遺伝子情報に基づいた抗脂質メディエーター薬適正投与の検討(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100797A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子情報に基づいた抗脂質メディエーター薬適正投与の検討(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
浅野 浩一郎(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口佳寿博(慶應義塾大学医学部)
  • 石坂彰敏(東京電力病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ロイコトリエン、トロンボキサンなどの脂質メディエーターの作用を抑制する薬剤(抗脂質メディエーター薬)は強力かつ安全な喘息治療薬であり喘息治療の選択肢を拡げた。しかしこれらの薬剤を使用する上での最大の問題点は薬剤の効果に個体差があるにもかかわらず、どの薬剤がどの患者に奏功するのかを事前に予測する有効な手段が存在しないことである。本研究では患者の遺伝子情報に基づいた適切な抗脂質メディエーター薬の選択を可能とするための基礎的、臨床的検討を行うことを目的としている。抗脂質メディエーター薬の効果の個体差を規定する因子は薬物の吸収・代謝などの薬物動態規定因子と、生体の薬剤感受性を規定する脂質メディエーターの産生・代謝酵素、および受容体機能が重要と考えられる。平成13年度は血小板活性化因子受容体機能、ロイコトリエン産生酵素、およびロイコトリエン代謝酵素の個体差に関する遺伝的素因に関して基礎的、臨床的検討を行う。
研究方法
血小板活性化因子受容体機能の個体差を検討するために30人の日本人健常者をスクリーニングし、新規変異型血小板活性化因子受容体遺伝子を探索した。これにより見いだした変異型血小板活性化因子受容体cDNAをHEK293細胞あるいはCHO細胞に一過性あるいは安定発現させ、変異型血小板活性化因子受容体のリガンド親和性、受容体発現量、血小板活性化因子に対する細胞内情報伝達機構(細胞内カルシウム応答、イノシトールリン酸産生、cAMP産生抑制)、および血小板活性化因子に対する細胞遊走能を測定した。
ロイコトリエン産生酵素の個体差を規定するものとして既にプロモーター活性に影響を与えることが報告されている5リポキシゲナーゼとロイコトリエンC4合成酵素の5'上流領域の遺伝子多型に注目し、ロイコトリエン受容体拮抗薬の臨床効果との関連を検討した。日本人中等量喘息患者50名にcysLT1拮抗薬プランルカスト(450 mg/day)を4週間投与し、投与前後での一秒量改善率をプランルカストの臨床効果の指標とした。プランルカストの臨床効果とロイコトリエン産生酵素遺伝子の関連を単変量解析および多変量解析により検討した。
ロイコトリエン代謝酵素の個体差を規定する遺伝的要因を見いだすために日本人中等量喘息患者50名の尿中ロイコトリエンE4排泄量をHPLC-ELISA法により測定し、最も多い6名と最も少ない6名の患者の末梢血からDNAを抽出し、ロイコトリエン代謝酵素(γロイコトリエナーゼ、ジペプチダーゼ)遺伝子のアミノ酸標識領域および5'上流領域の塩基配列を直接塩基配列決定法により検討した。
結果と考察
血小板活性化因子受容体の細胞内第3ループに位置する224番目のアミノ酸をアラニンからアスパラギン酸に置換(A224D)するミスセンス変異を日本人の約15%に見出した。変異型受容体はリガンド結合能ならびに受容体発現量については野生型血小板活性化因子受容体と差がなかったが、血小板活性化因子に対する細胞内情報伝達機構(細胞内カルシウム応答、イノシトールリン酸産生、cAMP産生抑制)、細胞遊走能が大きく障害されており、この変異遺伝子を持つ場合には血小板活性化因子受容体拮抗薬の効果も少ないことが予測された。ロイコトリエン代謝酵素(γロイコトリエナーゼ、ジペプチダーゼ)遺伝子のアミノ酸標識領域および5'上流領域についても10個の遺伝子多型が見いだされており、そのうちの一つは電荷の変化をともなうミスセンス変異であった。これらの遺伝子多型の殆どはJSNPなどの公開データベースには登録されておらず、重要な標的遺伝子についてはデータベースのみならず、個々の症例の遺伝子塩基配列の詳細な検討が必要であることが示唆された。
ロイコトリエン産生酵素遺伝子多型のなかではロイコトリエンC4合成酵素遺伝子のC(-444)アレルをもつ患者ともたない患者ではβ刺激薬サルブタモールによる気管支拡張効果には差がなかった(一秒量改善率17.5±2.1%対18.7±2.2%)にも関わらず、プランルカストに対する反応には明らかな違いが認められた(一秒量改善率14.3±5.3%対3.1±2.4%、p < 0.01)。10%以上の一秒量改善を示したのはC(-444)アレルをもつ患者14名中9名(64%)であったのに対し、C(-444)アレルを持たない患者では34名中7名(21%)のみであった。この結果はロイコトリエンC4合成酵素遺伝子のタイプによりロイコトリエン受容体拮抗薬の臨床効果を予測できる可能性を示唆した。
結論
血小板活性化因子受容体、ロイコトリエン産生酵素、およびロイコトリエン代謝酵素の遺伝子解析から抗脂質メディエーター薬反応性に関与する可能性のある遺伝的因子が見いだされた。特にロイコトリエンC4合成酵素遺伝子の特定の対立遺伝子がロイコトリエン受容体拮抗薬の有効性を予測する因子として有用であることが実証された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-