薬用生物資源の種子保存法確立における研究基盤整備に関する総合的研究  

文献情報

文献番号
200100440A
報告書区分
総括
研究課題名
薬用生物資源の種子保存法確立における研究基盤整備に関する総合的研究  
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
関田 節子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐竹元吉(日本薬剤師研修センター)
  • 渕野裕之(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 柴田敏郎(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 香月茂樹(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 飯田 修(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 酒井英二(岐阜薬科大学)
  • 正山征洋(九州大学薬学部)
  • 水上元(名古屋市立大学薬学部)
  • 神田博史(広島大学医学部)
  • 下村講一郎(東洋大学生命科学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬用植物資源は、生薬としてそのもの自体が医療に重要な位置を占めているが、同時に新薬のシーズとして医薬品開発に大きく貢献している。現在、市場にある医薬品の1/4~1/3が天然資源に由来するもので、これらの資源に含有される成分の多様性と個々の化合物の構造の新奇性は新薬開発に欠かせないものである。近年、合成薬中心の医療体制をとってきた米国が植物を中心とした天然薬物の有用性を再評価し、1994年にDietary Supplementを法制化してからは自国の薬用植物だけではなく中国の生薬にも強い関心を持つようになり、東南アジアや南米産薬用植物はもとより、最近では日本産薬用植物から新薬開発の目的で極めて熱心に研究を進めている。一方、我が国は生薬の90%以上を海外から輸入している。しかし、一昨年、昨年と続けて、中国が砂漠化防止の名目で麻黄、甘草の輸出を禁止したように、天然資源の保護のために輸出を禁止した場合には自国で対応する必要があり、種子の収集、保存が重要であることは明白である。導入した種子や栄養体は、種毎に保存方法の適否によって発芽能力や成分の生合成能を失うため、より優れた条件を開発することが重要である。さらに、種子を結実しない植物については、栄養体、茎頂分裂組織、カルス、培養細胞、毛状根等の超低温保存法を開発する。これらの植物の特質を明らかにするために、遺伝子の解明を行う。保存した植物体の特性が維持できているか否かについては、化学的に有効性と安全性を検証するための研究を行う。数年前よりEU諸国は薬用植物栽培の安全規格(Good Agriculture Practice: GAP)を提唱し、WHOが中国、日本に呼びかけてその作成を進めている。我が国では10年前から当時の厚生省が国立衛生試験所、地方自治体の薬草園と共に「薬用植物の品質評価・栽培指針」を作成してきた。そこで、これを基礎にGAP案を作成するための研究を行う。これらの下に管理された有用資源は、生薬、生薬製剤(漢方製剤)として、また、新薬開発の資源として医療に大きく貢献することが期待される。同時に、これらの研究を通じて知的財産を保護するための新たな基盤が築けるものと期待される。
研究方法
種子を長期間保存するための条件を確立することを目的として、サラシナショウマ、ウツボグサ等について温度(-80℃、-20℃、-1℃、10℃、20℃)と容器(スチロール製缶、スチロール製瓶、ビニール袋、紙袋)で保存し、採集直後および5~10年間保存後の種子の発芽試験を、催芽処理法により処理した種子30粒を1区として発芽床に播種し、経時的に発根と発芽を観察した。催芽処理法は、播種前に湿った清浄な砂に種子を埋設し、密閉容器中10℃で2週間放置する方法、播種前に種子を蒸留水で充分に洗浄する方法、播種前に発芽床を0.05%ジベレリン酸溶液で湿らせる方法、播種前に発芽床を 0.2%硝酸カリウム溶液で湿らせる方法で行った。栄養繁殖性を長期間保存する条件検討は、植付け方法、光、温度、植え替え期等の検討を開始した。昨年度に引き続き,筑波薬用植物栽培試験場の保存株を元に北海道、種子島に配布し栽培実験を行っているマオウ種苗の生育度と成分を測定した。また,サラシナショウマ、トウキ,日本産オウレン、エンゴサク,中国のオウレン、ヨーロッ
パのラクツカリュウムソウ、キバナバラモンジン、サントリソウ、ビロードモウズイカ、カミツレ、マリアアザミ、パラマツなど24種のブラジル薬用植物、ネパール薬用植物について栽培法を検討した。培養シュートの3段階の温度条件、各温度について明所と暗所の合計6条件で冷蔵保存が進行中であるハマボウフウおよびチョウセンアサガオ属植物について、冷蔵株から再現した植物の戸外での栽培を引き続き行い、形態を調査し、根茎に含まれる有効アルカロイド成分のヒヨスチアミンとスコボラミンをGC法によって分析した。ムラサキの培養シュート、ジャコウの不定胚の超低温保存の条件を検討し、保存前後の成分変動をHPLC、GC-MSで分析した。2001年9月~11月にかけて茨城県、栃木県の野生薬用植物の種子、苗を採取し、学名の同定後、試験条件にそって保存をおこなった。知里真志保の分類アイヌ語辞典植物篇に記載されている薬用及び食用植物のリストを作成し、植物の導入・植栽を行なった。2001年8月25日・26日に中川郡美深町松山湿原における野生薬用植物の分布調査を実施した。2001年初夏~晩秋に伊豆半島,特に南端地域に自生する野生植物の種子採取を行った。また、2001年10~11月,伊豆半島南端南伊豆町走雲峡全長約6kmのうち、海側約2kmの道路沿い及びその周辺に分布する植物の調査を行った。2001年9~10月に種子島の野生薬用植物の分布調査と種子採取を実施した。名古屋市立大学薬学部所蔵の標本、北海道医療大学薬学部のネパール産マオウ(E. paniculataとラベルされているもの)、国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場所有のモンゴル産マオウ標本(種名は付されていない)を用いて遺伝子解析を行った。DNAを調製後、設計した3種類のプライマーによりchlB遺伝子の5ユ側約350bpを増幅した。これを蛍光シークエンサーにより塩基配列を解読した。一方,生薬成分、トリテルペン系配糖体やアントラキノン配糖体のモノクローナル抗体を作製しELISAを構築して超高感度の定量法を確立した。薬用植物栽培と品質評価指針の各項目を横断的に検討し、安全性の面から総合的にまとめ上げGAP素案を作成した。
結果と考察
昨年度に引き続き、種子の保存方法の条件設定とその有効性について発芽率、発根率、再生率、成分の変動を検討した。サラシナショウマの発根には長期の日数を必要とし、さらに、子葉の展開には発根後さらに時間を要することが分かった。本種子は上部胚軸休眠の可能性があり、子葉の展開を促進する条件についての検討が必要であると考えられる。保存温度や期間によって発芽率に差がでる場合が観察されたことから、各々の種子に対して最適な保存温度、保存期間を検討することが必要であると判断した。今後もデータを積み重ねることにより、現存する種子植物資源の多くを種子として長期間保存し、必要時にはすみやかに個体を再現できることが期待される。種子保存が不適当な植物の無菌培養不定胚の超低温保存についても検討を行い、ガラス化法による保存が可能であることが判明した。成分は保存前後で変化がないことを確認したが、再生率の向上が今後の課題と考えられた。野生植物については、地理的に孤立していたり自家不和合その他の原因のため結実不良の植物(アケビ、ヤクタネゴヨウ)については異系統のものを早急に隣植するなどの方策を講じる必要がある。マオウの生育については積雪対策が必要であるが、暖かい地域では成分的にも不利な点は認められていず、増殖可能と判断される。マオウ属植物の遺伝子の塩基配列に基づく種鑑別の可能性について検討し、chlB遺伝子の5ユ側350bpの領域により3種の同定がなされた。残された領域の塩基配列の解読が必要である。含有成分のモノクローナル抗体(MAb)の作製により、新しい超高感度の定量系が確立された。昨年度までに作成された薬用植物の栽培技術と品質指針を基に「薬用植物の栽培及び調製加工に関する基準」(GOOD AGRICULTURAL PRACTICE FOR MEDICINAL PLANTS IN JAPAN,略称GAP)としてまとめた。医薬品として使われる生薬原料が品質面で確保できれば、有効性に関する研究が可能になったと思われる。
このようなものがヨーロッパと中国だけではなく広く世界で共通に利用できれば安心して生薬が流通できるものと思われる。今年度は品質の安全性を中心に検討した.今後は品質の有効性を取り上げて検討を進める。
結論
結実期に種子の採取を行った。サラシナショウマ等の発芽試験、発根試験を行い、保存温度、保存容器等の条件により種に与える影響を観察した。さらに圃場での栽培条件の検討を開始し、国内生産が可能な条件検索を行った。マオウの国内栽培では、寒冷地では積雪により地上部が枯死するが、翌春にシュートから生育した株の大きさは年数ごとに増加すること、温暖な地域では 活着率,生育度とも良好であることが明らかになった。成分のエフェドリン量はいずれの地域のものも薬局方の規格値を満たしていた。マオウ属植物のさく葉および生薬標本由来のDNAを鋳型としてchlB遺伝子を増幅して、その塩基配列を決定する簡便なプロトコールを確立し、内部形態学的な情報と遺伝子塩基配列情報をあわせて検討することにより、Ephedra sinica、E. intermedia、E. equisetinaを鑑別できる可能性があることを示した。培養シュートは冷蔵保存あるいは超低温保存により、保存前後で成分含量等の特性に影響を与えず、有効な保存法と考えられたが、再生率は植物種により大きな差が認められた。本研究で開発したイースタンブロッティング法とELISAにより簡便で確実な鑑定が可能となった。特に2種のモノクローナル抗体を用いた2重染色により、アグリコン及び糖鎖の推測が可能となり、配糖体の構造を容易に類推することが可能となった。芍薬、人参、柴胡、大黄等配合漢方製剤中の活性を持つマーカー化合物をアッセイすることにより原料の品質管理が可能なことを示した。また、極く濃度の低いサンプルに付いてはアフィニティーカラムで濃縮後ELISAで定量が可能なことを明らかにした。また、甘草のグリチルリチンのの血中濃度の測定を行い、迅速・簡便に測定可能なことを明らかにした。世界の取り組みを背景にGAPの作成を目指して総論と生薬の一部の各論を作成した。

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