急性高度難聴に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100830A
報告書区分
総括
研究課題名
急性高度難聴に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
星野 知之(浜松医科大学耳鼻咽喉科教授)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 諭(北海道大)
  • 宇佐見真一(信州大)
  • 喜多村 健(東京医科歯科大)
  • 神崎 仁(慶応大)
  • 中島 務(名古屋大)
  • 東野 哲也(宮崎大)
  • 福島 邦博(岡山大)
  • 村井 和夫(岩手医大)
  • 岡本 牧人(北里大)
  • 阪上 雅史(兵庫医大)
  • 暁 清文(愛媛大)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感音難聴の多くのものは原因が不明で治療法も確立していない。代表的な感音難聴である突発性難聴を中心として各種の感音難聴の発症機構、誘因、治療効果、疫学につき検討する。(A)発症機構の解明は主として動物による内耳血流障害を中心に、さらに音響、薬物の効果などを検討する。突発難聴の症例で、ウイルスの関与を検討する。(B)治療効果の検討はすでに前期より始まっている突発性難聴の単剤による治験の結果を集計し、公表する。(C)突発性難聴でも低音障害型のものは際立って特異な一群で、班員の施設での症例を集計、検討し診断基準(案)を作成する。(D)難聴関連遺伝子の検索は班員のいる3箇所の施設に症例と検体を集め、遺伝子異常の検索をすすめる。遺伝子異常による感音難聴の一般向けホームページを作成する。
研究方法
難聴発症機構の解明には動物実験モデルを使用した。蝸牛循環障害の検討では光増感反応により限局する血管条障害をモルモットにつくり、形態は走査型電子顕微鏡で、機能の変化は蝸牛内電位でみた。2箇所の障害を作りよりヒト病態に近い病態を検討した。内耳全体の一過性虚血の病態はスナネズミの椎骨動脈閉塞で作成。グルタミン酸神経毒性によると考えられる感覚細胞の変性にたいする低体温、遺伝子治療の効果、グルタミン酸受容体拮抗剤の効果についても検討し、それたの内耳保護作用を検討した。グルタミン酸神経毒性は単離感覚細胞でも検討した。人工内耳手術時にヒト蝸牛での血流測定も試みた。Auditory neuropathyと関連したカイニン酸の局所投与、音響負荷時の転写因子活性の検討などを行った。ウイルス感染の検討では突発性難聴例でのムンプスIgM抗体, IgG抗体を測定し、不顕性感染につき検討した。臨床例での検討では特発性両側性感音難聴の長期経過について、また外リンパ瘻の病態についての報告がされた。
治療効果をみる仕事は,突発性難聴の新鮮例で、20歳以上、発症後2週以内の例で、ステロイドを含む市販の6種の薬剤(ATP,betamethazone,NULL,hydrocotisone, beraprost sodium(PGI2),alprostadil(PGE1), amidotrizoate(Urografin))を投与し、班員に封筒法で割り付けて600例を目標に平成6年に開始、平成13年4月に登録を終了、解析を行った。低音障害型感音難聴については班員の症例を集積して一側確実例271例の病態を検討すると共に、診断基準を作成した。平成8年度からスタートした遺伝子異常の検索は班員のいる全国で3箇所を拠点とし、ここに家系の情報と血液サンプルを送り、分析した。遺伝性難聴ホームページを開設し成果の公表を行った。Caポンプ変異、LacZ遺伝子挿入、転写因子ノックアウトマウスについても検討を加えた。
結果と考察
研究結果=難聴発症機構の解明 蝸牛条限局障害では光増感反応により作られた2つの限局障害間でも感覚細胞の変性がおこり、より実際のヒト病態に近い変化を作成できた。障害間の蝸牛内電位は一過性の低下を示したが、2週間で回復した。内耳全体の一過性虚血では、限局障害と異なる内有毛細胞の変性が見られた。グルタミン酸の神経毒性によると思われるこの変化が、低体温、遺伝子治療の効果、グルタミン酸受容体拮抗剤の投与で保護された。突発性難聴の新鮮例での単剤による治療効果は6剤間で有意な聴力の改善率の違いはみられなかった。低音障害型感音難聴については班員の症例を集積、病態を検討して診断基準(案)を作成した。浮動性めまいの有無と予後は関連しないが、1kHzの聴力閾値は聴力予後と関連した。平成8年度からスタートした遺伝子異常の検索ではGJB2、DFNA16、PDS、EYA-1、ミトコンドリア遺伝子また本邦では初めてKCNQ4, COCH, TECTA遺伝子の異常がみつけられた。さらに頻度が高く見られるGJB2、PDSの迅速診断システムの開発が行われた。なお突発性難聴の全国調査は10年に1度これまで3回行ってきたが、第4回目の調査を14年に行うべく平成13年に準備を開始した。
考察=難聴の発症機構は薬物中毒、感染、音響などさまざまなアプローチで研究されているが、本研究班では主に内耳の循環障害を中心に検討しており、その分野では新しい結果を報告している。世界的にみても研究はユニークなものである。遺伝子異常の検索は現在もっともホットな領域で、さまざまな成果が公表されているが、研究班での日本人での成績は諸外国とは違った遺伝子変異がみられる―たとえばGJB2遺伝子では235delCが我が国では多い―など新しい事実、国際的にも重要なことがわかってきた。これらを踏まえてより的確な遺伝相談ができるものと考える。単剤の治験結果は平成14年に公表する予定であるが、突発性難聴には確立された治療法が未だないので、その結果の公表の社会的意義は大きい。今回の検討では有意な差は出なかったが、各施設への薬剤の振り分け方や、投与法、単剤治療後の治療法が一定でなかったことなど、問題点があり、今後はさらにこれらに配慮した検討が必要と考えられる。低音障害型感音難聴の診断基準はこれまで研究班が作成した諸診断基準が本邦ではひろく基準として使用されてきた実績から考え、これもじきに広く利用されるようになると考えられる。
結論
難聴の発症機構については循環障害を中心にかなり解明がすすんだが、薬物、音響などの検討も必要である。遺伝子異常の検索では、これまで原因不明とされた感音難聴の多くが遺伝子異常で発症していることが明らかになったと同時に、日本人には欧米人と異なる変異のあることが分かり、我が国独自の研究が必要である。単剤の突発性難聴にたいする効果は現行の薬剤では特効薬的なもののないことを明らかにした。さらに聴力型別でのより詳しい効果の検討が必要である。低音障害型感音難聴は独立の疾患群として突発性難聴からわけるべきであり、その診断基準案が作成できて解析が進んだ。第4回目の突発性難聴全国調査の準備がととのった。今回はムンプス難聴の調査も含めている。突発性難聴の聴力型別でのさらに詳しい生活習慣調査を始めたが、発病予防の手掛かりが得られると思われる。

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