脊柱靭帯骨化症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100843A
報告書区分
総括
研究課題名
脊柱靭帯骨化症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
原田 征行(青森県立中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大学)
  • 今給黎篤弘(東京医科大学)
  • 河合伸也(山口大学)
  • 中村耕三(東京大学)
  • 馬場久敏(福井医科大学)
  • 松永俊二(鹿児島大学)
  • 宮園浩平(東京大学)
  • 守屋秀繁(千葉大学)
  • 米延策雄(大阪大学)
  • 井ノ上逸朗(東京大学)
  • 鐙 邦芳(北海道大学)
  • 岩田 久(名古屋大学)
  • 植山和正(弘前大学)
  • 遠藤正彦(弘前大学)
  • 岡島行一(東邦大学)
  • 木村友厚(富山医科薬科大学)
  • 四宮謙一(東京医科歯科大学)
  • 神宮司誠也(九州大学)
  • 高垣裕子(神奈川歯科大学)
  • 滝川正春(岡山大学)
  • 玉置哲也(和歌山県立医科大学)
  • 土田成紀(弘前大学)
  • 中原進之介(国立岡山病院)
  • 中村孝志(京都大学)
  • 永田見生(久留米大学)
  • 藤井克之(東京慈恵会医科大学)
  • 藤村祥一(慶應義塾大学)
  • 藤原奈佳子(名古屋市立大学)
  • 星野雄一(自治医科大学)
  • 元村 成(弘前大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本疾患の原因究明のために遺伝子解析、骨形因子と吸収因子について、分子生物・細胞学的研究、脊髄の可塑性に関わる研究とさらには臨床的検討を行う。
脊柱靱帯骨化症の発症原因は不明である。多因子遺伝形式であることが推測され、これまで保管されているサンプルを用いヒト遺伝子の同定を目指した。骨形成の機序について、全身的要因、局所的要因についても明らかにし、骨吸収機序と吸収因子について解明しようとした。動物実験、靱帯細胞培養等の手法を用い、細胞生物学的、分子細胞学的に各種の骨形成因子及びサイトカインの発現、蛋白軟骨基質の分析、細胞とメカニカルストレスに関する骨形成と各遺伝子発現を検討した。臨床的研究では、患者へのアンケート調査を行い、ADL、QOLを含めた患者のアメニティの調査から、社会資源の活用を図ることを目的とした。患者・家族の会と公開講座を通じて緊密な連絡のうえで、患者の同意のもとに唾液からDNA分析を目的とした。
研究方法
遺伝子解析、骨形成因子、軟骨基質、細胞とメカニカルストレス、脊髄の可塑性およびQOLならびにADL調査のグループに大きく分け、班員同士での資料・情報の提供等により共同研究を行ってきた。また各班員が班員以外との研究者とも情報交換を行い、サンプル等の融通によりそれぞれの研究を進めた。研究グループ以外で、個々の研究も行っており、その成果を研究班会議において発表した。
第6染色体上のコラーゲンA2と、その近傍のRetinoinn X Rceptor β(RXR-β)を同定し、これを原因遺伝子の1つとしたが、さらに21q21.3領域にBMP4、TGFb3、IGF1、PTHR1、OPN(オステオポンチン)、PRG1(プロテオグリカン)、αB-Crystallinなどに強い連鎖を認め、更に詳細な分析を進めた。また21q21.3領域にも最も強い連鎖を認めたが確定は出来ていない。我々はあくまでもヒト遺伝子解析を目標としている。
骨形成因子については、全身的因子、局所的因子について、動物実験ないし靱帯細胞培養の手法を用いて、各種サイトカインの添加、あるいは遺伝子発現について検討した。全身的要因としては、インスリンの作用について検討し、レプチン、BMPファミリーについても検討を行った。
軟骨基質の研究については、プロテオグリカンの詳細な分析を続け、骨化過程において3つのデコリンを同定し、分子構造を分析し、ハイドロキシアパタイトとの結合性を検討した。
培養されたヒト靱帯骨化細胞は、メカニカルストレスに対して変質する。
慢性圧迫された脊髄の変形と脊髄機能について、動物実験免疫組織化学的検討を行った。
脊柱靭帯骨化症の治療方法ないし治療経過について、患者1420名に対してアンケート調査を行い、1,166名から回答を得た。この結果をもとに、患者のQOL、ADLを分析した。
結果と考察
1.遺伝子解析
責任遺伝子同定に向けて検索中であるが、既にGenome Wide Screeningにより21番染色体に強い連鎖反応を認めており、21q21.3の領域を中心に解析を進めている。その検索中に、BMP4、TGFb3、IGF1、PTHR1、OPN(オステオポンチン)、PRG1(プロテオグリカン)、αB-Crystallinなどの遺伝子にp-value<0.05の有意差を認めた。21q21.3領域に最も強い連鎖を認めたが確定は出来ていない。近傍領域の既知の遺伝子について、ハプロタイプ解析を加えて感受性遺伝し同定の有力な手段を獲得した。
また、Nucleotide pyrophosphatase(NPPS)geneの遺伝子多型のうちでイントロン15に見いだした。IVS15-14T->CとOPLLの発症およびその重症度については、OPLL症例ではコントロールに比べてminor alleleであるC alleleを持つものが有意に多く、C alleleを持つOPLL症例群は、持たない症例群に比べて、骨化椎体数が有意に多い。
ヒト間葉系幹細胞は、骨髄間質に含まれる多分化能を持つ細胞で、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などに分化する性質を持つ。ヒト骨髄液から分離した細胞から、細胞分化に伴うhMSCの変化を検討した。OPLLにおける骨化形態としての内軟骨性骨化と、膜性骨化の混在が考えられ、骨化発症メカニズムを検討した。
OPLL患者由来の靱帯細胞培養から、CTGF/Hcs24 により発現調節される遺伝子の解析を行い、乳癌細胞と一致する細胞を同定することができた。OPLL細胞ではPN-1発現が増加し、thrombinを介したProtease-activate receptor1(PAR-1)の活性が抑制されてALP活性が上昇し。靱帯骨化が生じる可能性が示唆された。
2.骨形成因子について
骨形成因子として認められている各種サイトカインについての研究を進めている。その中で、インスリン受容体基質(IRS)を介するシグナルの骨代謝調節機構については、IRS-2ノックアウトマウスを用い、in vitroでの解析で骨芽細胞の増殖・分化能は低下していたが、破骨細胞形成指示能は亢進しており、IRS-2を介するシグナルは骨代謝基調
これまで骨吸収についての研究は少なかったが、細胞内蛋白質分解系によって骨吸収調節のメカニズムについて、c-Cblが蛋白分解系を介し新しいメカニズムでSrcを調節していることを明らかにした。
3.軟骨基質について
プロテオグリカンの一連の研究から、黄色靱帯において分析した3つのプロテオグリカンを分離し、その中でデコリン-2は主にデルマタン硫酸鎖で構成されており、抑制的な作用が示唆された。小型PGsとα-elastinはとの結合性は靱帯骨化の方が低かった。黄色靱帯骨化組織からIndian hedgehog(Ihh),Parathyroid hormone-related peptide(PTHrP)の存在が免疫組織化学的に確認された。靱帯骨化においても、内軟骨性骨形成と同様にIhh,PTHrPによる細胞分化制御機構の存在が示唆された。
4.細胞とメカニカルストレス
ストレスを与えるとコントロールに比べOPLL細胞ではALP,osteopontin,BMP-2とその受容体のmRNA発現量だけでなく、ALP活性およびBMP2/4分泌のいずれも伸展刺激により増大する傾向にあった。OPLL細胞ではPN-1発現が増加し、thrombinを介したProtease-activate receptor1(PAR-1)の活性が抑制されてALP活性が上昇し。靱帯骨化が生じる可能性が示唆された。
5.脊髄の可塑性と脊髄機能
脊髄に対する機械的ストレスと脊髄グリア細胞についての検討を行った。培養細胞で、機械的ストレスに対するアストロサイトが生存維持、機能修復に密接に関係していることが示唆された。脊髄への伸展ストレスで反応性アストロサイトが Neurotorphin発現を増加させ神経細胞の生存、維持に関与していた。
6.QOLと機能評価
後縦靱帯骨化症患者1420名に対してアンケート調査を行い、1,166名の回答から、日常生活動作制約がある者の外出は15.1%など普段の生活に支障があることが分かった。その他では公費負担、福祉対策への不満があった。脊柱靭帯骨化症患者・家族の会と密接な連携をもち、全国で平成11年度3回、平成12年度は2回、平成13年度は3回の公開講座を行い、研究班の研究状況を逐次提供し、患者の理解と臨床的研究への協力を求めた。次年度に向けて患者の唾液からDNAを分析することに同意を得ることが出来た。
結論
研究グループのヒト遺伝子解析については、多因子遺伝子を原因として発症するものと判明した。すでに21q21.3領域の中で、BMP4、TGFb3、IGF1、PTHR1、OPN、αB-Crystallinなどの遺伝子に強い連鎖反応を認め、21q21.3領域に最も強い連鎖を認めたが確定は出来ていない。近傍領域の既知の遺伝子について、ハプロタイプ解析を加えて感受性遺伝子同定の有力な手段を獲得した。
細胞基質の中で、すでに分析された3つのデコリンについて、小型PGsとα-elastinはとの結合性は靱帯骨化の方が低かった。
内軟骨性骨化形態をとる靱帯骨化には、メカニカルストレスの関与が強く示唆された。OPLL細胞ではPN-1発現が増加し、thrombinを介したProtease-activate receptor1(PAR-1)の活性が抑制されてALP活性が上昇し。靱帯骨化が生じる可能性が示唆された。
脊髄機能回復機序と脊髄の可塑性については、分子生物学的、細胞生物学的研究が行われ、圧迫された脊髄グリア細胞は、アストロサイトが生存維持、機能回復に強く関連していることが判明した。疫学的検討は、全国1420名にアンケート調査をし、1,166名から回答を受け、QOL、ADLならびに社会資源について分析した。患者家族の会と公開講座を開催し、研究成果を伝えると共に、協力を求めることが本研究班の更なる発展を助長するものであると考えられた。本年度も学際的研究が成果をあげた。

公開日・更新日

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