節足動物媒介性ウイルスに対する診断法の確立、疫学及びワクチン開発に関する研究

文献情報

文献番号
200100722A
報告書区分
総括
研究課題名
節足動物媒介性ウイルスに対する診断法の確立、疫学及びワクチン開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 安居院宣昭(国立感染症研究所)
  • 江下優樹(大分医科大学)
  • 小西英二(神戸大学医学部)
  • 高崎智彦(国立感染症研究所)
  • 只野昌之(琉球大学医学部)
  • 名和 優(埼玉医科大学)
  • 森川茂(国立感染症研究所)
  • 森田公一(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 山岡正興(兵庫県立衛生研究所)
  • 山田章雄(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は以下の3つの目的を有する。(a)日本に侵入する可能性のある節足動物媒介性ウイルスに対して、?清診断法と病原体診断法を確立する、(b)媒介節足動物とウイルスの侵淫状況を把握するための技術開発を行い現状を把握する、(c)節足動物媒介性ウイルスに対する新型ワクチンの開発に向けて、動物実験を含めた基礎的研究を行う。
研究方法
1)クリミア・コンゴ出?熱(CCHF)に対するRT-PCR法の確立:プライマーセットAは過去の論文に基づいて設計された。プライマーセットBは,中国8402株のS-遺伝子塩基配列に基づいて設計された。2)日本脳炎、デングキメラウイルスの作製:C6/36細胞に日本脳炎ウイルスとデングウイルスを感染させ培養液中に産生されたウイルス粒子からウイルス遺伝子RNAを抽出し作製した。3)NS1抗体測定法:平成12年度厚生科学研究費補助金「デングウイルス及び日本脳炎ウイルスに対する新型ワクチンの開発に関する研究」研究班の分担研究報告書「日本脳炎ウイルス非構造蛋白NS1抗体測定系の確立」に記載した方法で行った。4)IgM-ELISA法:固相に抗ヒトIgM抗体を被覆しておき、ここへ患者?清を反応させた。西ナイルウイルス抗原(P)と正常非感染抗原(N)とを別々に加えて、固相に捕捉された西ナイルウイルス特異的IgM抗体と反応させた。西ナイルウイルス特異的IgM抗体と反応したウイルス抗原を、酵素標識したフラビウイルス交叉性単クローン抗体D1-4G2により検出する。5)PCR法による蚊種の区別:ヒトスジシマカを用いて、rDNAシストロンのInternal Transcribed Spacer 2領域を比較するためのツールとして特異的な制限酵素の探索を行い、類似性が地域毎に認められるか否かを検討した。6)ヤブカ幼虫の採取と寄生原虫の検出:ヤブカ幼虫は、墓地の花立て、古タイヤ等の人工容器から駒込ピペットを用いて幼虫を採集した。7)日本脳炎DNAワクチンの作製と免疫:pcJEMEは、pcDNA3ベクターに、JEVのprM及びE遺伝子を組込んだ。8)サルにおける日本脳炎DNAワクチンの免疫応:カニクイザル5頭にはPBSに溶解したプラスミドDNA、pNJEME 500?gを大腿部筋肉内に投与した。4頭には対照としてベクターDNA 500?gを同様に接種した。初回免疫後、4および8週間後に、同量のプラスミドDNAを追加投与した。9)デングDNAワクチンの開発:デングウイルス2型ニューギニアC株のPreM およびE遺伝子、非構造蛋白遺伝子NS1、NS2(NS2A+NS2B)、NS3、NE4(NS4A+NS4B)、NS5それぞれをpcDNA3ベクターに組み込み実験用デングDNAワクチンを作製した。
結果と考察
1)クリミア・コンゴ出?熱(CCHF)に対するRT-PCR法の確立: 4検体からCCHFウイルスゲノムが検出された.その4検体のうち,PCR(A)とPCR(B)によりウイルスゲノムが検出されたのは1検体のみで, PCR(A)でのみウイルスゲノムが検出されたのは1検体で, PCR(B)でのみウイルスゲノムが検出されたのは2検体であった。2)日本脳炎、デングキメラウイルスの作製:昨年度作製したデング2型と日本脳炎ウイルスのキメラウイルスについてその生物活性をさらに詳細に解析するとともに、あらたにデング4型と日本脳炎ウイルスのキメラウイルスの作製にも成功した。3)日本における日本脳炎ウイルス不顕性感染状況: NS1抗体陽性率は都市部9.9%、農村部20.6%であった。1年間隔で採取されたペア?清を用いた研究では1年間に受ける自然感染の頻度は都市部都市部5%、農村
部7.5%と推定された。4)米国からの帰国者?清、成田空港において採取された蚊、カラス?清中の西ナイルウイルス抗体を調査するシステムを確立し、上記検体を調査したがすべて陰性であった。5)成田空港検疫所において熱帯・亜熱帯地域から帰国した不明熱患者69症例を検査し9症例をデングウイルス感染と診断した。国立感染症研究所においては76症例中35例をデングウイルス感染と診断した。6)感染蚊からのデングウイルスゲノム検出:個々の蚊から抽出した総RNAをプールにしてPCR反応を行ったところ、総RNA濃度が高いほど特異的なPCR産物が得られにくい傾向があった。個体当たり抽出精製した総RNAの1/50あるいは1/10を用いても特異的なPCR産物が得られた。7)感染蚊からのウエストナイルウイルスゲノムの検出:Isogen-LS液によって個体別に蚊から総RNAを抽出すると、RT-PCR法で特異的なPCR産物が得られた。8)PCR法によるネッタイシマカとヒトスジシマカの鑑別:ゲノムDNA上にあるリボソームDNAシストロンのITS 2領域を比較するために、ハエ目(双翅目)に共通して利用可能なプライマーを用いてPCRを行ったところ、両蚊種で特異的なPCR産物が認められた。両者のPCR産物の大きさには約180 bpの相違が認めれたことから、PCR法の適用によって両種を区別することが可能な結果が得られた。9)ヒトスジシマカ幼虫に対する寄生虫感染状況の検討: 本邦産ヒトスジシマカ幼虫に寄生するAscogregarina sp.がどの程度広範に認められるかを昨年に引き続き調査した。東北、関東、関西、沖縄地方等広範にA. taiwanensisの寄生を認めた。10)リポソーム試薬によるDNAワクチンの免疫増強:リポソーム試薬はマウスいずれの系統においてもDNAワクチンの中和抗体誘導能を増強した。しかし、リポソーム試薬の免疫誘導増強は雌マウスにおいてのみ観察された。11)サルにおける日本脳炎DNAワクチンの免疫誘導能:DNA量を500?gに増量し、初回、4、8週目に3回筋肉内接種した。最終免疫後1週目(9週)で5頭中3頭に80倍から160倍のHI抗体価が認められた。12)実験的デングDNAワクチンの開発:デングウイルス2型ニューギニアC株のPreM およびE遺伝子を組み込んだDNAワクチンは防御効果を示した。13)西ナイルウイルスに対する日本脳炎ワクチンの効果:国立感染症研究所における検討では、日本脳炎ワクチン免疫後、西ナイルウイルスを脳内接種した場合、有意な防御効果を認めなかった。西ナイルウイルスを腹腔内接種した場合はある程度の効果を認めたが、十分な防御効果は示さなかった。一方、琉球大学における検討では、日本脳炎ワクチン免疫、日本脳炎ウイルス抗体を含むヒト?清の硫安分画による受動免疫により、西ナイルウイルスの致死的な脳内接種からマウスを防御した。14)ジフテリアトキシンAフラグメントを負荷した日本脳炎ウイルスを用いることにより、日本脳炎ウイルスの細胞への感染機序を解析する新しい方法を開発した。15)シンドビスウイルスのレセプターとして95kDaと175kDaの2つの蛋白を検出した。結果は以下の点で厚生労働行政に貢献する。1)デング熱、西ナイル熱、クリミア・コンゴ出?熱等の診断法は旅行者による輸入感染症の実体把握に貢献する。また、検疫所等への技術移転によりウイルスの日本への侵入阻止に貢献し得る。2)ベクターの分布を把握し、感染蚊の検出法を整備することにより、ウイルスの日本侵入時における、早期の感染症対策を可能にする。3)現在ワクチンが存在しない節足動物媒介性ウイルスに対するワクチン開発を推進する。
結論
節足動物媒介性ウイルスに対する?清・病原体・遺伝子診断法として、クリミア・コンゴ出?熱ウイルスに対する分子生物学的診断法を確立した。また、日本脳炎ウイルスとデングウイルスのキメラウイルスを作製し、これを用いたデングウイルス診断用抗原の大量産生方法を確立した。媒介節足動物とウイルスの侵淫状況を把握するための技術開発と現状の把握として、デングウイルス媒介蚊の分子生物学的区分法を確立した。また、デングウイルス媒介蚊からのウイルスゲノム検出法を確立した。さらに、デング熱媒介蚊の分布と幼虫への寄生原虫の日本にお
ける分布状況を明らかにした。米国からの帰国者?清、蚊、カラス?清中の西ナイルウイルス抗体を調査するシステムを確立し、上記検体を調査したがすべて陰性であった。節足動物媒介性ウイルスに対する防御免疫の解明と新型ワクチンに必要な基礎技術の開発として、新しいトランスフェクション試薬を用い新型ワクチンとしてのDNAワクチンの中和抗体産生能を増強させることに成功した。デングウイルスPreMとE遺伝子、NS1, NS2, NS3, NS4, NS5のそれぞれを含む実験的DNAワクチンを作製した。日本脳炎ウイルスの細胞への感染機構を明らかにする方法を確立した。

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