アミロイドーシスに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100821A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイドーシスに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
池田 修一(信州大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 今井浩三(札幌医大医学部)
  • 東海林幹夫(岡山大医学部)
  • 下条文武(新潟大医学部)
  • 樋口京一(信州大医学部加齢適応研究センター)
  • 前田秀一郎(山梨医大医学部)
  • 石原得博(山口大医学部)
  • 中里雅光(宮崎医大医学部)
  • 山田正仁(金沢大医学部)
  • 森 啓(大阪市立大老年医学研究部)
  • 馬場 聡(浜松医大医学部)
  • 安東由喜雄(熊本大医学部附属病院)
  • 玉岡 晃(筑波大臨床医学系)
  • 原 茂子(虎ノ門病院)
  • 麻奥英毅(広島赤十字原爆病院)
  • 河野道生(山口大医学部)
  • 内木宏延(福井医大医学部)
  • 吉崎和幸(大阪大健康体育部)
  • 由谷親夫(国立循環器病センター)
  • 高杉 潔(道後温泉病院リウマチセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究組織では以下の課題に取り組み研究成果をまとめる。1)ALアミロイドーシス:アミロイド惹起性の免疫グロブリンを産生する形質細胞異常症ならびに骨髄腫細胞の細胞生物学的特性を分子レベルから解明し、また有効な治療法を確立する。2)AAアミロイドーシス:本症を引き起こす基礎疾患の病態を検索し、抗サイトカイン療法などの新たな治療法を検討する。3)FAP:原因となる80種類以上のtransthyretin(TTR)遺伝子の異常によりFAPは幾つかに亜型分類され、一部の疾患群は肝移植の治療効果が不明瞭である。従って個々の病態に応じた肝移植の適応基準を作成する。また肝移植以外の治療法の開発も行う。4)透析アミロイドーシス:in vitroでのアミロイド線維形成モデルを用いて本疾患の病態解明を行い、同時に薬物療法の有用性を検討する。5)脳アミロイドーシス:本症のモデル動物を作成して、細胞外へのAβアミロイドの沈着から神経細胞内へtauの異常蓄積が起り、最終的に神経細胞死に至る過程の詳細を明らかにする。またこの動物モデル系で薬物療法を試みる。6)マウス老化アミロイドーシス:アミロイド前駆蛋白であるapoA-Ⅱの構造変換を招く因子を解析し、また変異構造を持つapoA-Ⅱ蛋白を介して老化アミロイドーシスが個体間で伝播する機序を明らかにする。
研究方法
1)ALアミロイドーシス:アミロイド惹起性の免疫グロブリンを産生する骨髄腫細胞の細胞生物学特性を知るために、免疫不全マウスSCIDマウスに遺伝的基盤の異なるヒト骨髄腫細胞株を移植してALアミロイドーシスの発生の有無を検索する。ALアミロイドを特異的に認識する抗体を得るため、精製したALアミロイドに対する種々な抗体を作成する。欧米で行われている末梢血幹細胞移植を併用した強力な化学療法をわが国の患者に施行する。2)AAアミロイドーシス:RA患者を対象に内視鏡下の胃十二指腸生検を定期的に行い、早期の本症患者を見出す。これらの患者に対し抗IL-6抗体を一定の方式で投与することで、本疾患の進展が阻止可能であるかを検討する。RA患者の発病からAAアミロイドーシス発症までの期間とSAA1遺伝子多型との関連を検索し、日本人におけるAAアミロイドーシス感受性を分子レベルから明らかにする。3)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP):過去に国内・国外で肝移植を受けたFAP患者、平成11、12年度にドミノ移植としてFAP患者の肝臓を移植されたsecond donorを一定のプロトコールに沿って定期的に評価する。また異なるtransthyretin遺伝子変異を導入したtransgenic miceを作成し、アミロイド沈着機序の差異を検討する。4)透析アミロイドーシス:骨嚢胞の進展抑制を目的にEtidoronate disodiumを長期投与して、その治療効果を引き続き判定する。分光蛍光定量法により、可溶性β2 microglobulinのアミロイドへの変換とその伸長反応へ影響を与える因子を検索する。5)脳アミロイドーシス:ヒトの脳組織、髄液、血液を用いて、 Aβの生成・代謝過程に対する加齢の影響を明らかにする。平成13年度はステロイドホルモン、NSAIDに代表される薬剤がAβ代謝に及ぼす影
響を臨床的ならびに動物実験で検討する。6)マウス老化アミロイドーシス:ヒト臓器から抽出した種々なアミロイド細線維を本疾患マウスへ注射し、このアミロイド細線維を核としてマウス本来のアミロイド沈着が起るかどうかを検討する。
結果と考察
1)ALアミロイドーシス:河野はアミロイドーシスを合併したヒト骨髄腫細胞をSCID-hIL6 transgenic miceの腹腔内へ移植して、同環境下で骨髄腫細胞がM蛋白を持続的に分泌する系を確立した。しかしマウスではアミロイドーシスは誘発されなかった。麻奥は多発性骨髄腫に合併するALアミロイドーシスの危険因子を明らかにする目的で120名の患者を対象に各種血液検査を施行した。その結果、BUN値(≧19mg/dl)とアポリポ蛋白E値(≧4.5mg/dl)を本疾患発症の危険因子と看做した。今井は本症患者の骨髄または末梢血からVλmRNAを増幅して単クローン性L鎖の塩基配列を決定し、本領域に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを作成した。そして骨髄腫細胞の培養液中へこのアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与することで、L鎖濃度の低下を確認した。由谷は心アミロイドーシスの剖検心17名の刺激伝導系を検索して、同部位へのアミロイド沈着の程度と不整脈・伝導障害の程度が相関することを明らかにした。石原はλ鎖、κ鎖に対する特異抗体を作成して、臨床現場での使用を可能とした。池田は本症患者2名にVAD療法2クール、それに続く造血幹細胞移植を併用したメルファラン大量静注療法を行い、血中ならびに尿中のM蛋白消失を確認した。2)AAアミロイドーシス:馬場は多施設の慢性関節リウマチ(RA)患者を数多く検索し、SAA1遺伝子のγ型と5'-上流のG型、ならびにそれそれのホモ接合体はアミロイドーシスの強い危険因子であることを見い出した。同様に高杉はSAA1-genotypeがγ/γであるRA患者において、アミロイドーシスによる重篤な消化管または腎機能障害が発生し易いことを報告した。吉崎はAEF投与IL-6遺伝子導入マウスにおいて慢性炎症に基づくアミロイドーシスを発生させ、本動物に抗IL-6受容体抗体を投与すると血清中のSAAが正常化すると共に、アミロイド沈着の軽減または消失が起ることを確認した。3)家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP):前田は内在性TTR遺伝子の双方にMet30変異を組み込んだマウスを作成し、本動物はFAP患者の遺伝子治療のモデルとなることを報告した。安東はFAP患者の肝臓をドミノ移植された患者血清中において変異Met30TTRに対する自己抗体を見出し、またFAP患者では肝移植後新たに網膜から産生された変異TTRが眼病変を起こすことを証明した。中里は心病変が前景に出るSer50ArgTTR型FAP3家系の臨床像を報告し、また剖検された心アミロイドーシス2000例の中から5例の変異TTR由来の遺伝性アミロイドーシスを見出した。池田はFAP患者に対する補助的同所性部分肝移植(APOLT)とドミノ移植の経験をそれぞれ3名報告した。4)透析アミロイドーシス:内木はin vitroの系でβ2 microglobulin由来のアミロイド線維は中性pH反応液中で速やかに脱重合を起こすことを見出した。下条はアミロイド沈着病変の発生に関与するマクロファージの指標としてmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)とmacrophage inflammatory protein-1α(MIP-1α)の遺伝子多型を検討し、本病変による手根管症候群を有する患者ではMCP-IGG遺伝子型が有意に高いことを報告した。原は長期透析患者において黄色靱帯、後縦靱帯に多量のアミロイドが沈着して神経障害を呈した患者6名を報告し、また透析アミロイドーシスの指標として血中のマトリックスメタプロテアーゼー3(MMP-3)濃度が有用であることも加えた。5)脳アミロイドーシス:内木は表面プラズモン共鳴法を駆使して、βアミロイド線維伸長過程と共に脱重合過程も一次反応速度論モデルで説明できることを証明した。山田はアミロイド分解酵素であるネプリライシンの遺伝子多型が脳アミロイド沈着の危険因子になっていることを報告した。玉岡はAβ分子種と酸化ストレスとの関連を検討し、不溶性分画Aβ42は過酸化脂質と正の相関があることを見い出した。森は変異型presenilin1を発現するPC1
2D細胞を用いてその細胞代謝を検討し、本遺伝子の導入により細胞運動の異常亢進がみられることを報告した。東海林は脳アミロイド沈着を発生する複数のマウスモデルを作成して、メラトニンによるアミロイド沈着抑制効果を含めて、臨床応用可能な薬物療法の検討を開始した。池田はある一定量以上の副腎皮質ステロイドホルモン投与によりヒト脳脊髄液中のAβ濃度が有意に低下することを報告した。6)マウス老化アミロイドーシス:異なる蛋白から成るアミロイド線維を投与することでアミロイドーシスの発病促進が見られることを明らかにした。
結論
1)アミロイドーシスの発生機序については脳アミロイドーシス、マウス老化アミロイドーシスを中心に進歩が見られた。2)AL,AA-アミロイドーシス、FAPを代表とする全身性アミロイドーシスに新たな治療法が班員の所属する施設で行われた。

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