びまん性汎細気管支炎等、遺伝素因を有する慢性呼吸器疾患の疾患感受性遺伝子の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100423A
報告書区分
総括
研究課題名
びまん性汎細気管支炎等、遺伝素因を有する慢性呼吸器疾患の疾患感受性遺伝子の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
慶長 直人(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤翔二(日本医科大学)
  • 徳永勝士(東京大学)
  • 大橋 順(東京大学)
  • 田宮 元(東海大学)
  • 中田 光(国立国際医療センター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究事業(ヒトゲノム分野)
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省特定疾患のひとつである、びまん性汎細気管支炎 (DPB) においては、一連の研究により、ヒト白血球抗原 (HLA) と疾患との間に強い関連性が見られることが明らかになっている。我々はさらに未知のDPB感受性遺伝子座がHLA-A座とB (C) 座との間に位置し、DPBに感受性を示す遺伝子の変異がHLA B54-Cw1-A11を保有する祖先染色体に生じたという仮説を提唱し、HLA関連感受性遺伝子座の候補領域を分子遺伝学的に推定した。そこで、本研究では、さらに推定された 200 kbの領域内のエクソンと予測される部位を中心に、網羅的な一塩基置換 (SNPs) の同定を行い、それらSNPsのタイピングを施行するとともに、領域内の新規機能的遺伝子の同定を進めることとした。その他、慢性あるいは難治性呼吸器疾患についても、これまで、系統的な研究に乏しかったため、特にサルイコイドーシス、慢性閉塞性肺疾患について、新たに検討を加えることとした。
研究方法
厚生省班診断基準に基づき、診断された症例を選んで、解析を行った。疾患感受性遺伝子の候補領域を特定するアプローチに関しては、特にびまん性汎細気管支炎の候補領域となる200 kbの領域について、コンピュータ予測されるエクソン部を中心にPCR増幅し、直接シークエンス法によりSNPを同定するとともに、ESTデータベースとの対照から、RT-PCR法を利用して、新規遺伝子のクローニングを行った。疾患感受性遺伝子の候補遺伝子を個々に検討するアプローチに関しては、サルコイドーシスでは、Th1免疫に関わる候補遺伝子座周辺のマイクロサテライトマーカーの検索と連鎖不平衡解析を行い、慢性閉塞性肺疾患に関しては、比較的稀なSNPと病型のサブタイプとの関連について、症例対象研究を主体に検討を行った。
(倫理面への配慮)本研究における遺伝子解析に関しては、いずれも三省合同の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に準拠した当センターの遺伝子解析に係わる倫理委員会の承認を受けている。
結果と考察
1.解析対象領域の決定と遺伝子予測
DPB主要感受性遺伝子候補領域である200 kbの塩基配列について、GenScanコンピュータプログラムを用いて遺伝子予測を行った。予測された遺伝子のエクソン部位を中心に、プライマーセットをデザインし、塩基配列を決定した。
2.候補領域におけるSNPsの同定
予測されたエクソン部位を中心にプライマーをデザインし、PCR増幅し、塩基配列を決定し、80以上のSNPsを同定した。
3.症例対象研究において、連鎖不平衡を利用した疾患関連遺伝子変異の統計学的検出
1.2.の情報を用いて、疾患関連遺伝子変異を分子遺伝学的に同定するための統計学的基盤の確立のための検討を行った。
4.候補領域における新規遺伝子の同定
ESTデータベースの検索の結果、200 kbの領域に8個の転写単位が予測され、それぞれ肺での発現が確認されたため、そのうち2個の遺伝子の全長クローニングを行った。さらに他の遺伝子のクローニングも進めている。
5.候補遺伝子周辺のマイクロサテライトマーカーを用いた候補遺伝子の効率的なスクリーニング法の検討
サルコイドーシスの疾患感受性遺伝子検索のため、Th1免疫関連遺伝子座より、100 kb以内の領域にあるマイクロサテライトマーカーを同定し、疾患との関連性を検討し、STAT4のマーカーとサルコイドーシスとの関連を示した。さらに連鎖不平衡の及ぶ範囲について検討を加えることにより、STAT4遺伝子内に存在する、疾患関連SNPの同定を試みている。
6.SNPデータベースに登録されていない遺伝マーカーと疾患との関連
慢性閉塞性肺疾患の候補遺伝子検索に際して、自然免疫に関わる遺伝子であるβデフェンシン1のJSNPデータベース等に登録されていない比較的頻度の低い、新たに同定された非同義置換と、疾患のサブタイプとの関連が明らかになった。
慢性、難治性呼吸器疾患の多くは、ミレニアムゲノムプロジェクトの対象となっている五大疾患と同様、多因子疾患であるが、むしろ、それらのいわゆるコモンディジーズよりも、主要疾患感受性遺伝子の数が限られているのではないかと推測されている。たとえば、本研究の主要テーマのひとつであるびまん性汎細気管支炎は、欧米人に同様の疾患が見られず、欧米においてはアジア系の移民が罹患することが多いという事実から、人類創世後、アジア系集団の形成時に生じた遺伝子変異の一つが、疾患感受性を規定する有力な因子ではないかと考えられる。
また、慢性閉塞性肺疾患は、喫煙歴が長い高齢者に見られる疾患であり、喫煙という生活習慣と深い関係があり、特に喫煙による肺の破壊に感受性のある集団を規定する遺伝子変異がいくつか存在するのではないかと推定されている。それらの変異を保有する集団には、将来的、特に強く禁煙を勧めるなど、このような研究は疾患の一次予防に重要な役割を果たす可能性がある。
本研究では、このようにこれまで取り残されていた、呼吸器病の臨床に直結した疾患感受性遺伝子検索というテーマを掲げ、初年度、呼吸器病学の研究者と第一線のゲノム研究者が共同戦線をひき、ともにアプローチしていく理想的な体制づくりを行うことができた。さらに2年目以降の結果が待たれる。
結論
びまん性汎細気管支炎のHLA関連疾患感受性遺伝子候補領域 200 kb 内に、80個以上のSNPが同定され、2個の候補遺伝子が同定された。さらにサルコイドーシス、慢性閉塞性疾患の疾患感受性候補遺伝子についても、症例対照研究の形をとりながら、新しい視点で検討を進め、成果を上げた。まとまった長さの遺伝子領域について、SNPとマイクロサテライトの連鎖不平衡の関係やハプロタイプ解析に関するデータはまだ国際的にも不十分であり、症例対照研究を進めていく上での、統計学的に妥当な研究デザインに関する検討、ヒトゲノムにおける連鎖不平衡の及ぶ範囲や高頻度組換え点に関する統計学的解析法の確立は、五大疾患など、さらに頻度の高い多因子疾患の候補遺伝子のマッピングにも重要な示唆を与えるものと予想される。

公開日・更新日

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