物質との関連からも深い関心が持たれている。そのためテストステロン生合成に関与するステロイド代謝酵素の異常を検索する必要があり、ステロイド代謝経路において重要な中間代謝産物について測定系を確立し、検証することは、尿道下裂の成因を明らかにするのに有効と考えられる。
難治性不育症(習慣流産)は、近年、免疫学的異常や凝固能異常がその発症機構に関与していることを示唆する研究報告が散見できるが、根本的な原因解明は未だなされていない。難治性不妊症に関して、現在わが国では出生数の低下が進行中であり、出産人口の一層の減少を来し、老齢化社会におこる諸問題をさらに深刻化させるとことが危惧される。生殖年齢にある女性の約1割を占めるといわれる不妊症の予防は、出生数の増加の他、医療経済的にも莫大なメリットがあり、本疾患の解明・予防は社会的に極めて重要と推察される。これら疾病に対して内分泌かく乱物質の関与の有無を調べることは斬新な手法であり、有用な解析結果が得られる可能性が極めて高いと考えられる。
研究方法
①内分泌かく乱物質暴露と尿道下裂、停留精巣の因果関係を明らかにするために、質問紙調査法による症例対照研究を行った。尿道下裂に関しては、北海道大学附属病院泌尿器科にて経過観察中の症例157名、北海道大学小児科入院患者、市立札幌病院小児科外来受診患者からなる対照75名、停留精巣に関しては、北海道大学附属病院泌尿器科、市立札幌病院泌尿器科にて手術歴のある患児76名、対照87名を対象とした。調査内容は、出生時体重等の児要因、妊娠経過、過去の妊娠歴等の産科要因、両親の病歴、服薬歴、食事・生活習慣、職業・化学物質曝露歴等である。②尿道下裂12症例とその両親(11家族)コントロール1例(1家族)、末梢血計32検体について、アンドロゲン生合成系における異常の有無を調べるため、血清中の3-ヒドロキシステロイド、3-ケトステロイドを測定して、その比から代謝酵素の活性を求めた。③北海道大学医学部附属病院を受診した不育症、不妊症(子宮内膜症を含む)の患者および少なくとも1度正常分娩を経験した流産の既往のない年齢、居住地を合わせた健常女性を対象とし、対象者の末梢血から通常の方法でDNAを抽出した。シトクロムP450、グルタチオン転移酵素、キノン還元酵素のNQO1およびサイトカインのIL6の遺伝子多型を解析した。また、不育症におけるNK細胞の関与を51Cr遊離法やフローサイトメトリーを用いて調べ、 MIVIgの有効性を評価した。④北海道大学附属病院産婦人科を受診した高齢妊娠の適応、妊娠16週の胎児染色体核型が正常であった女性200人の母体血清および羊水中のビスフェノールA(BPA)を測定した。また、胎児染色体核型が異常であった女性48人の母体血と羊水中のBPAを測定した。
本研究は倫理面の十分な配慮のうえ行い、遺伝子解析研究を含む疫学研究は、原則として倫理委員会の審査・承認を経て実施し、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に従った。
本研究は倫理面の十分な配慮のうえ行い、遺伝子解析研究を含む疫学研究は、原則として倫理委員会の審査・承認を経て実施し、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に従った。
結果と考察
①低出生体重児(OR 3.00,95%CI 1.41-6.38)、妊娠中毒症の合併(OR 4.50, 95%CI 1.52-13.30)、帝王切開による分娩(OR 3.63, 95%CI 1.66-7.93)の場合に有意な尿道下裂のリスク上昇を認めた。尿道下裂症例では停留精巣の合併も多く、16.7%に認めた。食習慣では、きのこ類を週に一回以上食べる場合に、有意なリスク低下が認められた。停留精巣症例では、父親の停留精巣の既往が症例の5.3%に認められた。妊娠中の母親の喫煙(OR 4.4, 95%CI 1.2-16.8)で停留精巣のリスクを高めた。父親の妊娠前の喫煙(OR 1.8, 95%CI 0.9-3.8)、妊娠中の喫煙(OR 2.0, 95%CI0.96-4.2)でも同様の傾向が認められた。また、父親の妊娠前の職業性ガソリン曝露(OR 4.3, 95%CI 1.1-16.1)は高リスク要因となり、身近な化学物質と停留精巣との関連が示唆された。②各ステロイド中間代謝産物のうち、Pregnenoloneは分析不可能で、その他も測定感度以下の例が多数に認められたため、ステロイド代謝酵素活性に何らかの異常を見出すことができなかった。近位型尿道下裂の1例において、Δ5系ステロイドの高値、Δ4系ステロイド低値あるいは測定感度以下で3β水酸化ステロイド脱水素酵素の欠損異常が疑われた。 このような手法によるステロイド代謝酵素異常の検索は非効率的であり、感度・特異度が低いため、今後は感度・特異度の面で安定した測定法を確立する必要がある。③GSTM1遺伝子完全欠損型の頻度は不育症例で高く、不育症のリスクを高めることが示唆された(オッズ比2.8、95 %信頼区間1.6-5.1)。また、また、CYP1A2遺伝子DdeI多型の変異型ホモ接合の頻度、GSTP1遺伝子BsmAI多型またはIL6遺伝子BsrBI多型で少なくとも1本の対立遺伝子に変異型を持つ頻度が不育症例で低い傾向とCYP2C9*3多型またはCYP17遺伝子MspA1I多型で少なくとも1本の対立遺伝子に変異型を持つ頻度が不育症例で高い傾向がみられた。Ahレセプターを介する代謝系(aryl hydrocarbon gene battery)では、第Ⅰ相よりも第Ⅱ相反応酵素の機能欠損により生殖毒性が引き起こされる可能性が示唆された。また、不育症例に高NK細胞活性などの免疫学的異常が関与していること明らかとなった。ガンマグロブリン大量療法(MIVIg)は、 NK細胞を抑制することで有効性を発揮するものと考えられた。これらより不育症の発症機構に免疫学的異常が関与していることが推察され、内分泌かく乱物質との関連をさらに検討する必要があると考えられた。④第2三半期初期(妊娠16週)の羊水・母体血についてビスフェノールA(BPA)を測定した結果、近年、BPAの母体曝露は減少してきていることが判明した。母体血BPAの羊水への移行は抑制されており、妊娠16週では母児間バリアが存在することが推察された。
結論
①尿道下裂、停留精巣の症例対照研究により、尿道下裂では、低出生体重児、妊娠中毒症の合併、帝王切開による分娩の場合に有意なリスク上昇が認められた。停留精巣の合併も多く,16.7%に認められた。食習慣のうち、きのこ類を週に一回以上食べる場合に,有意なリスク低下が認められた。停留精巣では、妊娠中の母親の喫煙のみならず、父親の喫煙、職業生化学物質曝露によるオッズ比の上昇を認め、関連が示唆された。②尿道下裂12例とその両親(計11家族)およびコントロール1例(1家族)の血清中のステロイド中間代謝産物を測定したところ、Preg.は測定不能、他の5種のステロイド中間代謝産物も測定感度以下の症例が多く生じ、明らかなステロイド代謝異常例を見出し得なかった。ただ、近位型の1例に3βHSD欠損が疑われた。③GSTM1遺伝子完全欠損型の頻度は不育症例で高く、不育症のリスクを高めることが示唆された。また、CYP1A2遺伝子の変異型ホモ接合の頻度、GSTP1遺伝子またはIL6遺伝子で変異型を持つ頻度が不育症例で低い傾向とCYP2C9遺伝子またはCYP17遺伝子で変異型を持つ頻度が不育症例で高い傾向がみられた。Ahレセプターを介する代謝系では、第Ⅰ相よりも
第Ⅱ相反応酵素の機能欠損により生殖毒性が引き起こされる可能性が示唆された。また、不育症の発症機構に免疫学的異常が関与していることが推察され、内分泌かく乱物質との関連をさらに検討する必要があると考えられた。④近年、BPAの母体曝露は減少してきているが、新生児異常や内分泌学的、免疫学的異常との関連を明らかにする必要があると考えられた。
第Ⅱ相反応酵素の機能欠損により生殖毒性が引き起こされる可能性が示唆された。また、不育症の発症機構に免疫学的異常が関与していることが推察され、内分泌かく乱物質との関連をさらに検討する必要があると考えられた。④近年、BPAの母体曝露は減少してきているが、新生児異常や内分泌学的、免疫学的異常との関連を明らかにする必要があると考えられた。
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