文献情報
文献番号
200100737A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
竹森 利忠(国立感染研)
研究分担者(所属機関)
- 森一泰(国立感染研)
- 俣野哲朗(東大院医)
- 速水正憲(京大ウイルス研)
- 狩野宗英(国立感染研)
- 奥田研爾(横浜市大医)
- 森川裕子(北里大生命科学研)
- 保富康宏(三重大医)
- 滝口雅文(熊本大医)
- 杉村和久(鹿児島大工)
- 水落次男(東海大工)
- 佐多徹太郎(国立感染研)
- 向井鐐三郎(国立感染研・筑波霊長類セ)
- 神奈木真理(東京医科歯科大院)
- 牧野正彦(国立感染研・ハンセン病研究セ)
- 阪井弘治(国立感染研)
- 吉木敬(北大院医)
- 宮澤正顯(近畿大医)
- 小笠原一誠(滋賀大医)
- 高橋秀実(日本医大)
- 笠井道之(国立感染研)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
110,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班はHIV感染予防と防御に関する手段を確立すること、HIV感染に伴う主要病因を明らかにし、その予防に有用となる手段を確率する事を目的として、研究を行った。
研究方法
1. HIV感染予防に関する研究 (1)ナイーブ対照群、DNAのみ接種群、SeV-Gagのみ接種群、DNA/SeV-Gagプライム・ブースト接種群のサルにおいて、SHIV感染防御レベルと特異的Tリンパ球レベルとの相関を解析した。さらに、今までより安全なDNAワクチン方法用いたプライム・ブースト接種サルにおける特異的Tリンパ球レベルを測定した。(2)糖鎖変異ウイルスD5Gの感作に伴うSIVmac239感染への防御免疫の機構を明らかにするために、D5G Env蛋白でサルを免疫しSIVmac239に対する防御免疫を調べた。また、糖鎖欠損SHIV株を作製し、被中和能を解析した。また、サル感染実験を行い、血清ウイルス量と抗HIV-1抗体価の測定、SHIVに対する中和抗体価の決定を行った。(3)HIVenvエピトープ組み込みE型肝炎ウイルス(HEV)様中空粒子をマウスに経口投与し、液性免疫・細胞性免疫誘導について検討した。また野生型酵母細胞から出芽したVLPの免疫原性をマウスで検討した。(4)HIVのclade A, B, C, Eの感染防御抗原をコードするDNA18コをヒト型コドン化したヒト型化コドン多価ワクチンを構築し免疫活性を解析した。またワクチンアジュバントとしてのリポソームの細胞性免疫誘導能を解析した。更に、HIV-1感染を阻害するヒト抗体ファージクローンの単離を試みた。 2. HIV感染防御反応に関する研究 (1)NL-432のNef欠損株及び親株を、末梢血リンパ球由来CD4T細胞に感染させ、感染細胞に対するCTLの細胞傷害活性及びサイトカイン産生能を測定した。(2)試験管内HIV-1持続感染系の作成のため抗原特異的CD4+T細胞クローンを作成し、HIV-1株への感染性を調べた。(3)活性化HIV 特異的CTLを浮遊ペプチド抗原により再刺激し誘導されるアポトーシスの機序を解析した。(4)SIV gag及びフレンド白血病ウイルス(FMLV)MA遺伝子組み換えワクシニアウイルス等を用いFMLV感染防機構を解析した。一方、らい菌感染防御におけるDCの役割を免疫学的手法を用い解析した。3. HIV感染に伴う主要病因発症に関する研究 (1)HIVnefによる免疫不全発症機序を解析する目的で、HIVnefを組み込んだアデノウイルスを作製した。このウイルスをアデノウイルス受容体とOVA特異的TcRを共発現するトランスジェニックマウスT細胞に感染させ、その性状を解析した。(2)in situ hybrAT-CSA法を開発しこれを用いて、ヒトHIV感染症剖検例のリンパ節切片を対象にHIV感染における免疫病理学的動態を解析した。(3)エイズ脳炎にサルモデルを用い、脳炎発症に関与すると見られるウィルスの性状を解析した。(4)SHIVクローンを用い、病原性発症に関わるウィルスの塩基配列を決定した。HIV感染モデル小動物作製のためHIV感染発現に関与する遺伝発現ベクターを構築した。
結果と考察
1. HIV感染予防に関する研究 (1)感染マカクサルエイズモデルにおいて優れた感染・AIDS発症阻止効果を示すSHIVのenv,nefを欠損させたプロウィルスDNAとSIVgag発現センダイウィルスベクター(sev)を併用したワクチンシステムにおける防御メカ
ニズムが明らかにされた。更にこのシステムの安全性を高めるために、プロウィルスDNAからCMVプロモーター制御によるDNAワクチンへ構築を変え、接種回数をそれぞれ1回に減少しても十分な効果が発揮されることが示唆された。またこのシステムでHIV-1 Tat発現sevの効果を検討したが、その感染防御能はsev-gagと比較して劣ることが示唆された。(2)Env gp120の5個のアスパラギン結合型糖鎖を欠損したSIVmac(delta 5G)は親株と同等の感染性を有するが、感染後ウィルス産生は急激に減少し潜伏感染の状態で維持される。delta 5G感染サルへ感染した親株のウィルスは速やかに排除される。この防御反応はEnvに対する中和活性抗体非依存的で複数の抗原に対するCTLに依存する可能性が示唆された。同様にEnv領域の糖鎖を欠損したSHIVは感染性が著明に低下するが、感染により産生される中和活性抗体の量は少なく、免疫反応賦活に大きく作用しないことが示唆された。
(3)HIV env DNA封入E型肝炎ウィルス由来ウィルス空中立粒子(VLP)が作製され、ネズミに経口投与した所、env特異的な抗体と細胞傷害性T細胞の産生が惹起されることが明らかとなった。一方、酵母由来gag-VLPは液性免疫反応を誘導するが細胞性免疫は低いことが示唆された。(4)HIV DNA多価ワクチンのモデルシステムが検討され、またHIV侵入阻害抗体分子の検索が行われた。更にリポゾームのアジュバント活性や抗原提示細胞に必要な機能が検討された。また感染防御のためのペプチドワクチンのデザインが考察された。2. HIV感染防御反応に関する研究 (1)Nef発現によるHLAクラス1抗原の発現減少がHIV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)のキラー活性を減少させるが、サイトカイン産生能は維持されることが明らかにされた。 (2)HIV特異的CTLがペプチド抗原提示MHCクラス1との反応によりアポトーシスとなる可能性があること、CTLが持続感染細胞に対してMHC-1拘束、非拘束性にウィルス抑制効果を示す可能性が推察された。(3)ウィルス感染防御にはCD4,CD8陽性T細胞への複数のエピトープが必要であることが示され、中和抗体産生の速度と質を決定する宿主因子が存在する可能性が示唆された。(4)その他抗酸菌日和見感染に対するDC活性化の要因が細胞壁にあることが示唆され、抗原提示細胞によるペプチド提示のプロセスが解析された。3. HIV感染に伴う主要病因発症の解明に関する研究 (1)HIVnef発現における免疫不全発症の要因を明らかにするための解析システムが作製された。(2)従来困難であった剖検組織においてHIV mRNA陽性細胞を検出することを可能にする技術を確立し、これを用いて小児剖検40例の解析から末期リンパ節におけるHIV mRNA陽性細胞T細胞の表現型を明らかにした。(3)サル脳炎易発症性のSIVの構造が解析され、またSIV-HIVキメラウィルスの病原性獲得が解析された。(4)病因解明に役立つHIV感染ラットの開発のためのベクターの構築が完成したた。
ニズムが明らかにされた。更にこのシステムの安全性を高めるために、プロウィルスDNAからCMVプロモーター制御によるDNAワクチンへ構築を変え、接種回数をそれぞれ1回に減少しても十分な効果が発揮されることが示唆された。またこのシステムでHIV-1 Tat発現sevの効果を検討したが、その感染防御能はsev-gagと比較して劣ることが示唆された。(2)Env gp120の5個のアスパラギン結合型糖鎖を欠損したSIVmac(delta 5G)は親株と同等の感染性を有するが、感染後ウィルス産生は急激に減少し潜伏感染の状態で維持される。delta 5G感染サルへ感染した親株のウィルスは速やかに排除される。この防御反応はEnvに対する中和活性抗体非依存的で複数の抗原に対するCTLに依存する可能性が示唆された。同様にEnv領域の糖鎖を欠損したSHIVは感染性が著明に低下するが、感染により産生される中和活性抗体の量は少なく、免疫反応賦活に大きく作用しないことが示唆された。
(3)HIV env DNA封入E型肝炎ウィルス由来ウィルス空中立粒子(VLP)が作製され、ネズミに経口投与した所、env特異的な抗体と細胞傷害性T細胞の産生が惹起されることが明らかとなった。一方、酵母由来gag-VLPは液性免疫反応を誘導するが細胞性免疫は低いことが示唆された。(4)HIV DNA多価ワクチンのモデルシステムが検討され、またHIV侵入阻害抗体分子の検索が行われた。更にリポゾームのアジュバント活性や抗原提示細胞に必要な機能が検討された。また感染防御のためのペプチドワクチンのデザインが考察された。2. HIV感染防御反応に関する研究 (1)Nef発現によるHLAクラス1抗原の発現減少がHIV-1特異的細胞傷害性T細胞(CTL)のキラー活性を減少させるが、サイトカイン産生能は維持されることが明らかにされた。 (2)HIV特異的CTLがペプチド抗原提示MHCクラス1との反応によりアポトーシスとなる可能性があること、CTLが持続感染細胞に対してMHC-1拘束、非拘束性にウィルス抑制効果を示す可能性が推察された。(3)ウィルス感染防御にはCD4,CD8陽性T細胞への複数のエピトープが必要であることが示され、中和抗体産生の速度と質を決定する宿主因子が存在する可能性が示唆された。(4)その他抗酸菌日和見感染に対するDC活性化の要因が細胞壁にあることが示唆され、抗原提示細胞によるペプチド提示のプロセスが解析された。3. HIV感染に伴う主要病因発症の解明に関する研究 (1)HIVnef発現における免疫不全発症の要因を明らかにするための解析システムが作製された。(2)従来困難であった剖検組織においてHIV mRNA陽性細胞を検出することを可能にする技術を確立し、これを用いて小児剖検40例の解析から末期リンパ節におけるHIV mRNA陽性細胞T細胞の表現型を明らかにした。(3)サル脳炎易発症性のSIVの構造が解析され、またSIV-HIVキメラウィルスの病原性獲得が解析された。(4)病因解明に役立つHIV感染ラットの開発のためのベクターの構築が完成したた。
結論
強いワクチン効果が得られるDNAワクチン/センダイウィルスベクター併用接種システムの免疫反応が解析され、安全性についての改善が行われた。また、SIV,HIVウィルス糖鎖に対する免疫防御反応の重要性が明らかにされた。HEV-VLPを用いたワクチンの有用性が示唆されるとともに、その他新しい技術を用いたワクチン開発が進行した。基礎研究においてHIV感染におけるCTLの機能不全の要因が検討され、新たな知見を得た。HIV感染病態の発症について、SIV SHIVモデルを用いたウィルス感染による病原性獲得の要因が検討され、env領域の変異が重要である可能性が推察された。一方、HIV感染と病態発症解明のための新しい病理学的診断法やHIV nef依存性免疫不全発症の要因の解明のための新しいシステムが確立された。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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