疾病媒介昆虫の侵入・移動分散の監視・防御に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100723A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病媒介昆虫の侵入・移動分散の監視・防御に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
安居院 宣昭(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 平田堅司(大阪検疫所)
  • 太田周司(成田空港検疫所)
  • 倉橋 弘(国立感染症研究所)
  • 小林睦生(国立感染症研究所)
  • 當間孝子(琉球大学)
  • 上宮健吉(久留米大学)
  • 冨田隆史(国立感染症研究所)
  • 吉田政弘(大阪府立公衆衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地球規模の自然環境の変化や人・物の移動・増大により、疾病媒介昆虫類の国内侵入・定着のリスクが高まり、それらに対する監視・防御体制の整備が求められている。本研究では侵入昆虫監視機関による媒介昆虫侵入の実態把握、監視の体制・技術の整備、侵入昆虫種の生物学的特性の解析等により、効果的防御対策の策定を図る目的で、本年度は以下の研究課題を継続した。①空・海港検疫所における侵入昆虫類の実態調査、②調査昆虫種の正確な分類・同定体制の整備と運用、③媒介蚊や毒グモ等の国内分布調査および拡大要因の解析、③侵入および在来衛生昆虫類の潜在的移動・分散能力の解析、④既存および新規侵入衛生昆虫種の殺虫剤抵抗性分子診断法の確立等の研究を継続実施する。これら研究課題の実施により、平常時の媒介昆虫類の動態の把握、監視体制と監視技術の整備、効果的防除対策の策定に必要な知見を得、さらに昆虫媒介性感染症の流行時の危機管理対策に役立てる。
研究方法
節足動物媒介性感染症に関連する主要衛生昆虫類を対象として、国内侵入状況、移動分散、分布拡大等の実態把握およびそれらの監視と防御システム構築のための個別研究課題の研究方法は以下の通りである。①空港、港湾由来の侵入昆虫の実態調査、蚊類に対する効果的モニタリング法ならびに駆除対策法の検討、②採取された侵入昆虫の精細な系統分類・同定とそれらの生理・生態的特徴の解析、③侵入昆虫類の潜在的移動分散能力の物理数量的解析、④地理情報システム(GIS)による媒介蚊、毒グモの分布域拡大についての要因解析、⑤遺伝子比較解析法による蚊類の侵入・移動分散の実態解析、⑥シラミ症調査報告結果の解析と殺虫剤抵抗性の分子診断法の確立、⑦侵入毒グモの分布拡大調査と防除効果の評価解析。
結果と考察
国際空・海港検疫所での侵入昆虫類の継続調査では多数の外国由来昆虫類が確認された。捕獲蚊類では病原体保有は確認されなかった。蚊モニタリング法の標準化と侵入昆虫種データ蓄積および病原体保有調査の継続は、昆虫媒介性感染症の突発的な流行対策に役立つことが期待される。採集昆虫の分類同定は、検疫所、感染研の連携ネットワークで効率よく処理された。高移動性ハエ種の生理学的解析および飛翔測定装置による蚊類の潜在的飛翔・移動能力を比較・検討した。デング熱媒介蚊の国内北限の移動が確認され、北上の要因解析にはGIS解析が有効に利用された。南西諸島へのネッタイシマカの侵入調査では同種の確認はできなかった。これら結果が国内でのデング熱二次感染防止対策への活用が期待される。同蚊の侵入・移動の実態解明にはアジア産同種の遺伝子塩基配列変異を比較・検討したが、さらにマーカー遺伝子の再検討が必要であった。さらに、本年度は蚊類の発生消長要因解析を研究課題に加えた。当研究事業で確立した殺虫試験と遺伝子診断法により、一匹のシラミでも駆除剤抵抗性診断が可能となった。都内で駆除剤抵抗性アタマジラミが確認され、駆除剤に頼らない対策の検討が必要となった。侵入毒グモのセアカゴケグモは関西地区でさらに分布を拡大し、ハイイロゴケグモは1996年度調査の分布域をはるかに越えていることが確認された。調査データのGISによる解析は分布拡大・密度情報の利用ならびに対策の策定を容易にした。定期的防除作業の必要性が駆除作業後の生態調査が示唆した。
結論
空港・港湾検疫所における侵入昆虫モニタリング継続調査で
は、前年同様に多種の外来性昆虫種を確認した。検疫区隣接地域での蚊分布・分散の継続調査に加えて、立地環境の異なる地方空港における侵入蚊の調査も実施した。成田空港では常時発生しているチカイエカの調査と防除を実施した。これら平常時における媒介昆虫侵入監視最前線の検疫所における蓄積情報は、外来侵入種の判別を容易とし、新たな昆虫媒介性感染症の突発的な流行時の緊急時対策に役立つ。侵入・生息調査を通して、検疫所の昆虫モニタリング調査機能と感染研の分類・同定レファレンス機能が連携して機能した。さらに、昆虫モニタリング・マニュアルの標準化、全国ネット観測定点の設定等による関連機関の連携化を進め、効率的な媒介昆虫対策の推進が必要である。コガタアカイエカの多発生は稲作形態、殺虫剤散布実績と気象因子等の小さな変化で起こる事が示唆された。東北地方でのヒトスジシマカ分布域は1998年以降100kmも北上が確認され、今後さらに北上が予想される。南西諸島でのネッタイシマカの分布域調査が必要である。新規開発飛翔測定装置で多種蚊類の潜在的飛翔能力の比較が可能となった。飛来侵入の可能性が高いハエ種について、飛翔能力と季節による生理的差違の関係から、秋期に飛来侵入する個体群の存在を示唆した。シラミのフェノトリン抵抗性判別薬量には100mg/m2が適当であり、都内でアタマジラミの薬剤抵抗性が確認された。抵抗性の原因は薬剤作用点遺伝子の点突然変異であった。シラミの人工飼育を開始した。シラミ症の実態調査には都道府県からより精度の高い情報が必要である。ハイイロゴケグモとセアカゴケグモは分布をさらに拡大し、ハイイロゴケグモはコンテナ輸送を介して分布拡大する事が示唆された。GISによるセアカゴケグモの分布・密度データの解析は防除対策に役立つ事が判明した。

公開日・更新日

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