特定疾患対策のための免疫学的手法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100848A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患対策のための免疫学的手法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山本 一彦(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 東みゆき(東京医科歯科大学大学院)
  • 高昌星(信州大学医療技術短期大学部)
  • 上阪等(東京医科歯科大学大学院)
  • 斉藤隆(千葉大学大学院)
  • 佐伯行彦(大阪大学大学院)
  • 住田孝之(筑波大学)
  • 中尾眞二(金沢大学大学院)
  • 西村泰治(熊本大学大学院)
  • 山村隆(国立精神・神経センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は免疫が関与する特定疾患の横断的基盤的研究を推進することを目的としている。特に「免疫疾患の病因となる特異抗原を検索する新たな技術、さらにその特異抗原に対する免疫応答を検出、解析し、制御する基盤技術を開発、推進する。」ということに班の目的を集中させ研究を行った。すなわち、種々の免疫が関与する難病において1)抗原特異的免疫応答が存在するのか?2)その標的抗原がなんであるか?3)抗原特異的免疫応答が病態形成に関わっているか?4)その免疫応答を特異的に制御することは可能か?などを明らかとしていくことを目標とした。具体的には、MHC分子に提示される病因ペプチド分子の同定、病態形成性T細胞とその抗原レセプターの解析、第二シグナルなどを介した抗原特異的免疫応答制御に関する研究について、成果を得ることを目標としてきた。
研究方法
本研究班は方法論を確立することが主な目的であるから、特に当面の対象疾患を設けず、健常人細胞、患者検体やモデル動物を研究プロジェクトにあわせ随時使用した。実際の研究手法は免疫細胞学的、分子生物学的手法を駆使して行い、新技術の創出に努めた(個々の研究結果参照)。倫理面への配慮に関しては、患者の個人情報の特定につながる様な研究はなかった。また遺伝子を用いた治療実験もモデル動物のレベルであり、現時点では問題はないが、将来ヒトへの応用に際しては厳密な議論が必要なものも含まれている。
結果と考察
1)病態形成性T細胞の研究とT細胞レセプターを用いた免疫制御:上阪班員は、昨年独自に開発したPCR-ELISA法を用いて、多発性筋炎患者で末梢CD8陽性T細胞の多くのクローン性の増殖を認め、その一部が筋組織に検出されたことを報告している。本炎は多発性筋炎患者の筋組織切片から筋線維間(内鞘)に浸潤する単核球細胞をマイクロダイセクション法で切り出し解析することで、T細胞レセプターの同定やパーフォリン遺伝子の発現を確認した。これはヒトの疾患における病態形成性T細胞の証明に向けた大きな進歩であると思われる。佐伯班員はT細胞が認識する抗原を同定するシステムを開発するために、抗原提示細胞側で、実際に抗原提示をしてT細胞からCD40 分子を介してシグナルが入ったものだけを検出する系を確立した。NF-κBのresponse elementとGFPを組み合わせたもので、今までにない新しいシステムを提供できることをマウスのモデルで示した。山本班員はT細胞レセプターの2つの鎖の遺伝子導入によるリンパ球抗原認識機構再構築の成功と、機能遺伝子導入による改変Tリンパ球の実際の疾患モデルへの応用を行った。全身性自己免疫疾患モデルマウスにおいて、試験管内で再構築したヌクレオソーム特異的CTLA-4/Ig分泌抑制性T細胞の一回の移入で、その腎病変が抑制出来ることを示した。これは自己免疫疾患の新しい抗原特異的免疫制御法の確立に向けて、実際の技術的可能性を明確に示した点で大きな進歩と言える。2)病態形成とその制御に関する研究:山村班員はNKT細胞の機能的偏りの研究で、多発性硬化症において、寛解期にはCD4-CD8-のDN NKTは著名に減少していたがCD4+NKTは減少せず、リガンドのα-galactosylceramide刺激でIL-4産生が亢進しており、Th2に偏っていることを示した。これは全く新しい発見で、今後の臨床への応用が期待されており、実際に山村班員はリガンドを変化させることで多発性硬化症の動物モデル(EAE)が制
御可能なことを示している(Nature 2001)。東班員は副刺激分子であるPD-1とそのリガンドのPD-L1およびPD-L2、ICOSとそのリガンドであるB7hについて、これらをブロックすることで各種自己免疫疾患が制御可能か否かについての詳細な研究を行った結果、ICOS-Bh7経路の阻害は自己免疫疾患の阻害に有効である可能性を見いだした。またPD-L1とPD-L2はレセプターのPD-1を共有するが、発現の分布はかなり異なっていることなどが判明し、将来的な免疫抑制法として重要な知見が得られたと思われる。西村班員はマウスES細胞を試験管内で樹状細胞に分化させる方法を開発し、これに遺伝子導入をすることで免疫制御を可能にするシステムを開発しつつある。斉藤班員はCTLA-4の免疫抑制能について詳細な機構の研究を進め、ナイーブなT細胞と活性化T細胞ではCYLA-4の抑制機序に違いがあることを見いだした。中尾班員はαグロビンに対する自己抗体と細胞障害性T細胞が再生不良性貧血の病態形成に重要な働きをしている可能性を示した。高班員はタイラー脳脊髄炎ウイルスによるマウス免疫性脱髄疾患における性ホルモンの役割を検討し、テストステロンが発症に抑制的であること、その機序としてサイトカイン産生抑制が推測されることを示した。3)MHC分子に提示される病因ペプチドの同定:住田班員はリコンビナント蛋白や合成アミノ酸を用いて、自己反応性T細胞の認識エピトープを検出するシステムを構築しつつあり、シェーグレン症候群でのαアミラーゼ、慢性関節リウマチでのタイプIIコラーゲンについて解析を進めた。これらの研究は病因を明らかとするだけでなく、免疫の抗原特異的な制御を可能にするステップとして重要な研究と考える。
結論
抗原特異的免疫応答に焦点を絞って当班の研究を進めた。それぞれの班員はオリジナルな研究テーマを設定し、研究を展開した。時間的な制約を含めて十分な結論に達していないものもあるが、上述の結果で記載したように幾つかの目覚ましい成果が出て来ていると考える。幾つかの成果については、未だに十分な完成の域に達していないものもあり、また欧米でのこの方面への積極的な研究推進から考えて、同様な方向での研究の推進が必要であると考える。

公開日・更新日

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