重症型先天性表皮水疱症に対する自己培養皮膚移植法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100869A
報告書区分
総括
研究課題名
重症型先天性表皮水疱症に対する自己培養皮膚移植法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
清水 宏(北海道大学)
研究分担者(所属機関)
  • 澤村大輔(北海道大学)
  • 古市泰宏(ジーンケア研究所)
  • 増永卓司(コーセー基盤技術研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
表皮水疱症は軽微な外力により、皮膚に容易に水疱や潰瘍を生ずる疾患の総称である。近年の皮膚分子生物学の進歩により、ケラチン5、14、プレクチン、180kD類天疱瘡抗原、(6(4インテグリン、ラミニン5、VII型コラーゲンなどの表皮真皮の結合に関与する構造蛋白をコードする遺伝子の変異により本症が発症することが明らかとなったが、現在までに根本的な治療法はない。それらの重症型では、以前には医療レベルが低く命を落とすような例もあったが、現在では対症療法の進歩から、水疱や潰瘍症状を持ったまま人生を全うすることが多く、患者のQOLは著しく障害される。患者から表皮角化細胞を採取し、その表皮角化細胞を培養し培養表皮シートを作成し、患者の病変部に移植する自己培養表皮移植療法が、当教室を含む2・3の施設で最近試みられ、ある程度の効果がみられている。しかし、自家組織の移植のため、原因遺伝子によりコードされているタンパクの発現は、やはり欠損しているままであることが問題点となっている。そこで、本研究では特にVII型コラーゲンやラミニン5β鎖が異常である重症型表皮水疱症に焦点を絞り、それらの疾患治療において、合成した正常の蛋白を外用してから自己培養表皮シートを移植する蛋白補充療法、さらにそれらの遺伝子を患者培養表皮角化細胞に導入し、その表皮角化細胞から作成した表皮シートを患者の潰瘍面に移植する遺伝子治療を併用した、自己培養皮膚移植法の開発と臨床応用が今回の研究の目的である。
研究方法
1)治療対象となる表皮水疱症患者の集積と診断の確定:将来自己培養表皮移植療法の対象となる重症表皮水疱症患者について正確な診断を行う。皮膚生検を行い、電顕、各種基底膜蛋白に対するモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学検索を行い、基底膜における微細構造、発現蛋白の変化を観察する。さらに、患者本人、ならびに家族から採血を行い、genomic DNAを抽出し、PCR、 heteroduplex、 direct sequencing法などを用いてDNA解析を行い、遺伝子レベルで診断を確定した。2)VII型コラーゲン遺伝子の作成:本研究グループではすでにVII型コラーゲンcDNAの全長を表皮細胞のライブラリーからクローニングしているが、最終的にその遺伝子産物やその遺伝子そのものを患者に用いるので、すべての塩基配列について塩基配列を確認した。3)VII型コラーゲンのNC-1ドメインの機能の解析:VII型コラーゲンはN末端側の非コラーゲン領域NC-1 domain (145kDa)とC末端側の非コラーゲン領域NC-2 domain (34kDa) とが,Gly-X-Yの繰り返し構造からなるコラーゲン領域 collagenous domain (145kDa) を挟む構造をとる。そのNC-1ドメインは各種のコラーゲンやラミニンとの結合に関与している。従って、NC-1ドメインの多様性を出すために、NC-1ドメイン遺伝子にalternative splicingがおこっている可能性がある。そこで、NC-1ドメインに一致する各種cDNAをクローニングし、alternative splicing有無を確認した。4)VII型コラーゲン遺伝子の細胞への導入とVII型コラーゲン永久発現株の作成:VII型コラーゲンのcDNAを発現ベクターに挿入し、リコンビナント蛋白を作成するため、細菌に導入したが、成熟したVII型コラーゲを作成できなかった。そこで、表皮細胞株であるHaCaT細胞に導入し、合成蛋白を作成する。5)VII型コラーゲンの生体表皮内での発現:VII型コラーゲン遺伝子は、3万塩基対と非常に長く、エクソンも118と数が多い。そこで、遺伝子治療に用いられる遺伝子は、イントロンを除いたcDNAとなる。そのVII型コラーゲンのcDNAを実際に生体の表皮細胞に
naked DNA法を用いて導入し、VII型コラーゲンが産生されるのかを検討した。6)180kD類天疱瘡抗原のノックアウトマウスの作成:表皮水疱症の原因遺伝子として、180kD類天疱瘡抗原があり、その遺伝子が欠損すると接合部型が発症する。本遺伝子の欠損症では、他型とは異なり、脱毛や歯の異常を合併することが多い。そこで、本症の水疱発生機序、それらの合併症の発症機構、遺伝子治療のモデルとして、180kD類天疱瘡抗原のノックアウトマウスの作成を計画した。7)その他、本研究に関連する多数の研究も行なった。
結果と考察
1)治療対象となる表皮水疱症患者の集積と診断の確定(清水):多数の新規患者の集積と診断の確定を行った.その内,栄養障害型表皮水疱症の2家系で興味深い結果が得られた.そのVII型コラーゲン遺伝子に,G1815R, G1595R, Q2827Xの新規変異を確認した。また、G1815R,あるいはG1595Rが一方のアリルにある場合、水疱はなく爪の変形のみを来すことを明らかにした。キンドラー症候群は、水疱や皮膚の萎縮を示し、表皮水疱症と類似する臨床症状を来す。今回、表皮水疱症と長い間誤診されたキンドラー症候群の症例を報告した。また、VII型コラーゲンの遺伝子の変異は詳細に検討したが,検出されなかった。2)VII型コラーゲン遺伝子のcDNA全長作成(増永):本研究グループで作成したVII型コラーゲンcDNAの全長の塩基配列を確認したところ、27塩基の挿入が検出された。その遺伝子配列を調べると、その挿入はスプライシングのアクセプター部位がイントロン側に移動することにより生じていた。尚、アミノ酸が新たに9加わるのみで、オープンリーデングフレームには影響はでなかった。また、その部の挿入を試験管内変異導入技術で除去した。3)VII型コラーゲンのNC-1ドメインの機能の解析(増永):上記2)の研究で、NC-1ドメインに新しいalternative splicingが見つかった。そこで、NC-1ドメインは各種のコラーゲンやラミニンとの結合に関与している。そこで、他のalternative splicingが存在するかを検討した。その他のalternative splicingは見つからなかった。また、培養表皮細胞にTGF-(を加えるとそのalternative splicingが増加することが観察された。4)VII型コラーゲン遺伝子の細胞への導入とVII型コラーゲン持続発現株の作成(古市):まず、表皮細胞株であるHaCaT細胞のゲノムに、Flp recombinaseの標的となるFRT部位を挿入した。そして、ヒグロマイシン耐性のVII型コラーゲンの発現ベクターとFlp recombinaseの発現ベクターをco-transfectionし、VII型コラーゲン遺伝子の持続発現株を作成した。培養上清に大量のVII型コラーゲン蛋白を検出した(古市)。5)VII型コラーゲンの生体表皮内での発現(澤村):VII型コラーゲン遺伝子の発現ベクターをラットの皮膚に直接局注し、VII型コラーゲンの抗体を用いて免疫染色を行なった。48時間後には、ラット表皮細胞内にVII型コラーゲンの発現が確認された。また、1週間後には、基底膜領域に陽性所見が認められた(澤村)。6)180kD類天疱瘡抗原のノックアウトマウスの作成(澤村):我々は、マウスの180kD類天疱瘡抗原の遺伝子のクローニングを行ない、エクソンとイントロン構造を明らかにしている。本遺伝子の第一エクソンにネオマイシン遺伝子を挿入することで遺伝子を不活化する。現在、ターゲッティングベクターが構築され、ES細胞への導入が行なわれ、リコンビネーションを確認中である。7)その他、本研究に関連する研究も行い、興味ある知見が多数得られている。
結論
表皮水疱症患者の遺伝子変異と臨床症状の関連が明確にならない部分も多く、蛋白補充療法や遺伝子治療に向けて、さらに多くの症例の解析が必要と思われる。本研究グループで作成したVII型コラーゲン遺伝子は、培養表皮細胞や生体の表皮細胞への導入で正常のVII型コラーゲンが発現され、補充療法や遺伝子治療への応用には問題ないと考えられた。

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