文献情報
文献番号
                      200100929A
                  報告書区分
                      総括
                  研究課題名
                      内分泌かく乱物質のヒトへの影響評価を指向した試験系の開発(総括研究報告書)
                  研究課題名(英字)
                      -
                  課題番号
                      -
                  研究年度
                      平成13(2001)年度
                  研究代表者(所属機関)
                      大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
                  研究分担者(所属機関)
                      - 中澤憲一(国立医薬品食品衛生研究所)
- 佐藤薫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
                      厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
                  研究開始年度
                      平成11(1999)年度
                  研究終了予定年度
                      平成13(2001)年度
                  研究費
                      13,500,000円
                  研究者交替、所属機関変更
                      -
                  研究報告書(概要版)
研究目的
            本研究は内分泌かく乱物質のヒトへの影響評価を指向した試験系の開発を目的とする.3年計画の3年度にあたる本年度では,昨年度見い出したエスロトゲン様化学物質のこれらの系に対する作用の作用機序を調べるとともに,他の細胞あるいは機能分子に対する作用の比較検討を行ない,系の有用性を確認することを主な目的とした.脳高次機能維持標本を用いた悪影響評価に関するの研究では,培養海馬スライス標本におけるエストロゲン様化学物質のグルタミン酸毒性に対する増悪作用の作用機序を検討し,さらにこれらの化学物質のグリア細胞に対する影響を検討することを目的とした.分子生物学的手法によるヒト型受容体異種細胞発現系に関する研究では,アフリカツメガエル卵母細胞におけるヒト型アセチルコリン受容体に対するエストロゲン様物質の影響の作用機序を検討し,さらにこれらの物質のヒト型ATP受容体に対する影響を検討することを目的とした.
      研究方法
            海馬スライスはインターフェイス法により培養した.ラットより脳を摘出し,厚さ300μmの海馬スライスを作製した.海馬スライスを膜上に置き,培養液中,37℃にて12日間培養した.17β-エストラジオールおよび類縁物質を24時間処置した後,シナプス前神経の形状を1,1'-dioctadecyl-3,3,3',3'-tetramethylindocarbocyanine perchlorate(DiI)染色,シナプス前神経終末の定量を亜鉛のN-(6-methoxy-8-quinolyl)-p-toluenesulfonamide (TSQ)キレートによる発蛍光, NMDA受容体を免疫組織化学により観察,定量化した.グリア細胞に対する作用を調べる実験では大脳皮質より得たアストロサイト初代培養を17β-エストラジオールおよび類縁物質で24時間処置した後,グルタミン酸取り込み能を調べた.さらに,細胞の生存を乳酸デヒドロゲナーゼ放出量,MTT還元法,ヘマトキシリン染色により定量,分裂活性に対する作用を臭化デオキシウラシル取り込みに対する免疫染色により検討した.
分子生物学的手法によるヒト型受容体異種細胞発現系に関する研究では,ヒト型受容体を発現させる細胞として初年度に系を確立したアフリカツメガエル卵母細胞を用いた.ヒト型受容体cDNAは哺乳動物発現型プラスミドに組み込み,大腸菌を用いて増幅させた.これを鋳型としてRNAをin vitro転写により合成した.ヒト型受容体としては古典的な神経伝達物質であるアセチルコリンのニコチン様受容体,および近年新たに神経伝達物質であることが広く認知された細胞外ATPのP2X7受容体を用いた.アフリカツメガエルより卵母細胞を摘出し,コラゲナーゼ処理によりろ胞細胞を除去した.第IV,V期の卵母細胞を実体顕微鏡下で選別し,これにRNAを注入した.18℃で2 - 5日間の培養後,電気生理学的手法により受容体に対する各種化合物の影響を検討した.
      分子生物学的手法によるヒト型受容体異種細胞発現系に関する研究では,ヒト型受容体を発現させる細胞として初年度に系を確立したアフリカツメガエル卵母細胞を用いた.ヒト型受容体cDNAは哺乳動物発現型プラスミドに組み込み,大腸菌を用いて増幅させた.これを鋳型としてRNAをin vitro転写により合成した.ヒト型受容体としては古典的な神経伝達物質であるアセチルコリンのニコチン様受容体,および近年新たに神経伝達物質であることが広く認知された細胞外ATPのP2X7受容体を用いた.アフリカツメガエルより卵母細胞を摘出し,コラゲナーゼ処理によりろ胞細胞を除去した.第IV,V期の卵母細胞を実体顕微鏡下で選別し,これにRNAを注入した.18℃で2 - 5日間の培養後,電気生理学的手法により受容体に対する各種化合物の影響を検討した.
結果と考察
            脳高次機能維持標本を用いた悪影響評価の研究では,昨年度までに培養海馬スライスにおける内因性活性物質グルタミン酸による部位選択的神経細胞障害を17β-エストラジオール(E2),17α-エチニルエストラジオール(EE),ジエチルスチルスベロール(DES),ビスフェノールA(BPA),p-ノニルフェノール(pNP;いずれも1 nM)が増悪させることを示した.今年度の研究でこれらの化合物を同様の条件で培養海馬に処置したところ,後シナプス部の突起状の構造であるスパインの増加およびNMDA受容体の増加が認められた.また,前シナプスの指標であるTSQによる蛍光の増加も認められた.以上のことから,低濃度の17β-エストラジオールおよび類縁物質が培養海馬スライスのシナプス後神経のスパインおよびNMDA受容体を増加させること,シナプス前神経終末を増加させることが示された.これらの変化はいずれも昨年度までに示された17β-エストラジオールなどの化合物によるグルタミン酸誘発神経細胞障害増悪の機序となりうる.すなわち,これらの内分泌かく乱化学物質は海馬神経に形態変化を生じ,生体内の機能タンパク質の生合成/代謝に影響を与え,その結果障害を増悪させるという一連の機序が明らかにされたといえる.初代培養アストロサイトを用いた実験では,E2,EE,DESにより濃度依存的なグルタミン酸の取り込み阻害が認められた.MTT法を始めとする3種類の方法を試みた結果,この取り込み阻害に際して生細胞数の減少は起こっていないことが確認された.E2による取り込み阻害はエストロゲン受容体遮断薬であるICI182.781,および外液のナトリウムを除去することにより消失した.このことから,この取り込み阻害はグルタミン酸トランスポーターに対する選択的な作用と考えられた.また,エストロゲン受容体遮断薬であるICI182.781が阻害を抑制し,ゼノエストロゲンは阻害を示さない,という特質は上記の神経細胞に対する影響とは異なっており,同じ脳内であっても神経細胞とグリア細胞に対しては内分泌かく乱物質の作用態度に差があることを示している.
分子生物学的手法によるヒト型受容体異種細胞発現系に関する研究では,ヒト型アセチルコリン受容体をα3+β4というサブユニットの組み合わせで発現させた場合,この受容体を介するイオン電流はE2,EE,DES,pNP17, 17α-エストラジオール(αE2), p-オクチルフェノール(pOP)により抑制された.受容体のサブユニット構成をα4+β2に替えた場合,DES, BPA, pNP, pOPは抑制作用を示したが,E2,αE2は抑制を示さなかった.また,このサブユニットの組み合わせにおいてEEは低濃度で抑制,高濃度で増強という2相性の作用を示した.抑制,増強のいずれの場合でもアセチルコリン受容体の濃度-作用曲線は平行移動せず最大値が変化した.サブユニットの組み合わせで作用が大きく変化した化合物についてサブユニット交換(α3+β2,α4+β4)の影響を調べた結果,作用を決定するのは単独のサブユニットではないことが判明した.以上のことから,エストロゲン様物質のヒト型アセチルコリン受容体に対する作用は受容体を構成するサブユニットに依存するが,これは単独のサブユニットに帰するものではなくサブユニットにより受容体が構成された後に現われる性質であると考えられた.作用態度は非競合的であり,アセチルコリンの結合に対して直接的に影響するものではないと推察される.ヒト型ATP受容体(P2X7)を発現させた場合,これを介するイオン電流は17β-エストラジオールおよびビスフェノールAで抑制されたが,抑制の程度はアセチルコリン受容体で認められたものに比べて顕著ではなかった.このことはエストロゲン様物質の作用はアセチルコリン受容体に対して選択的であることを示している. ATP受容体がアセチルコリン受容体と構造が大きく異なることを考慮すると,アセチルコリン受容体と類似した構造を有する他の受容体(例えばグルタミン酸受容体,γ-アミノ酪酸受容体)に対する影響の可能性も考えらる.
      分子生物学的手法によるヒト型受容体異種細胞発現系に関する研究では,ヒト型アセチルコリン受容体をα3+β4というサブユニットの組み合わせで発現させた場合,この受容体を介するイオン電流はE2,EE,DES,pNP17, 17α-エストラジオール(αE2), p-オクチルフェノール(pOP)により抑制された.受容体のサブユニット構成をα4+β2に替えた場合,DES, BPA, pNP, pOPは抑制作用を示したが,E2,αE2は抑制を示さなかった.また,このサブユニットの組み合わせにおいてEEは低濃度で抑制,高濃度で増強という2相性の作用を示した.抑制,増強のいずれの場合でもアセチルコリン受容体の濃度-作用曲線は平行移動せず最大値が変化した.サブユニットの組み合わせで作用が大きく変化した化合物についてサブユニット交換(α3+β2,α4+β4)の影響を調べた結果,作用を決定するのは単独のサブユニットではないことが判明した.以上のことから,エストロゲン様物質のヒト型アセチルコリン受容体に対する作用は受容体を構成するサブユニットに依存するが,これは単独のサブユニットに帰するものではなくサブユニットにより受容体が構成された後に現われる性質であると考えられた.作用態度は非競合的であり,アセチルコリンの結合に対して直接的に影響するものではないと推察される.ヒト型ATP受容体(P2X7)を発現させた場合,これを介するイオン電流は17β-エストラジオールおよびビスフェノールAで抑制されたが,抑制の程度はアセチルコリン受容体で認められたものに比べて顕著ではなかった.このことはエストロゲン様物質の作用はアセチルコリン受容体に対して選択的であることを示している. ATP受容体がアセチルコリン受容体と構造が大きく異なることを考慮すると,アセチルコリン受容体と類似した構造を有する他の受容体(例えばグルタミン酸受容体,γ-アミノ酪酸受容体)に対する影響の可能性も考えらる.
結論
            本年度の研究により脳の生理的な高次機能を保持した系である培養海馬スライス標本において低濃度の17β-エストラジオールおよび類縁物質が惹起するグルタミン酸誘発神経細胞障害増悪がシナプス前後の両神経の形態変化および受容体タンパク質の生合成/代謝への影響に起因すること,また,同じ脳内であってもグリア細胞に対する影響は神経細胞に対するものとは異なることが示された.また,ヒト型アセチルコリン受容体に対してエストロゲン様物質が非競合的抑制あるいは増強を惹起すること,この作用はATP受容体に対する作用に比べ選択的であることが示され,研究を通じてアフリカツメガエル卵母細胞がヒトに対する作用を予見するのに有用であることが示唆された.
      公開日・更新日
公開日
          -
        更新日
          -