特定疾患対策の地域支援ネットワークの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100856A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患対策の地域支援ネットワークの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
木村 格(国立療養所山形病院神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 田代邦雄(北海道大学医学部神経内科)
  • 佐藤猛(国立精神・神経センター国府台病院神経内科)
  • 糸山泰人(東北大学医学部神経内科)
  • 平井俊策(東京都立神経病院神経内科)
  • 望月廣(国立療養所宮城病院神経内科)
  • 中村重信(広島大学医学部第三内科)
  • 吉良潤一(九州大学医学部神経内科)
  • 島功二(国立療養所札幌南病院神経内科)
  • 加藤丈夫(山形大学医学部第三内科)
  • 吉野英(国立精神・神経センター国府台病院神経内科)
  • 今井尚志(国立療養所千葉東病院神経内科)
  • 長谷川一子(国立相模原病院神経内科)
  • 中島孝(国立療養所犀潟病院神経内科)
  • 黒岩義之(横浜市立大学医学部神経内科)
  • 塩澤全司(山梨医科大学神経内科)
  • 溝口功一(国立療養所静岡神経医療センター神経内科)
  • 祖父江元(名古屋大学医学部神経内科)
  • 神野進(国立療養所刀根山病院神経内科)
  • 近藤智善(和歌山県立医科大学神経内科)
  • 葛原茂樹(三重大学医学神経内科)
  • 高橋桂一(国立療養所兵庫中央病院神経内科)
  • 阿部康二(岡山大学医学部神経内科)
  • 難波玲子(国立療養所南岡山病院神経内科)
  • 畑中良夫(国立療養所高松病院神経内科)
  • 渋谷統壽(国立療養所川棚病院神経内科)
  • 福永秀敏(国立療養所南九州病院神経内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重度の障害とそれに伴う高度の社会的不利益を有する特定疾患患者(難病患者)が自ら生きがいを持ち、自らが希望する生活を送れるためには長期にわたり安定した療養が継続できる社会環境整備と、家族だけではなく民間活力も含めたさまざまな職種の人がこれを支えて行くという国民全体の難病に対する意識の変革が必須である。この研究班では、全国の都道府県を対象にして、実際の難病患者のケアを実践する過程から地域特異性を踏まえた患者支援のための医療供給ネットワークの構築、患者と家族を直接支援できる地域支援ネットワーク、必要な情報が得られる医療情報環境整備を推進する。また、その効果については、このシステムを実際に利用する立場から検証を得て、システム構築の向上を計る。現在の法制度や診療報酬体系では解決のできない課題に対しては、実際面で十分な根拠を求めて厚生労働省など上部機関に提言する。
研究方法
研究対象は神経難病を主な対象疾患として、在宅療養での介護者補完の問題、医療や福祉保健の情報整備、入院施設の確保、長期療養の場の選択、療養環境の整備について実践的な研究を進めた。実際の生活圏に対応してより広域での支援ネットワークについて複数の都道府県での協力体制について研究した。東海地方をモデルに大規模災害での難病医療支援についてシミュレーションを実施した。分担研究者には地域特異性を尊重した支援ネットワークを構築するために北海道から東北、関東、東海、近畿、中部、中国四国、九州と全国横断的に、難病医療の専門医を養成する立場にある大学医学部研究者と、当該地域における国立病院療養所などを含めた専門医療機関の研究者を組として組織した。さらに各地域で実際に難病医療に関与する都道府県、保健所、市町村担当者、保健婦、難病専門員、難病支援団体、ボランテイアなどに研究協力を依頼した。特に班会議には難病患者自身、介護する家族に参加依頼し、研究班の成果について第三者評価を得た。
結果と考察
1)全国の難病患者支援ネットワークの構築:本研究班の提言が契機になって、都道府県単位に「重症難病患者入院施設確保事業」が実施された。在宅療養での長期療養を補助するために緊急入院、介護者の都合によるレスパイト入院を含めて入院施設を確保し、情報公開が行われている。現在約70%の都道府県では事業を行い、短期入院についてはほぼ解決が図られているが、長期入院については多くの地域で解決がなされていない。入院
施設の確保のためには、本事業で設置を規定されている難病専門員の役割が重要であるが、現在その設置率はきわめて低い。都道府県に対して啓蒙が必要である。2)首都圏など大都会での支援ネットワークの構築:首都圏、大阪府、名古屋市、福岡市など難病患者の絶対数が多く、行政機構や医療供給体制が必ずしも単純ではない大都会における総括的な支援ネットワーク構築について研究がなされた。複数の大学、基幹病院を統括するキーパーソンの役割、これを支援する行政の役割を調整し、真に患者を前面においた体制の構築が重要と考えられた。大阪、福岡など患者に有用な実質的な支援体制が構築され、効果が報告されている。大都会の中にも地域によって専門医や専門病院の地域格差、診療水準格差が指摘され、今後の課題となった。3)都道府県における支援ネットワークの構築:都道府県毎に難病医療ネットワークを構築し、診療を担当する拠点病院と協力病院の役割分担が明白にされた。地域の難病ケア・システムの問題点を明らかにするためには相談窓口事業が大切であり、そこに寄せられた質問や意見を解決することによって体制の向上が計られる。現在80%以上の都道府県では医療ネットワーク構築が完了し、実質的な成果が報告されている。4)患者一人ひとりの支援ネットワークの構築:最終的にはそれぞれの難病患者と家族を核にして、個別の特異性を十分尊重し、療養を円滑に継続するため多職種から構成される個別の支援ネットワークが重要である。特に、主治医には、専門病院の専門医師と一緒に地域で指導ができる医師会受け持ち医師の2人主治医制度の試みがなされ、将来のシステムとして有用と考えられた。現在保健所を中心に多くの実践症例が集積され、そのシステムつくりが研究された。都道府県によっては支援ネットワークの構築にいくつかの阻害要因があり、今後その解決についての研究が必要である。5)長期療養の場の選択肢拡大:在宅療養での介護人不足の解決、入院・入所受け入れの促進、長期入院施設の療養環境整備モデル事業、在宅と病院入院を連携する中間施設(ケア・ハウスやグループ・ホーム、身体障害者施設など)の役割分担と現状での問題点が明らかにされた。今後、これらの有機的な連携が総合的な支援体制に必須になる。6)メンタル・サポートの重要性とその体制の構築:身体的な支援に加えて、どのような重度の難病患者でも勇気を持って生きることに挑戦できるために、メンタル面での支援体制の重要性が報告され、どこでも実施できるための研究が望まれる。7)難病の医療経済性に関する研究:安定した難病医療を継続するために必要な医療資源の量と質に対する検証がなされた。現在の診療報酬体系、介護保健での問題点が指摘され、その解決が今後の課題である。8)難病患者生活の質(QOL)向上の検証:支援ネットワーク構築による実質的な効果が、患者や家族、難病支援団体から評価され、本研究事業の方針、考え方について検証が行われた。9)今後の研究の課題:東海地方をモデル地域にして、地震などの大規模災害時に必要な難病患者支援の予備的な研究を実施した。今後全国に普遍化できる支援ネットワークについて検討する。非日常的環境の下でも難病患者が生活を維持可能な最低限の基準を設定し、患者自身がその情報を携帯することによって外部の専門スタッフなどによって必要な専門医療と生活支援を受けることができる体制を構築し、シミュレーションを行う。
結論
本研究班活動3年間の最大の成果は、各地域で分担研究者によって企画・実施されたいくつかのモデル事業によって具体的に難病患者に直接役に立つケア・システムが構築され、効率的な専門医療の供給体制が整備され、地域毎に難病患者一人ひとりを核とする地域支援ネットワークがつくられたことである。それら総合的な支援ネットワークの構築を推進する過程での地域毎の阻害要因が明らかになり、その一部については具体的な解決策が導き出され、他の地域での役に立つガイドラインになっている。患者支援に必要なシステムは、患者を中心とする地域支援ネットワークに加えて、保健所単位に、都道府
県単位に、それらを連携する全国横断的なネットワークが重要であり、さらには患者の国外での活動を支援するために国際的な医療と生活両面での支援ネットワークの必要性が求められた。本研究班の総合的な活動と成果は、現在全国の都道府県での難病支援体制を整える大きな契機となり、多くの地域では既に難病患者の実質的なQOL向上に効果を及ぼしている。今後、身体的な支援、政策的な支援体制に加えて、多くの患者が難病を担っても勇気を持って生きて行けるために必要なメンタル面での支援体制の整備を含め、研究を進めて行く。

公開日・更新日

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