文献情報
文献番号
200100919A
報告書区分
総括
研究課題名
シックハウス症候群の病態解明、診断治療法に関する研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
石川 哲(北里研究所病院臨床環境医学センター)
研究分担者(所属機関)
- 相澤好治(北里大学医学部衛生学公衆衛生学)
- 秋山一男(国立相模原病院臨床研究センター)
- 荒記俊一(産業医学総合研究所)
- 荒田次郎(洋友会中島病院)
- 糸山泰人(東北大学大学院医学系研究科神経科学講座神経内科学)
- 木村 穣(東海大学医学部分子生命科学2遺伝情報部門)
- 久保木富房(東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学)
- 竹内康浩(放射線医学総合研究所緊急被ばく医療センター)
- 那須民江(名古屋大学大学院医学研究科社会生命科学環境労働衛生学)
- 西間三馨(国立療養所南福岡病院)
- 馬島徹(日本大学医学部第一内科学)
- 吉田晃敏(旭川医科大学眼科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
68,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
シックハウス症候群(Sick House Syndrome:SHS以下本症と略)の病態解明、診断・治療開発に関する研究が目的である。各領域の専門家により班が構成されている。臨床は内科、小児科、皮膚科、眼科、アレルギー科、中毒専門家、疫学専門家、労働衛生専門家、更に重要なのは工学部の参加で建築学と応用化学系の班員参加により、従来から室内空気(Indoor Air Quality)問題を研究してきた専門家を含め学際的研究が遂行されている。これら横のつながりをつけて取り組んでシックビル/ハウス症候群関係の研究を行なったものは世界的にみても存在しない。
研究方法
本症の診断は厚生省アレルギー研究班が1998年に作成した化学物質過敏症患者の診断法に基づき行われている。これに加えて米国MITのAshford & Millerらにより作られた患者発見の為のアンケートQEESI(Quick Environmental Exposure and Sensitivity Inventory)を用いた疫学調査、更には日本の飯倉洋治研究班のアンケートも使われている。患者診断は出来るだけ他覚的方法による技術を駆使して精神、神経面から来る訴えと区別する方法が用いられている。酸化、還元ヘモグロビンから血流を測定する方法、脳神経機能を判定するコントラスト感度測定、滑動性眼球追従運動測定、自律神経判定の為の瞳孔反応の解析、その他アレルギー検査、免疫検査及び一般内科検査等が駆使されている。これらは、病院以外の場所で行われる住民検診でも測定されている。最終的診断はchallenge testと呼ばれている負荷試験を微量の化学物質にて行い診断を行なう。診断された患者は必要に応じてクリーンルーム内で高濃度酸素療法、解毒剤、代謝促進剤、ビタミン、ミネラル、重金属等の治療を受ける。治療により、改善する症例は多く我々はシックハウス症候群の予後に関しての未来は明るいと考えている。
結果と考察
石川が担当した研究はシックハウス症候群の病態、他覚的診断法の開発、化学物質の室内濃度測定、得られた結果と臨床結果との擦りあわせである。北里研究所病院臨床環境医学センターのみならず東北大学の援助のもと仙台、塩竃地区住民のシックハウス症候群疑いの患者検診も綿密な計画のもとで行なった。成人のみならず、小児とくにシックハウスに住んでいるアレルギー患者及び非患者対照例についても同時に検討を加え学際的研究が行われた。また予備的に患者の内科学的側面の研究として、限られた例ではあるが、内分泌、免疫学的な側面の研究が加わった。また、化学物質過敏症と診断された症例の中から、active, passive法で化学物質の濃度と症状の関係を解明する方法が採用されている。次に低用量フタル酸類の免疫系におよぼす影響について研究をした。3年次に向けて患者治療の面からも検討を開始した。解毒剤の使用、サプルメント、クリーンルーム環境下での酸素治療(この基礎研究)と改良した建築材料に対する対策研究も行われている。重要なことは治療患者は現在まで悪化例はなく、殆どの症例が不定愁訴で悩んでいたが、本症の治療(主に薬物治療)により軽
快方向に向かって行くことが明かとなった。本症に罹患している患者にとっては明るい材料になると考える。以下各班員の研究の概略を記す。詳細は本文を参照されたい。
相澤らはMCSを疑う患者と対照例とを比較し、不安と抑鬱の面から検討した。両者の得点がMCSで有意に高いこと。また初診時対照例とMCSとの差は認め難かったが再診時に差がみられうること。解剖実習中の学生に鼻粘膜嗅覚変化などが起こるか、将来MCS患者に移行する可能性の有無につき耳鼻科的側面から検討した。嗅覚過敏を示す傾向がある例もありうるので、その点を将来的に症例数を増やし検討する。また、MCS患者について嗅覚識別検査を施行し、研究中である。
秋山らはシックハウス症候群の病態におけるアレルギー反応の関与をアンケートと自己筆記式アンケート調査で喘息、非喘息患者で比較検討した。住まいと関連した各種症状の保有率は明らかに喘息患者で高い。鼻症状以外は新築、改築後の発症に関して差はなかった。その他実験的研究が追加されている。免疫学的手法で微量化学物質の免疫系への影響をフォルムアルデヒドを用い研究した。ヒト好塩基球からのヒスタミン遊離能、好酸球の遊走能、Thリンパ球からのサイトカイン遊離能を指標としたin vitroの系で検討した。フォルムアルデヒドによるT細胞からのサイトカイン産生への影響ではIL4,5ともベル型の産生亢進がみられた。その他各種抗原量の測定が特定の患者で調査されている。
荒記らは労働環境に於けるシックハウス症候群の実態と労働衛生的見地から関連する職場にて調査を開始している。そのために独特のアンケートを作り研究中である。内装作業者は数種のアルデヒドに曝露されていることがわかった。職業性の曝露がその自覚症状の発症頻度やパターンに何らかの影響を与えていると考えられた。今後臨床症状との関係をさらに検討予定である。その他フォルムアルデヒドのDNPH法、検知管法との比較検討をおこなっている。吉野らも以前同様な研究を行っている。
荒田らは5人の協力研究者と共に室内環境と皮膚過敏症(不定愁訴を含む)につき研究した。シックハウス症候群の可能性のある皮膚疾患の検討、室内環境生物学的物質および化学物質の表皮細胞サイトカイン産生に及ぼす影響、フォルムアルデヒド曝露経験者における自覚症状と皮膚試験結果、アトピー性皮膚炎などの慢性湿疹、皮膚過敏症に対する化学物質の関与について研究を行った。マウスを用いたフォルムアルデヒドの実験では耳介の腫脹で見ると投与群では腫脹が大きい、これはフォルムアルデヒドガスの存在下ではCHS(contact hyersensitivity)は増悪すること、つまり、アレルギー性皮膚炎において悪化因子となりうることが示唆されている。
糸山らは東北地区のシックハウス症候群症例につき臨床面、免疫面から検討を開始した。頭痛、めまいに関しては、転居直後ではなく、数ヶ月後に発症している。頭痛については緊張性頭痛の特徴を有した。めまいは前庭性のものとは異なり、ふらふらする自律神経系の調節失調を示唆した。T&T嗅覚テスト結果では、嗅覚過敏傾向を示す例は多かったが、更なる検討を必要とする。免疫学的異常の存在と嗅覚過敏とが共に認められる傾向があった。典型例では嗅覚刺激をトリガーにして副交感神経の過敏状態が出現することが特徴的であった。酸化的ストレス反応と関連するバイオピリンを検討した。今後症例を増やす必要がある。
木村らは2001年の後半から班員に加わり、シックハウス症候群に発症しやすいか否かの遺伝子型の違いによる感受性差によるものであることを解明せんとした。今年度はその候補遺伝子としてPON1遺伝子多型との関連について明らかにすることを目的とし、患者血液から調整したDNAを用いて塩基配列の多型性を解析した。PON1から作られる蛋白質はパラオキソナーゼ酵素であり、コレステロールの酸化を防ぐ一方パラチオン、クロルピリフォスなどの有機燐系殺虫剤の成分を分解する。これまでに得られている結果として、PON1遺伝子産物の酵素活性に影響を与えると思われるカ所で健常ヒトとの遺伝子多型パターンとの間に頻度差が検出されている。また日本人と欧米人の健常者の間でも差異が存在し、外国人データをそのまま日本人に当てはめるには無理があることも判明した。今後検査数を増やすとともに、この遺伝子が真の意味で候補となる遺伝子かどうかをゲノムワイドに解析していく事が科学的見地から重要であるとしている。
久保木らはシックハウス症候群、化学物質過敏症の病態とストレス性要因の関わりを解明することを目途とした。化学物質過敏症と診断された群、化学物質の曝露を受けながら症状の無いコントロール群とで、発症に先立つ心理社会的ストレス、発症に関わる個人差要因、発症後の状態における心身相関の3つの観点から比較検討が行われた。化学物質の曝露に加えて心理社会的ストレスが大きい者に発症する傾向があった。2年目には症状の経時的変化を評価するEcological Momentary Assessment(EMA)手法を用い化学物質の負荷のある生活の中で症状、心拍、体動、passive sampling, active sampling法に夜化学物質曝露りょうの測定を1週間連続で行っている。active sampling法で化学物質の反応が示唆された患者では症状自覚時に身体、精神症状の双方が同時に高くこの疾患が化学物質の曝露によって多様な心身の症状が引き起こされる疾患であることが示された。
竹内らは有機溶剤の面からシックハウス症候群の研究を行なっている。特に寝室で症状と化学物質量との間で相関が見られた。特にトルエン(酔った感じ、吐き気、目が痛い)、キシレン(体がだるい)、フォルムアルデヒド(のどの調子が悪い)が関連していた。アルデヒド類と臨床症例との関連性について、標準アレルゲンについてパッチテストを施行し、感作及び交差感作の成立の有無を検討している。慢性有機溶剤中毒の自覚症状は神経系症状である。有機溶剤と関連する疾患として、Stevens Johnson Syndrome他が関係するようだ。特に中国でStevens Johnson Syndromeの多発が問題になっている。この研究は日本でも難病とされるいくつかの疾患と有機溶剤との関連性を推定した貴重な研究である。さらに、2-ethylhexanolによる症例を詳しく検討している。症状が強い部屋では400μg/立方メートルを越えていた。感受性の個体差が大きいと考えられる疾患、contact dermatitis, Stevens Johnson Syndrome、ベーチェット病、特発性紫斑病、多発性動脈周囲炎などを調査中。そしてトリクロロエチレンと皮膚・肝臓障害の解析も加えた。
那須は木村と同様に2001年の後半から班員に加わりフォルムアルデヒドアルデヒドの代謝につきアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)を中心に研究している。現在1. ALDH2ノックアウトマウスを作成中である。2. 免疫毒性学的研究ではフォルムアルデヒド、ビスフェノールA, フタル酸エステル類の免疫毒性研究、3. フォルムアルデヒドおよびフタル酸エステルの代謝の検討を行なっている。今後ALDH2ノックアウトマウスを用いてシックハウス症候群の原因となる化学物質の代謝、毒性に与えるALDH2遺伝子型の影響およびシックハウスとの関連性を検討する。
西間らはMCSとアレルギー気管支喘息との関係を広範囲に臨床疫学的に検討している。特にSpecific IgEをRast法で調べている。MCSを疑われた患者の臨床症状を調査し建築面からも検討を加えている。気を付けておきたいのはHCHO特異的IgE抗体は我々の過去の研究つまり微量のHCHOに反応した症例でも本検査結果は陰性に出ている。本検査法が真の意味で鋭敏にHCHO特異的IgE抗体を測定しているか否か、今後方法論、実際陽性にでた臨床例とのすり合わせをする必要がある。米国では皮内テストは行っているが、HCHO特異的IgE抗体を利用している所は極めて少ない。尚、カプサイシン負荷テストはスエーデンでも採用されている標準的方法で今後是非テストしてみたい。
馬島はフォルムアルデヒド(FA)の気道上皮イオントランスポートに及ぼす影響をvoltage clamp法を用いて、short circuit currentを測定している。動物はハートレイモルモットの気管である。フォルムアルデヒドを1、10 ppm 投与で10ppmでは変化がありshort circuit currentの増加が認めた。今年度は(FA)吸入による呼吸機能・気道過敏性への影響、(FA)の気道上皮イオントランスポートに及ぼす影響をさらに追及、シックハウス症候群における(FA)の気道上皮内伝達機構への影響について検討している。基礎的な面での研究である。
吉田は今年度から参加した。研究開始第一年度であるが、平成13年12月から翌年3月までに4名の女性のシックハウス症候群患者の眼血流動態を調べた。発症原因は新築、リフォームが考えられた症例。中心視力に異常はないが、1例はコントラスト感度の低下、涙液分泌低下を3例に認め、3例中2例では静脈酸素飽和度は正常値25mmHgを大きく越えていた。レーザードップラー眼底血流計により測定された中心窩脈絡膜血流量は年齢を一致させた正常対照群に比べて統計的有意に低下していた。つまりシックハウス症候群患者では、中心窩脈絡膜血流量が減少している可能性が強い。本法はいわゆるnon-invasiveな正確なる方法であり、今後患者に見られ易い血流障害の有無の診断に、本法による測定、NIROによる測定, 静脈酸素飽和度測定は重要な他覚的検査法となると考えられる。
快方向に向かって行くことが明かとなった。本症に罹患している患者にとっては明るい材料になると考える。以下各班員の研究の概略を記す。詳細は本文を参照されたい。
相澤らはMCSを疑う患者と対照例とを比較し、不安と抑鬱の面から検討した。両者の得点がMCSで有意に高いこと。また初診時対照例とMCSとの差は認め難かったが再診時に差がみられうること。解剖実習中の学生に鼻粘膜嗅覚変化などが起こるか、将来MCS患者に移行する可能性の有無につき耳鼻科的側面から検討した。嗅覚過敏を示す傾向がある例もありうるので、その点を将来的に症例数を増やし検討する。また、MCS患者について嗅覚識別検査を施行し、研究中である。
秋山らはシックハウス症候群の病態におけるアレルギー反応の関与をアンケートと自己筆記式アンケート調査で喘息、非喘息患者で比較検討した。住まいと関連した各種症状の保有率は明らかに喘息患者で高い。鼻症状以外は新築、改築後の発症に関して差はなかった。その他実験的研究が追加されている。免疫学的手法で微量化学物質の免疫系への影響をフォルムアルデヒドを用い研究した。ヒト好塩基球からのヒスタミン遊離能、好酸球の遊走能、Thリンパ球からのサイトカイン遊離能を指標としたin vitroの系で検討した。フォルムアルデヒドによるT細胞からのサイトカイン産生への影響ではIL4,5ともベル型の産生亢進がみられた。その他各種抗原量の測定が特定の患者で調査されている。
荒記らは労働環境に於けるシックハウス症候群の実態と労働衛生的見地から関連する職場にて調査を開始している。そのために独特のアンケートを作り研究中である。内装作業者は数種のアルデヒドに曝露されていることがわかった。職業性の曝露がその自覚症状の発症頻度やパターンに何らかの影響を与えていると考えられた。今後臨床症状との関係をさらに検討予定である。その他フォルムアルデヒドのDNPH法、検知管法との比較検討をおこなっている。吉野らも以前同様な研究を行っている。
荒田らは5人の協力研究者と共に室内環境と皮膚過敏症(不定愁訴を含む)につき研究した。シックハウス症候群の可能性のある皮膚疾患の検討、室内環境生物学的物質および化学物質の表皮細胞サイトカイン産生に及ぼす影響、フォルムアルデヒド曝露経験者における自覚症状と皮膚試験結果、アトピー性皮膚炎などの慢性湿疹、皮膚過敏症に対する化学物質の関与について研究を行った。マウスを用いたフォルムアルデヒドの実験では耳介の腫脹で見ると投与群では腫脹が大きい、これはフォルムアルデヒドガスの存在下ではCHS(contact hyersensitivity)は増悪すること、つまり、アレルギー性皮膚炎において悪化因子となりうることが示唆されている。
糸山らは東北地区のシックハウス症候群症例につき臨床面、免疫面から検討を開始した。頭痛、めまいに関しては、転居直後ではなく、数ヶ月後に発症している。頭痛については緊張性頭痛の特徴を有した。めまいは前庭性のものとは異なり、ふらふらする自律神経系の調節失調を示唆した。T&T嗅覚テスト結果では、嗅覚過敏傾向を示す例は多かったが、更なる検討を必要とする。免疫学的異常の存在と嗅覚過敏とが共に認められる傾向があった。典型例では嗅覚刺激をトリガーにして副交感神経の過敏状態が出現することが特徴的であった。酸化的ストレス反応と関連するバイオピリンを検討した。今後症例を増やす必要がある。
木村らは2001年の後半から班員に加わり、シックハウス症候群に発症しやすいか否かの遺伝子型の違いによる感受性差によるものであることを解明せんとした。今年度はその候補遺伝子としてPON1遺伝子多型との関連について明らかにすることを目的とし、患者血液から調整したDNAを用いて塩基配列の多型性を解析した。PON1から作られる蛋白質はパラオキソナーゼ酵素であり、コレステロールの酸化を防ぐ一方パラチオン、クロルピリフォスなどの有機燐系殺虫剤の成分を分解する。これまでに得られている結果として、PON1遺伝子産物の酵素活性に影響を与えると思われるカ所で健常ヒトとの遺伝子多型パターンとの間に頻度差が検出されている。また日本人と欧米人の健常者の間でも差異が存在し、外国人データをそのまま日本人に当てはめるには無理があることも判明した。今後検査数を増やすとともに、この遺伝子が真の意味で候補となる遺伝子かどうかをゲノムワイドに解析していく事が科学的見地から重要であるとしている。
久保木らはシックハウス症候群、化学物質過敏症の病態とストレス性要因の関わりを解明することを目途とした。化学物質過敏症と診断された群、化学物質の曝露を受けながら症状の無いコントロール群とで、発症に先立つ心理社会的ストレス、発症に関わる個人差要因、発症後の状態における心身相関の3つの観点から比較検討が行われた。化学物質の曝露に加えて心理社会的ストレスが大きい者に発症する傾向があった。2年目には症状の経時的変化を評価するEcological Momentary Assessment(EMA)手法を用い化学物質の負荷のある生活の中で症状、心拍、体動、passive sampling, active sampling法に夜化学物質曝露りょうの測定を1週間連続で行っている。active sampling法で化学物質の反応が示唆された患者では症状自覚時に身体、精神症状の双方が同時に高くこの疾患が化学物質の曝露によって多様な心身の症状が引き起こされる疾患であることが示された。
竹内らは有機溶剤の面からシックハウス症候群の研究を行なっている。特に寝室で症状と化学物質量との間で相関が見られた。特にトルエン(酔った感じ、吐き気、目が痛い)、キシレン(体がだるい)、フォルムアルデヒド(のどの調子が悪い)が関連していた。アルデヒド類と臨床症例との関連性について、標準アレルゲンについてパッチテストを施行し、感作及び交差感作の成立の有無を検討している。慢性有機溶剤中毒の自覚症状は神経系症状である。有機溶剤と関連する疾患として、Stevens Johnson Syndrome他が関係するようだ。特に中国でStevens Johnson Syndromeの多発が問題になっている。この研究は日本でも難病とされるいくつかの疾患と有機溶剤との関連性を推定した貴重な研究である。さらに、2-ethylhexanolによる症例を詳しく検討している。症状が強い部屋では400μg/立方メートルを越えていた。感受性の個体差が大きいと考えられる疾患、contact dermatitis, Stevens Johnson Syndrome、ベーチェット病、特発性紫斑病、多発性動脈周囲炎などを調査中。そしてトリクロロエチレンと皮膚・肝臓障害の解析も加えた。
那須は木村と同様に2001年の後半から班員に加わりフォルムアルデヒドアルデヒドの代謝につきアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)を中心に研究している。現在1. ALDH2ノックアウトマウスを作成中である。2. 免疫毒性学的研究ではフォルムアルデヒド、ビスフェノールA, フタル酸エステル類の免疫毒性研究、3. フォルムアルデヒドおよびフタル酸エステルの代謝の検討を行なっている。今後ALDH2ノックアウトマウスを用いてシックハウス症候群の原因となる化学物質の代謝、毒性に与えるALDH2遺伝子型の影響およびシックハウスとの関連性を検討する。
西間らはMCSとアレルギー気管支喘息との関係を広範囲に臨床疫学的に検討している。特にSpecific IgEをRast法で調べている。MCSを疑われた患者の臨床症状を調査し建築面からも検討を加えている。気を付けておきたいのはHCHO特異的IgE抗体は我々の過去の研究つまり微量のHCHOに反応した症例でも本検査結果は陰性に出ている。本検査法が真の意味で鋭敏にHCHO特異的IgE抗体を測定しているか否か、今後方法論、実際陽性にでた臨床例とのすり合わせをする必要がある。米国では皮内テストは行っているが、HCHO特異的IgE抗体を利用している所は極めて少ない。尚、カプサイシン負荷テストはスエーデンでも採用されている標準的方法で今後是非テストしてみたい。
馬島はフォルムアルデヒド(FA)の気道上皮イオントランスポートに及ぼす影響をvoltage clamp法を用いて、short circuit currentを測定している。動物はハートレイモルモットの気管である。フォルムアルデヒドを1、10 ppm 投与で10ppmでは変化がありshort circuit currentの増加が認めた。今年度は(FA)吸入による呼吸機能・気道過敏性への影響、(FA)の気道上皮イオントランスポートに及ぼす影響をさらに追及、シックハウス症候群における(FA)の気道上皮内伝達機構への影響について検討している。基礎的な面での研究である。
吉田は今年度から参加した。研究開始第一年度であるが、平成13年12月から翌年3月までに4名の女性のシックハウス症候群患者の眼血流動態を調べた。発症原因は新築、リフォームが考えられた症例。中心視力に異常はないが、1例はコントラスト感度の低下、涙液分泌低下を3例に認め、3例中2例では静脈酸素飽和度は正常値25mmHgを大きく越えていた。レーザードップラー眼底血流計により測定された中心窩脈絡膜血流量は年齢を一致させた正常対照群に比べて統計的有意に低下していた。つまりシックハウス症候群患者では、中心窩脈絡膜血流量が減少している可能性が強い。本法はいわゆるnon-invasiveな正確なる方法であり、今後患者に見られ易い血流障害の有無の診断に、本法による測定、NIROによる測定, 静脈酸素飽和度測定は重要な他覚的検査法となると考えられる。
結論
以上から本年度の研究は2年次にあたり個々の研究内容に大きな発展が認められる。その理由として分子生物学的研究の加入で化学物質の代謝特性、ノックアウトマウスの作成、さらにPON1などの遺伝子特性解明の研究、つまり罹患しやすい体質の遺伝子レベルでのメカニズム、日本人と欧米人との化学物質に対する反応差などが徐々に明らかにされて来つつある。次に中心窩脈絡膜血管の血流測定による患者診断への新たな応用の可能性も出てきた。NIRO研究の進歩とくにデータの定量化、フーリエ解析法の導入などによる負荷後のゆらぎに対する分析が加わり他覚的定量診断法について進歩のあとが見られる。微量化学物質フォルムアルデヒド、トルエン、ニコチンのクリーンルーム内でのchallenge testも進展しつつある。またクリーンルームがなくても負荷試験が行える方法も開発されつつある。日本でのシックビル/ハウス症候群、化学物質過敏症の研究を開始した約10年前は米国、北欧諸国より知識を吸収する点のみであったが、本研究班の2年間にわたる成果から総合的に内容を判定すると、一部の研究は既に世界的なレベルに到達しているといえる。本研究班の研究は米国で高く評価され、2003年1月8日から11日に日米の国際会議が米国NIEHS(National Institute of Environmental Health & Science)のスポンサーで東京で開催することも既に決まっており、本研究班の研究がさらに国際的に発展するであろう。
最後に班員、協力研究者、この研究に協力して戴いた厚生労働省関連部局の諸氏に感謝する。
最後に班員、協力研究者、この研究に協力して戴いた厚生労働省関連部局の諸氏に感謝する。
公開日・更新日
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