痴呆性疾患の危険因子と予防介入

文献情報

文献番号
200100593A
報告書区分
総括
研究課題名
痴呆性疾患の危険因子と予防介入
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
朝田 隆(筑波大学臨床医学系)
研究分担者(所属機関)
  • 山田達夫(福岡大学医学部)
  • 田邊敬貴(愛媛大学医学部)
  • 矢富直美(東京都老人総合研究所)
  • 植木彰(自治医科大学)
  • 白川修一郎(国立精神神経センター精神保健研究所)
  • 中堀豊(徳島大学医学部)
  • 木村英雄(国立精神神経センター神経研究所)
  • 苗村育郎(秋田大学保健管理センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 21世紀型医療開拓推進研究(痴呆・骨折研究分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
39,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
痴呆症、ことにアルツハイマー病の予防が可能か否かを検討するとともに、どのような介入方法が発症を防御する効果を有するのかを明らかにする。
痴呆性疾患の多くは、遺伝的要因と環境要因(ライフスタイルなど)があいまって発症すると考えられている。したがって予防の基本にあるのはそのような遺伝的要因とライフスタイルそのものであり、またそれらの相互作用である。 
痴呆性疾患の危険因子としてのライフスタイルに関する従来の知見は乏しい。また人種差なども存在する可能性があるので日本人に固有の要因を明らかにする必要がある。次にアルツハイマー病などのありふれた疾患の成因として近年遺伝子多型が重視されている。アルツハイマー病に関連しては、既にいくつかの関連遺伝子多型が知られているが、Apolipoprotein E4遺伝子以外には大きな影響力を有するものはない。そこで新たな関連遺伝子多型を明らかにする必要がある。
その上で環境要因と遺伝的要因をつきあわせれば個別性をふまえた介入の基礎が明らかにされるはずである。
このような基本的な考えに立って睡眠、栄養、運動の観点から痴呆症の予防介入を行い、それらの
効果を検討する。
研究方法
以下の各段階からなる。(対象としては、主にアルツハイマー病と脳血管性痴呆を想定している)
1)痴呆発症の危険性の高い個人の特定
近年Mild Cognitive Impairment (MCI)など痴呆の前駆期状態が注目されている。こうした個人を指摘するには従来の簡易痴呆スクリーニング検査はあまり有用でないとされる。そこで前駆期をとらえる目的に合致し、しかも大人数を同時に検査できるようなマススクリーニング法を開発する。その上で前駆期にあると判断された個人を対象にして、予防介入を行う。
2)危険因子の特定
地域調査によって前駆期にある個人のみならず痴呆症と診断される個人をも明らかにする。同時に全ての対象に対してライフスタイルについての質問票に回答してもらう。さらに主任研究者がこれまで蓄積してきた約1000名のアルツハイマー病患者のライフスタイルデータもまた用いる。これらによって日本人におけるアルツハイマー病発症の危険因子を明らかにする。
それと平行して茨城県利根町における調査では遺伝子検査のための採血も行う。この血液から得られた遺伝子サンプルを用いて候補と目した遺伝子多型について検討を行う。
3)予防介入
全国の4カ所(茨城県、東京都、京都府、愛媛県)において前駆期にあると判断される個人を対象に予防介入を行う。実際の介入手段として、栄養、睡眠、運動に注目している。
これらとは別に秋田県では、飲酒習慣、高血圧、高脂血症に注目して介入することで脳血管性痴呆に対する防御効果を検討するとともに、新たに効果的と考えられる予防方法を探索する。
結果と考察
上記の1,2,3)に対応して示す。
1)マススクリーニング用のテストとして「ファイブ・コグ」と命名したテストバッテリーを開発した。既に茨城県利根町と東京都において約2000名の高齢者にこのテストを施行した。利根町では採点の結果前駆状態にあることが疑わしい個人に対しては、より詳細な検査と半構造化面接からなる2次検査を行うことで確定診断を行っている。中山町での調査からは、このような状態にある個人は65歳以上の高齢者の5.3%であるという結果が得られている。利根町では1次調査の終了時点では10%未満という途中結果を得ている。
2)危険因子の特定については、従来の報告が指摘しているのと同様に加齢、家族歴、女性であることさらにApoE4遺伝子などを指摘した。なおApoE4遺伝子については、ヘテロでは危険度は3倍程度にすぎないがホモだと10倍以上と極めて高値になることが判明した。
それ以外では、短時間の昼寝の習慣が防御効果を有するという結果を得た。また教育歴が長いことがApoE4をもたないものに対しては防御的に作用するという結果を得た。しかしApoE4をもつものではこの作用はみられなかった。また喫煙は、この結果とは逆に、ApoE4をもつものにおいては発症に対して防御的に作用することが明らかにされた。そしてもたないものでは、このような効果は認められなかった。
最近、アルコールの摂取が防御的に作用するのではないかとする報告がヨーロッパの疫学チームによってなされたのでこの点も検討してみた。しかしわれわれの対象においてはApoE遺伝子型にかかわらずそのような影響はみられなかった。
3)予防介入については、栄養、睡眠、運動に関してそれぞれがもつ効果を予備的に検討し、また基盤整備を行ってきた。
結論
痴呆症発症の危険性の高い高齢者を指摘しうるマススクリーニングの手段を開発した。こうしたテストの上でより精度の高い調査を行い痴呆症の前駆期にある個人を特定しつつある。これまでの疫学調査の結果からは、65歳以上の高齢者の5から10%がこのような状態にあるものとと考えられる。
ライフスタイルという観点から予防に着目すると、まず昼寝などの睡眠への注目が重要であろう。また喫煙、教育もしくは学習習慣にも大いなる興味がもたれる。いずれにせよ個人ごとに異なる遺伝的背景を考慮した個別の予防介入という方向性が不可欠と考えられる。

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